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著作権判例セレクション
【編集著作物】編集著作物の侵害性/漢方薬便覧(書籍)の編集著作物性及び侵害性が争点となった事例
▶平成24年8月31日東京地方裁判所[平成20(ワ)29705]▶平成25年04月18日知的財産高等裁判所[平成24(ネ)10076]
(注) 本件は,原告書籍を発行した原告が,被告書籍を発行した被告に対し,被告書籍の薬剤便覧部分は,素材を薬剤又は薬剤情報とする原告書籍の編集著作物を複製又は翻案したものであり,被告が被告書籍を印刷及び販売する行為は上記編集著作物について原告が保有する著作権(複製権及び譲渡権(いずれも著作権法28条に基づくものを含む。以下同じ。))の共有持分の侵害に当たる旨主張し,著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償及び遅延損害金の支払を求めた事案である。
[控訴審]
1 認定事実
前記争いのない事実等に後掲証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実が認められる。
(略)
2 複製及び翻案について
著作物の複製(著作権法21条)とは,既存の著作物に依拠し,かつ,その内容及び形式を覚知させるに足りるものを印刷,写真,複写,録音,録画その他の方法により有形的に再製することをいい(同法2条1項15号参照),著作物の翻案(同法27条)とは,既存の著作物に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現することにより,これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいう。そして,思想,感情若しくはアイデア,事実若しくは事件など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において既存の著作物と同一性を有するにすぎない著作物を創作する行為は,既存の著作物の複製にも翻案にも当たらない(最高裁平成13年6月28日第一小法廷判決参照)。
編集物でその素材の選択又は配列によって創作性を有するものは,編集著作物として保護されるものであるところ(著作権法12条1項),編集著作物における創作性は,素材の選択又は配列に,何らかの形で人間の創作活動の成果が表れ,編集者の個性が表れていることをもって足りるものと解される。もっとも,編集著作物においても,具体的な編集物に創作的な表現として表れた素材の選択や配列が保護されるのであって,具体的な編集物と離れた編集方針それ自体が保護されるわけではない。
3 控訴人書籍一般薬便覧部分の薬剤の選択と配列について
(1)
共通性
ア 薬剤の選択について
(ア) 控訴人は,控訴人書籍一般薬便覧部分の具体的薬剤の選択と被控訴人書籍一般薬便覧部分の具体的薬剤の選択が同一であると主張して,改訂版具体的薬剤対比表等を提出する。
(イ) なるほど,改訂版具体的薬剤対比表等における控訴人の判定方法によれば,控訴人書籍一般薬便覧部分における薬剤の選択と被控訴人書籍一般薬便覧部分における薬剤の選択について,大分類ごとの具体的薬剤の一致率は,100%が8分類,90%以上100%未満が29分類となる。
(ウ) しかしながら,上記証拠においては,控訴人書籍にのみ掲載されて被控訴人書籍には掲載されていない薬剤が1154個あり,その逆の薬剤が971個に及んでいる。このようにいずれか一方にのみ掲載されている薬剤がある上,全体の数も,原判決別表1-1及び同2-1によれば,控訴人書籍と被控訴人書籍とで,その選択結果の数が300以上も異なり,選択の対比の対象となる薬剤数においても大きく異なるものであることから,具体的薬剤の選択が同一であるとまではいえない。
(エ) そして,控訴人の判定方法によれば一致率が100%である大分類「抗寄生虫薬」についても,控訴人書籍においては,被控訴人書籍及び他の類書が上記大分類に収載している「純生」塩キ(標榜薬効:抗原虫薬)を収載しておらず,そもそも100%一致するとはいえない。
同様に,控訴人の判定方法によれば一致率が100%である大分類「痛風・高尿酸血症治療薬」については,被控訴人書籍において上記大分類に選択された具体的薬剤のうち,10の薬剤は,控訴人書籍においては「泌尿器・生殖器用剤」に分類されており,2の薬剤は,控訴人書籍に収載されていないものであって,100%一致するとまではいえない。
また,控訴人の判定方法によれば一致率が100%である大分類「抗精神病薬,抗うつ薬,気分安定薬,精神刺激薬」についても,被控訴人書籍において上記大分類に相当する大分類「抗精神病薬・抗うつ薬」に選択された具体的薬剤のうち,その後新たに薬価収載されたものを除いても,少なくとも6の薬剤は,控訴人書籍に収載されていないものであって,100%一致するとまではいえない。
さらに,控訴人の判定方法によれば一致率が100%である大分類「筋弛緩薬」についても,被控訴人書籍において上記大分類に相当する大分類「骨格筋弛緩薬」に選択された具体的薬剤のうち,新たに薬価収載されたものではない少なくとも2の薬剤は,控訴人書籍に収載されていないものであって,100%一致するとまではいえない。
イ 薬剤の配列について
(ア) 控訴人書籍一般薬便覧部分における個々の具体的な薬剤の配列と被控訴人書籍一般薬便覧部分における個々の具体的な薬剤の配列とは,「大大分類」,「大分類」,「中分類」,「小分類」及び「一般名」という5層の分類体系に従って分類されている点及び「大大分類」の分類項目数が13である点では共通する。
(イ) しかしながら,控訴人書籍と被控訴人書籍とは,「大大分類」を始め各層の分類項目の配列が異なる上,個々の具体的な薬剤の配列は,控訴人書籍一般薬便覧部分では,「小分類」又は「一般名」の分類項目ごとに控訴人及び A 教授が臨床現場における使用頻度や重要性が高いと認めた順に配列したものであるのに対し,被控訴人書籍一般薬便覧部分では,「一般名」の分類項目ごとに,先発薬のグループの薬剤を先にして,ジェネリック医薬品のグループの薬剤を後にして,それぞれのグループ内では,原則として50音順になるように配列したものである。
(ウ) また,控訴人書籍と被控訴人書籍の分類体系は,項目名及び項目数,項目分けの方法,項目の配列が異なり,共通しているとはいえない。しかも,控訴人書籍と被控訴人書籍の分類体系は,大大分類の個数こそ同一であるが,大大分類の配列や項目分けの方法が異なること,大分類及び中分類についても,項目名及び項目数,項目分けの方法,項目の配列が異なることから,類似していないことは明らかである。
さらに,控訴人書籍と被控訴人書籍とでは,具体的な一般名に属する薬剤名のレベルでも,相違するものが多く存在する。
そして,その具体的な配列結果としての薬剤の配列(掲載順序)は,原判決別表1-1及び2-1に示すとおり,明らかに相違しており,これが同一であるとはいえない。
(2)
複製又は翻案の成否
ア 薬剤の選択について
(ア) 控訴人は,被控訴人書籍一般薬便覧部分は,控訴人書籍一般薬便覧部分の本質的特徴を直接感得することができると主張して,改訂版具体的薬剤対比表等を提出する。
(イ) しかしながら,前記(1)のとおり,控訴人書籍一般薬便覧部分の薬剤の選択と被控訴人書籍一般薬便覧部分における薬剤の選択は,全体としてみて,同一又は類似であるとまではいえない。
(ウ) そして,控訴人の判定方法によれば一致率が100%である大分類「高脂血症」についてみると,控訴人書籍及び被控訴人書籍において選択された高脂血症薬は,日本動脈硬化学会「動脈硬化性疾患予防ガイドライン」(2004年版,2007年版)に抗高脂血症薬として掲載された薬剤と同一である。
このように,「100%の選択一致率」といっても,薬剤という性格上,学会等で定められた結果,その選択に創作性が認められないものである。
(エ) また,控訴人の判定方法によれば一致率が100%である大分類「抗寄生虫薬」についても,前記(1)のとおりそもそも100%一致するとはいえない上に,控訴人書籍及び被控訴人書籍において共通して選択された抗寄生虫薬は,薬価基準点数早見表の備考欄(薬効)における「抗トリコモナス」,「抗マラリア」,「回虫駆除」,「フィラリア駆除」,「駆虫」,「吸虫駆除」,「抗原虫」,「カリニ肺炎治療」の記載を含むものの全てが収載されている。そして,被控訴人書籍において選択されたこれらの薬剤は,「ポケット判治療薬Up-To-Date(2008年版)」にも全て収載されているから,その選択の幅は乏しいものといわざるを得ない。
さらに,控訴人の判定方法によれば一致率が100%である大分類「消炎酵素」についても,控訴人書籍及び被控訴人書籍において選択されている具体的薬剤は,全て,「日本医薬品集データベース2006年9月版」において,薬効別中分類が,「酵素製剤」,「酵素製剤・他に分類されない治療を主目的としない医薬品」又は「眼科用剤・酵素製剤」に分類されているものである。その意味で,その選択の幅は乏しいものといわざるを得ない。
(オ) 以上のとおり,控訴人書籍一般薬便覧部分の薬剤の選択と被控訴人書籍一般薬便覧部分における薬剤の選択は,全体としてみて,同一又は類似であるとはいえず,共通する部分についてもその選択に創作性が認められないものであるなど,被控訴人書籍一般薬便覧部分における薬剤の選択について,控訴人書籍の表現上の本質的特徴を直接感得することができるとはいえず,複製にも翻案にも当たらない。
イ 薬剤の配列について
(ア) 前記(1)のとおり,控訴人書籍一般薬便覧部分における個々の具体的な薬剤の配列と被控訴人書籍一般薬便覧部分における個々の具体的な薬剤の配列とは,「大大分類」,「大分類」,「中分類」,「小分類」及び「一般名」という5層の分類体系に従って分類されている点及び「大大分類」の分類項目数が13である点では共通するものの,両者の分類体系は,項目名及び項目数,項目分けの方法,項目の配列が異なり,具体的な一般名に属する薬剤名のレベルでも,相違するものが多く存在し,その具体的な配列結果としての薬剤の配列(掲載順序)は,同一であるとはいえない。
(イ) 臨床現場で迅速に必要かつ十分な薬剤情報を得られることを目的とし,個々の具体的な薬剤を分類体系に従って分類して掲載する薬剤便覧において,コンパクト化の要請と薬剤情報の網羅性の要請を踏まえ,分類体系の分類項目を前提に,その項目ごとに該当する薬剤を選択し,それらを配列することには,編集者の個性が表れるということができるものの,そもそも,著作権法は,表現上の創作性を保護するものであるから,それが具体的に表現として表れなければ,これを保護する余地はない。
控訴人書籍一般薬便覧部分における個々の具体的な薬剤の配列は,選択された薬剤が,本件分類体系に基づいて小分類又は一般名に分類され,その分類項目ごとに控訴人及び A 教授が臨床現場における使用頻度や重要性が高いと認めた順に配列されたものであるものの,被控訴人書籍をみる者がその一般薬便覧部分の個々の薬剤の具体的な配列順序及び配置から控訴人が主張するような分類項目の配列順序を並べ替えた後の個々の薬剤の配列順序を直接感得することは著しく困難であり,その本質的特徴を直接感得させることはできない。
(ウ) 以上のとおり,被控訴人書籍一般薬便覧部分に掲載された薬剤の具体的な配列から,控訴人書籍一般薬便覧部分に掲載された薬剤の具体的な配列の表現上の本質的特徴を直接感得することができない以上,複製にも翻案にも当たらない。
編集著作物については,具体的な編集物に創作的な表現として表れた素材の選択や配列が保護されるのであって,具体的な編集物と離れた編集方針それ自体が保護されるのではないところ,控訴人の主張は,結局のところ,著作権法上保護の対象とならない,本件分類体系に従って薬剤を分類するという控訴人書籍の編集方針,すなわちアイデアの保護を求めるものにほかならない。
(3)
控訴人の主張について
ア 控訴人は,控訴人書籍における独自の分類体系に基づく選択という控訴人書籍における本質的特徴が,被控訴人書籍において,同一の大大分類,大分類及び中分類を採用して,その順序を入れ替えたにすぎない5層の分類体系を採用したことにより,直接感得させ得るとか,被控訴人書籍は,中分類又は小分類に属する個々の具体的な薬剤群の選択においても,控訴人書籍の中分類又は小分類に属する薬剤と同一の薬剤を選択した上で,若干の修正を加えたもので,控訴人書籍の本質的特徴を直接感得させ得るとか,また,控訴人書籍が赤丸表記で選択した薬剤と同一の薬剤を選択し,小活字で掲載した個々の具体的な薬剤も同一の薬剤を選択した上で修正を加え,さらに掲載しない薬剤を取捨したことも同一であることから,控訴人書籍の本質的特徴を直接感得することができるなどと主張する。
しかしながら,前記のとおり,著作権法は,表現上の創作性を保護するものであるから,それが具体的に表現として表れなければ,これを保護する余地はないところ,被控訴人書籍一般薬便覧部分における具体的表現は,控訴人書籍のそれと異なるものであって,控訴人が主張するような表現上の特徴を直接感得することは困難である。
のみならず,控訴人の上記主張は,結局のところ,5層の分類体系に基づく分類というアイデアの保護をいうものにすぎず,具体的な分類体系も同一とはいえない。
しかも,大大分類,大分類,中分類,小分類,一般名といった4層ないし5層の複数の階層の分類体系自体は,他の類書にも見られる構成である。
イ 控訴人は,控訴人訴訟代理人作成の商品名対比表,具体的薬剤同一性判定表及び改訂版具体的薬剤対比表の判定欄が示すとおり,控訴人書籍一般薬便覧部分において本件分類体系に関連付けられて選択されている個々の具体的な薬剤の大部分が,被控訴人書籍一般薬便覧部分において,本件分類体系と類似する5層の分類体系に関連付けられて選択されているから,両者は創作的表現において類似する旨主張する。
しかしながら,控訴人書籍の分類体系の分類項目は,それが定まれば当該分類項目に掲載される薬剤が機械的にあるいは一義的に定まるものではなく,当該分類項目を前提に諸要素を考慮して個々の具体的な薬剤が選択されるというのである。その選択自体には編集者の個性が表れるものであるが,分類体系が同一又は類似するものであったとしても,その分類体系に従って行われた具体的な薬剤の選択結果が異なる可能性がある。そうすると,被控訴人書籍一般薬便覧部分に掲載された薬剤の具体的な選択結果が,控訴人書籍一般薬便覧部分に掲載された薬剤の具体的な選択結果の表現上の本質的特徴を直接感得することができるものでなければ,複製にも翻案にも当たるとはいえない。
そして,著作権法は,表現上の創作性を保護するものであるから,それが具体的に表現として表れなければ,これを保護する余地がないことは,前記のとおりであるところ,控訴人訴訟代理人作成の商品名対比表及び具体的薬剤同一性判定表の各判定欄の判定結果によっても,控訴人書籍一般薬便覧部分において選択されている個々の具体的な薬剤の大部分が,被控訴人書籍一般薬便覧部分において選択されているとまではいえない。また,改訂版具体的薬剤対比表をもってしても,被控訴人書籍一般薬便覧部分に掲載された薬剤の具体的な選択結果から,控訴人書籍一般薬便覧部分に掲載された薬剤の具体的な選択結果の表現上の本質的特徴を直接感得することはできない。
ウ 控訴人は,控訴人書籍独自のフォーマット,本件分類体系,目次部分及び索引部分を組み合わせた控訴人書籍一般薬便覧部分における具体的な薬剤の配列は,他の類書と顕著に異なる独自の配列態様になっており,創作性を有するところ,被控訴人書籍一般薬便覧部分における個々の具体的な薬剤の配列は,控訴人書籍一般薬便覧部分における薬剤の配列の本質的特徴の全てにおいて類似する旨主張する。
しかしながら,控訴人書籍と被控訴人書籍の薬剤の配列の具体的結果を対比しても,共通性を見出すことができないことは,前記(1)のとおりである。控訴人書籍一般薬便覧部分における個々の具体的な薬剤の配列は,選択された薬剤が,本件分類体系に基づいて小分類又は一般名に分類され,その分類項目ごとに控訴人及び A教授が臨床現場における使用頻度や重要性が高いと認めた順に配列されたものであるものの,被控訴人書籍をみる者がその一般薬便覧部分の個々の薬剤の具体的な配列順序及び配置から控訴人が主張するような分類項目の配列順序を並べ替えた後の個々の薬剤の配列順序を直接感得することは著しく困難であり,その本質的特徴を直接感得させることはできない。
エ 控訴人は,両者の薬剤の物理的な配列の順序に相違があるとしても,その相違は,被控訴人書籍一般薬便覧部分において,控訴人書籍一般薬便覧部分の具体的薬剤の配列の創作性の一内容をなす控訴人独自の本件分類体系を前提として,各分類内部の分類項目の配列順序を入れ替えたために生じた些細な相違にすぎず,かかる入替えは控訴人書籍一般薬便覧部分の薬剤の配列に依拠して行われた極めてありふれた変更にとどまり,分類項目の入替えを元に戻せば,控訴人書籍一般薬便覧部分の薬剤の配列と酷似した薬剤の配列になると主張する。
しかしながら,控訴人書籍一般薬便覧部分及び被控訴人書籍一般薬便覧部分ともに,分類体系の分類項目ごとに,諸要素を考慮して当該分類項目に掲載すべき薬剤を選択し,そのように選択された薬剤群の中で異なる配列基準に従って個々の具体的な薬剤が配列されているものであり,その配列が分類項目ごとに機械的にあるいは一義的に定められたものではないから,個々の薬剤の配列における具体的な表現が類似するとはいえないし,薬剤の配列の表現上の本質的特徴を直接感得することもできない。控訴人の主張は,結局のところ,著作権法上保護の対象とならない,本件分類体系に従って薬剤を分類するという控訴人書籍の編集方針,すなわちアイデアの保護を求めるものにほかならない。
オ 控訴人は,被控訴人書籍における配列は,中分類又は小分類に属する個々の具体的な薬剤群の配列においても,控訴人書籍の中分類又は小分類に属する薬剤と同一の薬剤を控訴人書籍と同様,関連する分類ごとに配列していることから,控訴人書籍の第1の特徴(薬剤選択の基準となる独自の分類体系を編み出したこと)を十分に直接感得させ得るものであると主張する。
しかしながら,被控訴人書籍一般薬便覧部分の中分類又は小分類に属する個々の具体的な薬剤群の配列をみる者が,その具体的な配列順序及び配置から控訴人が主張するような分類項目の配列順序を並べ替えた後の個々の薬剤の配列順序を直接感得することは著しく困難であり,その本質的特徴を直接感得することはできない。
カ 控訴人は,被控訴人書籍の一般名及び具体的な薬剤については,原則として50音順の基本配列としているため,控訴人書籍との外面的かつ表面的な配列順序に違いはあるものの,50音順自体は創作性が認められない配列基準である上に,実際の薬剤検索の際,控訴人書籍の分類体系と同一の分類体系を反映した目次により中分類の該当頁まで導かれた時点で,一般名以下の具体的薬剤の検索はほとんど完了することから,一般名以下の具体的薬剤配列における創作性価値が,被控訴人書籍の具体的薬剤配列における創作的価値に及ぼす影響がそれほど大きくない点で同一であり,かつ読者は一見して,単に一般名以下の薬剤の並び順を50音順に変更したにすぎないことが分かることから,控訴人書籍の第2の特徴(表現形式のレベルで控訴人書籍において表現されている独自の分類体系)を直接感得させ得るものであると主張する。
しかしながら,この点についても,被控訴人書籍一般薬便覧部分の具体的な薬剤群の配列をみる者が,単に一般名以下の薬剤の並び順を50音順に変更したにすぎないことを認識することができるとはいえず,控訴人書籍一般薬便覧部分の個々の薬剤の配列順序を直接感得することは著しく困難であり,その本質的特徴を直接感得することはできない。なお,控訴人書籍や被控訴人書籍のような医薬品便覧は,医療情報の提供を目的とするものであり,そこに記載された情報の正確性,統一性や,検索のしやすさ等の実用性が高度に求められる書籍であり,また,掲載される医薬品情報やその分類体系,編集方針は,一般の医療従事者であれば誰でも持っている医学的知見に基づく必要があることからすれば,医薬品便覧における医薬品の分類体系は,おのずから一定の類似性を有するものにならざるを得ない。
キ したがって,控訴人の主張は,いずれも採用することができない。
(4)
小括
以上のとおり,被控訴人書籍一般薬便覧部分の薬剤の選択又は配列において,控訴人書籍一般薬便覧部分を複製又は翻案したものと認めることはできない。
4 控訴人書籍漢方薬便覧部分の薬剤の選択及び配列について
(1)
同一性
ア 薬剤の選択
控訴人書籍漢方薬便覧部分と被控訴人書籍漢方薬便覧部分とは,原判決別表1-2及び2-2のとおり,いずれも,148の処方名及び307の商品名の漢方薬並びに1の処方名及び2の商品名の生薬が選択されている。そこに選択された総計309の薬剤は,漢方3社が製造販売する薬剤がある漢方処方名については,当該漢方処方名に属する漢方3社の薬剤を全て選択したことにおいて同一であり,また,漢方3社が薬剤を製造販売していない9の漢方処方名(原判決別表1-2の通し番号9,14,27ないし29,41,69,80及び112)において選択された薬剤についても,完全に同一である。
イ 薬剤の配列
控訴人書籍漢方薬便覧部分における「処方名」(合計149)の配列は,原判決別表1-2の「処方名」欄記載のとおり,原則として50音順としているが,例外的に50音順を崩して配列した箇所が,①「根湯」-「根加朮附湯」-「根湯加川芎辛夷」の配列(原判決別表1-2の通し番号13~15),②「桔梗湯」-「桔梗石膏」の配列(同20・21),③「桂枝加竜骨牡蛎湯」-「桂枝加朮附湯」-「桂枝加苓朮附湯」の配列(同32~34),④「ヨクイニンエキス」の配列(同149)の4箇所である。被控訴人書籍漢方薬便覧部分における「処方名」(合計149)の配列は,原判決別表2-2の「処方名」欄記載のとおり,原則として50音順としているが,例外的に50音順を崩して配列した箇所が控訴人書籍と同じ上記①ないし④の4箇所である。その結果,両者の「漢方処方名」の配列は,50音順を崩した4箇所及び生薬を1個だけ最後に加えた点においても,完全に同一である。
(2)
複製の成否
ア 薬剤の選択について
前記1(2)エ及び1(4)エ認定のとおり,控訴人書籍漢方薬便覧部分においては,148の処方名,1000個以上の商品名の漢方薬から,臨床現場での重要性や使用頻度等を踏まえて,148の処方名,307の商品名の漢方薬を選択するとともに,195の処方名,1900個以上の商品名の生薬並びに生薬及び漢方処方に基づく医薬品の中から1の処方名(「ヨクイニンエキス」),2の商品名の生薬を選択した上で,これを「漢方薬」の大分類の中に含めたものである。控訴人は,「ヨクイニンエキス」について,漢方薬ではなく生薬であるにもかかわらず,これを漢方薬として選択したものである。
そして,生薬である「ヨクイニンエキス」については,「ポケット判治療薬UpTo-Date(2008年版)」(乙2)及び「ポケット医薬品集2008年版」(乙3)では,皮膚科用薬の章に掲載され,「薬効・薬理別
医薬品事典(平成16年8月版)」では,「漢方製剤」ではなく「その他の生薬製剤」の章に掲載され,「日本医薬品集 医療薬 2008年版」及び「最新治療薬リスト平成18年版」においては,「漢方製剤」ではなく「その他の生薬および漢方処方に基づく医薬品」に掲載されているのであって,これを「漢方製剤」の分類に選択した類書は,控訴人書籍の発行後に発行された「ポケット版臨床医薬品集2008」以外に見られないところ,同書における漢方薬の選択及び配列については,控訴人書籍と全く同一の148の処方名,307の商品名の漢方製剤に加えて「ヨクイニンエキス」が選択され,控訴人書籍と50音順を崩した4箇所を含め,全く同一の配列がされていること,同書が控訴人書籍の発行後に発行されたこと等に照らし,同書をもってありふれていることの根拠とすることはできない。
以上によれば,前記の漢方薬の薬剤の選択,特に「ヨクイニンエキス」を漢方製剤として選択したことには,控訴人らの創作活動の成果が表れ,その個性が表れているということができる。
イ 薬剤の配列について
控訴人書籍及び被控訴人書籍の漢方薬便覧部分は,「処方名」(漢方処方名)を原則として50音順とし,例外的に,①「根湯」-「根加朮附湯」-「根湯加川芎辛夷」の配列(原判決別表1-2の通し番号13~15),②「桔梗湯」-「桔梗石膏」の配列(同20・21),③「桂枝加竜骨牡蛎湯」-「桂枝加朮附湯」-「桂枝加苓朮附湯」の配列(同32~34),④「ヨクイニンエキス」の配列(同149)の4箇所のみ50音順を崩して配列している点において同一である。
このうち,控訴人は,④の「ヨクイニンエキス」について,漢方薬ではなく生薬であるところから,全く別個に配列し,これを漢方薬の最後に配列したものである。
また,上記②の配列については,「桔梗湯」及び「桔梗石膏」は,いずれも生薬「桔梗」を含む漢方製剤であり,咽喉における症状に用いられる点で共通しているところ,「桔梗湯」は,「漢方医学のバイブル」の1つである「傷寒論」及び「金匱要略」に記載された漢の時代から伝わる生薬の配合及び分量についての歴史的な処方であり,喉痛等に対して処方する機会が極めて多いのに対し,「桔梗石膏」は,原典を有しない比較的新しい処方であるため,まず「桔梗湯」の処方を考えることが臨床現場においては通常であること,また,「桔梗湯」は,単体で処方されることが多い漢方製剤であるが,「桔梗石膏」は,他の漢方製剤と共に処方されることが多い漢方製剤であるため,まず単体で処方することのできる「桔梗湯」を前にもってくることが臨床現場における使用に資することから,臨床現場の使用実態に即した配列にしたものである。
さらに,上記③の配列も,「桂枝加竜骨牡蛎湯」が,前記のとおり「漢方医学のバイブル」の1つである「傷寒論」及び「金匱要略」に記載された漢の時代から伝わる歴史的な処方であるのに対し,「桂枝加朮附湯」及び「桂枝加苓朮附湯」が,江戸時代に日本で書かれた「方機」という書物に記載された処方であるところ,歴史が深い処方の方が信頼が高く,臨床現場においてより頻繁に用いられているところから,「桂枝加竜骨牡蛎湯」を先に配列することとしたものである。
このように,控訴人書籍における薬剤の配列は,漢方処方が,歴史的,経験的な実証に基づく薬効,中心的な役割を果たす主薬,基本方剤等,複数の分類基準によって区別される上に,基本方剤に新たな薬効を持つ生薬が加味されることで,多くの漢方処方に派生するという関係にあるところから,そのような歴史的,経験的な実証に基づく生薬の薬効及び基本方剤分類を考慮した配列にしたものである。
そして,控訴人書籍の発行後に発行された「ポケット版臨床医薬品集2008」以外に,上記①ないし④について控訴人書籍と同一の配列をしたものは見当たらない。被控訴人が発行した「薬効・薬理別
医薬品事典(平成16年8月版)」(乙5),「日本医薬品集 医療薬 2008年版」及び「最新治療薬リスト平成18年版」においてすら,「ヨクイニンエキス」は,「漢方製剤」の分類の中には選択されず,それとは別の「その他の生薬製剤」又は「その他の生薬および漢方処方に基づく医薬品」等に分類されていたものである。また,被控訴人が控訴人書籍の発行より前に発行した「薬効・薬理別
医薬品事典(平成16年8月版)」及び「最新治療薬リスト平成18年版」においては,控訴人書籍及び被控訴人書籍とは異なり,上記①ないし③を含め,全て50音順に配列されていたものである。
ウ 以上によれば,控訴人書籍漢方薬便覧部分は,漢方薬の148の処方名を掲載したほか,多数の生薬の中から「ヨクイニンエキス」のみを大分類「漢方薬」に分類するものとして選択した上,漢方3社が製造販売する薬剤がある漢方処方名については,当該漢方処方名に属する漢方3社の薬剤を全て選択し,漢方3社が薬剤を製造販売していない漢方処方名については,臨床現場における重要性や使用頻度等に鑑みて個別に薬剤を選択したというのであるから,薬剤の選択に控訴人らの創作活動の成果が表れ,その個性が表れているということができ,上記のような考慮から薬剤を選択した上,歴史的,経験的な実証に基づきあえて50音順の原則を崩して配列をした控訴人書籍漢方薬便覧部分の薬剤の配列には,控訴人らの創作活動の成果が表れ,その個性が表れているから,一定の創作性があり,これと完全に同一の選択及び配列を行った被控訴人書籍漢方薬便覧部分の薬剤の選択及び配列は,控訴人書籍のそれの複製に当たるといわざるを得ない。
エ 被控訴人の主張について
被控訴人は,漢方薬便覧部分の薬剤の選択にも配列にも,創作性がないと主張する。
しかしながら,まず,「ポケット版臨床医薬品集2008」をもってありふれていることの根拠とすることができないことは,前記のとおりである。そして,同書を除き,現に他の薬剤便覧では異なる薬剤の選択及び配列をしており,特に被控訴人の発行に係る「薬効・薬理別
医薬品事典(平成16年8月版)」,「日本医薬品集 医療薬 2008年版」及び「最新治療薬リスト平成18年版」においてすら,漢方薬として「ヨクイニンエキス」を選択しておらず,また,被控訴人が控訴人書籍の発行より前に発行した「薬効・薬理別
医薬品事典(平成16年8月版)」及び「最新治療薬リスト平成18年版」においてすら,全て50音順に配列されているなど,他の選択肢があったものである。
なお,厚生労働大臣による製造販売の承認を受けている漢方薬の148の処方名の全てを掲載し,それぞれの処方名ごとに当該処方名に属する薬剤を選択して掲載するという方針であれば,それによる薬剤の選択自体は,臨床現場で有用な薬剤便覧を編集することを目的とするものである以上,ありふれたものといえなくもないし,前記認定の漢方薬のシェアや国立病院機構が運営する病院の購入実績等に照らすと,漢方3社を優先して選択することは,薬剤便覧を作成する者にとって,ありふれたものといえなくもない。
しかしながら,漢方薬の148の処方名を掲載したほか,多数の生薬の中から「ヨクイニンエキス」のみを大分類「漢方薬」に分類するものとして選択したこと,漢方3社が製造販売する薬剤がある漢方処方名については,当該漢方処方名に属する漢方3社の薬剤を全て選択し,漢方3社が薬剤を製造販売していない漢方処方名については,臨床現場における重要性や使用頻度等に鑑みて個別に薬剤を選択したというのであるから,薬剤の選択に控訴人らの個性が表れているということができ,控訴人書籍漢方薬便覧部分は,素材である個々の具体的な薬剤の選択において創作性がないとはいえない。また,漢方処方名を,原則として50音順で配列しつつも,その最後に,生薬である処方名「ヨクイニンエキス」を配列し,50音順の原則を崩して配列した箇所は,歴史的,経験的実証に基づく生薬の薬効及び基本方剤分類を考慮して配列したというのであるから,薬剤の配列にも控訴人らの個性が表れているということができ,控訴人書籍漢方薬便覧部分は,素材である個々の具体的な薬剤の配列においても,一定の創作性を有するといって差し支えない。
したがって,被控訴人の上記主張は,採用することができない。
(3)
依拠性
以上のとおり,被控訴人書籍漢方薬便覧部分の薬剤の選択及び配列は,控訴人書籍のそれの複製に当たるといわざるを得ないところ,①被控訴人書籍漢方薬便覧部分における「処方名」(合計149)の配列は,原則として50音順としているが,例外的に50音順を崩して配列した箇所が4箇所あり,その配列及び最後に生薬である「ヨクイニンエキス」を配列している点に至るまで,控訴人書籍漢方薬便覧部分と完全に同一であること,②控訴人書籍が被控訴人書籍より先に発行され,これに接する機会があったこと,③「今日の治療薬」が先駆的な書籍であったことからすると,同種の書籍を発行するに当たって,これを参考にしなかったとはいい難いこと等に照らすと,被控訴人は,控訴人書籍漢方薬便覧部分に依拠して被控訴人書籍を発行したものと推認される。
この点に関し,被控訴人は,依拠していないと主張する。しかしながら,上記のとおり控訴人書籍と完全に同一である理由について,何ら合理的な説明をしておらず,到底採用することはできない。
(4)
小括
よって,被控訴人書籍漢方薬便覧部分は,薬剤の選択及び配列について,編集著作物である控訴人書籍に係る控訴人の複製権を侵害するものである。漢方薬便覧部分漢方薬薬剤情報
5 控訴人書籍漢方薬便覧部分の薬剤情報の選択及び配列について
(1)
共通性
ア 控訴人書籍漢方薬便覧部分では,漢方薬薬剤情報として,漢方薬薬剤に関する添付文書情報及び添付文書外情報から,①剤形,製品番号及び製造会社略号,価格,②組成,容量,1日の用量,③証,適応症(疾患・症状),相互作用,重大な副作用,その他の副作用が適宜選択されるとともに,主にツムラの製造販売に係る漢方薬剤の組成,容量,適応症(疾患・症状)が選択され,必要に応じてツムラ以外の製造販売に係る薬剤の薬剤情報が追加的に選択されている。
他方,被控訴人書籍漢方薬便覧部分では,漢方薬薬剤情報として,①剤形,製品番号及び製造会社略号,組成,容量,②1日の用量,適応症(疾患・症状),③併用注意,重大な副作用,処方のポイント及び調剤・薬学管理のポイントが選択されるととともに,主にツムラの製造販売に係る漢方薬剤の組成,容量及び適応症(疾患・症状)が選択され,必要に応じてツムラ以外の製造販売に係る薬剤の薬剤情報が追加的に選択されている。
イ 被控訴人書籍漢方薬便覧部分の薬剤情報のうち,「併用注意」は,添付文書において「相互作用」の一部として記載されており,控訴人書籍漢方薬便覧部分において薬剤情報として選択された「相互作用」の記載と同一の内容のものである。
したがって,被控訴人書籍漢方薬便覧部分と控訴人書籍漢方薬便覧部分は,漢方薬薬剤情報について,①剤形,製品番号及び製造会社略号,組成,容量,1日の用量,適応症(疾患・症状),相互作用(併用注意),重大な副作用を選択したこと,②主にツムラの製造販売に係る漢方薬剤の組成,容量,適応症(疾患・症状)を選択し,必要に応じて,ツムラ以外の製造販売に係る薬剤の薬剤情報を追加的に選択していること,③適応症については,「疾患」-「症状」の順に掲載していることにおいて,共通性を有する。
(2)
複製又は翻案の成否
ア 前記1(4)ウのとおり,漢方薬を含む医療用医薬品の添付文書の記載項目は,①作成又は改訂年月,②日本標準商品分類番号等,③薬効分類名,④規制区分,⑤名称,⑥警告,⑦禁忌,⑧組成・性状,⑨効能又は効果,⑩用法及び用量,⑪使用上の注意,⑫薬物動態,⑬臨床成績,⑭薬効薬理,⑮有効成分に関する理化学的知見,⑯取扱い上の注意,⑰承認条件,⑱包装,⑲主要文献及び文献請求先,⑳製造業者又は輸入販売業者の氏名又は名称及び住所の20項目である。
しかるに,控訴人書籍及び被控訴人書籍の漢方薬便覧部分において添付文書情報から共通して選択した薬剤情報に係る項目のうち,剤形,製品番号及び製造会社略号,組成,容量,1日の用量,適応症(疾患・症状),相互作用,重大な副作用は,上記添付文書の記載項目のうち,臨床現場で漢方薬を用いる医療従事者にとっておよそ必要不可欠な情報に係る項目と重なる内容のものであって,実際に,類書の薬剤便覧においても,同様の選択が行われていることは,前記1(4)オ認定のとおりである。よって,上記の点については,表現上の創作性のない部分において共通するにすぎない。
イ 漢方薬の薬剤情報のうち,組成及び容量等について,主にツムラが製造販売する商品の添付文書に記載された情報を優先し,必要に応じてそれ以外の会社の製造販売する商品の添付文書に記載された情報を選択することについても,同様の選択を行っている類書が存在する。そもそも,ツムラが漢方薬の全処方名148のうち129に属する薬剤を製造販売し,平成19年当時の国内医療漢方薬のシェア82.4%を占めていることに照らすと,上記の共通点は,ありふれたものであり,表現上の創作性のない部分において共通するにすぎない。
ウ 「適応症」に係る情報は,「症状」についての情報と,「疾患」についての情報の2つからなるところ,その配列は,「症状」-「疾患」の順とするか,あるいは「疾患」-「症状」の順とするかのいずれかの配列しかないことからすると,そのいずれの配列にも創作性を認めることはできない。
エ 以上のとおり,控訴人書籍と被控訴人書籍の漢方薬便覧部分の薬剤情報の選択及び配列は,いずれも,表現上の創作性のない部分において共通するにすぎない。
しかも,控訴人書籍漢方薬便覧部分では,その他の副作用や価格を選択し,添付文書外の情報として証を選択しており,他方,被控訴人書籍漢方薬便覧部分では,処方のポイント及び調剤・薬学管理のポイントを選択した結果,これに接する者が控訴人書籍の表現上の本質的な特徴を直接感得することができないものである。
(3)
控訴人の主張について
ア 控訴人は,特に「製品番号及び製造会社略号」をひとまとまりの情報として選択する行為が他の類書に例をみないものである旨を主張する。
しかしながら,それは単なる表記上の工夫にすぎず,漢方薬薬剤情報の選択の創作性に直接関係するものではない。
イ 控訴人は,漢方薬薬剤情報の「適応症」について,一般的には,添付文書における配列順序のとおり「症状」-「疾患」の順に配列されているが,臨床現場においては「症状」の情報よりも「疾患」の情報を参照しやすい方が便利であり,「疾患」-「症状」の順に適応症を記載する方法が実務的に非常に役立つものであることに鑑み,控訴人書籍漢方薬便覧部分では,添付文書と配列順序を変えたもので,この配列には,高度の創作性が認められる旨主張する。
しかしながら,「症状」についての情報と,「疾患」についての情報の2つからなる場合において,いずれを先に配列するかについて,表現上の本質的な特徴があるとはいえず,創作性を認めることはできないことは,前記のとおりである。
ウ したがって,控訴人の主張は,いずれも採用することができない。
(4)
小括
以上のとおり,被控訴人書籍漢方薬便覧部分は,薬剤情報の選択及び配列において控訴人書籍漢方薬便覧部分を複製又は翻案したということはできない。
6 損害
(略)
7 結論
以上の次第であるから,控訴人の本訴請求は,上記6(4)の金員の支払を求める限度で理由があるが,その余は理由がない。よって,これを全部棄却した原判決は一部不当であるから,これを変更することとし,主文のとおり判決する。