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著作権判例セレクション
【言語著作物】経営セミナー用レジュメ(補助資料)の著作物性及び侵害性を肯定した事例
▶平成13年07月30日東京地方裁判所[平成12(ワ)2350]
(注) 本件は,営業成績を向上させること等を目的として,会社の経営者のためのセミナーを開催し,これに関連してレジュメ等を著作した原告が,被告が同種のセミナーを開催するに当たって,レジュメを作成,頒布した行為が,原告の著作に係るレジュメ等の複製権等を侵害すると主張して,レジュメの複製,頒布の差止め及び損害賠償を求めた事案である。
1 争点1(創作性及び同一性の有無)について
(1) 創作性について
著作権法による保護の対象となる著作物は,「思想又は感情を創作的に表現したものである」ことが必要である。「創作的に表現したもの」というためには,著作権の保護を求めている作品が,厳密な意味で,独創性の発揮されたものであることまでの必要性はないが,作成者の何らかの個性が表現されたものであることが必要である。言語等による作品において,ごく短かく,又は表現に制約があって,他の表現がおよそ想定できない場合や,表現が平凡で,ありふれたものである場合には,作成者の個性が現れていないものとして,創作的に表現したものということはできないが,そのようなものでなく何らかの個性が発揮されている限り,創作性を認めることができる。
そこで,この観点から原告著作物の著作物性を検討すると,原告著作物は,いずれも著作物性を有すると解すべきである。
その理由は,以下のとおりである。すなわち,原告著作物は,その一部は,自らが実施する,経営者を対象とした,顧客を獲得して売上げや営業成績を増進すること等を目的とするセミナーにおいて,理解を容易にするための補助資料として,作成・使用されたものであり,また,他の一部は,営業の効率化を実現する目的で原告が執筆した書籍の抜粋であり,合計130枚を超える資料である。
確かに,原告著作物の個々の紙面を個別的,独立的に見ると,①講演のプログラムを示したもの,講演のテーマを一覧したもの,②講演中あるいは後日,受講者が書き込んだりするために表形式とされているもの,③ごく短い文章からなるものなどを含み,その中の一部には,執筆者の個性が発揮されたものとはいえないものも僅かながら存在する。
しかし,原告著作物は,会社経営者や営業担当者のために,営業効率を増進する目的で,自己の営業体験,顧客の心理傾向に対する原告の洞察,最近の経営理論等を駆使して,作成されたものであり,しかも,全体として,統一的なテーマの下に,複雑な内容を,要領良く取捨選択し,配列し,かつ,その表現についても,訴求力の強い表現,刺激的な表現,わかりやすい表現を選択するなど,多くの点で表現上の創意工夫がされている。したがって,このような原告著作物は,全体として筆者の個性が発揮されたものであって,その創作性は肯定されると解すべきである(特に,後記のとおり,本件は,原告著作物の一部分のみが複製された事案ではなく,原告著作物の全体が,おおむね,そのまま複製された事案であるので,創作性の有無は,原告著作物の全体により判断するのが相当である。)。
(2) 対比について
大阪配布物(別紙イ号物件目録1ないし10の各文書)は,それぞれ,原告著作物(別紙第1著作物目録1ないし10)を,複写機を用いて複写したり,「社長」を「経営者」にしたり,文字の大きさや字体など極く僅かな部分のみを変えただけで,その余の記載につき全く変更を加えていないから,両者は実質的に同一である。したがって,大阪配布物(別紙イ号物件目録1ないし10の各文書)を作成,頒布した被告の行為は,原告が原告著作物について有する著作権(複製権,頒布権)を侵害する。
仙台配布物(別紙ロ号物件目録1ないし107,206ないし225の各文書)は,それぞれ,原告著作物(別紙第2著作物目録1ないし107,206ないし225)を,文字の大きさや字体を変えただけで,その余の記載につき全く変更を加えていないから,両者は実質的に同一である。したがって,仙台配布物(別紙ロ号物件目録1ないし107,206ないし225の各文書)を作成,頒布した被告の行為は,原告が原告著作物について有する著作権(複製権,頒布権)を侵害する。なお,本件全証拠によっても,被告が別紙ロ号物件目録201ないし205の文書を,複製,配布したことを認めることはできない。
2 争点2(著作権侵害のおそれ)について
次いで,現在,被告が,原告著作物について原告の有する著作権を侵害するおそれがあるか否かについて判断する。
(1) 前提となる事実,証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下のとおりの事実が認められ,これに反する証拠はない。
(中略)等の事実経緯を総合すると,現在,原告著作物について原告の有する著作権を侵害するおそれはないと解するのが相当である。
3 争点3(損害)について
そこで,損害額について検討する。
前掲各証拠によれば,被告は,平成8年6月から仙台のセミナーにおいて仙台配布物を,平成9年3月から大阪のセミナーにおいて大阪配布物を,それぞれ複製して,参加者に配布したこと,配布資料は,合計で130枚を超える枚数であって,決して少ない枚数とはいえないこと,上記各セミナーの参加者は,仙台が7名,大阪が5名であったこと,セミナー参加費用は1人当たり40万円を超える高額であったこと,他方,配布資料は,講演における理解を助ける補助的な役割を果たすものであること等の事実を認めることができ,これを覆すに足りる証拠はない。
これらの事情を総合考慮すると,被告の複製,頒布行為によって原告が被った損害は,30万円と認定するのが相当である。
この点,原告は,原告の被った損害額について,被告が原告著作物を複製,配布した講演の回数に,原告が講演1回当たりに得る利益額を乗じて得た金額とすべきである旨主張するが,採用の限りではない。