Kaneda Legal Service {top}

著作権判例セレクション

【言語著作物】システムを説明するための営業資料の著作物性及び侵害性を認定した事例

平成250912東京地方裁判所[平成24()36678]
() 本件は,原告が,被告に対し,(1)被告による資料の作成,頒布等が原告の著作物の著作権及び著作者人格権を侵害すると主張して,著作権法112条に基づき,上記資料の複製,頒布等の差止め及びその廃棄等を求め,(2)上記著作権等の侵害とともに,被告による資料の作成,頒布等が原告に対する不法行為を構成すると主張して,民法709条に基づき,損害金及び遅延損害金の支払を求めた事案である。

1 差止め及び廃棄等の請求について
まず,争点③(差止め及び廃棄等の請求の可否)について,判断する。
(1) 前記前提事実に,証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば,被告は,平成21年8月ころから,「EFO CUBE」のサービスを開始し,その営業に当たり,サービスの内容を説明するために,「EFOCUBEによる入力フォーム改善」と題する全11頁の資料を作成し,顧客に対しこれを頒布等していたこと,被告は,平成24年5月下旬,被告資料を作成し,同年6月から顧客に対しこれを頒布,上映したこと,被告は,平成25年1月15日に本件訴状の送達を受けて,被告資料の使用を中止し,以後は顧客に対してこれを頒布,上映していないこと,以上の事実が認められる。そして,被告が被告資料を記録した電磁的記録媒体や被告資料を印刷した印刷物を保有していることを認めるに足りる証拠はない。
そうであれば,被告が,現在,被告資料を作成して顧客に対して頒布,上映しているということはできないし,また,将来,被告資料を作成して頒布,上映することがあるということもできない。
 (2) したがって,原告の差止め及び廃棄等の請求は,その余の点について判断するまでもなく,理由がない。
2 損害賠償の請求について
(1) 争点①(原告の著作権の侵害の成否)について,判断する。
ア 原告各資料が著作物に当たるか否かについて
証拠及び弁論の全趣旨によれば,原告各資料は,いずれも,ウェブサイトの入力フォームのアシスト機能に係るサービスである「ナビキャスト」の内容を効率的に顧客に伝えて購買意欲を喚起することを目的として,「ナビキャスト」の具体的な画面やその機能を説明するために相関図等の図や文章の内容を要領よく選択し,これを顧客に分かりやすいように配置したものであって,この点において表現上の創意工夫がされていると認められる。そうであるから,原告各資料は,全体として筆者の個性が発揮されたもので,創作的な表現を含むから,著作物に当たると認められる。
被告は,原告各資料に特徴的な言い回しはなく,表現は平凡かつありふれたものであると主張するが,証拠によれば,原告以外の会社からも「ナビキャスト」と類似のサービスが提供されているが,各企業によるそれぞれのサービスを説明するための図や文書の内容,その配置等は異なっていることが認められるのであって,このことに照らすと,原告各資料に特徴的な言い回しがないとか,表現が平凡かつありふれたものであるとまではいうことができない。被告の上記主張は,採用することができない。
イ 被告各記載が原告各記載を複製又は翻案したものであるか否かについて
() 証拠によれば,原告各記載と被告各記載とを対比すると,別紙「原告資料と被告資料との対比に関する原告の主張」のとおりであることが認められ,この事実によれば,被告各記載は,原告各記載と同一であるか,又は,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持し,これに接する者が原告各記載の表現上の本質的な特徴を直接感得することができるものであると認められる。
() 証拠によれば,原告は,平成20年8月1日,インターネット広告代理店事業を営む株式会社フルスピード(以下「フルスピード」という。)に対し,ナビキャストフォームアシストの供給の委託等をしたこと,被告は,平成24年5月下旬,フルスピードとの間で,被告がフルスピードに対し「EFO CUBE」のサービスの提供等に関する業務をOEM提供することを合意して,フルスピードから,「<入力フォーム最適化ツール>フルスピードEFOご提案資料」と題する全20頁の資料の送付を受け,被告従業員のBがこれを修正して「<入力フォーム最適化ツール>フルスピードEFOご提案資料」と題する全20頁の資料を作成し,さらに,被告資料を作成したことが認められ,このことに前記()認定の事実を併せ考えれば,被告各記載は,原告各記載に依拠して作成されたものであると認められる。
() そうであれば,被告が被告各記載を作成したことは原告の原告各記載の著作権(複製権又は翻案権)を侵害し,顧客に対し被告各記載を頒布,上映することは原告の原告各記載の著作権(上映権又は著作権法28条に基づく上映権及び譲渡権又は著作権法28条に基づく譲渡権)を侵害する。
(2) 争点⑤(被告の故意又は過失の有無)について,判断する。
証拠及び弁論の全趣旨によれば,被告代表者は,平成21年4月1日,原告に対し,原告のEFOツールを提案したいクライアントがいることを理由に,ナビキャスト担当者の訪問を希望する旨の電子メールを送付し,同月10日,担当者の訪問を受けて,サービス内容の説明を受けるとともに,原告資料2を入手したことが認められるから,被告代表者は,作成した被告資料の記載の中に原告資料2の記載と同一のものがあることを知ることができたと認められる。しかるに,被告は,被告資料の記載の確認をしなかったのであるから,被告には過失がある。
(3) そこで,争点⑥(原告が受けた損害の額)について,判断する。
前記1(1)認定の事実に弁論の全趣旨を総合すれば,被告は,平成24年6月から平成25年1月中旬まで,約20社に対し,被告資料を用いて「EFO CUBE」の営業を行い,そのうちの2社と「EFO CUBE」の提供に関する契約を締結して,平成24年11月及び12月に各月15万6500円,平成25年1月から3月までに各月14万3500円の合計74万3500円の売上げを計上したが認められる。この事実によれば,被告は,上記2社との契約が終了するまでの間,毎月14万3500円の売上げを計上することができ,仮に上記2社との契約が2年間継続するとすれば,この間に合計347万円の売上げを計上することができることになると認められるが,被告資料は,「EFO CUBE」の営業において補助的な役割を有するにとどまる上,被告各記載は7頁で,全18頁の被告資料の約38.8%に相当するにすぎないから,これらの事情を併せ考えると,原告が受けた損害の額は10万円と認めるのが相当である。
原告は,被告の売上げ1億6800万円に10%を乗じた額が原告が受けた損害の額であると主張するが,上記被告の売上げは,「EFO CUBE」を2年間提供することによる売上げであって,被告資料を用いたことによるものではなく,また,原告の原告各記載の著作権の行使について売上げの10%を下らない額を受けることができることを認めるに足りる証拠はないから,原告の上記主張は,採用することができない。
(4) したがって,原告の損害賠償の請求は,10万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな平成25年1月16日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。