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著作権判例セレクション
スパム行為(スパムツイート)につき、営業権の侵害を認定した事例
▶令和5年2月17日東京地方裁判所[令和4(ワ)18630]
(注) 本件は、原告が、被告に対し、原告の提供するサービスに関心を有するTwitterのユーザーが、氏名不詳者(「本件発信者」)の管理運営する別紙記載のウェブサイト(「本件ウェブサイト」)の記載に従い、Twitter上のアカウント(「ユーザーアカウント」)と特定のアプリケーション(「本件スパムアプリ」)を連携したことにより、当該ユーザーアカウントにおいて、上記ユーザーの意図に関係なく、原告が著作権を有する文章を記載したツイート(「本件スパムツイート」)が投稿されるようになり、これによって原告の営業権が侵害されたことが明らかであり、本件発信者に対する損害賠償請求権等の行使のため、被告が保有する「本件発信者情報」の開示を受けるべき正当な理由があると主張して、プロバイダ責任制限法5条1項に基づき、本件発信者情報の開示を求めた事案である。
(前提事実)
(1)
原告は、ウェブサイト「A」(「原告ウェブサイト」)の運営等を行うインターネット企業である。原告ウェブサイトは、「あなたは攻めなのか受けなのか診断!」、「あなたをうなぎ料理に例えると!!」、「あなたのかわいさタイプ!!」等のテーマについて、ユーザーを診断し、その結果を表示するサービス(「原告サービス」)を提供しており、原告は、原告ウェブサイトに広告を掲載すること等により、収益を上げている。
(2)
原告のTwitter上のアカウント
原告は、Twitter上に、アカウント名を「A」、ユーザー名を「B」とするアカウントを保有しており、当該アカウントにおいて、原告サービスにおける新着診断や人気の診断を記載したツイートを投稿している。
(3)
本件スパムツイートの投稿
本件スパムツイートが投稿される仕組みは、以下のとおりである(以下、後記アないしエの一連の行為を「本件スパム行為」という。)。
ア Twitter上で、原告ウェブサイトにおいて表示される診断結果や前記(2)のツイート(以下「原告診断結果等」という。)とほぼ同一の内容の本件スパムツイートが投稿される。本件スパムツイートの一例は、以下のとおりである。
「あなたはサファイア。宝石言葉は慈愛・誠実。愛情深く慈愛に満ちた人。尽くしたがり。尽くし過ぎて相手がダメになってしまうダメ男(女)製造機。翡翠の人とただならぬ関係に
あなたを宝石に例えたらURL省略 誰か翡翠の人いる?」
イ 本件スパムツイートには、ハイパーリンクの設定された「URL省略」等のURLが記載されており、これをクリックすると、このURLで特定されるウェブページ(本件ウェブサイト中のウェブページ。以下「本件ウェブページ」という。)に遷移する。本件ウェブページには、「あなたを宝石に例えたら!」等の前記アの本件スパムツイートに対応した記載があり、その上部に「診断する」と記載されたボタンが設けられている。
ウ 前記イのボタンをクリックすると、Twitterのウェブページに遷移する。同ウェブページには、「あなたを宝石に例えたら!にアカウントへのアクセスを許可しますか?」等の前記アの本件スパムツイートに対応した記載があり、その下部に「連携アプリを認証」と記載されたボタンがある。上記ボタンをクリックすると、上記ボタンをクリックした者のユーザーアカウントと本件スパムアプリが連携され、本件スパムアプリが、当該ユーザーアカウントにおいて、上記クリックをした者の意図に関係なく、本件スパムツイートを投稿することなどができるようになる。
エ 前記ウの連携後、「アプリケーションに戻ります。しばらくお待ちください。」と記載されたTwitterのウェブページに遷移し、その後、原告ウェブサイトに自動的に遷移する。
オ 本件スパムアプリは、前記ウのとおりに本件スパムアプリと連携したユ5 ーザーアカウントにおいて、当該ユーザーアカウントの保有者の意図に関係なく、前記アのとおりに本件スパムツイートを投稿する。
1 争点1(権利侵害の明白性)について
(1)
前記前提事実(3)ア及びイによれば、原告診断結果等と同一の内容の本件スパムツイートを読み、原告サービスに関心を持ったユーザーは、本件スパムツイート中のURLをクリックし、さらに、本件ウェブサイト中の本件ウェブページにおいて、「診断する」と記載されたボタンをクリックすると考えられる。また、前記前提事実(3)ウによれば、上記ユーザーは、「あなたを宝石に例えたら!にアカウントへのアクセスを許可しますか?」等の記載のあるTwitterのウェブページを閲覧し、原告サービスを受けるためにはアクセスを許可する必要があると誤信して、「連携アプリを認証」と記載されたボタンをクリックし、自らのユーザーアカウントと本件スパムアプリを連携させてしまう蓋然性があるといえる。
そして、前記前提事実(3)ア、ウ及びオのとおり、本件スパムツイートを見たユーザーが、ユーザーアカウントと本件スパムアプリを連携させ、そのユーザーアカウントにおいて投稿された本件スパムツイートを見た別のユーザーが、新たなユーザーアカウントと本件スパムアプリを連携させるといった行為が繰り返され得ることからすると、本件スパムアプリと連携されたユーザーアカウント及び本件スパムツイートは、相当な数に上ると考えられる。
さらに、前記前提事実(3)ウ及びオのとおり、本件スパムアプリが投稿する本件スパムツイートは、本件スパムアプリと連携されたユーザーアカウントの保有者の意図に関係なく投稿されるものである。
その上、上記のとおり、原告サービスに関心を持ったユーザーは、原告サービスを受けることができると誤信して、「連携アプリを認証」と記載されたボタンをクリックしたものであり、この結果、自らのユーザーアカウントと本件スパムアプリが連携され、原告診断結果等と同一の内容の本件スパムツイートが投稿されるようになることからすると、上記ユーザーが原告に対して著しい不信感を持つことは、容易に想像することができる。
以上を総合すると、本件スパム行為は、ユーザーアカウントの保有者の意図に関係なく、原告診断結果等と同一の内容の、相当な数の本件スパムツイートを投稿するものであり、非常に多くのユーザーが原告に対して不信感を抱くこととなり、原告の事業に大きな影響を与えるものということができる。
したがって、本件スパム行為は、原告の営業権を侵害すると認めるのが相当である。
そして、本件ウェブサイト中の本件ウェブページは、上記のとおり、原告サービスに関心を持ったユーザーをして、原告サービスを受けることができると誤信させ、「診断する」と記載されたボタンをクリックさせて、ユーザーアカウントと本件スパムアプリを連携させるためのTwitterのウェブページに誘導するものであり、これにより相当な数のユーザーが本件スパムアプリと連携していることからすると、本件ウェブページの内容がインターネット上で流通することにより、原告の営業権を侵害していると評価するのが相当である。
一方で、本件において、違法性阻却事由が存在することは全くうかがわれない。
以上によれば、本件ウェブサイト中の本件ウェブページにより原告の営業権が侵害されたことが明らかであるといえる(プロバイダ責任制限法5条1項1号)。
(2)
これに対して、被告は、①原告は、原告ウェブサイトを運営することによ20 り、原告サービスの対価としての経済的価値を得ているわけではないから、原告の営業権が侵害されたとはいえない、②原告ウェブサイトと本件ウェブサイトでは、URLの文字列が全く異なるから、原告が本件ウェブサイトを管理運営しているとユーザーが誤信することはないと主張する。
しかし、上記①については、前記前提事実(1)アのとおり、原告は、原告ウェブサイトに広告を掲載すること等により収益を上げていたから、原告ウェブサイトにおける原告サービスの提供そのものにより収益を上げていなかったとしても、本件スパム行為により原告の営業権が侵害されたといえる。
また、上記②については、ユーザーが、URLの文字列を見ただけで、原告が管理運営するウェブサイトか否かを判断できることは稀であるというべきであるから、原告ウェブサイトと本件ウェブサイトでURLの文字列が異なるとしても、原告が本件ウェブサイトを管理運営しているとユーザーが誤信することはあり得る。
したがって、被告の上記主張は理由がない。
2 争点2(発信者情報の開示を受けるべき正当な理由)について
弁論の全趣旨によれば、原告は、氏名不詳者に対し、損害賠償請求等をする予定であり、そのためには、被告が保有する本件発信者情報の開示を受ける必要があると認められる。
したがって、原告には、本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由がある(プロバイダ責任制限法5条1項2号)。