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著作権判例セレクション
【コンテンツ契約紛争事例】法人格の濫用が争点となった事例(信義則上,ペーパーカンパニーとの事業譲渡契約の存在を主張できないとした事例)
▶平成27年1月29日東京地方裁判所[平成24(ワ)21067]
(注) 本件は,原告が,①被告が別表1「被告サイト」「製品写真」欄の製品写真(「被告各写真」)及び別表2「被告サイト」欄の文章,写真(「被告各文章等」といい,被告各写真と併せて「本件写真等」という。)をドメイン名「IKEA-STORE.JP」(以下「旧ドメイン名」という。)又は「STORE051.COM」(以下「新ドメイン名」という。)を使用したウェブサイト(「被告サイト」)に掲載したことは原告の著作権を侵害し,②被告が別紙3被告標章目録記載1ないし4の標章(「被告各標章」)を被告サイトのhtmlファイルのタイトルタグ,メタタグとして使用したことは,原告の商標権を侵害し,また,不正競争に当たると主張して,被告に対し,①著作権法112条1項,2項に基づき,別紙1製品写真目録1記載の製品写真データ(被告各写真の一部)及び別紙2文章写真目録1記載の文章,写真データ(被告各文章等)のウェブサイトへの掲載の差止め,これらの自動公衆送信及び送信可能化の差止め並びにこれらの廃棄,②商標法36条1項,2項,不正競争防止法3条1項,2項,2条1項1号,2号に基づき,被告サイトにおける被告各標章のタイトルタグ及びメタタグとしての使用の差止め並びに除去,③著作権侵害及び商標権侵害の不法行為又は不正競争による損害賠償金等の支払をそれぞれ求めた事案である。
1 争点1(被告は平成22年11月9日以降の被告サイトの運営に関する責任を負うか)について
(1)
前提事実に加えて,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の各事実が認められる。
ア 原告は,平成22年2月23日付けで,被告サイトの運営統括責任者に対して,被告サイトの運営を中止することを求める通知を送付した。
イ 被告は,被告サイトの代表者として,原告との間で被告サイトの是正交渉を行い,平成22年5月5日付け念書に署名押印し,ウェブサイト名等やドメイン名において「IKEA」と同一又は類似の文字等を含む名称,表示を用いないこと,原告が著作権を有する原告製品の画像等の使用を中止すること,今後も一切同種侵害行為を行わないこと等を約束した。
ウ 被告は,平成22年11月9日付けで,クラシック社との間で,旧ドメイン名を含む被告サイト事業を譲渡することを内容とする事業譲渡契約書を作成した。
エ 平成22年11月12日付けで,アメリカ合衆国デラウェア州においてクラシック社が設立された。
被告は,同日付けで,原告に対し,被告サイト事業をクラシック社に譲渡して被告は無関係になったので,今後は,クラシック社のCEOであるBメールアドレスは<以下略>.jp)と交渉するよう通知した。
オ 原告は,平成22年12月6日以降,上記メールアドレスを通じて被告サイトに係る交渉を続けていたが,Bなる人物と直接会ったことはない。
カ 原告は,平成23年6月21日,登録者の氏名(名称)をクラシック社とし,住所をアメリカ合衆国デラウェア州<以下略>,電子メールアドレスを<以下略>.jpと記載して,JPドメイン名紛争処理方針に基づく申立書を日本知的財産仲裁センター(以下「知財仲裁センター」という。)に提出した。被告は,平成23年8月30日,旧ドメイン名の登録者は被告である旨の上申書を提出した。知財仲裁センターは,同月31日,登録者を「Classic
Furnitures Inc.ことA」として移転を命ずる裁定をした。
キ 被告は,平成23年9月7日,原告に対し,被告が旧ドメイン名を使用する権利を有することの確認を求める訴訟を当裁判所に提起した(平成23年(ワ)第29548号,以下「本件関連事件」という。)。
被告は,被告が旧ドメイン名を保有する旨述べ,被告サイト事業は平成22年11月9日付で本件事業譲渡契約によりクラシック社に譲渡したが,事業譲渡後も被告はこの事業に携わるため,当該ドメイン名の契約名義の変更までは行わなかったなどとしていたが,平成24年5月10日,請求を放棄した。
ク クラシック社は,米国において,役員などの法人組織に関する情報,取引先の情報及び納税の形跡などが判明しない法人であり,税金不払などにより平成24年3月1日に活動不能と宣告されたが,平成24年2月29日に復権した。
(2)
前記(1)の認定事実によれば,被告は,被告サイトについて原告と交渉する中で,商標権侵害及び著作権侵害等を中止して今後繰り返さない旨の念書を作成した後に,本件事業譲渡契約を締結したとして原告に対し以後クラシック社と交渉するよう通知したが,その後も知財仲裁センターの手続や本件関連事件においては被告サイトに係る対応を全て行ってきたというのである。
被告は,本人尋問において,平成22年11月9日にBと東京で本件事業譲渡契約を締結し,対価として現金で100万円を受領し,被告サイトに関するプログラム等を一つのファイルにまとめて手渡したこと,平成23年1月19日にクラシック社と被告が代表取締役を務める株式会社ディスカバリーワークスとの間で業務委託契約を締結し,同社が被告サイトで注文を受けた原告製品を仕入れて梱包し発送するようになったため,現在も被告サイト事業に関与していることなどを供述する。しかしながら,被告の供述内容を裏付ける証拠は,事業譲渡契約書及び業務委託契約書,クラシック社の設立関係書類のほか,被告が代表取締役を務める株式会社PAUL
INDUSTRIESから株式会社ディスカバリーワークスへの振込記録とCを名乗る人物名義のメールしか提出されていないところ,これらは,被告自らが作出することも可能なものであるから,クラシック社が被告とは別の法主体として活動していることを示すものとはいえない。かえって,クラシック社が被告サイト事業を実際に行っていることを示す客観的証拠が全くなく,かつ,被告が本件事業譲渡契約後も被告サイト事業に深く関わってきたことに鑑みれば,被告の供述はにわかに採用することができない。そうであれば,少なくとも,被告は,原告に対し,信義則上,クラシック社との間の本件事業譲渡契約があることを主張することができず,本件サイトに関する法的責任を免れることはできない。
(3)
被告は,旧ドメイン名に係るウェブサイトと新ドメイン名に係るウェブサイトが別のウェブサイトであるという趣旨の主張をするが,クラシック社が新ドメイン名の保有者であるとしても,平成23年8月31日に知財仲裁センターの裁定により旧ドメイン名が被告から原告に移転されるまでの間,旧ドメイン名に係るウェブサイトから新ドメイン名に係るウェブサイトに対して転送処理がされるなど,旧ドメイン名に係るウェブサイトと新ドメイン名に係るウェブサイトとの連続性が認められるのであり,しかも,被告はクラシック社との間の本件事業譲渡契約があることを原告に対して主張することができないのであるから,被告は,原告に対し,新ドメイン名に係る被告サイトの責任を負うというべきである。
また,被告は,原告はクラシック社に対し訴訟を提起することができるのであるから,本件に法人格否認の法理は当てはまらないと主張するが,原告のアメリカ合衆国における調査によれば,クラシック社の住所は登録代理人であるDelaware Intercorpの住所であり,公的記録からはクラシック社の代表者等役員に関する情報すら判明しなかったというのであるから,被告の主張は,その前提を欠くものといわざるを得ない。
(4)
そうであるから,被告は,平成22年11月9日以降の被告サイトの運営に関する責任を負う。
2 争点2(被告が本件写真等を被告サイトに掲載したことは原告の著作権を侵害するか)について
(1)
原告各写真の著作物性について
原告各写真は,原告製品の広告写真であり,いずれも,被写体の影がなく,背景が白であるなどの特徴がある。また,被写体の配置や構図,カメラアングルは,製品に応じて異なるが,原告写真A1,A2等については,同種製品を色が虹を想起せしめるグラデーションとなるように整然と並べるなどの工夫が凝らされているし,原告写真A9,A10,H1ないしH7,Cu1,B1,B2,PB1については,マット等をほぼ真上から撮影したもので,生地の質感が看取できるよう撮影方法に工夫が凝らされている。これらの工夫により,原告各写真は,原色を多用した色彩豊かな製品を白い背景とのコントラストの中で鮮やかに浮かび上がらせる効果を生み,原告製品の広告写真としての統一感を出し,商品の特性を消費者に視覚的に伝えるものとなっている。これについては,被告自身も,「当店が撮影した画像を使用するよりは,IKEA様が撮影した画像を掲載し説明したほうが,商品の状態等がしっかりと伝わると考えております。ネットでの通信販売という性質上,お客様は画像で全てを判断いたします。当店が撮影した画像ではIKEA様ほど鮮明に綺麗に商品を撮影することができません。」と述べているところである。
そうであるから,原告各写真については創作性を認めることができ,いずれも著作物であると認められる。
(2) 被告は,被告サイト事業においては本件写真等を使用することが必要であるなどと主張するが,原告製品をインターネット上で販売する事業において,原告製品を独自に撮影した写真を掲載することは可能であり,現にそのような方法を採っている業者も複数存在すると認められる。また,被告各文章等を被告サイトに掲載することの正当性は全くない。
被告の主張は,採用することができない。
(3)
そして,被告各写真は原告各写真と同一であり,被告各文章等は原告各文章等と同一ないし類似するのであるから,本件写真等を被告サイトに掲載することは原告の複製権,翻案権及び公衆送信権を侵害することになり,著作権法112条1項,2項に従い,原告は,被告に対し,本件写真等の使用を差し止め,これに係るデータの廃棄を請求することができる。なお,その対象は,被告サイト事業が販売中の原告製品を転売するものであること及びウェブサイト上のデータの変更が容易であることに鑑みると,現在も販売が継続している原告製品に係る被告各写真及び被告各文章等の全てであると解するのが相当である。
3 争点3(被告が被告各標章をタイトルタグ及びメタタグとして使用したことは原告の商標権を侵害し,又は不正競争に該当するか)について
(略)
4 争点4(原告の損害額)について
(1)
著作物使用料相当額について
ア 被告は,原告の複製権又は翻案権及び公衆送信権を侵害したところ,これについて,少なくとも過失があると認められるから,原告は,被告に対し,これによる損害の賠償を請求することができる。そして,原告は,著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額の損害を被ったものと認められる。
イ 原告各写真の著作物使用料相当額については,原告各写真は被告サイト事業において極めて重要なものであるとは考えられるものの,広告写真としての原告各写真の創作性の程度が比較的低いことや原告の請求額に加え,ウェブサイトにおけるデータ変更の容易性等に鑑みれば,掲載期間に関わらず,一著作物当たり1000円と認めるのが相当である。
ウ 原告各文章等の著作物使用料相当額については,原告各文章等は,これにより被告サイトが原告の公式サイトであるかのような外観を作出することができるという点において極めて重要なものであると考えられること,原告各文章等の創作性の程度が比較的高いことや原告の請求額に加え,ウェブサイトにおけるデータ変更の容易性等に鑑みれば,証拠上認定できる掲載期間に関わらず,一著作物当たり3000円と認めるのが相当である。
エ そうすると,各著作物使用料相当額の合計は,14万円となる。
(2)
被告各標章,被告の商品等表示の使用による損害について
(略)
(3)
弁護士費用について
被告の不法行為等と相当因果関係のある弁護士費用は,前記認定に係る原告の損害額その他本件に現れた一切の事情を考慮すると,10万円が相当であると認める。
(4)
そうすると,原告の損害額は,合計24万円となる。