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著作権判例セレクション

【引用】適法引用を否定した事例

▶令和5323日知的財産高等裁判所[令和4()10102]
3 争点1(本件ツイートの投稿により控訴人の権利が侵害されたことが明らかであるか)について
 ⑴ 著作物性について
ある著作が著作物と認められるためには、それが思想又は感情を創作的に表現したものであることが必要であり(著作権法2条1項1号)、誰が著作しても同様の表現となるようなありふれた表現のものは、創作性を欠き著作物とは認められない。
ア 原告文章について
原告文章は、控訴人が自殺企図を抱いたことがあり、そのようなSNSの発信をたびたびしたこと、掲示板を見て誹謗中傷が記載されていたことから動揺したこと、SNSの活動を休止せざるを得ないので謝罪すること等が記載されているが、その表現、順序など、誰が著作しても同様の表現になるものとはいえず、控訴人が自己の思想又は感情を創作的に表現したものとして著作物性が認められる。
イ 原告写真について
原告写真は、アニメキャラクターの看板と共に自らを撮影したもので、被写体の選択、構図、自己のポーズ等について控訴人の個性が認められ、控訴人が自己の思想又は感情を創作的に表現したものとして著作物性が認められる。
⑵ 本件各画像の掲載が適法な引用(著作権法32条1項)に当たるかについて
ア 被控訴人は、引用に係る原判決のとおり、本件ツイートは、控訴人の身を案じるもので控訴人を誹謗中傷するものではなく、控訴人が「【A】」というニックネームを新たに名乗り出したことから、「【A】」を簡潔に紹介するために原告アカウントのプロフィール部分である本件画像2を掲載し、また、控訴人が自殺配信をしたことを端的に示すために本件画像1を掲載したものであるなどとして、本件各画像の掲載は、著作権法32条1項の適法な引用に当たる旨主張する。
同項は、「・・・その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われるものでなければならない。」と規定するところ、本件ツイートは、私人である控訴人について、【B】として女優の活動をしていたことに加え、本件画像1のほか、控訴人の過去のアカウントの「死ぬから」、「煉炭ね」といった投稿の画像まで掲載して、控訴人に自殺企図があったことを明らかにするものであって、全体としてみれば、興味本位に控訴人の過去を掘り起こして公開し、そのプライバシーを侵害するものといわざるを得ず、正当な目的を有しているとは認め難い。また、仮に、被控訴人の主張のような目的を前提にしたとしても、原告文章全体である本件画像1や、本件画像2を掲載する必要は認められない。そうすると、いずれにしても、本件ツイートは、引用の目的上正当な範囲で行われたものとはいえない。
イ よって、本件各画像の掲載は適法な引用に当たらず、本件ツイートにより控訴人の著作権が侵害されたことは明らかであるといえる。
4 争点4(控訴人が本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由を有するか)について
⑴ 証拠及び弁論の全趣旨によれば、控訴人は、本件発信者に対し、不法行為に基づく損害賠償等を請求する予定であり、そのためには、被控訴人が保有する本件発信者情報の開示を受けることが必要であることが認められる。
⑵ 被控訴人は、引用に係る原判決のとおり、控訴人が、①令和4年1月12日頃、配信サイト「ミクチャ」で、閲覧者に対し、「今一人開示請求をしている」、「覚えておけよ」といった趣旨の発言をし、原告アカウントにおいて、「弁護士雇ってるのは嘘じゃないからね!気を付けてね!」と脅迫まがいのツイートを多数投稿しており、本件発信者情報が開示されれば、本件発信者の氏名や住所等がインターネット上でさらされるなどのおそれが顕著である旨主張する。
しかし、上記の発言や投稿が存在するとしても(上記①については、そもそもこれを認めるに足りる証拠はない)、本件事案の経緯の下で、殊更不当なものとも解し得ないし、本件発信者の氏名や住所等がさらされるおそれを裏付けるものともいえないから、上記被控訴人の主張は失当というほかない。
第4 結論
以上によれば,その他の点について判断するまでもなく,控訴人の請求は,理由があるから認容すべきところ、これを棄却すべきであるものとした原判決は失当であり、本件控訴は理由があるから,原判決を取り消した上、被控訴人に対し本件発信者情報の開示を命じることとし,主文のとおり判決する。