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著作権判例セレクション
【映画著作物】インスタグラムに投稿した動画の著作物性及び侵害性を認めた事例
▶令和5年2月28日東京地方裁判所[令和4(ワ)15136]
(注) 本件は、原告が、インターネット上の地図サービスである「Googleマップ」(「本件サイト」)を運営する被告に対し、氏名不詳者(「本件投稿者」)による別紙記載のアカウントによる投稿(「本件投稿」)が、原告においてインスタグラムに投稿した動画に係る原告の著作権(複製権・公衆送信権)を侵害することが明らかであると主張して、プロバイダ責任制限法5条1項に基づき、本件発信者情報)の開示を求めた事案である。
1 争点1-1(本件各動画の著作物性)について
⑴ 本件動画2及び本件投稿画像の著作物性
前記前提事実、証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件動画2は、原告の夫が、医療用のユニフォームを着て、公道上を、画面の奥から手前に向かって走りながら近付いてくる様子を遠距離から撮影した上で、画面の下側に「麻酔待ちの間にご近所に菓子折り渡しに走ってる。田舎過ぎて。笑」というテロップ(本件テロップ)を加えた約15秒の動画であることが認められる。
そして、本件動画2は、約15秒間という短い時間の中で、田舎で歯科医として勤務する原告の夫の日常の風景を分かりやすく紹介するために、原告の夫が走っている様子が画面の中央に映るようにカメラの位置を低めに設定した上で、道路や空、道路沿いの住居といった背景がバランス良く写り込む構図・アングルで撮影した動画に、その状況を端的に説明するために本件テロップを加えるという編集を施したものであることが認められる。
そうすると、本件動画2は、撮影方法や編集等に工夫を凝らした点において創作性があるといえるから、本件動画2には、映画の著作物として、著作物性を認めるのが相当である。そして、証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件動画2の2か所をトリミングして静止画化した本件投稿画像についても、上記において説示した工夫を踏まえると、著作物性を認めるのが相当である。
したがって、本件動画2及び本件投稿画像は、いずれも著作物性を認めるのが相当である。
⑵ その他に、被告提出に係る主張書面及び証拠を改めて精査しても、上記工夫等に鑑みると、被告の主張は、上記判断を左右するに至らない。したがって、被告の主張は、採用することができない。
2 争点1-2(黙示の承諾の有無)について
被告は、本件動画2につき転載禁止等の注記がされていないことを根拠として、原告は本件動画2の利用を黙示に承諾していた旨主張する。
しかしながら、証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件動画2は、いわゆる鍵アカウント設定で投稿されたものであり、原告のフォロワーのみが閲覧可能なものとして公開されたものであること、ストーリーズに投稿されたものであり、24時間が経過すると視聴が不可能となること、以上の事実が認められる。
そして、インスタグラムに公開した動画につき、転載禁止であることを積極的に示していない事実をもって、直ちに、第三者による一切の利用を承諾したということはできず、その他に、被告は、黙示の承諾の存在を基礎付ける具体的事情を主張立証するものではない。
これらの事情を踏まえると、原告は、本件動画2の利用を第三者に承諾していたものと認めることはできない。
したがって、被告の主張は、採用することができない。
3 争点1-3(著作権法41条の適用の有無)について
⑴ 被告は、本件投稿画像につき、医療関係者の男性が患者の麻酔中に当該患者の下を離れて外出している様子を収めたものであり、その様子を投稿することは、医療現場の実態や、医療事故につながりかねない様子を捉えたものとしてニュース性があるから、「時事の事件」を構成するものである旨主張する。
しかしながら、前記前提事実、証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件投稿画像は、ある男性が住宅地の道路上を走っている画像に、「麻酔待ちの間にご近所に菓子折り渡しに走ってる。田舎過ぎて。笑」というテロップが付されるにとどまり、いつの出来事であるかどうか一切明らかではなく、しかも、本件投稿画像は、Googleマップという地図アプリにおいて、本件歯科医院の上にカーソルを動かし、クリックした場合に表示されるものにすぎないものであることが認められる。
上記認定事実によれば、本件投稿画像で表示された出来事は、これが生じた時期すら明らかではなく、地図アプリにおいて本件歯科医院の上にカーソルを動かし、クリックした場合に限り表示されるにすぎないことが認められる。
そうすると、本件投稿画像の出来事は、著作権法41条にいう「時事の事件」とはいえず、その投稿も、上記認定に係る表示態様に照らし、同条にいう「報道」というに足りないものと認めるが相当である。
これに対し、被告は、本件投稿画像で表示された出来事が医療現場の実態や、医療事故につながりかねない様子をとらえたものである旨主張するものの、一般の利用者の普通の注意と読み方とを基準として判断すれば、「麻酔待ちの間5 にご近所に菓子折り渡しに走ってる。田舎過ぎて。笑」というテロップの内容及び上記認定に係る本件投稿画像の内容を踏まえると、本件投稿画像は、医療現場の実態や、医療事故につながりかねない様子であると理解されるものと認めることはできず、上記各内容に照らしても、被告が主張するようなニュース性を認めることもできない。したがって、被告の主張は、その前提を欠くものであり、いずれも採用することができない。
⑵ 被告の主張及び提出証拠を改めて精査しても、この判断を左右するには至らない。被告の主張は、採用することができない。
4 権利侵害の明白性について
証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件投稿者は、令和4年1月頃、本件投稿画像をGoogleマップ上に投稿していることからすると、本件動画2に係る原告の複製権及び公衆送信権を侵害したものといえる。その他に、本件投稿者による著作権侵害につき、違法性阻却事由の存在をうかがわせるような事情は認められない。そうすると、本件投稿者は、本件投稿画像の投稿により、本件動画2に係る原告の複製権及び公衆送信権を侵害するものであることは明らかであると認められる。
5 争点2(正当な理由の有無)について
弁論の全趣旨によれば、原告は、本件投稿者に対し、損害賠償等を請求することを予定していることが認められる。そうすると、上記において説示したところを踏まえると、原告には本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるも25 のといえる。したがって、原告は、被告に対し、法5条1項に基づき、本件発信者情報の開示を求めることができる。
れに対し、被告は、本件動画2は私的な動画であり、消極的損害も積極的損害も観念することができないため、原告の損害賠償請求は認められない旨主張するものの、本件投稿画像の投稿により原告の著作権が侵害されたことが明白であることは、既に説示したとおりであり、具体的な損害額の多寡は、著作権の侵害の成否を左右するものではない。したがって、被告の主張は、採用することができない。