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著作権判例セレクション
【その他】 著作権のライセンス契約の有無は商標登録出願ないし登録に影響を及ぼすか(商標法4条1項7号等の該当性が争点となった事例)
▶令和6年10月30日知的財産高等裁判所[令和6(行ケ)10025]
(参考)
〇 商標法3条(商標登録の要件)2項:
「2 前項第三号から第五号までに該当する商標であつても、使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるものについては、同項の規定にかかわらず、商標登録を受けることができる。」
〇 商標法4条(商標登録を受けることができない商標)1項7号及10号:
「次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない。
七 公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標
十 他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標であつて、その商品若しくは役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの」
第2 事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等(当事者間に争いがない。)
(1) 被告は、別紙の構成からなる立体商標(本件商標)について、第11類「ランプシェード」を指定商品として平成25年12月13日登録出願をし、平成28年2月12日に設定登録を受けた(登録第5825191号)。
(2) 原告は、令和2年11月10日、本件商標について無効審判を請求し、特許庁は、同請求を無効2020-890080号事件として審理を行った。
特許庁は、令和6年2月8日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との本件審決をし、その謄本は同月15日原告に送達された。
(3) 原告は、令和6年3月14日、本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。
2 無効審判において主張された無効原因及び本件審決の理由の要旨
(1) 無効理由1(商標法4条1項7号該当性)について
【原告の主張する無効原因】
本件商標は、デザイナーであるA(1894~1967)のデザインに係るものであるところ、その著作権について、Aの相続人と被告が締結した有効なライセンス契約の原本の存在が明らかにならない限り、被告は、本件商標を日本において不正に使用し、また審査・審判手続において特許庁を欺いて権利取得したことになり、これらの行為は国際信義則及び公序良俗に反するものであり、商標法4条1項7号に該当するというべきである。
【本件審決の理由の要旨】
商標法上、他人の著作権と抵触する商標について、商標登録を受けることができない旨を定めた規定は存在しない一方、同法29条は他人の著作権と登録商標が抵触する場合があることを前提としている。したがって、Aの相続人と被告のライセンス契約の原本の有無は出願や登録に影響を及ぼすものではない。
また、本件商標は、登録時に被告の業務に係る商品であることが広く認識されていたことが認められて同法3条2項が適用されており、Aの相続人と被告の間で具体的なトラブルがあった等の事情も認められず、出願の経緯に社会的相当性を欠くものであったとの裏付けもない。
(2) 無効理由2(商標法4条1項10号該当性)について
【原告の主張する無効原因】
本件商標の立体的形状がAの知的財産であることが周知であるから、商標法4条1項10号に該当する。
【本件審決の理由の要旨】
被告が出願時に本件商標について商標法3条2項の適用を受けるための書類にデザイナーがAであると記載していたことは、デザインをした者がAであることを示すにとどまり、本件商品がAの業務に係ることを意味しないから、本件商標は商標法4条1項10号に該当しない。
1 取消事由1(商標法4条1項7号該当性の判断の誤り)について
(1) 原告は、被告は特許庁を欺いて本件商標権を取得したものであり、国際信義則及び公序良俗に反し、これは商標法4条1項7号に該当する旨主張する。
(2) まず、原告は、被告がA又はその相続人から本件商標に係る商品の著作権についてライセンス契約の締結を受けていないとして、これを問題とするところ、商標法には、他人の著作権と抵触するような商標登録を禁じる規定はなく、むしろそのような商標登録が発生し得ることを前提に、同法29条により先行著作権との調整を図っているのであって、他人の著作権との抵触の一事をもってしては、同法4条1項7号に該当しないというべきである。Aの相続人と被告との間の著作権に関するライセンス契約の成否、有効性いかんの問題は、同号該当性に影響を及ぼすものではない(蛇足ながらあえて付け加えると、乙1、2に係るライセンス契約の成立及び有効性を疑うべき事情は見当たらない。)。
(3) また、本件商標は、出願過程において、被告の業務に係る商品であることが広く認識されていたことが認められて商標法3条2項が適用されているところ、被告とA又はその相続人との間で、本件商標に係る著作権について紛争となっている等、その出願が国際信義に反するような事情が生じていることの主張立証はない。本件は、単に、原告において、「被告によるAのデザインの盗用」という根拠のない憶測を述べているにすぎない事案といわざるを得ない。
(4) 以上のとおりであって、本件商標が商標法4条1項7号に該当しないとした本件審決の判断に誤りはなく、取消事由1は理由がない。
2 取消事由2(商標法4条1項10号該当性の判断の誤り)について
(1) 原告は、本件商標は、Aの業務に係る商品を表示するものとして広く認識されている商標として、商標法4条1項10号に該当する旨主張する。
しかし、原告は、本件商標が「Aの」業務に係る商品を表示するものであることを表示するものとして周知であることを示す具体的な立証をしない。甲25、26を含め、本件商標の形状をデザインした者が
Aであることを示す証拠はあるが、業務の主体がAであることを示すものではない。
(2) 原告は、Aの相続人と被告の間で締結されたライセンス契約が有効でないとすれば、デザイナーの有名な商品を盗用して商品化した業者が、立体商標の登録出願をして権利を取得できるようになる旨主張するが、同主張は商標法4条1項10号の要件とはかかわりのないものである(なお、上記ライセンス契約の成立及び有効性を疑うべき事情がないことは上記のとおりである。)。
(3) 以上のとおりであって、本件商標が商標法4条1項10号に該当しないとした本件審決の判断に誤りはなく、取消事由2は理由がない。
3 結論
以上によれば、原告主張の取消事由はいずれも理由がなく、本件審決について取り消されるべき違法は認められない。よって、原告の請求を棄却することとして、主文のとおり判決する。