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著作権判例セレクション

【写真著作物】夜景の画像の写真著作物性及び侵害性を認めた事例

▶令和2925日東京地方裁判所[令和2()9105]
1 争点1(本件投稿による権利侵害の明白性)について
(1) 争点1-1(本件写真画像の著作物性)について
ア 前記前提事実,証拠及び弁論の全趣旨によれば,本件写真は,原告が,空気の透明度が高い冬季において,天候が良好な日の夜間に,約180度の眺望を有する本件展望台から見ることができる夜景のうち,大阪府内所在のりんくうゲートタワー及びその周辺の建造物の組合せを被写体として選択し,中でも目を引く建造物であるりんくうゲートタワーを構図のほぼ中心に据え,その左右に複数の建造物がそれぞれ配置されるようにして,カメラについては,「70-200mm」のレンズを選択し,レンズ焦点距離を「200.00mm」,シャッター速度を「16.0秒」,絞り値を「f/9」とするなどの設定をした上で,ストロボ発光なしで撮影したものと認められる。
そうすると,本件写真は,原告において,撮影時期及び時間帯,撮影時の天候,撮影場所等の条件を選択し,被写体の組合せ,選択及び配置,構図並びに撮影方法を工夫し,シャッターチャンスを捉えて撮影したものであり,原告の個性が表現されているものと認められる。
したがって,原告が撮影した本件写真及びこれに本件文字を付加して作成した本件写真画像は,いずれも,原告の思想又は感情を創作的に表現したものということができるから,「著作物」(著作権法2条1項1号)に該当する。
イ 被告は,本件写真の被写体であるりんくうゲートタワー及びその周辺の建造物は,屋外に恒常的に設置されているものであるから,これを被写体として撮影しようとすれば,焦点距離や撮影位置,構図等の表現の選択の幅は必然的に限定され,本件写真の構図自体ありふれたものであるから,撮影者の個性が現れたものとはいえず,本件写真には創作性がない旨主張する。
しかしながら,別紙4写真画像目録記載の本件写真画像から明らかなように,本件展望台からの眺望は広く,撮影することができる建造物は多数あり,それらから発せられる光も様々であるから,どのような位置から,どのような構図で撮影するか,どの建物に焦点を合わせるかといった選択の幅が限定的であるということはできない。
そして,前記アのとおり,原告は,上記の幅の中から1つの撮影位置,構図及び焦点距離を選択した上,さらに,撮影時期及び時間帯,撮影時の天候等の条件についても選択して,撮影方法を工夫し,シャッターチャンスを捉えて撮影したものであるから,本件写真には,原告の個性が現れているものと認められる。
したがって,被告の上記主張を採用することはできない。
(2) 争点1-2(適法な引用の成否)について
ア 前記前提事実,証拠及び弁論の全趣旨によれば,別紙3投稿記事目録記載のとおり,本件記事は,「夜景見るの好き?」というタイトルのブログであって,「夜景を見るの大好き」,「お父さんが単身赴任中,お母さんと私と妹と愛犬とよく和歌山県の夜景を見に出掛けたことある」,「他の都道府県の夜景もキレイかも知れないけど私は和歌山県の夜景が一番好きかな」との5行の記載に続いて,和歌山県方面ではなく大阪府方面の夜景を撮影した本件写真画像を複製した本件投稿画像が掲載され,その直下に「どの町の夜景もキレイで好き」との1行の記載がされたものであると認められる。
そうすると,本件記事は,本件投稿者が,夜景を見ることが好きであり,特に和歌山県の夜景を一番好んでいるという自身の嗜好を,夜景に関する思い出とともに記載したものであると理解できるが,このような嗜好や思い出を記載する中で本件写真画像を利用する必要性は乏しいというべきである。
しかも,本件写真画像は,大阪府方面を撮影したものであって,本件記事の内容とは直接的な関連がないのみならず,本件写真画像を複製した本件投稿画像が「他の都道府県の夜景もキレイかも知れないけど私は和歌山県の夜景が一番好きかな」との記載と「どの町の夜景もキレイで好き」との記載の間に配置されていることから,本件記事の読者が和歌山県内の夜景写真であると誤認する可能性もある。
また,本件記事は,本文が4文(6行)と非常に短いため,本件投稿画像が本件記事全体の相当の部分を占めているといえる。
以上によれば,本件記事における本件写真画像の利用は,「報道,批評,研究その他の引用の目的上正当な範囲内」のものであるとも,「公正な慣行に合致するもの」とも認められないというべきである。
したがって,本件投稿者による本件写真画像の利用は,適法な引用(著作権法32条1項)には該当しない。
イ 被告は,本件投稿画像が本件記事の読者において和歌山県の夜景を想像できるように参照の目的で掲載されたものにすぎず,また,②本件投稿画像は,本件記事の他の部分と明瞭に区分されており,③当該他の部分が主で,本件投稿画像は従であって,④本件文字が付されたまま掲載されて20 いるので,出所の明示もされているから,本件記事における本件写真画像の利用は,適法な引用である旨主張する。
しかしながら,上記①については,仮に本件投稿者が参照の目的で本件写真画像を利用したとしても,前記アのとおり,同画像が和歌山県内の夜景写真であると誤認される可能性があることから,引用の目的上正当な範囲内での利用ということはできない。
また,上記②については,外観上,本件記事の文字部分と本件投稿画像の部分とを一応区別して認識できるものの,意味内容としては,それらが一体として本件記事を構成していることから,両者を明瞭に区分できるとまでは認められない。
さらに,上記③については,前記アのとおり,本件投稿画像が本件記事の相当の部分を占めていることから,本件投稿画像以外の部分が主であると認めることはできない。
そうすると,本件文字を削除することなく本件写真画像を利用したという上記④の事情を考慮しても,前記アの認定を左右するには至らないというべきである。
(3) 小括
以上によれば,本件記事における本件写真画像の利用は,適法な引用(著作権法32条1項)に該当せず,本件投稿により,原告の本件写真画像に対する著作権(複製権及び自動公衆送信権)が侵害されたことは明らかであると認められる。