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著作権判例セレクション

【編集著作権の侵害性/美術(図形)著作物の侵害性】 ビジネスソフトにおける表示画面及びその組合せの侵害性の判断基準
▶平成140905日東京地方裁判所[平成13()16440]
1 ビジネスソフトウェアにおける表示画面及びその組合せの著作物性等
本件において,原告は,原告ソフトは,個々の表示画面がそれぞれ著作物であることに加えて,相互に牽連関係にある各表示画面の集合体としての全画面も全体として一つの著作物であると,主張している。
(1)ア 一般に,電子計算機に対する指令(コマンド)により画面(ディスプレイ)上に表現される影像についても,それが「思想又は感情を創作的に表現したもの」(著作権法2条1項1号)である場合には,著作物として著作権法による保護の対象となるものというべきである。すなわち,美術的要素や学術的要素を備える場合には,美術の著作物(著作権法10条1項4号)や図形の著作物(同項6号)に該当することがあり得るものであり,いわゆるコンピュータゲームにおいて画面上に表示される影像などには美術の著作物に該当するものも少なくないが,この点は,いわゆるビジネスソフトウェアについても同様に当てはまるものということができる。
ソフトウェアにおける表示画面は,これを見る利用者に,画面全体を一体のものとして認識されるものであるから,それが「思想又は感情を創作的に表現したもの」として著作物に該当するかどうかは,画面全体を基準として判断すべきものである(なお,本件において,原告は,原告ソフトの表示画面の特徴につき,画面の一覧性や直感的な画面表示というコンセプトに基づき,利用者が閲覧し(情報表示画面),あるいは入力すべき情報(入力画面)を,重要度・頻度に応じて画面上に配列した点にあると主張しているものであり,原告も,各表示画面について,画面全体が一定の思想に基づいて構成され,表現されている旨を主張しているものと解される。)。
イ 著作物の複製とは,既存の著作物に依拠し,その内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製することであるから,ある物が既存の著作物の複製に当たるといえるためには,これに接する者が既存の著作物の創作的表現を直接感得することができる程度に再現されていることを要する。したがって,既存の美術の著作物に依拠して作成された物があるとしても,その物が,思想,アイデアなど表現それ自体でない部分又は表現上の創作性のない部分において,既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には,複製に当たらない。
また,著作物の翻案とは,既存の著作物に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現することにより,これに接する者が既存の著作物の本質的な特徴を直接感得することができる別の著作物を創作する行為をいう。したがって,既存の著作物に依拠して創作された著作物が,思想,アイデアなど表現それ自体でない部分又は表現上の創作性のない部分において,既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には,翻案に当たらない。
ウ 本件において,仮に原告ソフトの表示画面に画面全体として何らかの著作物性が肯定される場合には,これに依拠して作成された他社等のソフトウェア(以下「他社ソフト」という。)の表示画面がその複製ないし翻案に当たるかどうかを判断するに当たっては,原告ソフトの各表示画面における画面全体としての創作的特徴が他社ソフトの対応する表示画面においても共通して存在し,他社ソフトの表示画面から原告ソフトの表示画面の創作的な特徴が直接感得できるかどうかを判断すべきものである。そして,この場合,原告ソフトの表示画面の特徴的構成の一部分が他社ソフトの表示画面においても共通して見られる場合であっても,①共通する当該一部分のみでは画面全体としての創作的特徴を基礎付けるには足りないときや,あるいは,②他社ソフトの表示画面に原告ソフトにない構成部分が新たに付加されていることにより,表示画面の全体的構成を異にすることとなり,これを見る者が表示画面全体から受ける印象を異にすることとなったときは,他社ソフトの表示画面から原告ソフトの表示画面全体としての創作的特徴を直接感得することができないから,他社ソフトの表示画面をもって原告ソフトの表示画面の複製ないし翻案ということはできない。
(2)ア 一般にビジネスソフトウェアにおいては,ディスプレイ上に表れる表示画面は,常に一定ではなく,利用者がクリックやキー操作を通じてコンピュータに対する指令を入力することにより,異なる表示画面に転換する。このような一定の画面から他の画面への転換が,特定の思想に基づいて秩序付けられている場合において,当該表示画面の選択と配列,すなわち牽連関係の対象となる表示画面の選択と当該表示画面相互間における牽連関係に創作性が存在する場合には,そのような表示画面の選択と組合せ(配列)自体も,著作物として著作権法による保護の対象となり得るものと解される。
この場合,個々の表示画面自体に著作物性が認められるかどうかにかかわらず,表示画面の選択又は組合せ(配列)に創作性が認められれば,著作物性を認めることができるというべきである。そして,編集物における素材の選択・配列の創作性が著作者により1個のまとまりのある編集物として表現されている集合体を対象として判断されることに照らせば(著作権法12条1項),このような表示画面の選択と相互間の組合せ(配列)は,牽連関係にある表示画面全部を基準として,選択・配列の創作性の有無を検討すべきものである。
イ 本件において,原告ソフトは,「グループウェア」と呼ばれるソフトウェアであって,複数のアプリケーションの機能を備えたものである。この点からすれば,原告ソフトにおける表示画面の選択とその相互の牽連関係(組合せ)に創作性が認められるかどうかは,原告ソフトウェア全体を構成する表示画面全部,又は一定の機能を有する特定のアプリケーションを構成する表示画面全部を基準として判断されるべきものである。
そして,仮に原告ソフトの表示画面の選択又は組合せに創作性が認められる場合において,他社ソフトにおける表示画面の選択及び組合せが原告ソフトの複製ないし翻案に当たるかどうかを判断するに当たっては,原告ソフト全体又はそのうちの特定のアプリケーションを構成する表示画面全部における表示画面の選択及びその相互間の牽連関係(組合せ)の創作的特徴が,他社ソフト全体又はそのうちの対応する特定のアプリケーションを構成する表示画面全部における表示画面の選択及びその相互間の牽連関係(組合せ)においても共通して存在し,他社ソフトの表示画面の選択及び組合せから原告ソフトの表示画面の選択・組合せの創作的特徴が直接感得できるかどうかを判断すべきものである。
この場合,原告ソフトの一部の表示画面が他社ソフトに存在しないときには,当該表示画面の欠如が原告ソフトにおける表示画面の選択・組合せの創作的特徴に影響しない特段の事情のない限り,他社ソフトを原告ソフトの複製ないし翻案ということはできない。また,他社ソフトにおいて,原告ソフトにない表示画面や,原告ソフトにない牽連関係が新たに付加されているときには,これらの付加が付随的なものであって,原告ソフトと他社ソフトの表示画面の選択・組合せの創作的特徴の共通性に影響しない特段の事情のない限り,他社ソフトを原告ソフトの複製ないし翻案ということはできない。
2 争点(1)(著作権侵害の有無)に対する判断
(1) 概説
前記1において述べたところを前提に,検討する。
ア 前述のとおり,原告ソフトは,会社や部署などのグループによる作業を効率化するために,ユーザー間のコミュニケーションや情報の共有を行えるようにする「グループウェア」と呼ばれるビジネスソフトウェアであって,「スケジュール」「行き先案内板」「施設予約」「掲示板」「共有アドレス帳」「プロジェクト管理」「電子会議室」等の複数のアプリケーションの機能を備えたものである。
一般に,ビジネスソフトウェアは,表計算や文書作成など特定の計算処理や事務的作業を行うことを目的とするものであって,その表示画面も,コンピュータへの指令や数字・文字等の情報を入力するためか,あるいは計算の結果や作成された文書等を利用者が閲覧するためのものである。このような表示画面は,作業の機能的遂行や利用者による操作や閲覧の容易性等の観点からその構成が決定されるものであって,当該ビジネスソフトウェアに要求される機能や利用者の利便性の観点からの制約があり,作成者がその思想・感情を創作的に表現する範囲は限定的なものとならざるを得ない。また,本件の原告ソフトにおける「スケジュール」「行き先案内板」「施設予約」「掲示板」「共有アドレス帳」等のアプリケーションについては,コンピュータの利用が行われるようになる前から,企業や学校等においては,黒板やホワイトボード等を用いた予定表,掲示板や帳簿等を用いた施設予約簿などが存在しており,また,システム手帳等も存在していたから,過去に利用されていたこのような掲示板,帳簿等の書式の慣行を引き継ぐ必要から来る制約というものも存在する。
このような点を考慮すると,原告ソフトの表示画面については,各表示画面における書式の項目の選択やその並べ方などの点において,作成者の知的活動が介在する余地があり,作成者の個性が創作的に表現される可能性がないとはいえないが,上述のような多様な制約が存在することから,作成者の思想・感情を創作的に表現する範囲は限定されており,創作的要素が認められるとしても画面における部分的な範囲に存在するにとどまるものというべきである。
そうすると,仮に,他社ソフトの表示画面に,原告ソフトの表示画面において認められる創作的要素のうちの一部が共通して認められるとしても,原告ソフトにおける他の創作的要素が他社ソフトの表示画面に存在しない場合や,原告ソフトに存在しない新たな要素が他社ソフトの表示画面に存在するような場合には,表示画面全体としては,他社ソフトの表示画面から原告ソフトの表示画面の創作的表現を直接感得することができないという事態も,十分に考えられるところである。
 これを要するに,原告ソフトの表示画面については,仮にこれを著作物と解することができるとしても,その創作的表現を直接感得することができるような他者の表示画面は,原告ソフトの表示画面の創作的要素のほとんどすべてを共通に有し,新たな要素も付加されていないようなものに限られる。すなわち,仮に原告ソフトの表示画面を著作物と解することができるとしても,その複製ないし翻案として著作権侵害を認め得る他者の表示画面は,いわゆるデッドコピーないしそれに準ずるようなものに限られるというべきである。
イ また,原告は,原告ソフトにおける個々の表示画面のみならず,相互に牽連関係にある各表示画面の集合体としての全画面も全体として一つの著作物であると,主張している。
上述のように,ビジネスソフトウェアにおいては,ディスプレイ上に表れる表示画面は,常に一定ではなく,利用者の操作により異なる表示画面に転換するものであるところ,このような一定の画面から他の画面への転換に関して,表示画面の選択と表示画面相互間における牽連関係に創作性が存在する場合には,そのような表示画面の選択と組合せ(配列)自体も,著作物として著作権法による保護の対象となり得るものと解される。
原告ソフトにおける画面の選択と組合せ(配列)については,作成者の知的活動が介在する余地があり,作成者の個性が創作的に表現される可能性がないとはいえないが,この場合においても,創作性の有無については,当該ビジネスソフトウェアに要求される機能や利用者の利便性の観点からの制約や,既存の同種ソフトウェアにおけるものとの比較等の観点から判断されなければならないものであって,作成者の思想・感情を創作的に表現する範囲は限定されており,創作的要素が認められるとしても部分的な範囲に限定されるものというべきである。
したがって,仮に原告ソフトの表示画面の選択及び組合せに創作性が認められるとしても,上述のとおり,その創作的表現を直接感得することができるような他社ソフトは,原告ソフトの表示画面とその組合せにつき実質的にその全部を共通に有し,新たな表示画面や組合せが付加されていないようなものに限られる。
すなわち,仮に原告ソフトにおける互いに牽連関係にある表示画面の集合体を著作物と解することができるとしても,その複製ないし翻案として著作権侵害を認め得る他者のソフトウェアは,いわゆるデッドコピーないしそれに準ずるようなものに限られるというべきである。
ウ 既に,前記1において述べたとおり,原告ソフトの各表示画面及び相互に牽連関係にある表示画面の集合体を著作物と認めることができるかどうかはさておき,仮にこれらの著作物性が肯定されるとしても,被告ソフトが原告ソフトにおけるこれらの著作物の複製ないし翻案であるといえるためには,被告ソフトの各表示画面及び相互に牽連関系にある表示画面の集合体に,原告ソフトにおける創作的表現ないし創作的特徴と共通する表現が存在し,それによって,被告ソフトから原告ソフトの創作的表現ないし創作的特徴を直接感得できることを要する。
エ そこで,証拠及び弁論の全趣旨に基づき,原告ソフトと被告ソフトについて,個々の画面表示及び画面の選択・配列を対比して,両者の間の共通点を抽出し,これらの共通点が創作的要素を有するものであって,原告ソフトにおける創作的表現ないし創作的特徴を感得させるものかどうかを,以下,検討する。
(2) 表示画面の対比
ア ソフトウェア全体のトップページ
原告ソフト及び被告ソフトのソフトウェア全体のトップページにおいては,画面を概ね上段・中段・下段と3分割した上,①上段にソフトウェアの名称(「サイボウズオフィス」「アイオフィス」)のロゴマーク,及び,「Office」等のゴシック体文字及びプルダウンメニュー方式によるログインボタンを,②中段に設定アイコンを含む大柄な各アプリケーションアイコンを,③下段にソフトウェア情報(原告・被告の商号,バージョン情報,コピーライトの表示)をそれぞれ配置した点が共通する。ログイン後における各トップページの内容は,別紙1のとおりである(なお,別紙1は,カスタマイズ前の状態であり,カスタマイズによって画面上の一部のアイコンを削除した後の状態である甲18の1,19の1とは,異なる。)。
しかし,上記のうち,画面を3分割したという点は,視覚的に必ずしも明瞭に認識できるものではない上,画面上の大まかな割振り・配置の域を出ないものであって,それ自体が創作的な表現といえるものではない。また,上段にロゴやログインボタンを,中段にアプリケーションアイコンを,下段にソフトウェア情報を配置することも,特に創作性が認められるような表現方法ではない。したがって,これらの点が共通するからといって,表現の創作的特徴が共通して感じられるということはできない。
以上によれば,被告ソフトの表示画面をもって,原告ソフトの表示画面の複製ないし翻案ということはできない。
イ 「スケジュール」におけるグループ週間表示
原告ソフト及び被告ソフトの「スケジュール」アプリケーションのグループ週間表示画面においては,最も目にとまりやすい画面左上にプルダウンメニューでグループを切り替えるボタンを配置している点,情報の優先度に従って,縦軸には,ユーザー自身の情報を最上部に,次いでグループ全体の情報,その下にグループに所属する個人の情報をそれぞれ表示した上,一覧性を高めるために,ユーザー情報とグループ全体及びグループ構成員の情報との間にボーダーラインを入れている点,グループ全体の情報については,そのグループ名表示欄の色を変えている点,また,グループ週間表示画面における情報表示そのものが,入力画面への移動ボタンを兼ねている点(記号「☆」又は文字「Add」),画面右上部には,「今日」と表示されたボタンを配置し,その両脇に翌日・前日への移動機能を表す「▲」,翌週・前週への移動機能を表す「▲▲」という一連のボタンを並べ,日の移動の機能を持つボタン群を配置している点などが共通する。各表示画面の内容は,別紙2のとおりである。
上記によれば,原告ソフトの画面と被告ソフトの画面との間には,いくつかの共通点が存在するということはできるが,そもそもプルダウンメニュー自体は,従来から既にウィンドウズ等のOSや各種のビジネスソフトウェアの表示画面において多用されているものである。ユーザー,グループ,グループ構成員の予定を週間カレンダー上に並べて表示したという点にしても,このうち,グループとグループ構成員の予定を別欄として並べて表示した点は,グループ全体の行事と各構成員の予定とを構成員全員に周知させる目的のスケジュール管理ソフトウェアとしては当然の構成であり,このような表の構成は,コンピュータ使用以前から黒板やホワイトボードを用いた表示板において行われていたものでもある,ユーザー自身の予定欄を冒頭に配置した点も,ユーザー各人による利用を前提としたソフトウェアとしては,当然の構成である。また,「▲」「▲▲」のボタン表示は,テープレコーダー,CD再生機などの電気機器において,従来から「走行」や「巻き戻し」「早送り」あるいは「次曲に移動」「前曲に移動」を意味するボタン表示として用いられていたものであって,これをソフトウェアにおける表示画面の切替えに用いている点も,格別目新しいものとはいえない。
上記によれば,被告ソフトの表示画面には,原告ソフトと共通する部分も少なくないが,それらは,スケジュール管理ソフトウェアとしての機能に由来するものであって,いずれもアイデアないし機能を実質的に同一にするとはいえても,その具体的な表現方法を対比したとき,表現上の創作的特徴を共通するということはできない。
また,被告ソフトにおいては,原告ソフトにないリンク機能を有することに伴い,画面の上下に配された薄赤色ボードの中に「個人・一日」「個人・週間」「個人・月間」「グループ・一日」等のボタンが配置されたり(アイオフィス2.43),これらがタブ画面を用いて配置されたり(同3.0)しており,各欄の色付けの仕方も原告ソフトのそれとは異なっている。これらの相違点が存在する結果,表示画面全体を見る者が受ける印象は,相当異なっている。
以上によれば,被告ソフトの表示画面をもって,原告ソフトの表示画面の複製ないし翻案ということはできない。
ウ 「スケジュール」における個人月間表示
原告ソフト及び被告ソフトの「スケジュール」アプリケーションの個人月表示画面においては,月間カレンダー形式を用いた上,新規入力のための機能リンク表示(記号「☆」又は文字「Add」)を各日付の下に配置したこと,中央に「今月」のテキスト文字ボタンを置き,その両脇に翌月・前月への移動を表す「▲▲」というボタンを並べて,月の移動ボタン群を配置したことなどの共通点がある。各表示画面の内容は,別紙3のとおりである。
しかしながら,上記のうちカレンダー形式を用いた点は,月間スケジュールを表示する上でありふれた表現であり,また,他の点もソフトウェアの機能に伴うありふれた表現であり,これらの点をもって表現上の創作的特徴を共通するということは到底できない。
加えて,被告ソフトにおいては,画面の上下に配された薄赤色ボードの中に「個人・一日」「個人・週間」「個人・月間」「グループ・一日」等のボタンが配置されたり(アイオフィス2.43),これらがタブ画面を用いて配置されたり(同3.0)するなどの相違点も存するもので,これらの相違点が存在する結果,表示画面全体を見る者が受ける印象は,相当異なっている。
以上によれば,被告ソフトの表示画面をもって,原告ソフトの表示画面の複製ないし翻案ということはできない。
エ 「スケジュール」におけるグループの日表示
原告ソフト及び被告ソフトの「スケジュール」アプリケーションのグループの日表示画面においては,ユーザー自身の情報を最上部に,次いでグループ全体の情報を,その下にグループに所属する個人の情報をそれぞれ表示した上,ユーザー情報とグループ全体及びグループ構成員の情報との間にボーダーラインを入れたこと,このボーダーラインについては,縦幅の狭い表組みの罫線を用いて30分刻みであることを分かりやすくしたこと,情報のない時間帯は枠線で区切ることなく,白地の背景の中央に「☆」又は「Add」の表示を配置し,情報が入っている時間帯は枠線で区切って,黄色地の背景の中央に情報を表示したことなどが共通する。
しかしながら,ユーザー,グループ,グループ構成員の予定を並べて表示した点や,30分刻みの罫線を設けた点は,スケジュール管理ソフトウェアとして当然の構成であり,殊に後者はシステム手帳等の書式において従来から行われていたことである。その他の点もソフトウェアの機能に伴うありふれた表現である。これらの点をもって,原告ソフトと被告ソフトが,表現上の創作的特徴を共通するということはできない。
加えて,被告ソフトにおいては,画面の上下に配された薄赤色ボードの中に「個人・一日」「個人・週間」「個人・月間」「グループ・一日」等のボタンが配置されたり(アイオフィス2.43),これらがタブ画面を用いて配置されたり(同3.0)するなどの相違点も存するもので,これらの相違点が存在する結果,表示画面全体を見る者が受ける印象は,相当異なっている。
以上によれば,被告ソフトの表示画面をもって,原告ソフトの表示画面の複製ないし翻案ということはできない。
オ 「スケジュール」におけるスケジュール入力画面
原告ソフト及び被告ソフトの「スケジュール」アプリケーションのスケジュール入力画面においては,日付と時間が横に同列配置されていること,プルダウンメニューが多用されていることが共通するが,これらはスケジュール管理ソフトウェアの機能に伴う当然の表現や,コンピュータソフトウェアとしてありふれたものであって,これらが共通するからといって,表現の創作的特徴が共通するということはできない。
加えて,原告ソフト及び被告ソフトの表示画面を一見すれば明らかなとおり,原告画面には「日付」「予定」「場所」「メモ」程度の入力項目しかなく,画面構成上も余白部分が多いのに対し,被告画面においては,上記に加えて約10個もの入力項目があって,画面一杯に各項目が表示されており,その外観は大きく異なっているものであり,見る者が受ける印象は大きく異なる。
以上によれば,被告ソフトの表示画面をもって,原告ソフトの表示画面の複製ないし翻案ということはできない。
カ 「スケジュール」における設定メニュー画面
原告ソフト及び被告ソフトの「スケジュール」アプリケーションの設定メニュー画面においては,設定メニュー画面である当該画面に1画面をあてていること,項目の選択が,概ね「一般設定」「予定・場所メニューの設定」「祝日の設定」及び「アクセス権の設定」となっていること(ただし,原告ソフトにおける「設定」が,被告ソフトにおいては「マスタメンテナンス」(アイオフィス2.43),「編集」(同3.0)と言い換えられているなど,一部の用語が言い換えられている。)が共通するが,これらはスケジュール管理ソフトウェアの機能に伴う当然の表現や,コンピュータソフトウェアとしてありふれたものであって,これらが共通するからといって,表現の創作的特徴が共通するということはできない。
加えて,被告ソフトにおいては,薄赤色のボードを上下に配したり(アイオフィス2.43),あるいは,緑色の枠で項目を囲む(同3.0)などの相違点も存するもので,これらの相違点が存在する結果,表示画面全体を見る者が受ける印象は,相当異なっている。
以上によれば,被告ソフトの表示画面をもって,原告ソフトの表示画面の複製ないし翻案ということはできない。
キ 祝日の設定画面
原告ソフト及び被告ソフトの祝日の設定画面においては,縦一列に祝日を並べた上,その左横のチェックボックスで削除できるようにした点が共通する。
これらの各画面は,一見して非常に類似するように見えるが,そもそも,上記の共通点は,スケジュール表示に関連して祝日を登録ないし削除するという当該画面の機能からすれば当然の構成である。したがって,これらの点が共通するからといって,表現の創作的特徴が共通するということはできない。
したがって,被告ソフトの表示画面をもって,原告ソフトの表示画面の複製ないし翻案ということはできない。
ク 「行き先案内板」における行き先メニューの設定
原告ソフト及び被告ソフトの「行き先案内板」アプリケーション(被告ソフトにおける名称は「伝言・所在」。以下,同じ。)の行き先メニューの設定画面においては,メニュー項目がリストボックスで縦に表示されていること,「変更する」及び「入力し直す」を意味する2種類の機能ボタンによりメニューを設定するようになっていることが共通する。
しかしながら,「在席」「出張」「打合」等のメニュー項目をリストボックスに表示しておくこと,クリックによる設定を可能にするために上記2種類の機能ボタンを配置することは,いずれも,この種ソフトにおける機能的要請から来るものであり,特徴的な表現とはいえない。したがって,これらの点が共通することをもって,表現の創作的特徴が共通するということはできない。
したがって,被告ソフトの表示画面をもって,原告ソフトの表示画面の複製ないし翻案ということはできない。
ケ 「行き先案内板」におけるメモ入力画面
原告ソフト及び被告ソフトの「行き先案内板」アプリケーションのメモ入力画面においては,「登録時刻」「依頼主」「用件」「連絡先」「伝言内容」という各項目を縦配列している点,プルダウンメニューに,「連絡があったことをお伝え下さい」「折り返しお電話下さい」「伝言をお願いします」などの標準テキストデータが入っている点が共通する。
しかしながら,上記の各項目及び標準テキストデータを表示している点は,当該画面の機能に照らして当然に考えつく表現である上に,これら項目を縦配列した点なども,ありふれた画面上の配置ないし構成であるから,これらが共通するからといって,表現の創作的特徴が共通して感じられるということはできない。
したがって,被告ソフトの表示画面をもって,原告ソフトの表示画面の複製ないし翻案ということはできない。
コ 「施設予約」における週間予約状況表示
原告ソフト及び被告ソフトの「施設予約」アプリケーション(被告ソフトにおける名称は「設備予約」。以下,同じ。)の週間予約状況画面においては,会議室等の施設をグループにまとめた上,左肩にプルダウンメニューとして配置し,その右脇に「GO」ボタンを配置した点,他の情報表示画面と同様,縦軸に施設名,横軸に1週間をとった上,それぞれの枠内に情報入力画面へのリンク機能を表すアイコン等を配置した点が共通する。
しかしながら,どの会社にも共通して存在するような施設名をプルダウンメニュー化することや,縦軸(施設名)と横軸(曜日)の交わる枠内に,情報入力画面にリンクする機能ボタンを配置することは,使い勝手の見地から,ある程度想定できる構成であるから,これらの点が共通するからといって,表現の創作的特徴が共通するということはできない。
したがって,被告ソフトの表示画面をもって,原告ソフトの表示画面の複製ないし翻案ということはできない。
サ 「施設予約」における日の予約状況表示
原告ソフト及び被告ソフトの「施設予約」アプリケーションの日の予約状況画面においては,縦軸に施設名,横軸に時間軸をとっていること,30分刻みのバーが表示されていること,情報未入力の欄が白地であるのに対し,入力済みの欄が色付けされていること,「今日」「▲」「▲▲」からなるボタン群が右肩に表示されていることが共通する(ただし,アイオフィス3.0においては,30分刻みのバーが黒塗りとなり,無情報と有情報との色分け区別がなくなっている。)。
しかしながら,上記の点は,当該画面の機能に照らして当然に考え付く表現か,ありふれた画面上の配置ないし構成であるから,これらが共通するからといって,表現の創作的特徴が共通して感じられるということはできない。
加えて,被告ソフトにおいては,画面の上下に配された緑色ボードの中に,「グループ・一日」「グループ・週間」等のボタンが配置されたり(アイオフィス2.43),これらがタブ画面を用いて配置されたり(同3.0)しており,これらの点が原告ソフトと相違する結果,表示画面全体を見る者が受ける印象は,相当異なっている。
以上によれば,被告ソフトの表示画面をもって,原告ソフトの表示画面の複製ないし翻案ということはできない。
シ 「共有アドレス帳」におけるアドレス一覧画面
原告ソフト及び被告ソフトの「共有アドレス帳」アプリケーション(被告ソフトにおける名称は「共有アドレス」。以下,同じ。)のアドレス一覧画面においては,画面構成が大きく2つに分けられ,上段は検索,下段は情報表示にあてられること,上段においては,名前やふりがな等の検索対象を選択できるようになっており,単純な50音順の検索も可能であること,下段の情報表示部分は,縦軸に氏名等が,横軸に情報項目がとってあり,氏名はリンクになっていて,これをクリックすると直ちに情報編集画面に移動することなどが共通する。
しかしながら,被告ソフトにおいては,50音文字盤が表示されて上段の検索画面が大きな面積を占めているなど,表示部分の面積が原告ソフトよりかなり大きい上に,アイオフィス3.0においては,画面が複数レイアウトになって,中央部に情報表示画面が,上下と左に検索画面がそれぞれ配置されており,原告ソフトの画面上の配置と異なっている。また,「アドレス登録」「グループ編集」(アイオフィス2.43),「表示グループ」「検索条件」(アイオフィス3.0)など,原告ソフトにない機能ボタンが配置されているばかりか,黄土色のボードが上下に配されたり(アイオフィス2.43),全体に青色の背景色が付けられたり(同3.0)している。これらの相違点の結果,原告ソフトと被告ソフトの表示画面は,視覚上の差異が大きい。
これらによれば,上記の共通点は画面の機能上の発想ないしアイデアを同じくするにとどまるものであって,それにより表現の創作的特徴が共通すると認めることはできない。
したがって,被告ソフトの表示画面をもって,原告ソフトの表示画面の複製ないし翻案ということはできない。
ス 「共有アドレス帳」における新規アドレスの入力画面
原告ソフト及び被告ソフトの「共有アドレス帳」アプリケーションの新規アドレスの入力画面においては,「名前」「ふりがな」の必須入力項目の次に,入力項目として「Email」を配置したこと,それに続いて,概ね,電話,ファクス,会社名,役職,住所の順で入力項目を配置したことが共通している。
なるほど,「Email」を電話やファクスなどの通信手段に優位するものとして上位に配置したのは,現代的なニーズに応えたアイデアであるが,それ自体はあくまでアイデアにすぎず,現実に表現されたボックス形式の項目配列は,その順序を含めて,表現において創作性の認められるものではない。しかも,被告ソフトにおいては,入力項目がさらに多数で複雑化している上に,個人登録や共有登録とのリンクボタンが設けられていたり,グループの設定画面が存在するなど,原告ソフトとは画面構成が相当に異なっている。
これらによれば,上記の共通点は画面の機能上の発想ないしアイデアを同じくするにとどまるものであって,それにより表現の創作的特徴が共通すると認めることはできない。
したがって,被告ソフトの表示画面をもって,原告ソフトの表示画面の複製ないし翻案ということはできない。
セ 「共有アドレス帳」における設定メニュー画面
原告ソフト及び被告ソフトの「共有アドレス帳」アプリケーションの設定メニュー画面においては,「共有アドレス帳設定メニュー」という文字表示の下,CSVファイルからのアドレスの読み込み(インポート),同ファイルへのアドレスの書き出し(エクスポート)など,概ね機能を同じくする4つのメニューが文字表示されている点,また,設定メニュー画面である当該画面に1つの画面があてられている点が,共通する。
しかし,上記の共通点は,ソフトウェアの機能上の共通点であって,表現上の創作的特徴が共通するものではない。
したがって,被告ソフトの表示画面をもって,原告ソフトの表示画面の複製ないし翻案ということはできない。
ソ 共通設定メニュー
原告ソフトの共通設定メニュー画面においては,上位階層のメニュー画面の項目分類が,「共通設定メニュー」「スタート画面設定メニュー」及び「登録キーの設定」と大きく3分類されているのに対し,被告ソフトの当該画面においては,これに対応するかのように,「マスタメンテナンス」「スタート画面設定メニュー」及び「メンテナンスメニュー」と3分類されており,この点において両者は共通する。
しかし,上記の共通点は,ソフトウェアの機能上の共通点であって,表現上の創作的特徴が共通するものではない。
したがって,被告ソフトの表示画面をもって,原告ソフトの表示画面の複製ないし翻案ということはできない。
以上のとおり,原告が共通ないし類似と主張する点について,原告ソフトにおける表示画面と,それに対応する被告ソフトにおける表示画面とを対比しても,両者の間で表現上の創作的特徴が共通すると認めることはできない。したがって,被告ソフトにおける表示画面をもって原告ソフトにおける表示画面の複製ないし翻案ということはできない。
(3) 表示画面の選択・配列
ア 表示画面の階層化構造を図式化したサイトマップ等の証拠及び弁論の全趣旨に基づき,原告ソフトと被告ソフトの表示画面の選択・配列を,対比する。
これによれば,被告ソフトは,原告ソフトにないアプリケーションをも備えているものであって,それらのアプリケーションが付け加えられている結果,当該アプリケーションに属する表示画面との間での牽連関係をも含んでいる。すなわち,アイオフィス2.43の場合を例にあげると,原告ソフトにないアプリケーションとして,「WebMail」「タイムカード」「ワークフロー」「回覧板」「文書管理」「アクションリスト」「お弁当予約」が付加されている。これをソフトウェア全体のトップページとの牽連関係で見ると,ソフトウェア全体のトップページからこれらのアプリケーションのトップページ画面へのリンク及びこれらの各アプリケーションのトップページ画面からその下の階層に設けられている画面へのリンクは,いずれも原告ソフトには存在しないものである。
また,原告ソフトと被告ソフトに共通して存在する個別のアプリケーションに属する表示画面を比較した場合にも,被告ソフトは原告ソフトに存在しない表示画面を少なからず含んでいる上,原告ソフトと共通する表示画面相互の間においても,原告ソフトにはない牽連関係(リンク)が設けられている。すなわち,「スケジュール」アプリケーションを例にあげると,原告ソフトでは「グループ週間表示」画面が基本となっていて,ここから「スケジュールの入力画面」に移ってスケジュールを入力した後には,また「グループ週間表示」画面に戻らないと,他の画面に移行することができない。つまり,「スケジュールの入力画面」から選択できるリンク先としては,「グループ週間表示」画面に移行するほかは,ソフトウェア全体のトップページの画面に戻るだけなのである。また,「スケジュール」以外のアプリケーションの画面に移行するためには,いったんソフトウェア全体のトップページの画面に戻らなければならない。また,「グループ週間表示」画面以外の,「個人の日表示」画面や「個人の月間表示」画面については,その相互間でのリンクは設けられておらず,「グループ週間表示」画面にいったん戻らなければならない。これに対して,被告ソフトの「スケジュール」アプリケーションにおいては,「個人・一日」「個人・週間」「個人・月間」「グループ・一日」「グループ・週間」という5種類の表示画面が設けられているところ,それらの表示画面は,すべて相互に直接リンクされている。また,「グループ・週間」からスケジュール登録をした場合に,そこから「グループ・週間」画面に戻るほか,当該スケジュール登録を他のメンバーにメールで知らせたり,伝言機能で知らせるための画面に直接移ることもできる。
このように,被告ソフトにおいては,原告ソフトにないアプリケーションを備えていることから,それらのアプリケーションに属する表示画面が付加されており,これら付加された表示画面との牽連関係(リンク)も付加されている。また,個別のアプリケーションについても,原告ソフトにはない表示画面相互間における牽連関係(リンク)が設けられているなどの相違が存在する。これらの点に照らせば,被告ソフトにおける表示画面の選択・配列は,ソフトウェア全体においても,個別のアプリケーションにおいても,原告ソフトにおける表示画面の選択・配列とは,異なるものというべきであって,この点において既に,被告ソフトの表示画面の選択・配列が原告ソフトのそれの複製ないし翻案であるという原告の主張は,理由がない。
イ さらに加えて,以下に述べるとおり,原告ソフトのソフトウェア全体又は個別のアプリケーションにおいて原告が著作物性あるものと主張する表示画面の選択・配列については,いずれも著作物性を認めることができないので,いずれにしても,被告ソフトの表示画面の選択・配列が原告ソフトのそれの複製ないし翻案であるという原告の主張は,理由がない。
() 前記のとおり,被告ソフトにおいては,原告ソフトにないアプリケーションが備えられているものであるが,原告ソフトと被告ソフトにおいて共通するアプリケーション,すなわち,①スケジュール,②行き先案内板,③掲示板,④施設予約,⑤共有アドレス帳,⑥ToDoリストの各アプリケーション及び共通設定メニュー(ただし,被告ソフトにおいては異なる名称が付されているアプリケーションもある。)の範囲において見ると,ソフトウェア全体のトップページから直接リンクする1段階下の階層にこれらのアプリケーション等のトップページが設けられ,それぞれのアプリケーションの機能に応じて,①~⑦のトップページから更に下の階層の画面にリンクする点が共通する。
しかしながら,原告ソフトと被告ソフトがいずれもいわゆるグループウェアに属するビジネスソフトウェアである以上,これらのアプリケーション等を備えている点は当然のことであり,ソフトウェア全体のトップページからこれらのアプリケーション等のトップページにリンクすることも当然であって,別段特徴的なことではない。したがって,上記の点が共通するからといって,ソフトウェアとしての機能の類似性を認めることはできても,表示画面の選択ないし配列の創作的特徴が共通するということは到底できない。
この点につき,原告は,一覧性や直感性に優れた画面表示の追求,キーボード操作の可及的排除等の基本コンセプトを実現するため,原告ソフトにおいては,一画面一機能を原則とし,アプリケーションごとの移動を唯一つかさどるトップページを頂点に,各アプリケーションにおいては,各画面が情報の表示,情報の入力及び設定という各機能のいずれかに分類されることを原則とし,最上位に位置する全体のトップページからせいぜい2階層程度までの深さを前提として,各画面が機能的に選択・配置されているもので,この点に創作性が存在する旨を主張する。しかしながら,上記のコンセプトを実現するため,一画面一機能を原則とし,トップページを頂点にした2階層程度までの浅い階層構造を設けること自体はアイデアにすぎず,画面の階層化を2層程度の浅いものとした点についても,操作の簡便性・迅速性の観点で浅い階層構造がすぐれていることは,ウィンドウズOS等の下におけるファイル構築上の常識であり,各種ソフトウェアにおいて多用されていることであって,その点を採り上げて創作性ある配列ということはできない。
() 原告ソフト及び被告ソフトの「スケジュール」アプリケーションにおいては,トップページであるグループ週間表示画面から直接リンクする一段階下の階層に①個人月間表示,②グループの日表示,③個人の日表示,④スケジュールの確認,⑤スケジュールの入力画面及び⑥設定メニューの各画面が設けられ,⑥の設定画面からリンクする更に一段階下の階層に,⑦一般設定,⑧予約の設定及び⑨祝日の設定の各画面が設けられていて,アプリケーションのトップページから数えて3段階目の階層までに各画面が配置されていることが共通する。
しかしながら,オフィスのメンバー全員でスケジュールを共有し,一覧・入力することができることを目的とするアプリケーションであれば,グループ週間表示からリンクして上記①~⑥が設けられていて何ら不思議はないし,設定メニューの画面から,クリックによって上記⑦~⑨の各画面へリンクするというのも,よく見られる構成であって,特段珍しいものではない。
したがって,上記のような階層構造が共通していても,表示画面の選択・配列の創作的特徴が共通するということはできない。
() 原告ソフト及び被告ソフトの「行き先案内板」アプリケーションにおいては,トップページである行き先の一覧の画面からリンクする一段階下の階層に,①メモの登録,②メモの参照,③行き先の入力画面及び④設定の各画面が配置され,④の設定画面からリンクする更に一段階下の階層に⑤行き先メニューの設定画面が配置されている点が,共通する。
しかしながら,不在メンバーの所在を把握し,不在メンバーへの伝言を登録することができることを目的とするアプリケーションであれば,上記①~④が配列されているのは当然であるし,設定画面から,クリックによって上記⑤の画面へリンクするというのも,当然あり得る選択・配列である。
したがって,上記のような階層構造が共通していても,表示画面の選択・配列の創作的特徴が共通するということはできない。
() 原告ソフト及び被告ソフトの「施設予約」のアプリケーションにおいては,トップページである施設の週間予約状況の画面からリンクする一段階下の階層に,①新規予約の入力画面,②既存予約の確認画面,③施設の日の予約状況及び④設定の各画面が設けられ,④の画面からリンクする更に一段階下の階層に,⑤一般設定,⑥祝日の設定,⑦施設の設定及び⑧施設グループの設定の各画面が配置されている上,さらに,⑧の画面からリンクする更に一段階下の階層に,⑨施設の追加,⑩施設情報の修正及び⑪施設グループの削除の各画面が配置され,⑨の画面からリンクする更に一段階下の階層には,⑫施設グループの追加,⑬施設グループ情報の修正及び⑭施設グループの削除の各画面が配置されている点が,共通する。
しかしながら,上記の各画面は,会議室などの施設の利用に際して,他のメンバーと重複しないように予約できることを目的とするアプリケーションであれば,当然に備えられている画面であるし,上記の各階層構造も,例えば,表示すべき施設を設定したり,追加・削除したりする具体的作業の手順に照らし,当然に考えられる画面の選択・配列ということができる。
したがって,上記の共通点の存在によって,原告ソフト及び被告ソフトの表示画面の選択・配列の創作的特徴が共通するということはできない。
() 原告ソフト及び被告ソフトの「共有アドレス帳」アプリケーションにおいては,トップページであるアドレス一覧の画面からリンクする一段階下の階層に,①新規アドレスの入力,②検索,③アドレスの変更及び④設定の各画面が階層化し,②から③へのリンクを設けた上で,③の画面からリンクするその一段階下の階層に⑤アドレス削除の画面が,④の画面からリンクするその一段階下の階層に⑥「CVSファイル形式からの読み込み」及び⑦「CVSファイル形式からの書き出し」の各画面が配置されている点が共通する。
しかしながら,メンバー全員で共有できるアドレス情報を作成することを目的とするアプリケーションであれば,トップページから,新規アドレスの入力(上記①),アドレスの変更(同③)及び設定(同④)の機能をつかさどる各画面にリンクすることは,当然に考えられる構成であり,上記の点が共通するからといって,原告ソフト及び被告ソフトの表示画面の選択・配列の創作的特徴が共通すると認めることはできない。
() 原告ソフト及び被告ソフトの「ToDoリスト」アプリケーションにおいては,トップページである「ToDo一覧」画面からリンクする一段階下の階層に,①「ToDo個別アイテム」,ToDo登録」の各画面が設けられている点が,共通する。
しかしながら,やるべき仕事(「ToDo」)を備忘録的に記録し,表示するアプリケーションである以上,上記のような各画面が,上記のようなリンクをもって配列されていることに,創作性を認めることはできない。
したがって,上記の点が共通するからといって,表示画面の選択・配列の創作的特徴が共通すると認めることはできない。
() 原告ソフト及び被告ソフトにおいては,各アプリケーションを共通して,グループを構成するメンバーやユーザーに関する情報を設定し,変更する共通設定メニューにおいて,トップページからリンクする一段階下の階層に,①ログイン方法の変更,②会社情報の変更,③登録キーの設定,④スタートメニューの設定,⑤設定パスワードの登録,⑥リンクの設定,⑦グループの設定,⑧ユーザの設定の各画面が設けられ,⑥の画面からリンクするその一段階下の階層に,⑨追加する,⑩リンクの編集及び⑪リンクの削除の各画面が配置され,⑦の画面からリンクするその一段階下の階層に,⑫グループの追加,⑬グループの編集,⑭グループの削除及び⑮CVSでのグループインポートの各画面が,⑧の画面からリンクするその一段階下の階層に,⑯読み込み,⑰追加する,⑱ユーザの削除及び⑲ユーザの編集の各画面が,それぞれ配置されている点が共通する。
しかしながら,各アプリケーションを共通して情報の設定・変更等を行う共通設定メニューという機能に照らせば,トップページから上記①~⑧の画面にリンクしていても当然であるし,⑥の画面から⑨~⑪の各画面に,⑦の画面から⑫~⑮の各画面に,⑧の画面から⑯~⑲の各画面にそれぞれリンクすることも,⑥~⑧の各画面に与えられた機能の性質上,当然のことと考えられる。
したがって,上記の共通点があるからといって,表示画面の選択・配列の創作的特徴が共通すると認めることはできない。
(4) 小括
以上のとおり,原告ソフトの表示画面については,個々の表示画面をもって,創作性を有する思想・感情の表現として,著作物に該当すると認めることができるかどうかは検討すべき点があるが,その点をひとまずおくとしても,原告ソフトの表示画面と被告ソフトの対応する表示画面との間で共通する点は,いずれもソフトウェアの機能に伴う当然の構成か,あるいは従前の掲示板,システム手帳等や同種のソフトウェアにおいて見られるありふれた構成であり,両者の間にはソフトウェアの機能ないし利用者による操作の便宜等の観点からの発想の共通性を認め得る点はあるにしても,そこに見られる共通点から表現上の創作的特徴が共通することを認めることはできない。したがって,原告ソフトにおける個々の表示画面をそれぞれ著作物と認めることができるかどうかはともかく,いずれにしても,被告ソフトの表示画面をもって,原告ソフトの表示画面の複製ないし翻案に当たるということはできない。
また,原告は,原告ソフトにおける個々の表示画面のみならず,相互に牽連関係にある各表示画面の集合体としての全画面も全体として一つの著作物であると主張しているが,被告ソフトは,原告ソフトにないいくつかのアプリケーションを備えているほか,原告ソフトのアプリケーションに対応するアプリケーションを見ても,少なからぬ数の表示画面が付加され,これに対応する牽連関係(リンク)も存在するから,この点をもって,既に被告ソフトは,ソフトウェア全体においても,対応する個別のアプリケーションにおいても,原告ソフトと表示画面の選択と配列を異にするというべきである。さらに加えて,原告が指摘する,原告ソフトと被告ソフトとの間で表示画面とその牽連関係(配列)を共通とする部分を検討すると,それらの部分における表示画面の選択・配列に創作性を認めることができない。したがって,原告ソフトの全体又はこれに含まれる個別のアプリケーションに属する表示画面の選択及び牽連関係(配列)に,創作性を認めることができるかどうかはともかくとしても,被告ソフトにおける表示画面の選択・配列をもって,原告ソフトの複製ないし翻案ということはできない。
したがって,原告ソフトの著作権の侵害を理由とする原告の請求は,いずれも理由がない。
3 争点(2)(不正競争行為の成否)に対する判断
原告は,原告ソフトの画面表示は,他社のグループウェア製品と根本的に異なる特徴を備えたものであり,商品形態として,不正競争防止法2条1項1号にいう「商品等表示」に該当すると主張する。
コンピュータソフトウェアの表示画面,例えばトップページ,情報表示画面や入力画面等が他に例を見ない独特の構成であり,そのような表示画面の構成が特定の商品(ソフトウェア)に特有のものとして,需要者の間に広く認識されている場合には,当該表示画面が同号にいう「商品等表示」に該当することも,可能性としては否定することができない。しかしながら,ソフトウェアの表示画面は,通常は,需要者が当該商品を購入して使用する段階になって初めてこれを目にするものであり,また,ソフトウェアの機能に伴う必然的な画面の構成は「商品等表示」となり得ないものと解されるから,そのような事態は,ソフトウェア表示画面における機能に直接関連しない独自性のある構成につき,これを特定の商品(ソフトウェア)に特有のものである旨の大規模な広告宣伝がされたような例外的な場合にのみ,生じ得るものである。
本件における事実関係からは,「サイボウズオフィス」なる名称やそのロゴマークが原告ソフトの商品等表示として周知となっている可能性はないとはいえないものの,原告ソフトの個々の表示画面は,既に検討したとおり,グループウェアとしての機能に伴う構成の域を出ないものであり,また,表示画面自体が需要者の間に広く知られていると証拠上認めることもできない(原告ソフトの解説書が複数の出版社から出版されている程度の事情によっては,その表示画面の構成が「需要者の間に広く認識されている」とは,到底認めることができない。)。
以上のとおり,不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争行為を理由とする原告の請求は,理由がない。
4 争点(3)(不法行為の成否)に対する判断
本件において,原告は,仮に被告ソフトの製作・販売が原告ソフトの著作権の侵害ないし不正競争行為に該当しないとしても,被告の行為は民法上の一般不法行為責任(同法709条)に該当すると主張する。
しかしながら,一般に,市場における競争は本来自由であるべきことに照らせば,著作権侵害行為や不正競争行為に該当しないような行為については,当該行為が市場において利益を追求するという観点を離れて,殊更に相手方に損害を与えることのみを目的としてなされたような特段の事情が存在しない限り,民法上の一般不法行為を構成することもないというべきである。したがって,このような特段の事情の認められない本件において,ソフトウェアの表示画面の類似性等を理由とする原告の一般不法行為の主張は,採用することができない。
したがって,民法上の一般不法行為をいう原告の請求も,理由がない。
第5 結論
以上によれば,原告の請求は,いずれも理由がない。