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著作権判例セレクション
【過失責任】ウェブサイト購入者の過失責任
▶令和2年10月23日東京地方裁判所[令和2(ワ)1667]
(注) 本件は,原告が,被告の管理するウェブサイトに原告が撮影した写真が掲載され公衆送信権及び氏名表示権が侵害されたなどと主張して,被告に対し,不法行為に基づき,損害賠償金等の支払を求めた事案である。
なお、被告は,訴外Bから,本件各写真を含めて多数の写真が掲載されるなどしていたウェブサイト(「本件サイト」)の情報が記録されたサーバの利用権限やそのサイトのドメイン名の使用権等を255万円で購入し(「本件サイト売買」)。上記サーバの利用権限等の名義をBから被告に変更する手続を完了し,以降,被告が本件サイトを管理,運営している。
1 争点⑴(公衆送信権侵害)及び争点⑵(氏名表示権侵害)について
⑴ 本件各写真の著作物性
本件各写真は,別紙写真目録記載のとおりであり,結婚式場における新郎新婦及びその家族の姿(本件写真1)並びにテーブルコーディネート(本件写真2)を被写体とするものであり,その被写体につき構図や撮影角度,被写体との距離,シャッターチャンスの捕捉,被写体と光線との関係等について撮影者の個性・独自性が表れているといえ,「写真の著作物」(著作権法10条1項8号)に当たると認めることができ,原告は,本件各写真の著作権者といえる。
⑵ 原告の公衆送信権侵害及び氏名表示権侵害について
前記前提事実,証拠及び弁論の全趣旨によれば,①本件サイトには,平成27年5月15日頃までには本件各ページがあり,そこには本件各写真が掲載されて,インターネット上で公開されていたこと,②被告は,平成28年1月末頃,本件サイトの情報が記録されたサーバの利用権限等を購入し,遅くとも同年2月3日以降,本件各写真が掲載された本件各ページを管理,運営するようになったこと,③被告は上記管理,運営等に当たり本件各写真が著作権,著作者人格権を侵害していないかについて調査,確認をしなかったこと,④原告は,本件各ページを閲覧し本件各写真がインターネット上で公開されていることを把握し,平成30年12月5日頃,被告に対し,本件通知をしたこと,⑤被告は,令和2年2月17日,本件各ページから本件各写真を削除したが,それまでの間,本件各写真が掲載された本件各ページには,原告の氏名又は変名は記載されていなかったことを認めることができる。
これらの事実に照らせば,平成28年2月3日より前から,本件各写真は公衆からの求めに応じて自動的に公衆送信することができる状態であったと認められる。そして,被告は,同日以降,本件各ページを管理,運営していたところ,原告が本件各写真が本件各ページに掲載されていることを確認して平成30年12月5日頃に被告に本件通知をしていることに照らせば,遅くとも同日頃までには,被告は,公衆からの求めに応じて本件各写真を自動公衆送信したと推認するのが相当である。
以上によれば,平成28年2月3日より前に本件各写真を被告が送信可能化したとはいえないが,被告は,遅くとも平成30年12月5日頃までには原告の公衆送信権(著作権法23条1項)を侵害したと認めることができる。
また,被告は,本件各写真を原告の氏名又は変名を記載せずに本件各ページで公開しており,上記のとおり遅くとも同日頃までにはこれを公衆に提供したといえ,遅くとも同日頃までには原告の氏名表示権(著作権法19条1項)を侵害したと認めることができる。
5 以上によれば,被告は,原告の公衆送信権及び氏名表示権を侵害したといえる。
2 争点⑷(被告の故意又は過失)について
⑴ 証拠及び弁論の全趣旨によれば,本件サイトには本件各写真を含め多数の写真が掲載されており,これらの写真は,「写真の著作物」(著作権10 法10条1項8号)又はそれに該当し得るものであったと認めることができる。そして,被告は,本件各写真を含めた写真をインターネット上で公開する以上,その著作権又は著作者人格権を侵害していないことについて調査,確認する義務があったといえる。ところが被告は,本件各写真が著作権,著作者人格権を侵害していないかについて調査,確認をせずに本件各写真をインターネット上に公開して公衆送信等しており,被告には,少なくとも過失があったといえる。
⑵ 被告は,本件サイト売買を行ったウェブサイトには,「買い手は基本的に著作権に触れているかどうか把握することは難しい」,「一般的には損害賠償請求等は,サイトを売った人と著作権違反の警告を出した人の間で行われる」との記載があり,サイト売買の通例では買い手である被告には損害賠償の支払義務がなく,また,被告が本件サイトを購入した平成28年2月1日時点で,掲載されている画像は3万8000点以上にも及び,これらの著作権の有無を確認するのは実質的に不可能であり,被告には調査義務はないと主張する。
しかし,他人の写真を利用する場合にはその著作権又は著作者人格権を侵害する可能性があるから,被告は,本件各写真を公衆送信等する以上,前記の調査,確認をする義務があったといえる。被告が指摘する記載等がウェブサイトにあったことや本件サイトに多数の写真が掲載されていたことなど被告が指摘する事情によってこのことは左右されず,被告の上記主張は採用することはできない。なお,被告が本件サイト売買を行ったウェブサイトには,「サイト購入時,著作権には注意すること」,「サイトを購入する時あるいは売却する時もそうですが,著作権が問題となってトラブルになることがあります。使用されている文章や画像,イラスト,アイディアが他の人のマネをしていることがあります。」などと記載され,サイト売買の対象となるウェブサイトには著作権法上の問題があるものが含まれ得ることが明記されていた。
3 争点⑸(損害額)について
⑴ 公衆送信権侵害について
ア 証拠によれば,協同組合日本写真家ユニオン作成の使用料規程である本件規程は,同組合が管理の委託を受けた写真の著作物の利用にかかわる使用料を定めるものであり,一般利用目的(宣伝広告を目的とせず,記事と共に,事柄を説明するために写真の著作物を利用する場合)でウェブページの最初のページ以降のページに写真を掲載する使用料は,12か月以内で2万5000円,1年を超える場合の次年度以降の使用料は1年当たり1万円とされている。
原告は結婚式における写真撮影を業とするカメラマンであり,本件各写真は,原告が,依頼を受けて結婚式場において撮影したものであり,カメラマンである原告が業務により作成したものといえる。そうすると,原告が本件各写真の著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額(著作権法114条3項)の算定に当たっては,本件規程の内容を参酌するのが相当である。そして,本件規程の内容に加えて,被告が遅くとも平成30年12月5日頃までには本件各写真の原告の公衆送信権(著作権法23条1項)を侵害したこと,本件各写真は令和2年2月17日に本件各ページから削除されたことその他の本件各写真の使用態様等に鑑みれば,原告が本件各写真の公衆送信につき受けるべき金銭の額(著作権法114条3項)は,本件各写真1枚当たり4万円と認めるのが相当である。
イ この点について,原告は,①撮影した写真1枚当たり8万円で売却しており,本件のような長期間の無断使用はその4倍が相当であること,②本件規程の商用広告目的の写真の使用料が12か月以内で5万円であることを考慮して損害額を算定すべきであるなどと主張する。
しかしながら,「ご請求書」と題する甲6号証には,「広告写真使用料」として8万円と記載されているが,当該写真がどのような写真か明らかではない上に,この1件の利用許諾例の外に原告の写真の使用料を裏付ける証拠は見当たらないことなどからすれば,本件各写真の使用料が1枚当たり8万円であると認めることはできず,他に原告の上記①の主張を認める15 に足りる証拠はない。
また,本件規程の「商用広告目的」とは,「写真に写された物品等を宣伝するために広告として利用する場合」をいうとされている(本件規程の第3条)ところ,本件各写真は,結婚式に関係する文章が記載されるなどした本件各ページに掲載されたものであり,いずれも本件各写真に写された物品等を宣伝するために広告として本件各ページに掲載されたものとはいえず,本件各写真の使用は,上記「商用広告目的」には当たらず,原告の上記②の主張も採用することはできない。
したがって,原告の上記主張はいずれも採用することはできない。
ウ なお,原告は,被告の作為義務違反に基づき損害賠償を請求するが,本件全証拠によっても,当該請求に係る損害額が前記公衆送信権侵害に基づく損害賠償請求の損害額を超えるものとは認められない。
⑵ 氏名表示権侵害について
被告による氏名表示権侵害の態様やその他本件に現れた一切の事情を考慮すれば,氏名表示権侵害によって原告に生じた慰謝料としては4万円と認めるのが相当である。
⑶ 弁護士費用について
本件事案の性質・内容,本件訴訟に至る経過,本件審理の経過等諸般の事情に鑑みれば,被告の著作権侵害行為及び著作者人格権侵害行為と相当因果関係のある弁護士費用相当額の損害は,2万円と認めるのが相当である。
4 結論
以上によれば,原告の請求は,損害賠償金14万円及びこれに対する不法行為の後の日である令和2年2月15日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。