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著作権判例セレクション
【写真著作物】有名人のグラビア・ポートレートの著作物性及び侵害性を認めた(適法引用を認めなかった)事例
▶令和3年5月11日大阪地方裁判所[令和2(ワ)10932]
1 権利侵害の明白性
(1)
原告画像の著作物性及び著作権の帰属
ア 著作物性
原告画像は,別紙著作物目録の各画像のとおりであり,職業写真家である原告代表者が,男女の俳優,アイドル,タレント,モデル,ダンサー,アナウンサーといった,著名人に属する人達を被写体として撮影した,グラビア又はポートレートと呼ばれる写真である。
各画像それ自体,及び各画像とともに本件コーナーに掲載された各被写体の他の画像に照らすと,原告画像は,原告代表者が,被写体である人物の魅力等を引き出すために,被写体の構図やポージング,被写体と撮影者との距離,撮影角度,光線との関係及びシャッターチャンスの捕捉等を工夫して,撮影したものであると認められる。
したがって,原告画像は,原告代表者の思想又は感情を創作的に表現したものであって,写真の著作物に当たると認められる(著作権法2条1項1号,10条1項8号)。
イ 著作物の帰属
原告代表者は,原告画像を含む原告代表者が撮影した写真の著作権を原告に譲渡し,原告がこれを管理していると認められる。したがって,原告が原告画像の著作権者である。
(2)
著作権法32条1項の「引用」について
ア 認定事実
(略)
イ 検討
(ア) 著作権法32条1項の引用は,公表された他人の著作物を自己の作品の中に採録する行為であるが,自己の作品と他人の著作物との間に,報道,批評,研究その他の目的のためにこれを利用するとの関係が必要であり,このような意味での引用にあたる場合に,それが公正な慣行に合致するか,引用の目的上正当な範囲内で行われたものであるかを次に検討することになる。
(イ) 前提事実,上記認定事実及び弁論の全趣旨によれば,本件各記事は,本件各投稿者が各々に投稿したものであって,体裁も内容もそれぞれ異なるものであるが,主として掲載されているのは,原告各画像の被写体である俳優等のプロフィール,経歴,関係作品及びいわゆるゴシップといわれる話題等を含む同人らに関するエピソード等並びにそれらに対する本件各記事の作成者の推測や感想等を記載した文章と,その文章の冒頭や文章中において掲載された原告各画像を含む画像から構成される記事である。
上記認定事実によれば,本件各記事において,原告各画像は,相当程度の大きさで,画像(写真)の全部又は主要部分が掲載されており,その結果,各被写体の写真として鑑賞することができる状態が維持されたまま掲載されているといえる。他方,上記認定事実で検討したとおり,本件各記事の中に,原告各画像を参照して何かを説明したり,原告各画像について論評したり,本件コーナーの記事内容を論評するために,原告各画像に言及するといった記載は一切存在しない。
また,本件各記事は,本件記事19,同20及び同25を除き,原告各画像の出典や,本件各投稿者以外の者によって撮影されたものである事実が明示されていたとは認められないし,本件記事19及び20についても,原告各画像の出典元の記載としては不正確なものであり,本件記事25は,第三者が作成したものを転載したため偶然原告代表者が撮影者であることが掲載されたものに過ぎない。
本件各記事と原告各画像との関係について検討するに,上記認定のとおり,本件各記事において,原告各画像を参照したり,これに言及したりするということがなされていないことから,本件各記事との関係で,原告各画像を利用する何らかの目的があったと認めることはできないし,俳優等の著名人の写真を掲載するにあたり,パブリックドメインに属する写真や本件各投稿者において許諾を取得し得る写真ではなく,原告各画像を掲載しなければならなかったとする事情のようなものも認められない。結局のところ,本件各投稿者は,本件各サイトを閲覧する者を増やす目的で,原告各画像と本件各記事とを共に展示しているにすぎず,何らかの目的で本件各記事の中に原告各画像を採録し,利用するといった関係は存在しないから,本件各記事における原告各画像の利用は,そもそも引用にはあらたないというべきであり,公正な慣行に合致するか否か,その目的上正当な範囲内で行われたか否かを20 論じる必要はないことになる。
(ウ) 以上を総合すると,本件各記事における原告各画像の利用は,引用の法理(著作権法32条1項)により適法とされる場合には当たらない。
ウ 被告の主張について
被告は,本件各投稿者が,読者の理解を助ける目的で,かつ本件各記事の内容に適したものとして原告各画像を利用したものであり,同記事との関連性及びバランスなどに照らしても,公正な慣行に合致し,正当な範囲内での利用と評価することができ,また,原告各画像に著作権保護の表示等が施されておらず,広く公開されていることも原告各画像の利用が「引用」に該当することを基礎づける事情に当たる旨を主張している。
しかし,前記検討したとおり,本件各記事における原告各画像の掲載を,適法な引用ということはできず,単に複製したに過ぎないというべきであるし,原告各画像に著作権表示がなく,広く公開されているからといって,これを複製することが引用として許容されるものでもない。
(3)
小括
以上によれば,本件各記事における原告各画像の利用は,適法な引用に該当せず,本件各投稿により,原告の原告画像に対する著作権(複製権及び公衆送信権)が侵害されたことは明らかであると認められる。