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著作権判例セレクション
【写真著作物】世界遺産の寺院を被写体とした写真の著作物性及び侵害性を認定した事例
▶令和2年12月23日東京地方裁判所[令和2(ワ)24035]
1 請求原因アについて
証拠及び弁論の全趣旨によれば,本件写真は,原告が,天候の良好な平成23年3月2日の日中に,インドの世界遺産であるエローラ石窟群のカイラーサ寺院を被写体として選択し,日陰となる箇所が極力少なくなるように配慮しつつ,同寺院の正面を斜め上方から,同寺院の主要な建物を中心に据え,その全体がおおむね収まるように撮影したものであることが認められる。
そうすると,本件写真は,原告が撮影時期及び時間帯,撮影時の天候,撮影場所等の条件を選択し,被写体の選択及び配置,構図並びに撮影方法を工夫し,シャッターチャンスを捉えて撮影したものであるから,原告の個性が表現されたものということができる。したがって,本件写真は原告の思想又は感情を創作的に表現した「著作物」(著作権法2条1項1号)に該当し,本件写真を創作した原告は「著作者」(同項2号)に該当するので,本件写真に係る著作権及び著作者人格権を有する。
よって,請求原因アが認められる。
2 請求原因イについて
(1)
証拠及び弁論の全趣旨によれば,被告は,平成27年6月29日,別紙3URL目録記載①のURLの画像ファイルとして,本件画像のデータをサーバーに保存し,自らが管理運営する本件サイト内の上記URL並びに同目録記載②及び③の各URLに係るウェブページにおいて,原告の氏名を著作者名として表示することなく本件画像を掲載したことが認められる。
したがって,被告は,本件写真を有形的に再製し,原告の氏名を著作者名として表示することなく,本件写真について,公衆によって直接受信されることを目的として無線通信又は有線電気通信の送信を行ったということができるから,被告は,本件写真に係る原告の著作権(複製権,自動公衆送信権)及び著作者人格権(氏名表示権)を侵害したと認められる。
(2)
証拠及び弁論の全趣旨によれば,原告は,平成23年3月頃,写真投稿サイト「flickr」に,自らの氏名を著作者名として表示して,本件写真を掲載したことが認められる。他方で,著作者の許諾なく本件写真を利用することができると被告が考えたことについて正当な理由が存在したことを認めるに足りる証拠はなく,かえって,証拠によれば,原告が本件写真を投稿した「flickr」上のウェブページには,「Some
rights reserved」(一部権利留保)と明記されているのであるから,同ウェブページ上で本件写真を閲覧した者は,通常,本件写真を著作者の許諾なく利用することができないと理解するものと認められる。
したがって,被告が本件画像を掲載するに当たり原告の氏名を著作者名として表示し得なかったとは認められず,被告が本件サイト内で原告の氏名を著作者名として表示することなく本件画像を掲載したことについて,被告には少なくとも過失があったと認めるのが相当である。
(3)
これに対し,被告は,非営利公益目的をもって,かなり低い画質で,英語及び日本語の説明文を付して公正に本件画像を利用したにすぎないから,本件写真に係る原告の著作権及び著作者人格権を侵害していないと主張する。
しかし,証拠及び弁論の全趣旨によれば,本件サイトは,飲食店業等を目的とする会社である被告が管理運営し,冒頭に被告の商号が大きく表記されたものであり,本件サイトのドメイン名にも被告の商号が使用されている上,本件サイトにおいて,「カフェと印度家庭料理レカ」,「印度グリル&スポーツバー「レカ」タンドゥル料理とライブスポーツ」等の店舗の名称,住所等が掲載されていることが認められる。これによれば,本件サイトは被告の上記事業のために利用されていたと推認することができ,被告がこのような本件サイト内に本件画像を掲載したのも,営利行為である上記事業のためであったと認めるのが相当であり,この認定を覆すに足りる証拠はない。
また,本件写真(別紙1)と本件画像(別紙2)を比較すれば,本件画像に接する者が,本件写真の本質的な特徴(前記1)を直接感得できることは明らかであり,本件において,著作権法30条以下で定める著作権の制限規定のいずれかに該当することをうかがわせる証拠はない。
したがって,被告の上記主張を採用することはできない。
(4)
以上によれば,請求原因イが認められる。
3 請求原因ウについて
被告が,令和2年5月28日,原告から本件画像の削除及び損害賠償の支払を求める旨の内容証明郵便を受領し,その後,本件サイト内での本件画像の掲載を中止したことは,当事者間に争いがない。
他方,証拠及び弁論の全趣旨によれば,被告は,少なくとも平成27年6月29日から令和2年5月頃までの約5年間,本件サイト内に本件画像を掲載したこと,被告は,原告から上記内容証明郵便を受領した後,上記内容証明郵便には原告訴訟代理人の連絡先が記載されていたにもかかわらず,現在に至るまで,原告訴訟代理人に対して何ら連絡をとっていないことが認められる。
この点,被告は,今後,本件サイトに本件画像を再掲載するつもりはないと主張するが,本件写真の画像データをパソコンから完全に削除するなど,被告が本件サイトに本件画像を再掲載することが困難であることを認めるに足りる証拠はなく,他に被告の上記主張を裏付ける事情を認めるに足りる証拠もない。
以上のように,被告による侵害行為は長期間に及んでいること及び被告が再び本件写真を使用するのが困難であるとは認められないことに加え,本件において被告が著作権の侵害を争っていることを合わせ考慮すれば,被告が本件写真に係る原告の著作権を「侵害するおそれ」(著作権法112条1項)が認められるというべきである。
よって,請求原因ウが認められる。
4 請求原因エについて
(1)
前記2(3),3のとおり,本件画像は,飲食店業等を目的とする会社である被告がその事業のために本件サイトに掲載したものであり,本件画像の掲載期間は,約5年に及ぶ。また,証拠によれば,原告は,自身の写真のライセンスに当たっては,通常,「fotoQuote」の料金表を使用していること,同料金表によれば,世界市場のウェブ広告にハーフページ(300×600ピクセル)の大きさの写真を5年間使用させる内容のライセンス料は,地域をアジアに限定しても,1989米ドルを下らないこと,令和2年8月20日(本件の訴え提起の前日)時点における米ドル・円相場の仲値が1ドル106.10円であることが認められる。さらに,証拠によれば,本件画像は,400×300ピクセルの大きさで使用されていたことが認められる。そうすると,本件写真を営利目的で使用する場合,原告は,21万1032円でその利用を許諾することとしていたものと認められ,この認定を覆すに足りる証拠はない。
以上に加え,本件に現れた一切の事情を考慮すると,本件写真に係る原告の著作権(複製権,自動公衆送信権)の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額(著作権法114条3項)は,21万1032円と認めるのが相当である。
また,上記の諸事情に鑑みれば,本件写真に係る原告の著作者人格権(氏5 名表示権)が侵害されたことにより原告が被った精神的苦痛に対する慰謝料は5万円,弁護士費用相当額の損害は5万円とそれぞれ認めるのが相当である。
(2)
これに対し,被告は,原告が損害の算定根拠とする「fotoQuote」の料金表は,あくまで営利目的の広告等として写真が使用された場合に適用されるものであり,被告は非営利公益目的で本件写真を使用したものであるから,これを算定根拠とすることはできないと主張する。
しかし,前記2(3)のとおり,本件画像は,飲食店業等を目的とする会社である被告がその事業のために本件サイトに掲載したものであり,被告が本件画像を利用したのは営利目的であったというべきであるから,被告の上記主張は前提を欠く。
したがって,被告の上記主張を採用することはできない。
(3)
以上によれば,請求原因エが認められる。
第4 結論
以上のとおり,被告は,少なくとも過失により,本件サイト内で本件画像を掲載したことによって,本件写真に係る原告の著作権(複製権,自動公衆送信権)及び著作者人格権(氏名表示権)を侵害し,原告に合計31万1032円の損害を与えたので,不法行為に基づく損害賠償として,同額及びこれに対する上記掲載日である平成27年6月29日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める原告の請求は理由がある。また,被告が本件写真に係る原告の著作権を侵害するおそれがあるといえるので,著作権法112条1項に基づき,被告に対して本件写真を複製し,自動公衆送信し,又は送信可能化することの差止めを求める原告の請求も理由がある。