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著作権判例セレクション

【引用】適法引用を認めた事例(動画から画像の切り出しが問題となった事例)
▶令和6827日東京地方裁判所[令和5()70648]▶令和7219日知的財産高等裁判所[令和6()10070]
()原告は、被告の運営するX(インターネットを利用してメッセージ等を投稿することができる情報ネットワークに係るサービスであり、変更前の名称は「ツイッター」であった。以下、名称変更の前後を問わず「本件サービス」という。)において氏名不詳者(「本件氏名不詳者」)が行った投稿(「本件投稿」)により、別紙記載の動画(「本件動画」)に係る原告の著作権(複製権及び公衆送信権)及び著作者人格権(氏名表示権)並びに本件動画に録画された実演に係る原告の実演家人格権(氏名表示権)が侵害されたことは明らかであり、本件氏名不詳者に対する不法行為に基づく損害賠償請求権等を行使するため、被告が保有する別紙記載の各情報(「本件発信者情報」)の開示を受けるべき正当な理由があるとして、プロバイダ責任制限法5条1項及び8条に基づき、本件発信者情報の開示を求める発信者情報開示命令の申立てをした。
本件は、原告が、上記申立てを却下した決定(「原決定」)に不服があるとして、プロバイダ責任制限法14条1項に基づき、原決定の取消しを求める事案である。

2 前提事実
(1) 当事者
ア 原告は、医師であり、美容皮膚科・美容外科の「Bⅰ」(Bⅱ)恵比寿院(以下「原告クリニック」という。)の院長を務めている。
原告は、映画の著作物である本件動画の著作者及び著作権者並びに本件動画に録画された実演に係る実演家である。
()
原告は、原告自身による患者に対する術前カウンセリング、施術、術後の様子、術後の経過等を撮影し、これを一連のストーリー仕立てにした本件動画を作成した。
原告は、原告が開設する「Aⅰ/医師「美容皮膚科」」と題するYouTu5 beチャンネル(以下「原告チャンネル」という。)において、本件動画を公開した。
(3) 本件氏名不詳者による投稿
本件氏名不詳者は、原告チャンネルにおいて公開されていた本件動画から画像3枚を切り出したところ、これらの画像の左上隅には、上段に「Aⅱ」、下段に「Aⅰ」との2段の表示(以下「本件表示」という。)が付されていた。
本件氏名不詳者は、本件サービスにおいて、これらの画像と共に別紙載の内容の記事(「本件記事」)を投稿(本件投稿)した。
本件投稿により、上記各画像が本件記事の一部として別紙画像のとおりに表示されるようになったが、それらの画像のうち、右側に表示される画像2枚(バッカルファット除去施術の様子を撮影したもの。以下「本件他の画像」という。)は、これを閲覧する者において、本件表示が付されている様子を見ることができるようになっているものの、左側に表示される画像(ヒアルロン酸注入施術の様子を撮影したもの。)は、本件サービスの仕様である機械的な処理により、左部及び右部がトリミング(切除)された形となっているため、本件表示を見ることができなくなっている(以下、左部及び右部がトリミングされた形で表示された画像を「本件画像」という。)。
なお、本件投稿を閲覧する者は、本件画像をクリックすることにより、左部及び右部がトリミングされる前の元の画像(以下「本件元画像」という。)を閲覧することができる。
1 争点1(原告の「権利が侵害されたことが明らかである」(プロバイダ責任制限法5条1項1号)かエラー! 参照元が見つかりません。)について(1) 本件動画に係る原告の著作権(複製権及び公衆送信権)が侵害されたことが明らかであるかについて
ア 本件投稿が本件動画を複製及び公衆送信するものであるかについて
著作権法が、著作物について、思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう(著作権法2条1項1号)と規定し、複製について、印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製することをいう(同項15号)と規定していることからすると、同法21条の著作物の複製とは、当該著作物に依拠して、その創作的表現を有形的に再製する行為をいうものと解される。
そして、創作的表現が有形的に再製されたといえるためには、これに接する者が上記の著作物の表現上の本質的特徴を直接感得できることが必要である。
これを本件についてみると、本件元画像並びにその左部及び右部がトリミングされた形で表示される本件画像は、本件動画の一場面を切り出したものであるから、本件動画に依拠したものであると認められる。また、本件元画像及び本件画像と本件動画とを対比すると、本件元画像及び本件画像から本件動画の表現上の本質的特徴を直接感得できることは明らかである。
さらに、本件投稿により、本件動画の表現上の本質的特徴を直接感得できる本件元画像及び本件画像は、インターネットを通じて、本件記事にアクセスした不特定又は多数の者に閲覧できる状態になったことが認められる。
したがって、本件投稿は、本件動画を複製及び公衆送信するものと認められる。
イ 本件元画像及び本件画像の利用が適法な引用に当たらないと認められるかについて
() 総論
20 プロバイダ責任制限法5条1項1号所定の「権利が侵害されたことが明らか」とは、違法性を阻却する事由の存在をうかがわせるような事情が存在しないことまでを意味するものと解される。本件においては、この違法性阻却事由として、被告により、著作権法32条1項所定の適法な引用該当性が指摘されているところ、本件記事における本件元画像並びにその左部及び右部がトリミングされた形で表示される本件画像の利用がこれに当たらないと認められなければ、「権利が侵害されたことが明らかである」とはいえないことになる。
そして、同項所定の適法な引用といえるためには、①引用された著作物が公表されたものであること、②公正な慣行に合致したものであるこ5 と、③報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われたものであることが必要であるから、以下、当該各要件について、順次検討する。
() ①引用された著作物が公表されたものであることについて
前提事実のとおり、本件元画像及び本件画像は、原告チャンネルにおいて公開されていた本件動画から切り出されたものであるから、公表されたものでないとは認められない。
() ②公正な慣行に合致したものであることについて
a 原告は、SNSにおいてインターネット上に公開されている著作物を引用するに当たり、これが著作権法32条1項所定の公正な慣行に合致したものというためには、少なくとも当該著作物に係るURLを明示して出所を表示することが必要であると主張する。
しかし、原告が主張する方法により出所を表示することがSNSにおいてインターネット上に公開されている著作物を引用するに当たっての公正な慣行であると認めるに足りる証拠はないから、原告の上記主張は前提を欠くものである。
b 仮に、引用する著作物の出所を表示することが公正な慣行に合致したものであると判断される上での重要な要素になるとしても、本件投稿においては、本件記事の本文に施術「の様子を YouTube にアップ。」と記載されると共に、本件元画像及び本件他の画像の合計3枚の画像が一体のものとして投稿されている一方、本件元画像の左部及び右部がトリミングされた形で表示される本件画像が本件他の画像とは異なる動画から切り出されたものであることをうかがわせる記載等がないと認められることからすると、本件記事を閲覧した者は、これらの画像はいずれもYouTubeにアップロードされた一つの動画から切り出されたものと理解するのが通常というべきである。そして、本件他の画像には原告の氏名を含む本件表示が付されている上、「バッカルファット除去」と施術の名称が記載されていると認められること、本件記事の本文に「Bⅲ」と記載されていることにかんがみれば、本件投稿を閲覧した者は、原告チャンネル、ひいては原告チャンネルにおいて公開されている本件動画を特定することが十分に可能と考えられるから、本件投稿に当たり、本件元画像及び本件画像の出所が表示されていないと断ずることもできない。
c 以上によれば、本件投稿における本件元画像及び本件画像の利用が、公正な慣行に合致したものでないとは認められない。
() ③報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われたものであることについて
前提事実により認められる本件記事の本文の内容に照らせば、本件氏名不詳者は、本件記事において、本件動画の中で原告がバッカルファット除去及びヒアルロン酸注入の各施術を行う際に帽子を着用していないことを指摘していると認められるから、これは原告の施術を批評するものといえる。
そして、本件記事を閲覧する者に対し、上記指摘に係る事実が存在することを示し、当該指摘の当否を検討してもらうためには、本件動画のうち、そのような場面を示す画像を示すのが簡便かつ確実であるといえるから、本件記事に本件元画像を添付する必要がないとは認められない。
そして、本件動画は長さが約8分に及ぶものであるところ、本件記事において利用された本件元画像並びにその左部及び右部がトリミングされた形で表示される本件画像は、まさにヒアルロン酸注入施術に係るもので、かつ、1画像にとどまるから、利用した画像の数量やその態様が相当でないとも認められない。
このほか、本件証拠上、本件投稿が、人身攻撃に及ぶとか、殊更に原告及び原告クリニックの営業を妨害するなど、正当な批評の域を逸脱しているものと認めることもできないことを考慮すると、本件投稿における本件元画像の利用が、引用の目的上正当な範囲内で行われたものでないとは認められないというべきである。
() まとめ
したがって、本件投稿における本件元画像及び本件画像の利用が、著作権法32条1項所定の適法な引用に当たらないと認めることはできない。
ウ 小括
以上によれば、本件投稿により、本件動画に係る原告の著作権(複製権及び公衆送信権)が侵害されたことが明らかであるとはいえない。
(2) 本件動画に係る原告の著作者人格権(氏名表示権)及び本件動画に録画された実演に係る原告の実演家人格権(氏名表示権)が侵害されたことが明らかであるかについて
ア 前提事実のとおり、本件元画像の左上隅には本件表示が付されていたものの、本件サービスの機械的な処理により、本件画像は、左部及び右部がトリミングされた形となっており、これを閲覧する者において、直ちに本件表示を見ることができなくなっている。
イ そこで、前記アの事実をもって本件動画に係る原告の著作者人格権(氏名表示権)及び本件動画に録画された実演に係る原告の実演家人格権(氏名表示権)が侵害されたといえるか否かについて検討する。
まず、著作権法19条1項は、「著作権者は、…その著作物の公衆への提供」又は「提示に際し、その実名…を著作者名として表示…する権利を有する」と規定しているものの、同法は、その具体的な態様について、特段規定していない。実演家の氏名表示権についても同様である(同法90条5 の2参照)。
前記のとおり、前提事実によれば、本件投稿においては、本件記事に、施術「の様子を YouTube にアップ。」と記載されると共に、本件画像及び本件他の画像の合計3枚の画像が一体として投稿されている一方、本件画像が本件他の画像とは異なる動画から切り出されたものであることをうかがわせる記載等がないことが認められる。
そうすると、本件記事を閲覧した者は、本件画像及び本件他の画像の合計3枚の画像は、いずれもYouTubeにアップロードされた一つの動画から切り出されたものと理解するのが通常であるといえる。そして、前提事実のとおり、本件他の画像には、原告の氏名を表す本件表示がされている。
以上のとおり、著作権法は、著作物を公衆へ提供又は提示する際の氏名表示の具体的な態様について特段規定していないところ、一体として投稿された本件画像及び本件他の画像は、いずれも一つの動画から切り出されたものと理解されるのが通常であって、かつ、本件他の画像には、原告の氏名を表す本件表示がされているから、前記アの事実をもって、本件画像について著作者名及び実演家名である原告の氏名が表示されていないと認めることはできないというべきである。
ウ したがって、本件投稿により、本件動画に係る原告の著作者人格権(氏名表示権)及びその実演に係る実演家人格権(氏名表示権)が侵害されたとは認められない。
2 小括
以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、本件発信者情報の開示を求める原告の申立ては理由がないというべきである。
第4 結論
よって、原告の申立てを却下した原決定は相当であるから、これを認可することとして、主文のとおり判決する。

[控訴審]
1 当裁判所も、争点1(控訴人の「権利が侵害されたことが明らかである(法5条1項1号)」か)について、①本件投稿における本件元画像及び本件画像の利用が、著作権法32条1項所定の適法な引用に当たらないと認めることができず、本件動画に係る控訴人の著作権(複製権及び公衆送信権)が侵害されたことが明らかであるとはいえないし、また、②本件投稿により、本件画像について著作者名及び実演家名である控訴人の氏名が表示されていないと認めることはできず、本件動画に係る控訴人の著作者人格権(氏名表示権)及びその実演に係る実演家人格権(氏名表示権)が侵害されたとは認められないから、本件控訴は理由がなく、控訴を棄却すべきと判断する。その理由は原判決の「事実及び理由」の第3の1及び2記載のとおりであるからこれを引用する。
5 2 控訴人の当審における補充主張について
(1) 控訴人は、本件投稿では、バッカルファット除去手術との関係でのみ「その様子をYouTubeにアップ」と記載されていること、本件画像と本件他の画像が異なる手術等の写真であって別の動画から切り出されたとの推認が働くことから、閲覧者が原告チャンネルにたどり着くことは困難であることや、仮に閲覧者が原告チャンネルにたどり着くことができたとしても、原告チャンネルにおいて、「ヒアルロン酸」や「ヒアルロン酸注入」と「バッカルファット除去」をそれぞれ検索すると、複数の動画が検索にヒットするため、本件動画を検索することは極めて困難であることをもって、本件投稿においては、本件画像の出所が一義的に特定されていないことから、本件投稿による本件画像の引用は公正な慣行に合致したものとはいえない旨を主張する。
しかしながら、証拠によると、本件投稿においては、本文に「バッカル除去手術でも帽子は被らない。その様子をYouTubeにアップ。ヒアルロン酸はもちろん髪の毛を垂らしたまま施術を行う」と記載されるとともに、本件画像1枚と本件他の画像2枚が接する形で合わせて投稿されている。このうち、本件他の画像は、バッカルファット除去との表示が付され、同除去施術の様子を示す一方、本件画像は、ヒアルロン酸注入施術の施術中の様子であると見て違和感のないものである。加えて、本件元画像の左部及び右部がトリミングされた形で表示される本件画像が本件他の画像とは異なる動画から切り出されたものであることをうかがわせる記載等がない。
以上によると、本件投稿を閲覧した者は、本件記事の本文の記載と併せ読むことにより、これらの画像のいずれも、施術者が一連の施術を行っていることを示すものとして、YouTubeにアップロードされた一つの動画から切り出されたものと理解するのが通常であるといえるから、控訴人の上記主張のうち、本件画像と本件他の画像が異なる手術等の写真であって別の動画から切り出されたという推認が働くとの主張は採用できない。
また、証拠によると、原告チャンネルにおいて動画タイトルに「ヒアルロン酸」及び「バッカルファット」の文言が両方含まれている動画を特定することができることからすると、控訴人の上記主張のうち、本件動画を検索することが極めて困難であるとの主張も採用できない。
(2) 控訴人は、原判決が、一体として投稿された本件画像及び本件他の画像は、いずれも一つの動画から切り出されたものと理解されるのが通常などと判断したことにつき、このような経験則が成り立つとする根拠が全く不明である等と主張する。
しかしながら、一体として投稿された本件画像及び本件他の画像は、いずれも一つの動画から切り出されたものと理解するのが通常であることは上記(1)に説示したとおりであるから、控訴人の上記主張は理由がない。
3 結論
以上のとおり、控訴人の請求は理由がなく、原決定を認可した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。