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著作権判例セレクション
【共同著作】SM写真の著作物性を認めた事例/モデルと撮影者の共同著作者性を認定した事例/SMモデルのプライバシー権及び自己の容ぼう等をみだりに公表されない人格的利益の侵害を認定した事例
▶平成30年9月27日東京地方裁判所[ 平成29(ワ)41277]
(注) 本件は,原告が,被告において原告が被写体となっている写真1点(「本件写真」)を原告に無断で複製してインターネット上の短文投稿サイトTwitter(「ツイッター」)上にアップロードした行為が,原告の当該写真に係る著作権(複製権及び公衆送信権),肖像権及びプライバシー権を侵害すると主張して,被告に対し,不法行為に基づく損害賠償金等の支払を求めた事案である。
1 争点(1)(著作権侵害の成否)について
(1)
前記前提事実のとおり,本件写真は,民家風の建物の畳敷きの室内において,鞭を持って座っている男性の正面に,女性が縄で緊縛された状態で柱に吊るされている状況が撮影されたものであるところ,被写体の選択・組合せ・配置,構図・カメラアングルの設定,被写体と光線との関係,陰影の付け方,部分の強調,背景等の総合的な表現に撮影者等の個性が表れており,創作性が認められ,著作物に当たる。
(2)
証拠及び弁論の全趣旨によれば,本件写真は,平成25年6月21日,被写体となっている原告と訴外Cが共同して創作したこと,及び同日,訴外Cが自己の著作権(著作権法27条及び28条に規定する権利を含む。)を原告に譲渡したことが認められる。
(3)
前記前提事実のとおり,被告は,訴外Cのツイッター上に掲載されていた本件写真を複製し,平成29年10月27日,本件写真を自己のツイッター上にアップロードした(本件被告行為)ものであるから,被告は,本件被告行為により,原告の本件写真に係る著作権(複製権及び公衆送信権)を侵害したものと認められる。
(4)
被告の主張について
ア 被告は,本件写真は,原告及び訴外Cのツイッターアカウント「J」(旧H)において公開している写真である旨,被告による転用はツイッター上のみのことであり,ツイッター本来の使用目的に照らし正当なものである旨を主張する。
しかしながら,本件写真がツイッター上で公開されているものであること,また,転用(転載の趣旨と思われる。)がツイッター上のみであることは,何ら著作権侵害を否定する理由とはならない。
イ また,被告は,本件被告行為当時の著作権者からの請求ではなく,事後に権利譲渡されたことによる請求は認めることができない旨主張する。
しかしながら,前記(2)のとおり,原告は,本件写真の共同著作者であり,かつ,本件写真が撮影された平成25年6月21日に,他の共同著作者である訴外Cから本件写真の著作権の譲渡を受けたものと認められるため,本件被告行為当時,原告は本件写真について単独で著作権を有していたものと認められるから,原告の上記主張は採用できない。
2 争点(2)(プライバシー権侵害の成否)及び争点(3)(肖像権侵害の成否)について
(1)
前記前提事実のとおり,本件写真は,鞭を持って座っている男性の正面に,女性である原告が縄で緊縛された状態で柱に吊るされている状況を撮影したものであり,被写体の女性においては,その内容に照らし,一般人の感受性を基準にして公開を欲しないものといえるから,このような写真を本人の許諾なく公開することはプライバシー権を侵害し得るものである。
(2)
もっとも,本件写真のみからは被写体の向き等により被写体の女性が原告であると同定することはできない(被告もこの点を前提に,自らが原告を特定する言動をしていないことによりプライバシー権侵害が成立しない旨を主張するようである。)。しかし,前記前提事実及び証拠によれば,原告と被告は,ツイッター上で知り合い,オフ会として開催された仲間内の飲み会で面識を持っていたこと,原告のツイッターのプロフィール画像には平成29年9月頃まで1年以上にわたり原告の写真が使用されていたことが認められ,これらの事実からすれば,原告及び被告のツイッター仲間は,アカウント名「D」が原告,アカウント名「F」が被告であることを認識していたものと認められる。そして,証拠によれば,本件写真がアップロードされた被告のツイッター上には,本件被告行為以前,原告のツイートや原告を擁護する第三者(アカウント名「K」)のツイートが引用され,これに対する被告のコメントがツイートされており,また,被告のツイート中に原告のアカウント名「D」が記載されていることが認められるから,当該一連のツイートを見た原告のツイッター仲間等は,当該一連のツイートが原告について書かれたものであると認識することができるものと認められる。そうすると,アカウント名「D」が原告であると知る者においては,被告のツイッター上に掲載された本件写真の被写体の女性が原告であると同定することは可能であると認められる。
(3)
また,前記前提事実のとおり,本件被告行為当時,本件写真は,訴外Cのツイッター上に掲載され,既に公開されていたものである(被告はこの点もプライバシー権侵害を否定する理由として主張するようである。)。しかし,前記前提事実及び証拠によれば,訴外Cのツイッターをフォローしている者と,被告のツイッターをフォローしている者は異なること,訴外Cのツイッター上では本件写真の被写体の女性は源氏名で表記され原告であることは公表されていなかったこと,被写体の女性が原告であると気づいた者は原告の認識する限りいなかったこと,以上の事実が認められる。これらの事実からすると,本件写真の被写体の女性が原告であることは未だ社会に知られていなかった事実といえるところ,前記(2)のとおり,本件被告行為によって初めて被写体の女性が原告であるとの同定が可能となり,同事実が公にされるに至ったものと認められる。
(4)
以上からすれば,本件被告行為により原告のプライバシー権が侵害されたものと認められる。
さらに,肖像権と呼ぶかは別として,人は,自己の容ぼう,姿態を撮影された写真をみだりに公表されない人格的利益を有すると解される(最高裁平成17年11月10日第一小法廷判決参照)ところ,本件写真は,原告の姿態が撮影されたものであり,前記(1)のとおり,被写体の女性において,その内容に照らして公開を欲しないものというべきであり,また,前記(2)のとおり,被写体の女性が原告であるとの同定も可能であるから,原告の意に反してこれをツイッター上にアップロードすること(本件被告行為)は,原告の上記人格的利益を違法に侵害するものと認められる。
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3 争点(4)(故意・過失の有無)について
前記2のとおり,被告は,自己のツイッター上に本件写真をアップロードすることにより,本件写真の被写体の女性が原告であるとの同定を可能ならしめているところ,その際,「プロの縄師は決して素人モデルなんか吊るす事は無い,縄の嗜好を持つ者なら誰でも知っている事実」,「また一つ嘘がバレちゃいましたね!」とツイートしていることも併せ考慮すれば,原告の公開を欲しないであろう写真を暴露するために,本件被告行為を行ったものといえ,前記2のプライバシー権及び人格的利益の侵害について故意を有していたものと認められるし,前記1の著作権侵害についても少なくとも過失が認められる。本件写真が訴外Cのツイッター上で公開されていたこと,被告による転載がツイッター上のみであることが著作権侵害を否定する理由とならないことは前記1(4)のとおりであり,過失を否定する理由ともならない。
4 争点(5)(損害の有無及び額)について
(1)
著作権侵害による損害
証拠によれば,被告は,本件写真を平成30年6月4日時点においてもツイッター上に掲載し続けていること,本件写真と同種趣向の写真をインターネットで利用する際の利用料は6か月以上1年未満の掲載期間で12万1500円とされているものがあることが認められる。
そうすると,原告が被告からその著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額(著作権法114条3項)は,12万1500円と認めるのが相当である。
(2) プライバシー権等の侵害による慰謝料
前記2のとおり,本件被告行為により,原告のプライバシー権及び自己の容ぼう等をみだりに公表されない人格的利益が侵害されたものであるところ,本件被告行為により,原告を知る不特定多数の者に本件写真が公表されたこと,本件写真は原告が縄で緊縛された状態で柱に吊るされている状況を撮影したもので,その内容に照らして公開を欲しない程度が高いものであること,被告が本件写真を掲載する際,「プロの縄師は決して素人モデルなんか吊るす事は無い,縄の嗜好を持つ者なら誰でも知っている事実」とツイートし,原告が反復継続して本件写真のようなモデルを務めていることを仄めかすような本件写真の公表の態様も踏まえると,原告の被った精神的苦痛は小さくないものと認められる。一方で,本件写真は原告の同意のもと訴外Cのツイッター上に既に公開されており,本件被告行為当時は訴外Cのツイッターアカウントへのアクセスは特に制限されていなかったものである。以上の事情を総合すると,原告がプライバシー権等の侵害により被った精神的苦痛を慰謝するのに必要な金額は30万円と認めるのが相当である。
(3)
弁護士費用相当額
本件訴訟は専門性が高く,弁護士に訴訟追行を委任する必要があったものといえ,本件事案の内容,上記損害額,訴訟活動の内容等を踏まえると,弁護士費用相当額は5万円と認めるのが相当である。
(4)
合計
以上より,原告の損害額の合計は,47万1500円と認めるのが相当である。