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著作権判例セレクション

【著作権の譲渡】著作権の黙示的譲渡を認定した事例

▶平成160513日東京高等裁判所[平成15()5509]
() 本件は,岐阜駅南入口に設置されるべく予定され,後に現実に設置されたモニュメント(記念建造物)を図面上で創作した控訴人が(以下,現実に設置されたものを「本件モニュメント」といい,控訴人により図面上で創作されたものを「本件著作物」という。),本件著作物に係る著作権(「本件著作権」)及び著作者人格権(同一性保持権。以下「本件著作者人格権」という。)に基づいて,被控訴人らが,控訴人に無断で,控訴人作成の図面を改変したカラーパース図(カラーの遠近図)及び施工工事図面を作成し,本件著作物を改変して本件モニュメントを建設して,本件著作権及び本件著作者人格権を侵害したとして,被控訴人らそれぞれに対し,損害賠償金(慰謝料)を支払うこと及び謝罪広告をすることを求め,また,被控訴人県に対し,本件著作物を製作展示しないこと及び本件モニュメントを破棄することを求めた事案である。
被控訴人らは,原審において,本件モニュメントに係る著作権は,本件著作権を含めすべて被控訴人県に帰属すること,控訴人は,被控訴人県による設計変更を承認していたこと,をそれぞれ主張して,控訴人の主張を争った。
原判決は,被控訴人らの主張を認め,本件モニュメントに係る著作権はすべて被控訴人県に帰属し,控訴人は,被控訴人県による設計変更を承認していたとして,控訴人の請求をすべて棄却した。

当裁判所も,控訴人の請求には理由がないと判断する。その理由は,次のとおり付加し,この認定判断に反する限度で変更するほかは,原判決を引用する。
1 原判決に記載された証拠によれば,次の事実が認められる。
()
2 以上の事実からすれば,被控訴人県と被控訴人会社とは,平成9年10月7日に,本件モニュメントのデザイン及び設計に係る委託業務契約を締結しており,控訴人は,そのころ,被控訴人会社との間で,控訴人が本件モニュメントに関して,そのデザインの提案をしたり,助言したりすることを合意したこと,控訴人が本件モニュメントのデザインに関してなした提案ないし助言の一部が採用されたため,控訴人は,被控訴人会社に対し,デザイン料約180万円を要求し,被控訴人会社からその要求金額の支払を受けたこと,控訴人は,第10回設計協議の段階における本件モニュメントのデザイン及び設計について,自己のアイデアが修正された態様で採用された部分も,採用されなかった部分も含め,その全体のデザインを了承し,被控訴人県が,そのデザイン及び設計に従って本件モニュメントを建設することを承諾していたこと,また,同協議以降,被控訴人県が本件モニュメントの設計デザインを設計協議の手続きを経ないで更に変更することをも了承していたこと,が認められる。
これらの事実と,本件モニュメントは,岐阜駅南口に設置することが当初から予定されており,それ以外の用途が考えられないものであったことをも考慮すれば,控訴人は,本件モニュメント製作に当たり,被控訴人会社との間で,その提供した図面等に描いたモニュメントのデザイン(本件著作物に当たるもの)について,これが美術の著作物に当たり,著作権により保護されるとしても,被控訴人会社に対し,その著作権を譲渡すること(被控訴人会社は,その後,上記委託業務契約に基づき,被控訴人県に対し,すべての著作権を譲渡することになる。)を,少なくとも黙示的には合意した上で,上記モニュメントに関するデザインを提案し,その対価として,被控訴人会社から,控訴人が要求したとおりの金額でその報酬を得た,と認めるのが相当である(仮に,著作権譲渡の合意について明確な合意があったと認めることが困難であるとしても,控訴人は,少なくとも,被控訴人会社が,被控訴人県の委託に基づいて,控訴人のデザインを一部採用した本件モニュメントのデザイン設計業務を行い,被控訴人県がこれに基づいて本件モニュメントを建設することを当初から基本的な前提条件として黙示に了承した上で,上記のとおり本件モニュメントについてのデザインを提案し,その対価を得たことを認めることができることは,明らかである。)。また,上記認定の事実からすれば,控訴人が本件著作物について,本件著作者人格権を有するとしても,控訴人は,被控訴人県が,控訴人のデザインの一部を採用したり,採用しなかったりすること,及び,控訴人のデザインを必要に応じ,修正した態様で採用した上で,本件モニュメントを建設することを当初から了承していた,と認めるのが相当である。
3 以上のとおりであるから,本件著作権及び本件著作者人格権に基づく控訴人の本訴請求は理由がないことが明らかであり,控訴人の本訴請求をすべて棄却した原判決は相当である。