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著作権判例セレクション

【過失責任】利用許諾を受けようとする者の注意義務

▶平成23711日東京地方裁判所[平成21()10932]▶平成24228日知的財産高等裁判所[平成23()10047]
4 被告の過失の有無(争点(3))について
 (1) 被告は,本件訴訟提起前の原告からの質問書に対し,平成20年8月14日付け回答書をもって,卓倫社代理人作成の法律意見書中に,平成16年3月当時,本件各原版の著作権は原告に帰属していた旨の記述を確認していたことなどを回答したことによれば,本件原版供給契約には,本件各原版について,「映像素材を編集し,完全パッケージとして製作され,日本等での統括的に実施する権利を,中国中央電視台等から,平成15(2003)年8月に,授権された」GMG及びAの承諾を得て,GMG及びAからプレシャス社が販売権遂行事務を委託されたものである旨が記載されていること(1条1.①及び②)が認められる。
 (2) 以上に基づいて検討するに,第三者が著作権を有する著作物の利用について契約を締結する場合,当該契約の相手方が当該著作物の利用を許諾する権限を有しないのであれば,当該契約を締結しても当該著作物を利用することはできないのであるから,当該契約の当事者としては,相手方の利用許諾権限の有無を確認する注意義務があるというべきであり,これを怠って当該著作物を利用したときには,当該第三者に対する不法行為責任を免れないというべきである。
これを本件についてみるに,被告は,本件原版供給契約の締結当時,本件各原版について,原告又は「中国中央電視台等」が著作権を有し,GMG又はプレシャス社が著作権を有しないことを認識していたと認められるところ,被告が,原告又はCCTVに対し,GMG又はプレシャス社の利用許諾権限を確認したことや,それ以外の方法で利用許諾権限を確認したことを的確に認めることができる証拠はない。
そうすると,被告には,本件各原版の利用について過失があると認められるから,被告は,原告に対し,不法行為責任を負うというべきである。
(3) これに対し,被告は,被告各DVDの製作・編集作業には,CCTVの名刺を有しているDが立ち会ったことなどに照らせば,GMGがCCTVグループから本件各原版に関する複製等の権原を得ていると被告が信じるのは当然である,②日々のビジネスの中で極めて多数の著作物を取扱い,その複製,頒布等の商業的利用を行う場合に,本当に著作権者より適切に利用許諾を受けているのかということを逐一完全に確認しなければ著作物を利用できないとなれば,円滑な著作物の利用を実現することは不可能になってしまう,③本件マスターテープのような原版は,極めて重要な資産であり,著作権者以外の第三者が原版を所持している場合,当該第三者が当該原版の利用許諾を行う権限があると信じるのは当然であるから,A及びDが本件マスターテープを所持していること自体,権利者又は権利者から許諾を受けた者であることを示す重要な事実であるなどとして,被告には過失がない旨主張する。
しかしながら,及びについては,たとえ被告主張の事情がすべて認められるとしても,GMG又はプレシャス社の利用許諾権限が直ちに推認されるものではないから,このような事情のみでは被告の過失を否定することはできないし,②については,著作物の利用を許諾する者が当該著作物の著作権を有していないことが明らかである場合,当該者が適法な利用許諾権限を有するか否かについて当然確認が要求されるのであるから,これによって取引コストの増大があったとしても,他人の著作物を利用して利益を得ようとする以上,甘受しなければならない事柄であり,被告の主張は採用できない。
【また,被告は,①CCTVにおける『世界自然文化遺産』の制作主任(すなわち本件各原版の制作主任を意味する)Bが,被告各DVDの販売促進の激励のため,被告を表敬訪問したこと,②被告各DVDは,CCTVによって製作されたものとして,社団法人日中友好協会の推薦を受けていること,③被告は,Aから本件各原版の撮影状況を記載した『中国世界遺産渡航明細書』と題する書面を受領したこと,④被告は,GMGから,CCTVや元純社作成のレターを受領し,確認していたことから,GMGないしプレシャス社が本件各原版の利用許諾権限を有していることについて,必要十分な確認を行っており,GMGないしプレシャス社が本件各原版の利用許諾権限を有していなかったとしても,そのことについて過失はない,と主張する。
しかし,被告の上記主張は失当である。すなわち,①及び②については,仮に,そのような事実経緯が存在したとしても,GMG又はプレシャス社の本件各原版の利用許諾権限が直ちに推認されるものではない。また,③については,『中国世界遺産渡航明細書』と題する書面の作成経緯が判然としない上,これによりGMG又はプレシャス社の本件各原版の利用許諾権限が推認されるものではない。
さらに,④については,(証拠)は,CCTVの一部署である新影制作中心又は副台長名義で作成されたもの,(証拠)は,元純社ないしGMG名義で作成されたもの,(証拠)は,その作成経緯が判然としないものである上,上記各書面の内容からGMG又はプレシャス社の本件各原版の利用許諾権限が直ちに推認されるものではない。
したがって,被告の上記主張は失当であって,被告は,GMGないしプレシャス社の本件各原版の利用許諾権限について,必要十分な確認を行ったとは認められず,そのことに過失があったと認められる。】