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著作権判例セレクション

【不法行為による損害賠償請求権の消滅時効】著作権侵害に基づく損害賠償請求の消滅時効を認定した事例

平成23711日東京地方裁判所[平成21()10932]▶平成24228日知的財産高等裁判所[平成23()10047]
5 消滅時効の成否(争点(4))について
 (1) 民法724条にいう「損害及び加害者を知った時」とは,被害者において,加害者に対する賠償請求が事実上可能な状況の下に,その可能な程度にこれらを知った時を意味するものと解するのが相当である(最高裁平成14年1月29日第三小法廷判決,最高裁昭和48年11月16日第二小法廷判決参照)。
 これを本件についてみるに,原告は,被告に対し,平成18年2月21日付け本件告知書をもって,「貴社が当社の授権なしに日本国内において『世界自然文化遺産』(中国部分)を出版,発行した事実に鑑み,当社はプログラムの合法版権所有者として貴社に対し告知をいたします。貴社が日本国内において当プログラムを発行する行為は当社の権益を侵した可能性があります。」などと告知したのであるから,原告は,遅くとも同日までには,被告が原告の利用許諾を得ないで被告各DVDを販売したことを認識していたと認められ,被告に対する賠償請求が事実上可能な状況の下に,その可能な程度にこれらを知ったというべきである。
(2) 他方で,証拠及び弁論の全趣旨によれば,被告は,株式会社ポニーキャニオンに対し,平成16年9月20日から同年12月10日までの間,被告第1巻1800部,被告第2巻1700部及び被告第3巻~第7巻各1500部,平成17年8月22日被告第1巻100部,平成18年8月17日被告第2巻100部をそれぞれ販売したことが認められる(原告は,現在でも被告による販売行為が継続しているとして,(証拠)〔インターネット書店による販売広告〕を挙げるが,それらを書店が入手した経路及びその時期は明らかではなく,これらの証拠をもって被告が現在でも被告各DVDを販売していると認めることはできない。)。
そうすると,本件訴訟が提起された平成21年4月3日においては,上記①及び②については,不法行為に基づく損害賠償請求に係る消滅時効の時効期間が経過していたというべきである(上記③については経過していない。)。
そして,被告が,原告に対し,平成21年12月25日の本件第3回弁論準備手続期日において,上記の消滅時効を援用する旨の意思表示をしたことは当裁判所に顕著であるから,上記①及び②については,被告の消滅時効の抗弁が認められる。
 (3) 以上に対し,原告は,本件告知書作成の時点においては,被告各DVDが出版されたことを知ったにすぎず,被告が出版した経緯等は全く不明で,被告に説明を求める趣旨で本件告知書を作成した旨主張するが,上記(1)のとおり,本件告知書の記載内容に照らすと,原告は,被告が原告の利用許諾を得ないで被告各DVDを販売したことを認識していたと認められ,これは,原告が,本件各原版の利用許諾の権限について,その発生及び消滅を認識していたと認められることからも裏付けられるから,原告の主張は採用できない。
また,原告は,被告各DVDの販売行為は,行為の性質上,製造から販売までの行為が不可分一体のものとして分離することができない継続的不法行為である旨主張するけれども,被告各DVDの販売行為が継続的不法行為である根拠は示されていないのであるから,主張自体失当である。
【さらに,原告は,被告は平成20年8月14日付け回答書において,平成19年8月まで被告各DVDの販売を継続していたことを自ら認めており,実際,平成22年7月時点でも被告各DVDが紀伊国屋書店通販やアマゾンで販売されていたことからすれば,被告のポニーキャニオン社に対する被告各DVDの販売契約は,再販特約を前提とする販売委託であり,被告の継続的不法行為による損害賠償請求権の消滅時効の起算点は早くても平成19年8月1日である,と主張する。
しかし,原告の上記主張は採用することができない。すなわち,被告は,原告に対し,平成20年8月14日付け回答書において,『平成19年8月,上記DVDの販売を終了する旨決定し,現在一切販売を行っておりません』と回答していたことは認められるものの,これをもって直ちに,被告が平成19年8月まで被告各DVDの販売を継続していたと認めることはできない。また,被告各DVDが平成22年7月時点でも紀伊国屋書店通販やアマゾンで販売されていたとしても,そのことから直ちに,被告のポニーキャニオン社に対する被告各DVDの販売契約が再販特約を前提とする販売委託であったと認めることもできない。さらに,被告各DVDの販売行為が,継続的不法行為であるとする特段の事情も認められない。
原告は,上記回答書を受けて,被告各DVDの継続的な販売が平成19年8月まで行われたと認識し,被告がAらを含めた一体的解決を申し出たことから,被告の対応を待っていたのであって,被告が本件告知書の日付(平成18年2月21日)を起算点とする消滅時効を援用することは権利の濫用に当たり許されない,と主張する。しかし,上記事情が認められるとしても,本件告知書作成当時,原告において,被告に対する損害賠償請求が事実上可能な状況の下に,その可能な程度に『損害及び加害者』を知ったと認められることに変わりはなく,被告が上記消滅時効を援用することが権利の濫用に当たるとはいえない。】