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著作権判例セレクション
【写真著作物の侵害性】動画内で利用された写真著作物の侵害事例
▶令和6年8月1日東京地方裁判所[令和5(ワ)70422]▶令和7年1月30日知的財産高等裁判所[令和6(ネ)10065]
(注) 本件は、原告らが、被告は、別紙投稿動画目録のとおり、令和4年8月31日~同年12月17日の間に、原告Aが撮影した写真(「本件写真」)を利用して作成した別紙記載の各動画(「本件各動画」)を動画共有プラットフォーム「YouTube」に投稿するなどしたことにより、原告社団の著作権及び原告Aの著作者人格権を侵害したと主張して、被告に対し、損害賠償等の請求をした事案です。
2 原告社団の著作権侵害の成否(争点 2)について
(1)
複製権及び公衆送信権侵害の有無(争点 2-1)について
被告は、前提事実のとおり、令和4年8月31日から同年12月17日にかけ、いずれも本件各動画の著作権者である原告社団の許諾を得ることなく、本件写真をサムネイル又は動画内において利用した本件各動画を作成し、YouTubeに投稿した。
本件写真においては、少なくともE肖像部分がその表現上の本質的特徴部分を構成するものといえるところ、まず、本件写真に文字等を付加したにとどまる画像をサムネイルとするもの(本件動画4~8)については、本件写真を「印刷、写真、…その他の方法により有形的に再製」(法2条1項15号)したものを「公衆によつて直接受信されることを目的として無線通信又は有線電気通信の送信」(法2条1項7 号の2)したものといえる。したがって、これらの動画に係る被告の行為は、本件社団の著作権(複製権、公衆送信権)を侵害するものといえる。本件各動画のうち、動画内で本件写真を利用したもの(本件動画 4~17、19、21~23、28~31、34、35)についても同様である。
また、本件各動画のうち、本件写真のE肖像部分につきモザイク処理や本件イラストを重ねる処理等を施したものをサムネイル画像とするもの(本件動画 1~3、9~12、14~30、32~35)についても、そのシルエットやイラストが重ねられていない部分からなお本件写真の内容及び形式を覚知させるに足るものといえる。したがって、これらの動画に係る被告の行為についても、原告社団の著作権を侵害するものといえる。
したがって、被告による本件各動画における本件写真の利用は、本件写真の複製及び公衆送信に当たる。これに反する被告の主張は採用できない。
(2)
引用の成否(争点
2-2)について
本件各動画は、そのサムネイルの表示及び動画の内容によれば、EないしColaboの活動に対する批判的な立場から作成されたものと理解し得るところ、本件写真を利用する必要性は必ずしも高くはないとみられる上に、通常の報道ないし批評の域を超えて、EないしColaboを揶揄する文脈において本件写真を利用していることがうかがわれる。また、本件各動画において、本件写真の撮影者、権利者ないし引用元を示す記載等も置かれていない。これらの事情を総合的に考慮すると、本件各動画における本件写真の利用は、「公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評…その他の引用の目的上正当な範囲内で行われ」(法32条1項)たものとはいえないから、適法な「引用」(法32条)に当たらない。これに反する被告の主張は採用できない。
(3)
小括
以上より、被告による本件写真の利用は、本件写真に係る原告社団の著作権(複製権、公衆送信権)の侵害に当たる。
3 原告Aの本件写真の著作者人格権侵害の成否(争点 3)について
(略)
4 差止めの必要性の有無(争点 4)について
本件各動画については、遅くとも令和6年3月20日までに、サムネイルにおいては本件イラストで覆うことにより、映像中で利用されていた本件写真についてはぼかしを掛けることにより、それぞれ本件写真の表現上の本質的特徴を感得し得ないようにした処理が施されたことが認められる。
しかし、被告がなお本件写真のデータを保有しているとみられることを踏まえると、ぼかしを外すなどして被告が本件写真を利用するおそれは依然としてあるとみるのが相当である。
したがって、原告らの著作権及び著作者人格権に基づく使用差止めの必要性は認められる。この点に関する被告の主張は採用できない。
5 原告らの損害の有無及び額(争点 5)について
(1)
原告社団の損害
ア 著作権侵害による損害70万円
被告は、本件各動画合計35本において本件写真を利用している。その利用期間は、前提事実によれば、最短でも1年を超える。また、「出版・報道・教育写真」のウェブサイトでの商用利用につき、「1 社・1 種・1 号・1 版・1 回・1 箇所の使用に限った料金」として、使用箇所・サイズを問わず 6 か月以下の期間で20万5200円(税込)の料金を設定している例がある。さらに、本件は著作権侵害の事案である上、被告は、EないしColaboにつき揶揄を織り交ぜた批判的な立場から作成した本件各動画において本件写真を利用したとみられることに鑑みると、「その著作権…の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額」(法 114条3項)を考えるにあたっては、任意に締結される利用許諾契約において設定される利用料に比して自ずと高額になるであろうことを考慮すべきといえる。
他方、本件写真の著作権の譲受けに当たり原告社団が支払った対価は、Eを含む3名の撮影費用及び交通費を含む合計で7万円にとどまる。また、本件各動画は、被告のEないしColaboに対する批判的立場から作成された一連のものともいえるものである。加えて、上記料金設定の例も、あくまで契約前の段階で公表されている一例にすぎない。
これらの事情その他一切の事情を総合的に考慮すると、本件において原告社団が「受けるべき金銭の額に相当する額」は、本件各動画の 1 動画当たり2万円、合計70万円とするのが相当である。これに反する原告社団及び被告の主張はいずれも採用できない。
イ 弁護士費用7万円
上記著作権侵害による損害額のほか、本件に顕れた一切の事情を考慮すると、本件において、被告の不法行為と相当因果関係のある弁護士費用相当損害金は7万円とするのが相当である。
ウ 合計額77万円
(2)
原告Aの損害
ア 著作者人格権侵害による損害30万円
本件各動画における本件写真の利用期間及び改変の態様を含む利用態様をはじめとする一切の事情を勘案すると、原告Aの著作者人格権侵害による精神的苦痛を慰謝するには、30万円をもって相当とすべきである。これに反する原告A及び被告の主張はいずれも採用できない。
20
イ 弁護士費用3万円
上記著作者人格権侵害による損害額その他一切の事情を考慮すると、被告の不法行為と相当因果関係のある弁護士費用相当損害金は3万円とするのが相当である。
ウ 合計額 33 万円
[控訴審同旨]
(注) カメラマンである被控訴人Yは、被控訴人社団からの依頼に基づき、
Z(Colabo代表者)の肖像写真(本件写真)を撮影し、被控訴人社団に納品した。被控訴人社団は、本件写真を使用して、男性のセクハラ行為や女性差別的言動を告発する内容の動画を作成し YouTubeに投稿していたところ、控訴人は、被控訴人らの許諾を得ることなく、本件写真を改変(トリミング、 Z肖像部分にモザイク処理・本件イラストを重ねる処理を施すなど)した上、これを「Colaboの活動報告書は嘘だらけのデタラメでした」等のタイトルの本件各動画に使用し
YouTube に投稿した。
控訴人の上記行為につき、被控訴人社団は本件写真の著作権を侵害された旨、被控訴人
Yは本件写真の著作者人格権を侵害された旨、それぞれ主張した。本件はその控訴審である。
当裁判所も、原審と同様、控訴人は、被控訴人社団との関係で著作権(複製権及び公衆送信権)侵害、被控訴人Yとの関係で著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)侵害の責任を免れず、被控訴人らの差止請求及び損害賠償請求は原審が認容した限度で理由があると判断する。その理由は、当審における控訴人の補充的主張に対する判断を下記のとおり加えるほか、原判決のとおりであるから、これを引用する。
(略)
争点2-1(複製権及び公衆送信権侵害の有無)について
控訴人は、本件写真の Z肖像部分にモザイク処理や本件イラストを重ねる処理を施したものについては、本件写真の内容及び形式を覚知することは不可能であると主張するが、モザイク処理については粗いモザイクが施されているにすぎず、本件イラストを重ねる処理をしたものについては、上半身や髪の部分等を認識することができ、アングルの選択、照明等を含め、本件写真の表現上の本質的特徴を感得することができるものといえる。
争点3-1(氏名表示権侵害の有無)について
(略)
争点3-2(同一性保持権侵害の有無)について
(略)
争点4(差止めの必要性)について
控訴人は、本件写真のデータを保有していることの一事をもって、控訴人が本件写真を利用するおそれがあるとはいえない旨主張するが、侵害の態様、控訴人と被控訴人ら及びその関係者(Z及びColabo)との関係性、前訴も含めた本件の経緯に鑑みれば、控訴人が本件写真のデータを敢えて保有し続け消去していないことは、侵害のおそれを裏付けるものというべきである。
また、控訴人は、本件写真はインターネットにおいて公表されており、そのデータは控訴人以外でも容易に取得することができる旨主張するが、控訴人以外の者がデータを利用する可能性があることをもって、控訴人によるデータの利用の可能性を否定することはできない。
争点5(被控訴人らの損害の有無及び額)について
控訴人は、被控訴人社団から被控訴人Yに支払われたのは7万円であり、被写体となった者3名それぞれの複数枚の撮影費用及び交通費を含むものであるから、原判決の認定に係る損害額は過大である旨主張する。
しかし、これらの要素を考慮したとしても、原判決が掲げる諸事情を総合すれば、原判決が認定した損害額が過大とはいえない。密接な関連性のある者の間の著作権の譲渡価格は著作権の市場価値に直結しないものであり、まして、著作権あるいは著作者人格権侵害に基づく損害額算定の基準となるものとはいえない。