Kaneda Legal Service {top}
著作権判例セレクション
写真著作権の黙示的譲渡を認定した事例
▶令和6年8月1日東京地方裁判所[令和5(ワ)70422]▶令和7年1月30日知的財産高等裁判所[令和6(ネ)10065]
1 本件写真の著作権の帰属(争点 1)について
(1)
事実認定
前提事実、後掲各証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実は、以下のとおりである。
ア 本件写真の撮影に至る経緯等
(ア) 原告Aは、反差別に関する作品を多く手がけてきた写真家であり、同じく反差別運動を行ってきた原告社団代表者とは本件写真の撮影以前から知り合いであった。
原告Aは、令和2年1月頃、原告社団のYouTube番組の制作を引き受けた知人から、同番組の素材として利用する写真として、Eを含む3名の写真撮影を依頼された。原告Aは、これを引き受け、同月9日付け請求書により、原告社団に対し、「品目」欄に「交通費
撮影費」と記載して7万円(税込)を請求した。
なお、原告社団は、この依頼以前にも原告Aに写真撮影を依頼したことが数回あったが、いずれの際も、原告社団及び原告Aの間で契約書を作成したことはなく、本件写真の撮影に当たっても同様であった。
(以下略)
(2)
検討
ア 前提事実及び上記各認定事実によれば、原告Aは、原告社団代表者との関係性を前提として、原告社団から対価(7万円)の支払を受けて本件写真を含む写真の撮影を行い、原告社団は、原告Aから本件写真の納品を受け、その後、原告Aから個別に許諾を得ることなく、本件写真を利用していたといえる。また、上記認定事実からうかがわれる原告社団とEないしColaboとの関係性を踏まえると、E及びColaboによる本件写真の利用は、原告社団の包括的又は個別の許諾に基づき行われたものであることがうかがわれる。
他方、原告社団の原告Aに対する利用許諾料の支払その他原告社団による本件写真の利用が原告社団と原告Aとの利用許諾契約に基づくものであることをうかがわせる具体的な事情は見当たらない。
このような本件写真の利用態様に鑑みると、原告社団による本件写真の利用は、原告Aによる本件写真の納品及び原告社団によるその対価の支払によって原告社団が本件写真の著作権を取得したことに基づくものと理解される。このような理解は、原告社団代表者、原告A及びCの各陳述ないし供述に沿うものでもある。また、これらの陳述ないし供述については、いずれもその信用性に疑義を抱くべき具体的な事情はなく、また、相互に矛盾するものでもない。加えて、原告社団及び原告Aは、前訴から一貫して、本件写真に係る著作権は原告Aから原告社団に譲渡された旨主張している。
これらの事情を総合的に考慮すると、本件写真に係る著作権は、原告Aの原告社団に対する本件写真の納品及び原告社団の原告Aに対するその対価の支払により、原告Aから原告社団に譲渡されたとみるのが相当である。
イ これに対し、被告は、著作権譲渡を裏付ける契約書等がないことその他の事情を縷々指摘して、原告Aから原告社団に対し本件写真に係る著作権の譲渡はない旨主張する。
確かに、原告Aから原告社団に対する著作権譲渡を直接的に裏付ける契約書その他の客観的な資料は存在しない。また、原告Aは、前訴において、本件写真につき、原告社団に対して「写真の使用権」を譲渡したとの認識である旨や、被告の本件写真の利用をもって「私や「のりこえねっと」の著作権を侵害していることになる」旨陳述したところ、これらの陳述は、原告Aが本件写真の著作権を有することを前提とする趣旨と理解し得ないものではなく、少なくとも、著作権の帰属につき判然としない内容のものであるとはいえる。原告社団が原告Aに支払った対価の額も、Eを含む3名の写真撮影に関するものであることや交通費を含むことを考えると、原告A及び原告社団代表者も陳述するとおり、著作権譲渡の対価としては相当に低廉であると評価し得る。
しかし、契約書その他直接的に著作権譲渡を裏付ける客観的な資料がないことは、もとより直ちに著作権譲渡がなかったことを意味するものではない。原告社団と原告Aとの関係性に鑑みれば、そのような資料の不存在は必ずしも不自然ないし不合理とはいえない。同様の理由から、支払われた対価が著作権譲渡の対価としては相当に低廉であるとしても、これをもって著作権譲渡がなかったことをうかがわせる事情とは必ずしもいえない。前訴における原告Aの陳述も、趣旨は判然としない部分はあるものの、「譲渡」や「原告社団の著作権の侵害」という表現を含むものである。そもそも、上記陳述は、原告社団が本件動画33及び34の著作権を主張する前訴において原告社団により提出されたものであることや、原告社団と原告Aとの関係性に加え、原告Aは法律の専門家ではなく、法的事項につき不正確な表現をすることも十分にあり得ることをも考慮すると、前提として原告社団に対する著作権譲渡を含意するものと理解するのが相当である。
その他被告が縷々指摘する事情は、いずれも、一般的抽象的な可能性の指摘にとどまり、本件において考慮すべき程度の具体性を有するものとはいえない。
以上より、この点に関する被告の主張は採用できない。
(3)
小括
以上より、原告Aによる本件写真の納品及び原告社団による対価の支払をもって、原告Aから原告社団に対して本件写真に係る著作権が譲渡され、原告社団にその著作権が帰属するものと認められる。
[控訴審同旨]
争点1(本件写真の著作権の帰属)について
控訴人は、原判決摘示の事情(間接事実)は被控訴人Yから被控訴人社団への著作権の譲渡を根拠付けるものではないと主張するが、本件では、譲渡側の被控訴人Yと譲受側の被控訴人社団の双方が、本件写真の著作権譲渡(口頭合意)の事実を主張し、これに沿う直接証拠が提出されている。被控訴人らが口裏合わせをして著作権譲渡の事実を仮装することが疑われる具体的な事情があるというのであれば格別、本件においてそのような理由(実益)があるとは考えられず、以上の証拠関係だけで著作権譲渡の事実を認めるに十分である。
控訴人は、被控訴人らが、前訴を有利にするために、本件写真の著作権が被控訴人Yから被控訴人社団に譲渡されたと仮装している旨主張するが、本件訴えは令和5年7月5日に提起されたところ、前訴は同年6月15日に既に弁論が終結され、同年8月24日棄却判決がされており、本件訴えの提起が前訴を有利にするという関係にあるとは認められない。