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著作権判例セレクション

ゴーストライター事件(虚偽説明等が原因で多数の公演を実施できなくなった事案につき不法行為を認定した事例)

平成281215日大阪地方裁判所[平成26()9552]▶平成291228日大阪高等裁判所[平成29()233]
2 争点1(被告による不法行為の成否)について
(1) 原告は,被告が公表していた,本件楽曲が被告自ら作曲した作品であること,被告が全ろうの中,苦労をして絶対音感を頼りに作曲した状況がいずれも虚偽であり,このような虚偽の説明を前提に原告に本件公演の実施を許可し,さらには公演を増やすよう申し入れるなどして本件公演の実施に深く関与した行為が,不法行為である旨主張し,被告は,原告が主張するいずれの事実も虚偽ではないし,そもそも本件楽曲に関する明確な著作物利用契約まで成立したとはいえないまま本件公演が行われたのであるから被告に告知義務違反もないなどとしてこれを争っている。
(2) そこでまず,本件公演を行うに当たっての原告及び被告の認識を検討するに,前記認定事実によれば,原告が被告に対して本件交響曲公演の提案をした平成25年3月頃までに,被告が平成11年頃に全ろうとなり,耳鳴り,偏頭痛,頭鳴症等に悩まされながら,内側からの音を記譜することにより作曲活動を行ったという経緯が,全国紙や雑誌,全国放送のテレビ番組等で度々取り上げられるなどしたことから,そのような被告の作曲家としての人物像や作曲の状況が公衆にも相当知られるところとなり,それとともに,著名レコード会社から発売されている本件交響曲のCDもクラシック音楽においては異例の売上げとなっていたことが認められる。このような経緯に加え,本件公演の広告の内容からすると,国内外の音楽家の演奏会の企画・主催等を行うことを業とする原告が,全国で30回以上の本件楽曲の演奏会を企画するに当たっては,作曲者とされていた被告のこのような人物像や作曲状況を前提とし,この点が広く知られていることが重要な事情となっていたものと認められ,仮にこれらの事情が事実でなかった場合には,本件公演を企画しなかったであろうと認められる。そして,被告においても,自らが多数のメディアに取り上げられていた状況等を認識した上で,原告に対して公演回数の増加を強く要求したことからして,原告からの本件交響曲公演の提案が,被告が公表していた被告の人物像や作曲状況を前提とし,それを重視していたものであることについて,当然承知していたものと認められる。
なお,被告は,本件公演に関して原告が作成して記名押印の上で被告に交付した契約書に被告が署名押印をしていない点を指摘して,本件楽曲についての著作物利用契約が成立していないまま本件公演が行われたと主張する。しかし,前記認定事実のとおり,被告は,原告からの本件交響曲公演の提案に対し,指揮者等について希望を伝えてその交渉に応じ,平成25年3月24日には,原告に対し,本件交響曲公演の開催が決定である旨のメールを送信して本件交響曲公演の実施に同意することを明確に示している上,同月28日に本件交響曲公演の日程,広告予定等を受け取り,同年5月には本件ピアノ公演の企画が追加されたのに対し,同月から同年7月にかけて,本件ピアノ公演及び本件交響曲公演の回数をいずれも増やすよう,原告に強く要請し,原告はこの要請に応じて本件公演を実施していき,被告から特段の異議が出された形跡もないのであるから,被告は,本件楽曲の作曲者として,原告に対し,本件公演における本件楽曲の利用を許諾し,本件公演の実施を了承していたと認めることができ,被告の上記主張は採用できない。
(3) 次に,前記(2)の前提とされた状況について検討する。
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(4) 以上のとおり,被告が公表し,多数のメディアで紹介されていた被告の人物像や作曲状況は,原告が本件公演を企画するに当たっての重要な前提事情であり,それが事実でない場合には,原告が本件公演を企画・実施することはなかったものであるが,被告は,そのような事情を知りながら,本件公演を実施することを了承したにとどまらず,特定の指揮者の選定や公演回数の増加を強く要求するなど,本件公演の企画に積極的に関与したといえる。これに加え,上記の前提事情が事実でないことが公となった場合には,それまでの新聞や雑誌の掲載,テレビの番組放映等の数,これらに対する反響の大きさからして公演を実施することができなくなり,予定公演数の多さから原告に多大な損害が発生するであろうことは,容易に思い至ることができたものであったといえることを併せ考慮すると,本件公演の企画に対する上記のような関与をするに当たり,被告において,これまで公表していた被告の人物像や作曲状況が事実とは異なることを原告にあらかじめ伝え,その内包されるリスクを告知する義務があったものというべきである。したがって,被告がこの義務に反して事実を告げず,原告が多額の費用をかけ,多数の人が携わることとなる全国公演を行うことを了承し,さらには公演数を増やすように強く申し入れるなどして本件公演の企画に積極的に関与し,それにより原告に本件公演を企画・実施するに至らせた行為は,原告に対する不法行為を構成すると評価するのが相当である。

[控訴審]
3 争点1(控訴人による不法行為の成否)について
(1) 控訴人による不法行為の成否については,次のとおり補正し,後記(2)に当審における控訴人の主張についての判断を付加するほか,原判決に記載のとおりであるから,これを引用する。
(以下略)