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著作権判例セレクション
ゴーストライター事件(著作権の譲渡に関する判示部分)
▶平成28年12月15日大阪地方裁判所[平成26(ワ)9552等]▶平成29年12月28日大阪高等裁判所[平成29(ネ)233等]
(注) 被告とP2は,JASRACに,被告を作曲者として作曲届を提出した全ての楽曲について,それらの著作権ないしその持分権(著作権法27条及び同法28条に規定する権利を含む。)がP2から被告に譲渡済みであり,著作権が全て被告に帰属していることを相互に確認するとの平成26年12月11日付け確認書(「本件確認書」)を作成した。
4 争点3(被告には本件楽曲に係る損失があるか)について
(1)
本件で,被告は,原告が,本件楽曲に係る使用料を支払うことなく,実施された本件公演において本件楽曲を演奏させたことについて,使用料相当額の不当利得が成立すると主張していることから,これが認められるためには,まず,被告が本件楽曲の著作権を有していたことが必要となるところ,P2は,会見において,本件楽曲を含む被告の作品として発表されている楽曲については,その著作権を放棄したいと述べ,被告との間で本件確認書を作成していることからすれば,P2において,少なくとも,本件楽曲の財産的な著作権を被告に対して譲渡したものと解するのが相当である。
これに対し,原告は,仮に譲渡契約があるとしても,その実質はゴーストライター契約であるから,著作権法121条に反する,あるいは公序良俗に反するもので無効である旨主張する。しかし,【本件確認書の内容は認定事実のとおりであるから,】本件確認書に係る著作権譲渡合意が,それ自体としてゴーストライター契約であるとは認められない。また,本件楽曲に関して,被告とP2との間で,著作権譲渡合意とともに,原告主張のような趣旨の合意がされたとしても,本件確認書が,真の作曲過程の発覚後に,なお著作権の譲渡だけを特に確認することを対象として作成されていることからすると,被告とP2との間で,著作権譲渡合意が上記の本件楽曲に関する合意と不可分一体のものとされていたとまでは認められず,また,性質上不可分一体のものとも認められない。そして,著作権法121条は,著作者名を詐称して複製物を頒布する行為を処罰の対象とするにすぎず,著作権を譲渡することを何ら制約するものではないから,本件確認書自体が同条に反するものではなく,また,そのことは公序良俗違反についても同様であるから,被告とP2との間における本件楽曲の著作権譲渡合意は無効とはいえない。
(2) そうすると,被告は,本件楽曲についての著作権を有するものであるから,本件公演における本件楽曲の演奏について,本件楽曲利用の対価である使用料を取得する権利を有するところ,その支払を受けていないのであるから,被告には,本件楽曲に係る使用料相当額の損失があると認められる。なお,先に述べたとおり,被告は,原告に対し,本件公演における本件楽曲の利用を許諾していたとは認められるが,弁論の全趣旨によれば,本件公演に当たり,原告と被告は,使用料の支払について協議をしようとしていたものの,結局,協議が具体化しないまま本件公演が実施され,その後も協議がされないままとなっていると認められ,無償で利用させる旨が合意されていた【ことを認めるに足りる証拠はなく】,原告による本件楽曲の利用利益の享受という利得は,なお法律上の原因を欠くものというべきである。
[控訴審]
5 争点3(控訴人には本件楽曲に係る損失があるか)について
(1)
当裁判所も,控訴人には本件楽曲に係る損失があり,被控訴人は,法律上の原因なく,本件楽曲の利用利益を利得したと判断する。その理由は,次のとおり補正し,当審における被控訴人の主張に対する判断を後記(2)に加えるほか,原判決に記載のとおりであるから,これを引用する。
(略)
(2)
当審における被控訴人の主張について
被控訴人は,控訴人は本件楽曲の著作権者ではなく,控訴人とP2との間の著作権譲渡の合意は無効であると主張する。
しかし,P2が本件楽曲の財産的な著作権を控訴人に譲渡したと認められ,本件確認書に係る著作権譲渡合意が無効ではないことは,前記(1)で引用した原判決に記載のとおりであり,被控訴人の前記主張は理由がない。