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著作権判例セレクション
「法人等の業務に従事する者」には当該法人の代表取締役も含まれるか
▶平成21年06月19日東京地方裁判所[平成20(ワ)12683]
(2)
法人等の発意に基づきその法人等の業務に従事する者が職務上作成するプログラムの著作物の著作者は,その作成の時における契約,勤務規則その他に別段の定めがない限り,その法人等とされる(著作権法15条2項)ところ,上記「法人等の業務に従事する者」には,当該法人の代表取締役も含まれるものと解すべきである。そして,上記(1)に認定した事実によれば,本件ソフト1及び2は,被告オークスの代表取締役かつプログラマーとしてゲームソフト開発作業を担当していたCが,被告オークスの発意に基づき,その職務として作成したものと認めることができるから,被告オークスが,本件ソフト1及び2の著作者であり,これらの著作権を原始的に取得したものということができる。
この点につき,原告は,Cに対し本件ソフト1及び2の開発に係る報酬を支払ったとか,本件ソフト1及び2のプログラムの開発,シナリオや音楽の作成のためのスタッフを準備し,これらのスタッフに対する報酬もすべて支払ったなどの事実を指摘して,本件ソフト1及び2が原告の職務著作であると主張し,C作成の陳述書にはこれに沿う記載部分がある。しかし,本件において,原告とCとの間で締結された雇用契約又はこれに相当する契約に関する書面や,原告からCその他のスタッフに報酬又は賃金が支払われたことを示す客観的資料が何ら証拠として提出されておらず,また,本件ソフト1及び2が作成された当時の原告の取締役であったBは,当時原告の業務に従事していた者はB1人であり,Cは原告の役員でも従業員でもなかった旨の証言をしていることに照らすと,Cの上記陳述は採用することができず,ほかにCが原告の業務に従事する者として本件ソフト1及び2を作成したとの事実を認めるに足りる証拠はない。したがって,原告の上記主張を採用することはできない。
本件ソフト1及び2のパッケージには,発売元として原告の商号が記載され,また,Cは「デジタルワークスのC」と名乗ってシナリオ等の外注をしたり,販促イベントに参加するなどしていたことが認められるが,これらは,本件ソフト1及び2の発売元を原告とする上記の枠組みと整合させるために採られた便宜的な措置にすぎないものと認められ,これらの事実は上記認定を左右するものではない。
(3)
なお,被告らは,上記第のとおり,何らかの理由で,本件ソフト1及び2の著作権が被告オークスから原告に譲渡されたとしても翻案権や複製権は被告オークスに留保されているなどとして,仮定的に,本件ソフト1及び2の著作権が被告オークスから原告に譲渡された場合についても主張していることから,念のため付言する。
本件ソフト1及び2の制作・販売等に係る合意を文書化した本件各委託契約書には,本件ソフト1及び2の著作権の帰属や譲渡について明示的に規定した条項は見当たらない。
そもそも,本件ソフト1及び2の制作に当たっては,上記のとおり,原告と被告オークスが協議した結果,被告オークスがアダルトゲームソフトを制作し,原告がその発売元となり,ワンピースが原告からそのパソコン用ゲームソフトを一括して仕入れて(又は委託を受けて)販売するという枠組みで事業を展開することが取り決められたものであるところ,そのためには,原告において,本件ソフト1及び2の著作権を被告オークスから譲り受けることは必ずしも必要なことではない(本件ソフト1及び2の利用の許諾を得れば足りる)から,本件各委託契約において,本件ソフト1及び2の著作権の譲渡が含意されているものと解することもできない。
その他,本件全証拠を検討しても,被告オークスと原告との間において,本件ソフト1及び2に係る被告オークスの著作権が原告に譲渡されたことを認めるに足りないから,被告らの上記仮定的主張について更に検討する必要はない。
2 以上検討したところによれば,原告が本件ソフト1及び2の著作権者であると認めることはできないから,被告らの行為が原告の著作権を侵害したとすることはできない。