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著作権判例セレクション

学習塾で使用するテキストの著作権の権利の帰属が争点となった事例/職務著作物性(公表要件)が問題となった事例

▶平成111029日東京地方裁判所[平成9()14979]▶平成121026日東京高等裁判所[平成11()5784]
() 証拠及び弁論の全趣旨によると、本件テキスト二、七ないし九は、平成六年四月より前に作成されたことが認められるが、前記認定のとおり、被告においてテキストの表紙に著者名を記載するようになったのは、右同月ころからであるから、右各テキストには、作成当初、著者名の記載がなかったものと認められる。
そうすると、本件テキスト二、七ないし九については、作成当初、テキストには、右認定のような被告名義の表示しかなかったのであるから、被告の著作の名義で公表されるものということができる。
() 証拠及び弁論の全趣旨によると、本件テキスト一、三ないし六は、平成六年四月より後に作成されたことが認められるが、前記認定のとおり、被告においてテキストの表紙に著者名を記載するようになったのは、右同月ころからであるから、右各テキストの表紙には、作成当初から、「A著」との記載があったものと認められる。
しかしながら、右で認定したとおり、(1)右各テキストは、表紙の中央に被告の塾の講座名、表紙の下部に「教育研究会VERITAS数学科」と表示され、右講座名の右下の「VERITAS数学科」の下に「A著」と記載されており、本件テキスト一、三及び四には、表紙のみならず、テキストの各ページの上部にも「教育研究会VERITAS」と記載されていること、(2)被告のテキストには従前は執筆者名の記載がなかったところ、右認定のような経緯で被告のテキストに執筆者名を記載するようになったことや、右認定のとおり、Cが退社した後、本件テキスト七の「C著」との記載が原告により削除され、被告において右記載のないものが使用されていたことからすると、執筆者名の記載は著作名義の表示ではなく、講座担当者の表示であると原告自身及び被告の社内において認識されていたと見るのが自然であること、(3)右認定のテキストの内容や使用状況に照らすと、「A著」の記載は、その上にある「VERITAS数学科」との記載と一連のものとして、当該テキストの執筆を被告の数学科の講師である原告が担当したことを表示したものと認められる。
そうすると、右各テキストについても、被告の著作の名義で公表されるものと認めるのが相当である。
また、仮に、右「A著」の記載が著作名義の表示であるとしても、右表示は、右認定のとおり、原告が被告代表者の承諾を得ることなく従前は存しなかった表示をしたものであり、右認定のテキストの内容や使用状況を併せて考えると、右各テキストは、被告名義で公表することが予定されていたものというべきであるから、被告の著作の名義で公表されるものということができる。

[控訴審同旨]
当裁判所も、控訴人の本訴請求は理由がなく、被控訴人の反訴請求は原判決の認容した限度で理由があるものと判断する。その理由は、次のとおり訂正及び付加するほか、原判決のとおりであるから、これを引用する。
()
 二 著作権の帰属を確認する契約の成否について
1 控訴人は、本件塾の開設前に、控訴人を含む本件塾の講師らとBとの間で、本件塾の講師が執筆するテキストの著作権が執筆者に帰属することを確認したうえで、それを前提として、控訴人ら執筆者は、その執筆に係るテキストの使用を被控訴人に許諾し、対価として使用料を受けるとの契約(本件許諾契約)が口頭で成立した旨主張する。
しかしながら、証拠によれば、本件塾開設前に、控訴人を含む本件塾の講師らとBとの間で、被控訴人が本件塾テキストの執筆者に対し、その執筆するテキストに関する対価として金員を支払うとの契約が成立したことは容易に認められるものの、そのとき、テキストの著作権の帰属自体につき確認する合意が成立したことは、本件全証拠によっても認めることはできない。
 () (証拠)(控訴人の陳述書)には、「鉄緑会を辞めるときにも問題になった「著作権」に関して資金を出すB氏との間で「テキストなど講義に必要な資料は、全て講師側で準備する。これら資料の著作権は各作成者である講師のものとする。そしてこれを使用する場合、使用料を支払う。」との条件を了解してもらったのです。何故このようなことをうるさく条件にしたのかというと、前の「鉄緑会」のときに講師が苦心して作ったテキストが講師が辞めた後、ただで使用されてしまったことがあったため、そのようなことのないようにするためだったのです。」との記載が、(証拠)(控訴人の陳述書)には、「私、D及びCは、「鉄緑会」においてはテキストの著作権がその作成者に留保されていなかったという反省に基づいて、当塾においてはテキストの著作権は当該テキストの作成者に帰属することを最重要原則として確認した上で、代表取締役であるB氏にもこの旨を話し、了承をえました。」との記載がそれぞれあり、原審における原告本人尋問の結果中にも、控訴人、C、Dが、Bと、テキストの著作権の帰属について話し合い、テキストの著作権はその執筆者に帰属することを確認したとの陳述部分がある。
しかしながら、控訴人が、右のように、鉄緑会で、テキストの著作権を控訴人側に確保できなかったことに不満を抱き、本件塾で、テキストの著作権がその作成者に帰属することを最重要原則として確認しようとしたというのであれば、しかも、その意思を相手方に伝え、了解を得たというのであれば、将来に禍根を残さないように合意を文書化しようとするのが通常ではないかとも思われるのに、結局、文書が作成されていないとの事実などに照らすと、控訴人の右各陳述書の記載及び控訴人の右陳述に大きな証明力を与えることはできないものというべきである。
その他、テキストの著作権の帰属についての合意があったとするDの陳述書、Cの書簡、Gの陳述書、原審における証人Gの証言などあるものの、いずれも、適確な裏付けを欠く、結論だけの記載ないし陳述といい得る範囲に属するものにすぎず、十分な証明力を認めることはできない。
() 控訴人は、テキストの著作権が控訴人らテキスト執筆者に帰属することを被控訴人が認めていたことの根拠として、本件塾の開設の二年目以降も、テキスト使用に応じて同額の金員が各講座のクラス数に応じて支払われていた事実を挙げ、二年目以降もこのような形でテキストに関する対価が支払われることは、テキストの著作権が被控訴人に帰属するという考え方(支払われる対価をテキスト作成料とする考え方)と両立し得ない旨主張する。
テキストに関する対価の支払が右のようなものであるとの事実は、被控訴人が、控訴人その他のテキスト執筆者に著作権が帰属することを認めたうえ、著作権使用許諾の対価として支払をしたと仮定した場合に自然なこととして理解できるものであることは、確かである。しかし、右事実は、右のように仮定しなくとも、十分に自然なこととして理解することが可能である。被控訴人にとって、本件塾で使用するテキストが価値あるものであることはいうまでもないことであり、その価値は、最終的には、テキストの使用状況によって決まるものであることも明らかであるから、テキストの著作権は被控訴人に帰属することを前提としつつ、その執筆に対する対価の定め方の一つとして右のやり方を採用したとしても、少しも不自然ではないからである。
このように、どのようにでも理解できるものをもって、一つの立場を裏付けるものとすることはできないのである。
 () 証拠及び原審における被告代表者尋問の結果)及び弁論の全趣旨を総合すると、本件塾開設前後のいきさつにつき、むしろ、次の事実を認めることができる。
 (1) B、控訴人、C、Dは、本件塾を開設するに先立って、平成四年三月ころ、Bの自宅において、本件塾の運営方針について打合せをした。
 (2) 控訴人は、学習塾の鉄緑会に勤務していたとき、自分の作成したテキストの著作権を控訴人側に確保できなかったことに不満を抱いており、その反省に基づいて、本件塾では、自己に有利な形にしておきたいと考えていた。控訴人は、知り合いの法律家などに相談した結果から、控訴人の執筆に係るテキストの著作権が控訴人に属する旨を被控訴人との契約で明確にしておかなくても、テキストの著作権が被控訴人に帰属することが合意されない限り、目的は達されると考えるに至り、C、Dらと打ち合わせたうえ、本件塾の開設前におけるBとの話し合いにおいて、あえて、講師が作成したテキストの著作権の帰属自体の問題を提示せず、端的に、そのテキストが講座で使用されれば、使用の程度に応じて対価を得られるような合意をすることを申し入れた。
 (3) 一方、Bは、塾の経営は初めてで、本件塾の講師が作成するテキストの著作権の帰属自体の問題について全く念頭になく、控訴人からのテキストに係る対価に関する申入れに対し、それが、テキストの著作権が控訴人ら執筆者に属することを自らが認めたものと解釈される余地があることには思い及ばず、控訴人らの話しぶりから、漠然と、二、三年で塾の運営が落ち着けば負担しなくてよいことになるのであろうという程度に考えており、控訴人、C、Dらの右申入れを受諾した。
 (4) このようにして、控訴人、C、DらとBとの間では、テキストの著作権の帰属自体について格別議論されることもなく、また、控訴人ら執筆者に係るテキストに関する対価が何に対するものかについて特定されることもなく、講師がテキストを自前で準備し、本件塾の講義に使用すれば、その対価として、クラスごとに一か月当たり数万円を支払う旨の合意をした。そして、右合意の内容さえも文書化はしなかった。
 (5) 本件塾が開設されると、当初は、控訴人、C、Dらは、思い思いに、講義に合わせて簡略なテキストを作成して講義に使用しており、そのうちに、次第に、テキストの体裁が整えられていった。Bは、経理をEに委せており、Eは、控訴人、C、Dらに対し、「教材費」の名目で、給与の一部として、準備したテキストの使用に応じて、担当クラスごとに一か月当たり数万円という金員を支払っていた。
2 控訴人は、テキストの著作権が控訴人を含む執筆者に帰属することは、平成七年二月ころのミーティング(会合)において再確認されている、すなわち、平成七年二月ころの会合において被控訴人に提出した資料には、「これまでの契約内容を明確化するため」と明記したうえで、テキスト代に関して執筆者に支払われる金員は、「テキスト使用料」と書かれていたにもかかわらず、Bは、その後も、従前どおり、テキスト使用料に関する金員の支払を続けたことからも明らかである旨主張する。
証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
() 控訴人、C、Dらは、平成六年四月ころ以降、Bの了解もなく、一方的に、テキストの表紙に、講座名、本件塾の名称、科目名に、「VERITAS数学科 A著」などといった記載を追加するようになった。また、控訴人、C、Dらは、そのころ、給与体系の変更交渉の際に、一方的に、従来の「教材費」の語句に代えて「テキスト使用料」との語句を使用するようになった。しかし、控訴人を含む講師らとBとの間で、講師が本件塾の授業で使用するテキストの著作権の帰属をどうするかなどといったことに関する話合いが行われたことはなく、控訴人を含む講師らが「テキスト使用料」との文言を使用して給与体系の変更の要求をしたのに対して、Bにおいて、給与体系の変更を承認しただけであった。
 () Bは、平成七年二月ころ、被控訴人の経営状況がおもわしくないことから、本件塾の講師の給与を削減した。ところが、控訴人を含む講師らは、これに反発し、同年三月ころに行われた会合において、Bに対し、給与を従前のとおり支払うこと、「テキスト使用料」も従前のとおり継続して支払うことを申し入れ、講師らの集団退職を恐れたBは、これを了承し、その後も、講師らに対する「テキスト使用料」の名目による支払を続けた。このときも、控訴人を含む講師らとBとの間で、テキストの著作権の帰属をどうするかなどといったことに関する話合いは行われなかった。
右認定の事実によれば、控訴人を含む講師らは、平成六年四月ころ以降、意図的に、テキストの著作権が執筆者に帰属し、被控訴人がこれを有償で使用しているかのようにみえる外形事実を作り出したことが認められるものの、その前提となるテキストの著作権の帰属や使用許諾についてのBとの間における意思表示の合致を欠いている、ということができる。講師らがテキストの表紙に、例えば「A著」などの語句を追加したり、「テキスト使用料」という語句を使用したりしたのに対し、被控訴人がこれを是正する格別の措置をとらなかったからといって、被控訴人のこの行為に対し、テキストが控訴人ら執筆者に帰属することを確認した、との評価、あるいは、被控訴人の支払うテキストに関する対価が、控訴人ら執筆者が著作権を有することを認めたうえでのテキストの使用料に変質することを認めた、との評価を与えることはできないというべきであるからである。
したがって、控訴人の右主張は、採用できない。その余の控訴人の主張も同様である。
3 控訴人は、著作物の著作権は、その執筆者に帰属するのが原則であり、法人著作権として法人に帰属するのは例外なのであるから、本件各テキストの著作権が、控訴人らその執筆者ではなく、被控訴人に帰属すると主張する者は、その要件のすべてにつき主張立証責任を負わなければならない旨主張し、原判決を論難する。
しかしながら、著作権法は、プログラムを除く著作物について、151項において、法人等の発意に基づきその法人等の業務に従事する者が職務上作成する著作物で、その法人等が自己の著作の名義の下に公表するものの著作者は、その法人等とすると定めて、これらの要件が満たされたときには、法人著作が成立することにし、例外として、その作成の時における契約、勤務規則その他に法人著作が成立することを妨げる別段の定めがあれば、法人著作とならないものと定めているのである。
したがって、法人著作の右要件を満たすならば、原則として法人著作が成立するのであり、契約、勤務規則その他に法人著作が成立することを妨げる別段の定めは、法人著作が成立しないことを主張する者が、主張立証しなければならないのである。
原判決は、本件について、まず、法人著作の要件のすべてが満たされていると認定したうえ、控訴人側に主張立証責任のある作成の時における契約、勤務規則その他法人著作が成立することを妨げる別段の定めについて、これを証拠上、認定することができないとしているのであるから、その判断方法に何ら誤りはない。
控訴人の主張は、採用できない。
三 法人著作の成否について
1 証拠によれば、次の事実が認められる。
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2 右認定の事実に、前記認定の事実をも併せ考えると、被控訴人において、テキストの作成は、講師の本来の業務である塾生に講義を施す義務に付随する業務であったことが優に認められるものである。そして、講師の執筆するテキストが、職務上作成されるものであること、被控訴人の名義の下に公表されるべきものであったことも明らかであり、現に、平成六年三月ころまでは、テキストの表紙に被控訴人を示す名義の表示のみがなされていたものである。
3 証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件テキスト一ないし六は、控訴人が作成したものであり、いずれも、表紙の上段に表題が、下段に「教育研究会VERITAS数学科」と記載され、表題の下にも、横書きでやや小さく「VERITAS数学科 A著」と記載されていること、本件各テキストは、いずれも、被控訴人に在職している期間に、本件塾の授業に使用するために作成されたものであること、本件各テキストは、その体裁からして、いずれも、本件塾における講義に使用する問題用として作成されているものであり、講義のテーマに対応する問題を集めた例題と宿題からなっていること、なお、本件テキスト三(大学入試基本演習Ⅴー解答作成演習)では、例題に加えて付随的に、解答作成上の注意点、解答後の考察が一種のヒントとして記載されており、例題の中には、過去に大学入試で出された問題なども含まれていることが認められる。
また、証拠によれば、控訴人は、本件テキスト一(高校数学系統講義テキスト 数と式Ⅱ)について、平成四年六月から、本件塾の講義に使用し始めたこと、本件テキスト二(高校数学系統講義テキスト 一次変換Ⅱ)について、平成四年八月から、本件塾の講義に使用し始めたこと、本件テキスト三(大学入試基本演習Ⅴー解答作成演習)について、平成九年に作成したこと、本件テキスト四(高校数学重点講義テキスト 連立一次方程式と行列)について、平成七年春から、本件塾の講義に使用し始めたこと、本件テキスト五(高校数学重点講義Ⅰ(第一分冊))について、平成九年三月にのみ、本件塾の講義に使用したこと、本件テキスト六(高校数学重点講義Ⅳ(第一分冊))について、平成九年に作成したことが認められる。
右認定の事実を総合すると、本件テキスト一ないし六は、いずれも、控訴人が、本件塾の開設後、本件塾における講義のために作成したものであるから、前記にいうテキストと同様であって、被控訴人の法人著作となるものというべきである。
なお、本件テキスト一ないし六には、前記認定のとおり、表紙の「VERITAS数学科」に「A著」との語句が追加されているけれども、このような語句の追加によって、著作権の帰属が左右されるものではなく、単に、被控訴人の塾における執筆担当者であるといったことを示す程度の意味しかないというべきである。
証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件テキスト七ないし九についても、右同様の経緯で、IないしHによってそれぞれ執筆されたものであることが明らかであるから、前記にいうテキストと同様であって、被控訴人の法人著作となるものというべきである。
4 控訴人は、「教育研究会VERITAS数学科 業務内容について」の「4.給与規定 (3)テキスト使用代」の部分において、「各種小テスト作成など講師業務、T・A・業務に含まれるものはテキスト代としては支払わない。」と明記されており、ここにいう「テキスト代」は「テキスト使用料」のことであり、テキスト作成は「講師業務」には含まれないと主張する。
確かに、「教育研究会VERITAS数学科 業務内容について」の「4.給与規定 (3)テキスト使用代」には、控訴人主張の記載がある。しかしながら、「各種小テスト作成など講師業務、T・A・業務に含まれるものはテキスト代としては支払わない。」という記載を素直に読めば、小テストなどに伴うテキスト作成の対価については、講師業務、T・A・業務に対する対価に含まれるものとして処理され、それ以外に「テキスト代」の名目で支払われることはないという意味であることが明らかであり、同記載から、テキスト作成が「講師業務」に含まれない旨を読み取ることができないことは、文言自体から明らかである。
5 控訴人は、本件テキスト一ないし四については、本件塾を開設する以前から、控訴人が既に作成して保有していたものであるから、この意味でも、控訴人が被控訴人の職務上作成したものに当たらない旨主張する。
しかしながら、(証拠)によれば、控訴人が指摘する本件テキスト三については、控訴人自身が、これを平成九年に作成し、それ以前には類似のテキストも存在しなかったと述べているのである。また、本件テキスト一、二、四についても、前記のとおり、本件塾を開設して三か月ないし三年後に使用が始められているのであり、他方、それ以前に同テキストが控訴人によって使用されたとの事実は、本件全証拠によっても見出すことができないから、本件塾を開設した後に作成されたものと認定し得るところである。
控訴人は、本件塾創設前の約三か月間、部屋を借りて約三〇名の生徒を教えていた際、そこで本件テキスト一ないし四を使用したことがある旨主張し、これを裏付けるものとして、(証拠)を提出するけれども、同号証は、いずれも、右各テキストとは関係のないテキストであるから、控訴人の右主張は、裏付けを欠くものであるばかりか、前記のとおり、本件テキスト三は平成九年に作成したとする自らの陳述とも矛盾するものである。
 控訴人の主張は、採用できない。
 6 控訴人は、「教育研究会VERITAS」は、本件塾の名称ではなく、控訴人ら講師グループの名称であり、このことは、被控訴人の発行したパンフレットにも明記されているものであるとして、本件各テキストは、被控訴人の名義の下で公表されていない旨主張する。
しかしながら、控訴人ら講師は、被控訴人の従業員であり、その従業員である講師が遂行する業務が、被控訴人の業務でないはずがなく、その業務に係る名称として「教育研究会VERITAS」を使用しているのであり、その場所も、被控訴人の事業所を使用しているのである。控訴人の主張は、失当である。
また、控訴人は、本件各テキストは、すべて講義の一か月以上前に、表紙、フッダー・ヘッダーなどは全くない状態で、著作物として完成していたものであり、この段階で既に著作権が執筆者たる控訴人に帰属していたのであるのであって、控訴人に著作権が帰属する旨主張する。
しかしながら、法人著作の要件の一つである、公表に当たっての法人名義の有無は、創作の時点において、当該著作物が、法人等の名義で公表されるべく予定されていたかどうかによって決せられると解するのが相当であり、本件各テキストが、被控訴人の名義で公表されるべく予定されていたものであることは前示のとおりである以上、講義に使用する一か月以上前に表紙、フッダー・ヘッダーなどが全くない状態で完成していたことによって、法人著作の成否が何ら左右されるものでないことは、明らかというべきである。控訴人の主張は、失当である。