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著作権判例セレクション
職務著作性を認定した事例
▶平成28年10月21日東京地方裁判所[平成27(ワ)20841]▶平成29年5月23日知的財産高等裁判所[平成28(ネ)10113]
4 争点(3)(「会員情報管理システム」の著作者は原告か被告か)について
(1)
本件では,法人である被告の従業員である原告が,被告の発意に基づき,プログラムである「会員情報管理システム」を創作したことについては当事者間に争いがない。また,「会員情報管理システム」の著作者に関し,作成の時における契約,勤務規則その他に別段の定めがあることはうかがえない。
したがって,「会員情報管理システム」は著作権法15条2項所定の職務著作に該当するから,上記プログラムの著作者は被告である。
(2)
この点に関して原告は,「会員情報管理システム」の作成時の状況に照らすと,同システムの著作者は原告と認められるべきであると主張する。
しかし,仮に,職務著作の創作の過程において,法人等が従業員に対し,何らかの不法行為又は債務不履行に当たる行為をしたとしても,当該行為が別途損害賠償請求等の対象となる可能性があることはあっても,当該行為の存在が著作権法15条2項の適用の可否に影響を及ぼすものでないことは明らかである。なお,本件においては,原告の被告に対する損害賠償請求に理由がないことは前記3で説示したとおりである。
(3)
また,原告は,被告が「会員情報管理システム」に著作権法15条2項が適用されると主張することは権利濫用又は公序良俗に反するなどとも主張するが,「会員情報管理システム」は,著作権法15条2項所定の要件を満たせば,職務著作として被告が著作者となるのであって,被告が原告に対して何らかの権利行使をしているものではないし,被告の主張いかんによって誰が著作者となるのかが左右されるものでもないから,本件はそもそも権利濫用が問題となる場面ではない。また,公序良俗とは,国家社会の一般的利益である公の秩序及び社会の一般的道徳観念である善良の風俗を意味し,公序良俗に反する事項を目的とする法律行為は無効とされるものであるが(民法90条),「会員情報管理システム」について著作権法15条2項が適用されて被告が著作者と認められること自体,何ら公序良俗に反するものではない。
したがって,権利濫用又は公序良俗違反であるという原告の主張は,その前提を欠くといわざるを得ず,およそ採用することができない。
(4)
よって,原告は「会員情報管理システム」の著作者ではないから,その余の点について判断するまでもなく,原告が著作者であることを前提とする請求の趣旨3項の確認請求,並びに原告の著作者人格権(著作権法18条〔公表権〕及び同法19条〔氏名表示権〕)の侵害,若しくは同法113条6項違反を理由とする請求の趣旨第4項の差止請求はいずれも理由がない。
[控訴審同旨]