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著作権判例セレクション

プログラム著作権は発注者か開発者のどちらに帰属するか/1135項の適用を認めなかった事例

平成220311日大阪地方裁判所[平成19()15556]
(前提事実)
〇 インターネット等を利用し,時事通信社や日本気象協会からニュース,天気予報等の情報を, 事業者が管理するサーバコンピュータ(入力サーバ)に送信し,入力サーバに送られた情報データを,配信サーバに転送し,配信サーバコンピュータから通信網を介して,市中に設置されたLED等電光表示器にデータを転送して表示器にニュース等の情報を表示させるサービスがあり(以下,このサービスを「短文情報配信サービス」),ASPと呼ばれる配信サービス事業者が同サービスに係る事業を行っていた(以下,この事業を「短文情報配信事業」)。
〇 当初,短文情報配信サービスは,NTTドコモのポケットベル(クイックキャスト)の通信網を使用して行われていたが, クイックキャストのサービスが廃止されるに伴い,NTTドコモのパケット通信サービス 「DoPa」の通信網を使用する方式へ移行されることとなった。原告は,DoPa通信網を使用するシステムをいくつか開発していたがピーアクロスの依頼を受け,DoPaの通信網を利用した短文情報配信サービスのためのシステムを開発した。同システムに使用する入力サーバ用のソフトウェアが「本件ソフトウェア」である。

2 本件ソフトウェアの権利の帰属(争点1)
被告は,原告が本件ソフトウェアを開発したのは,ピーアクロスからの発注によるものであり,当然,プログラム著作権はピーアクロスに移転されているはずである旨主張する(原告が上記経緯により,本件ソフトウェアを開発したこと自体争いはない。)。
しかし, ソフトウェアの開発を依頼したからといって, 当然に, ソフトウェアに係るプログラム著作権を譲渡するまでの合意をしたとはいえず, むしろ,証拠)によると,原告は,ピーアクロスに対し,本件ソフトウェアの使用許諾をしているが,この事実は,原告が,本件ソフトウェアに係るプログラム著作権を保有していることを前提とするものである。
被告が主張するような,原告からピーアクロスに対するプログラム著作権の譲渡を認めることはできず,現在も,原告が本件ソフトウェアに関するプログラム著作権を有していると認められる。
3 被告による本件ソフトウェアの複製(争点2)
前記のとおり,被告は,本件事業に使用するサーバを準備し,これに本件ソフトウェアをインストールしたことが認められるが,実際にインストールしたのは原告であり,上記インストールを原告の本件ソフトウェアに係るプログラム著作権を侵害する複製行為ということはできない。
したがって,被告が,その後,本件ソフトウェアの使用を継続しているものの,著作権法113条2項[注:現5]の適用もなく,被告の本件ソフトウェアの使用の継続のみをもって,本件ソフトウェアに関するプログラム著作権を侵害しているということはできない。
また,被告が,本件ソフトウェアを違法に複製した事実を認める証拠もない。
4 主位的請求のまとめ
前記3のとおり,原告は,本件ソフトウェアの著作権侵害を理由として,本件ソフトウェアの使用の差止,削除を求めることはできず,損害賠償についても同様である。
なお 原告は, 本件ソフトウェアの所有者であるから, 所有権に基づいて,本件ソフトウェアの使用差止等を請求することができるとも主張するが ,本件ソフトウェアは有体物ではなく,所有権の対象となるものではなく,主張自体失当である。