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著作権判例セレクション
編集著作権と素材の著作権の関係
▶平成27年3月12日東京地方裁判所[平成25(ワ)28342]▶平成28年2月24日知的財産高等裁判所[平成27(ネ)10062等]
(2)
上記認定事実を前提に本件著作物1の構成素材である論文の著作権の帰属について判断する。
原告事業団の設立当時の寄附行為には,財団に帰属する財産として「『生命の實相』等の著作権」と記載され,本件著作物1の編集著作権に限定する記載はない。また,上記(1)認定のとおりの本件著作物1の成立の経緯,本件著作物1の「生長の家」における位置付け,原告事業団の設立の目的等に照らせば,亡Aが原告事業団を設立するに際し,本件著作物1の構成素材である論文の著作権を自己に留保して編集著作権のみを原告事業団に移転する意思であったとはうかがわれない。
以上によれば,本件著作物1が編集著作物であるとしても,本件寄附行為による移転の対象である「生命の實相」の著作権には本件著作物1の構成素材である論文の著作権が含まれるものと解される。相続人らが関与した本件確認書及び著作権登録の内容や,原告事業団の設立後に原告事業団を著作権者として昭和49年契約等が締結されていること,亡A,相続人ら及び被告らが,亡Aに本件著作物1の構成素材である論文の著作権が留保されているとの主張をしてこなかったことも上記認定に沿うものである。
したがって,原告事業団は,本件寄附行為により,構成素材である論文の著作権を含む本件著作物1の著作権を取得したものと解される。
[控訴審]
前提事実記載のとおり,控訴人書籍は,頭注版第14巻,第25巻及び第30巻に収録された論文から成るものであり,頭注版は,それまでに「生命の實相」の題号を付して出版されていた著作物について,文中の単語の意義の注を付記したものであるから,控訴人書籍を構成する各論文は,被控訴人事業団の基本資産となった「生命の實相」に含まれる著作物であり,被控訴人事業団が上記各論文について著作権を有するものと認められる。
(3)
控訴人教文社の主張について
控訴人教文社は,編集著作権と素材の著作権は,それぞれ別個独立して譲渡の対象となるものであって,編集著作権が譲渡されたからといって,直ちに素材の著作権も譲渡されたと認定することはできず,著作権法61条の規定が,編集著作権と素材の著作権との関係についても,準用ないし類推適用されるべきであるところ,本件寄附行為には,「「生命の実相」の著作権」としか記載されておらず,素材の著作権については何ら言及されていないから,本件寄附行為により譲渡された著作権は編集著作物である「生命の実相」の編集著作権であり,素材の著作権はこれに含まれない旨主張する。
しかし,一般に,編集著作権とそれを構成する素材の著作権は,別に観念することができ,また,それぞれ別個独立して譲渡の対象となり得るものであるとはいえるが,編集著作権を有する者と素材の著作権を有する者が同一である場合に,編集物の著作権を譲渡するとき,編集著作権のみを譲渡する趣旨であるのか,それを構成する個々の素材の著作権を含め譲渡する趣旨であるのかは,個別具体的な契約締結に至る経緯,契約内容,その他の事情により,判断されるべきものである。著作権法61条2項を類推又は準用して,編集著作物に該当する編集物に係る著作権の譲渡契約において,編集物を構成する素材の著作権を譲渡する旨特掲されていないときは,これが譲渡人に留保されたものと推定するべきであるとする控訴人教文社の上記主張は独自の見解であって,採用の限りでない。
また,この点を措くとしても,前記(2)認定の各事情を総合すれば,亡Aは,本件寄附行為により,「生命の實相」の題号を付して戦前に出版された10種の書籍に係る著作権を,その素材である各論文の著作権を含め,被控訴人事業団に移転したものと認められる。
(4)
小括
以上によれば,被控訴人事業団は,昭和21年1月8日以降本件著作物1を構成する各論文の著作権を有しているものと認められる。
(略)
ウ 控訴人教文社は,編集著作物の出版については,編集著作権者と素材の著作権者の許諾を必要とするものであり,いったん双方の許諾の下に出版が許諾された後になって,素材の著作権者のみの意思表示で許諾の解約を認めることは不当であるから,民法544条1項により,編集著作権者と素材の著作権者の全員からの解約であるか,又は著作権法65条2項の準用ないし類推適用により,解約につき両者の合意が必要であると解すべきである旨主張する。
しかし,編集著作物を出版するについて,編集物を構成する素材の著作権者から使用許諾を受けるのみならず,編集著作権者からも使用許諾を受ける必要があるとしても,上記各使用許諾は法的には別個独立の契約であるから,編集物を構成する素材についての使用許諾を解約するにつき,その意思表示を契約当事者ではない編集著作権者と共に行わなければならない理由はない。
また,編集著作権者と編集物を構成する素材の著作権者は,著作権を共有しているわけではないから,編集物を構成する素材についての使用許諾を解約するにつき,共有著作権者ではない編集著作権者の同意を得なければならない理由はない。
控訴人教文社の上記主張は,いずれも独自の見解であって,採用の限りでない。