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著作権判例セレクション

楽曲の同一性ないし類似性を否定した事例

▶平成28519日東京地方裁判所[平成27()21850]▶平成28128日知的財産高等裁判所[平成28()10067]
()原告楽曲及び被告楽曲はいずれも同一の歌詞に曲を付したものです。

1 争点⑴(原告楽曲と被告楽曲の同一性ないし類似性及び依拠性)について
⑴ 原告楽曲及び被告楽曲の各楽譜につき,原告は別紙楽譜目録のとおり,被告は別紙被告主張楽譜のとおりである旨それぞれ主張するところ,前者は,各楽曲の終止音の高さが同じになるよう移調された点,被告楽曲の第1小節の8音の高さが同一である点等で後者と異なっており,後者に比し両楽曲の共通点が多いものとなっている。そうすると,前者により著作権等の侵害が否定されるとすれば後者によっても否定されるので,前者に基づく原告の主張の当否につきまず検討することとする。
⑵ 後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
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ウ 別紙楽譜目録における原告楽曲及び被告楽曲の旋律を対比すると,次のとおりである。
(ア) 両楽曲の旋律は,①第1フレーズの冒頭8音(歌詞「きめたいきめたい」の部分)がそれぞれ同一音程の連続であること(ただし,被告楽曲が原告楽曲より5度高い。),②第2フレーズ及び第5フレーズの最終音が同一の高さ及び長さであること,③第3フレーズの冒頭3音(歌詞「きのこ」の部分),第5,第6音(同「ポーズ」の部分)及び第8,第9音(同「きめ」の部分)がそれぞれ同一音程の連続であること(ただし,「きのこ」及び「きめ」部分は原告楽曲と被告楽曲で高さが異なる。),④第4フレーズの冒頭2音(歌詞「きの」の部分),第4,第5音(同「にょき」(1回目)の部分)及び第8,第9音(同「ハイ」の部分)がそれぞれ同一音程の連続であること(ただし,原告楽曲と被告楽曲で高さはいずれも異なる。),⑤第4フレーズに沖縄民謡風の旋律が用いられていること,以上の点で共通する。
(イ) 他方,上記以外の点,殊に,①第1フレーズの後半(歌詞「きめたいそー」の部分)が,原告楽曲では5音とも同一の高さであるのに対し,被告楽曲では一旦上昇した後に下降すること,②第2及び第5フレーズの冒頭(歌詞「バシッ」の部分)が,原告楽曲では1オクターブ近く上昇するのに対し,被告楽曲では同じ高さの2音(なお,被告主張楽譜では3度の上昇)であること,③第3フレーズが,原告楽曲では開始音から5度上昇した後に開始音の半音上まで下降するのに対し,被告楽曲では開始音から3回にわたり2度下降した後に開始音に戻ること,④第4フレーズが,原告楽曲では前半が上昇した後に開始音まで下降し,後半が下降した後に開始音の2度上まで上昇するのに対し,被告楽曲では前半が1音を除き同じ音程で,後半が5度下降する点で,両楽曲の旋律は相違する。
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⑶ 上記事実関係によれば,原告楽曲と被告楽曲の旋律(上記⑵ウ)は,旋律の上昇及び下降など多くの部分が相違しており,一部に共通する箇所があるものの相違部分に比べればわずかなものであって,被告楽曲において原告楽曲の表現上の特徴を直接感得することができるとは認め難い。また,両楽曲は,全体の構成(同ア),歌詞の各音に対応する音符の長さ(同イ)及びテンポ(同エ)がほぼ同一であり,沖縄民謡風のフレーズを含む点で共通するが,これらは募集条件により歌詞,曲調,長さ,使用目的等が指定されており(同オ),作曲に当たってこれに従ったことによるものと認められるから,こうした部分の同一性ないし類似性から被告楽曲が原告楽曲の複製又は翻案に当たると評価することはできない。
【これに対し,控訴人は,原告楽曲と被告楽曲のBPM(テンポ)がほぼ同じである点は,両楽曲のいかなる相違点をも打ち消すほどに,同一性を示す根拠となる旨主張する。
しかし,楽曲についての複製,翻案の判断に当たっては,楽曲を構成する諸要素のうち,まずは旋律の同一性・類似性を中心に考慮し,必要に応じてリズム,テンポ等の他の要素の同一性・類似性をも総合的に考慮して判断すべきものといえるから,原告楽曲と被告楽曲のテンポがほぼ同じであるからといって,直ちに両楽曲の同一性が根拠づけられるものではない。そして,上記で述べたとおり,両楽曲は,比較に当たっての中心的な要素となるべき旋律において多くの相違が認められることから,被告楽曲から原告楽曲の表現上の特徴を直接感得することができるとは認め難いといえる。他方,両楽曲のテンポが共通する点は,募集条件により曲の長さや歌詞等が指定されていたことによるものと理解し得ることから,楽曲の表現上の本質的な特徴を基礎づける要素に関わる共通点とはいえないのであって,上記判断を左右するものではない。
したがって,控訴人の上記主張は理由がない。
また,控訴人は,両楽曲が実質的に同一の楽曲であることは,両楽曲の歌と伴奏をそれぞれ入れ替えたもの(甲32及び33)が聴感上違和感なく再生できることから明らかであるとも主張するが,そのようなことが,両楽曲の同一性を直ちに根拠づけるものでないことは明らかであるから,甲32及び33によっても,上記判断が左右されるものではない。
その他にも控訴人は,原告楽曲と被告楽曲が実質的に同一の楽曲である旨をるる主張するが,以上説示したところに照らし,いずれも採用することができない。】
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⑸ 以上によれば,被告楽曲が原告楽曲の複製又は翻案に当たるとはいえないから,原告の著作権が侵害されたとは認められず,これを前提とする著作者人格権の侵害も認められない。したがって,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求は全て理由がない。

[控訴審同旨]
当裁判所も,被告楽曲が原告楽曲を複製又は翻案したものであるとは認められず,被控訴人が控訴人の原告楽曲に係る著作権及び著作者人格権を侵害しているとはいえないから,控訴人の被控訴人に対する前記の請求には理由がないものと判断する。その理由は,次のとおり補正するほかは,原判決に記載のとおりであるから,これを引用する。