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著作権判例セレクション

肖像写真の侵害性(vs.写真 vs.)

平成150226日東京地方裁判所[平成13()12339]平成161129日東京高等裁判所[平成15()1464]
() 「原告写真1」は,壁に大きいゴブラン織りの絵画が掛けられた室内で,顔をほぼ正面に向け,体を約45度の角度で左に向け,スーツの上にローブ(「本件ローブ」)を着用し,式帽をかぶり,直立したDの姿が撮されたカラー写真である。
「原告写真2」は,背景全体をぼかし,右端に彫像の一部を配置した室内で,スーツの上にの勲章(合計4個)(「本件勲章」)を着用し,正面を向いて直立したDの姿(膝から上)が撮されたカラー写真である。

2 本件ビラ写真は,原告写真1の複製物又は翻案物といえるかについて
本件ビラ写真は,原告写真1のうち,被写体であるDの上半身を切り抜いて,これを白黒写真としたものであるが,原告写真1に,上記の変更以外に特段の変更を加えていないのであるから,本件ビラ写真は原告写真1と実質的に同一というべきである。
したがって,本件ビラ写真は,原告写真1を複製したものである。
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4 原告写真1に対する同一性保持権,氏名表示権の侵害の有無について
前記2で認定したように,本件ビラ写真は,原告写真1について,その背景部分をカットし,白黒写真とするなど原告写真1の表現を改変していること,本件ビラ写真は,被写体であるDの肖像部分の上に文字,記号を重ねていること,本件ビラ写真が掲載されている本件写真ビラには,著作権者である原告の表示がないこと等が明らかである。
したがって,本件ビラ写真を掲載した本件写真ビラを作成し,公衆へ配布した被告Bの行為は,原告写真1について原告の有する同一性保持権及び氏名表示権を侵害する。
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(2) 上記認定した事実によれば,Cは,原告写真2の撮影に当たり,D及び本件勲章を引き立たせるため,背景,照明等に工夫を加えて撮影しているから,原告写真2には,Cの個性が表現されている。したがって,原告写真2は,Cの思想又は感情を創作的に表現したものということができ,著作物性を有する。
6 原告写真2についての複製物,翻案権,譲渡権,同一性保持権,氏名表示権侵害の有無について
(1) 当該著作物が先行する著作物を翻案したものであるというためには,当該著作物が先行著作物に依拠して作成されたものであり,かつ,当該著作物が,先行著作物の表現形式上の本質的特徴部分を直接感得できる程度に類似していることが必要である。ところで,写真の著作物については,写真に著作物としての創作性が付与されるゆえんが,撮影や現像における独自の工夫によって創作的な表現が生じ得ることにあるというべきであるから,当該著作物が,写真の先行著作物を翻案したか否かを判断するに当たっては,先行著作物が撮影された際に,創意工夫がされたことによる創作的な表現部分,すなわち,表現上の本質的特徴部分が,後の著作物に現れているか否かを対比検討して判断すべきである。
そこで,上記の観点から,本件ビラ絵と原告写真2とを対比する
(2) 争いのない事実等,証拠並びに弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
ア 原告写真2の特徴
原告写真2は,背景全体をぼかし,右端に彫像の一部を配置した室内で,スーツの上に本件勲章(合計4個)を着用し,正面を向いて直立したDの姿(膝から上)が撮されたカラー写真である。Cは,原告写真2の撮影に当たり,背景,構図,照明,光量,絞り等に工夫を加えて撮影していることから,原告写真2の特徴は,このような工夫をして撮影した個別的,具体的な表現そのものにある。
イ 本件ビラ絵の特徴
本件ビラ絵の特徴は,以下のとおりである。すなわち,本件ビラ絵は,①Dの上半身を線画で,手書きにより描いたものであること,②原告写真2におけるDの顔及び上半身の輪郭並びに目,鼻,口,耳,眼鏡,ネクタイ及び勲章の位置及び形状をそのとおり模写していること,③さらに,ローブ様の被服及び式帽を着用しているように描き加えたことに特徴がある。
ウ 本件ビラ絵と原告写真との対比
本件ビラ絵と原告写真2とは,Dの顔及び上半身の輪郭並びに目,鼻,口,耳,眼鏡,ネクタイ及び勲章の位置及び形状において,類似性が認められる。
 しかし,①原告写真2はDの表情,輪郭等,及び本件勲章が鮮明に写し出されているのに対し,本件ビラ絵は,Dの顔の表情や輪郭,本件勲章の形状の細部までは,正確に描写されていないこと,②原告写真2はカラーであるのに対し,本件ビラ絵はモノトーンであること,③原告写真2では,Dは式帽を着用していないのに対し,本件ビラ絵では式帽を着用していること,④原告写真2では,Dはスーツ姿であるのに対して,本件ビラ絵では,ローブ様のものを着用している点,⑤原告写真2は,背景の装飾品がぼかして撮影されているのに対して,本件ビラ絵は,背景が省略されている点等大きく相違する。
以上のとおり,本件ビラ絵は,本件写真2における,Dの顔の表情,輪郭等の具体的な表現上の特徴はすべて捨象されているのであって,本件写真2の表現形式上の本質的特徴部分を感得する程度に類似しているとはいえない。
エ 小括
 以上のとおりであって,本件ビラ絵を記載した本件絵ビラを作成,配布することは,原告写真2に対する複製権,翻案権,譲渡権,同一性保持権,氏名表示権を侵害しない。

[控訴審同旨]
(2) 本件ビラ写真は,1審原告写真1の複製物又は翻案物といえるか
本件ビラ写真は,1審原告写真1から被写体であるC[注:原審のDのこと。以下同じ。]の上半身部分を抜き出し,カラー写真を白黒写真としたものであり,上記の点以外に1審原告写真1に特段の変更を加えていないから,1審原告写真1を有形的に再製したもの(複製)というべきである。
1審被告日蓮正宗は,本件ビラ写真は,背景を欠いた上半身だけであり,しかも白黒写真であって,背景や構図における創作的表現や撮影者が工夫したとする照明,光量,絞り等にかかわる創作部分を何ら利用しておらず,本件写真ビラが批判の対象としたCを特定するために必要な肖像部分を抽出して利用しているにすぎないなどとして,本件ビラ写真は1審原告写真1の複製物に当たらないと主張し,1審被告Bは,本件ビラ写真は,1審原告写真1の創作的価値を利用しておらず,Cの肖像としての同一性を確保するために使用されているにすぎないから,著作権侵害には当たらないと主張する。しかしながら,一般に,肖像写真は,被写体である人物をどのように表現するかを中心として,写真表現における創意工夫がされるものであるから,複製か否かを判断するに当たっては,人物を表現した部分に重きを置いて,著作物である写真の創作的特徴が複製を主張される写真に再現されているかどうかを検討することが許されるというべきである。上記観点から,1審原告写真1と本件ビラ写真とを対比観察すると,本件ビラ写真は,比較的鮮明な白黒写真であって,1審原告写真1の肖像部分のカラー画像を白黒画像に変えただけのものであることを一見して看取し得るものである上,具体的な表現形式という点でも,1審原告写真1における人物のポーズや表情はもとより,顔の陰影,人物が着用しているローブの状態など,1審原告写真1の撮影者が照明や光量,絞り等の工夫をすることによって表現した創作部分の特徴は,カラー写真が白黒写真に変更された後も,なお,相当程度忠実に再現され,実質的に維持されていると認められる。したがって,本件ビラ写真は,カラーが白黒になり,背景及び被写体である人物の下半身がカットされていても,なお,1審原告写真1の複製物に当たるということを妨げない。
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2 1審原告写真1についての著作者人格権(同一性保持権,氏名表示権)の侵害について
上記1(1)のとおり,1審原告写真1は著作物と認められるものであるところ,本件ビラ写真は,同(2)のとおり,1審原告写真1について,背景を消去し,被写体であるCの上半身の肖像のみを表した白黒写真とする変更を加えている上,同(3)のとおり,肖像部分の上に,文字,記号を重ね,さらに,Cの発言内容を記載したものと受け取られる吹き出しを書き加えることによって,全体として,1審原告写真1の創作意図を損なうものとなっている。また,本件ビラ写真が掲載されている本件写真ビラには,著作者である1審原告が表示されていない。
したがって,1審原告の同意を得ることなく本件ビラ写真を掲載した本件写真ビラを作成し,公衆に配布することは,1審原告写真1について1審原告が有する同一性保持権及び氏名表示権を侵害する。
3 1審原告写真2についての著作権及び著作者人格権の侵害について
(1) 1審原告写真2の著作物性及び著作者について
当裁判所も,1審原告写真2は著作物性を有すると判断する。その理由は,原判決説示のとおりであるから,これを引用する。また,上記引用に係る原判決の認定及び争いのない事実に照らすと,上記1(1)と同様に,1審原告写真2の著作者は1審原告と認められる。
(2) 1審原告写真2についての複製権,翻案権,譲渡権,同一性保持権及び氏名表示権侵害の有無
当裁判所も,本件ビラ絵を掲載した本件絵ビラを作成し,公衆に配布する行為は,1審原告写真2についての複製権,翻案権,譲渡権,同一性保持権及び氏名表示権のいずれも侵害するものではないと判断する。その理由は,以下のとおり付加するほかは,原判決説示のとおりであるから,これを引用する。
1審原告は,1審原告写真2は,背景,照明,光量,絞り等の工夫のみならず,被写体であるCと大十字勲章の組合せや配置,ポーズ,表情等にも工夫が加えられているから,これらも表現形式上の本質的特徴部分に当たるとした上,1審原告写真2のうちの肖像部分を細部までトレースして作成された本件ビラ絵からは,1審原告写真2の上記本質的特徴部分が看取されるから,本件ビラ絵は1審原告写真2の複製物又は翻案物に当たると主張する。
しかしながら,本件ビラ絵が,1審原告写真2におけるCの肖像部分の輪郭等を手書きでなぞって線で表現するという表現形式を採ることによって,Cの顔の表情,輪郭等の1審原告写真2における具体的な表現上の特徴をすべて捨象し,それらの特徴を感得させないものとなっていることは,上記引用に係る原判決説示のとおりというべきである。そして,被写体である人物とその人物の装用品等の組合せや配置,人物のポーズ,表情等は,1審原告写真2のような肖像写真の撮影において,常に考慮される要素であるから,それらが具体的に表現された表現形式を抜きに,それ自体として写真の表現における本質的な特徴部分と評価すべきものではない。本件ビラ絵は,上記のとおり,写真を手書きの線による表現へと変更することによって,1審原告写真2における具体的な表現上の特徴がすべて捨象されているものであるから,1審原告写真2の表現上の本質的な特徴を直接感得させるものとはいえず,1審原告写真2の複製,翻案のいずれにも当たらないというべきである。
(3) 小括
以上のとおりであるから,本件ビラ絵を掲載した本件絵ビラを作成,配布する行為は,1審原告写真2の著作権及び著作者人格権を侵害するものではない。