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著作権判例セレクション

肖像写真の適法引用を認めなかった事例

平成150226日東京地方裁判所[平成13()12339]平成161129日東京高等裁判所[平成15()1464]
() 「原告写真1」は,壁に大きいゴブラン織りの絵画が掛けられた室内で,顔をほぼ正面に向け,体を約45度の角度で左に向け,スーツの上にローブ(「本件ローブ」)を着用し,式帽をかぶり,直立したDの姿が撮されたカラー写真である。

3 本件写真ビラに本件ビラ写真を掲載することは原告写真1の適法な引用といえるか等について
(1) 著作権法32条1項は,「公表された著作物は,引用して利用することができる。この場合において,その引用は,公正な慣行に合致するものであり,かつ,報道,批評,研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われるものでなければならない。」と規定している。すなわち,他人の著作物を引用して利用することが許されるためには,引用して利用する方法や態様が,報道,批判,研究など引用するための各目的との関係で,社会通念に照らして合理的な範囲内のものであり,かつ,引用して利用することが公正な慣行に合致することが必要である。
そこで,原告写真1を本件写真ビラに複製,掲載した行為が,適法な引用として許されるか否かについて,本件の事実関係に照らして検討する。
甲1によれば,以下のとおりの事実が認められる。
ア 本件写真ビラは,主として,原告,公明党及びDを批判ないし攻撃する内容の宣伝活動用のビラである。本件写真ビラの表面には,原告写真1を複製した本件ビラ写真が掲載されており,本件ビラ写真の大きさは,縦約17.5センチメートル,横約12.0センチメートルであり,本件写真ビラ全体の約15パーセントを占めている。
イ 本件写真ビラの表面には,「公明党は,創価学会の教義(日本を創価王国にして,トップのD氏が最高権力者になる)を実現するために作られた政党です。」,「あなたは,こんな政党や宗教団体に,日本の命運を握られてもよい,と思いますか?」,「NO=」などの文章が大きく,また,「国民の勇気と良識を,投票で示しましょう。」,「創価学会・公明党議員らが起こした事件の数々-電話盗聴事件・言論弾圧事件・替え玉投票事件・投票所襲撃事件・砂利船舶汚職事件・・・ほか多数= よく,こんなに悪い事をしましたね?」などの文章が小さく,いずれも横書きされ,さらに,本件ビラ写真のDの顔の直ぐ近くに,いわゆる吹き出しとして,「私は日本の国主であり大統領であり精神界の王者であり最高権力者である=」,「デージンも何人か出るでしょう。日本一の創価学会ですよ=」などと記載されている。
ウ 本件写真ビラの裏面には,「創価学会・公明党のトップ語録」,「これが創価学会のホンネです> 皆さん,この実態をご覧ください」などの文章が大きく,また,「学会・公明党が日本の命運を握る?」,「学会・公明党は一体の関係」,「学会のために政治権力が必要」,「D氏が目指す“最高権力者”」,「やがて創価王国を樹立?」,「反対者を怒鳴り,ぶっ叩く?」,「口八丁・手八丁の創価学会の謀略体質」,「その場かぎりの白々しい嘘」,「宗教者失格の生スピーチ」などの小見出しの下に,Dの各発言が合計37箇所掲載されている。
(2) 上記認定した事実に基づいて判断する。
本件写真ビラは,専ら,公明党,原告及びDを批判する内容が記載された宣伝用のビラであること,原告写真1の被写体の上半身のみを切り抜き,本件写真ビラ全体の約15パーセントを占める大きさで掲載し,これに吹き出しを付け加えていること等の掲載態様に照らすならば,原告の写真の著作物を引用して利用することが,前記批判等の目的との関係で,社会通念に照らして正当な範囲内の利用であると解することはできず,また,このような態様で引用して利用することが公正な慣行に合致すると解することもできない。
以上のとおりであるから,この点における被告らの主張は理由がない。
これに対して,被告らは,Dが正に直接発言したように表現するためには,原告写真1を引用することに合理性がある旨主張する。しかし,そのような表現上の効果があったとしても,そのことから,前記の認定,判断に消長を来すものということはできない。
(3) 被告Bは,本件において,原告写真1を引用したことは,フェアユースの法理により許される旨主張する。しかし,著作権法は,著作権とその公正な利用との調整を図るためには,法32条が具体的な要件を定めているのであって,同規定の趣旨と離れて,他人の著作物を自由に利用できると解することは相当であるとはいえない。この点の同被告の主張は,失当である。
(4) したがって,原告の許諾を得ずに,本件ビラ写真を掲載した本件写真ビラを作成,配布することは,原告写真1に対する原告の複製権及び譲渡権を侵害する。

[控訴審同旨]
イ 1審被告らは,本件写真ビラは,1審原告,C[注:原審のDのこと。以下同じ。]及び公明党を批判する目的でCの肖像を必要な範囲で引用しているものであるから,著作権法32条1項に規定する適法な引用として許容されるものであると主張する。しかしながら,本件写真ビラは,ビラ自体としては,1審原告,C及び公明党を政治的に批判することを目的としたものであるとしても,そこに掲載された本件ビラ写真は,ビラの表面に大きく目を引く態様で印刷されている上,1審原告写真1の被写体の上半身部分のみを抜き出し,1審原告写真1の創作意図とはむしろ反対の印象を見る者に与えることを意図したことをうかがわせる「私は日本の国主であり大統領であり精神界の王者であり最高権力者である!」,「デージンも何人か出るでしょう。日本一の創価学会ですよ!」などの揶揄的な内容の吹き出しを付したものであるから,このような態様による写真の掲載を,公正な慣行に合致し,かつ,政治的に批判する批評の目的上,正当な範囲内で行われた引用と解することはできない。
本件ビラ写真を本件写真ビラに掲載することは,著作権法32条1項によって許される適法な引用には当たらない。
ウ 1審被告らは,また,本件ビラ写真を本件写真ビラに掲載したことは,フェアユースの法理の下で,正当な引用として許される旨主張する。しかしながら,著作物を引用して利用する場合における著作権と著作物の公正な利用との調整に関しては,著作権法32条において,引用が著作物の適法な利用として許されるための要件を具体的に規定していると解されるから,同規定の趣旨から離れて,米国著作権法上のフェアユースの法理の適用により,他人の著作物を自由に引用して利用することができると解することは相当ではない。この点に関する1審被告らの主張は,採用することができない。