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著作権判例セレクション

編集著作物性,編集著作権の侵害性(雑誌中の特集記事の改変が問題となった事例)

平成140328日東京地方裁判所[平成10()13294]
()  本件における原告らの主張は,被告からの依頼に基づいて,原告会社が美容業界誌「プロフェッショナル東京」(「本誌」)の第20号(「本号」)を編集し,原告会社の代表者である原告Aが,本号中の株式会社Tに関する記事を執筆したところ,①被告が同記事中の文章表現や説明文の配置等を改変し,本号を増刷して株式会社Tに販売した行為が,原告会社が本号について有する編集著作権及び著作者人格権を侵害し,原告Aが同記事について有する著作権及び著作者人格権を侵害するものであり,②本号中のタイトルロゴ・目次レイアウト等を,被告が,原告会社が編集を担当していない本号の後の号において引き続き本誌に使用した行為が,原告会社に対する債務不履行又は不当利得に該当するとして,損害賠償等の支払を求めた事案である。

2 争点1(原告会社の著作者人格権及び編集著作権の侵害の成否)について
(1)上記の認定事実を前提として,原告会社の著作者人格権及び編集著作権侵害の成否について判断する。
著作権法12条1項は,「編集物(データベースに該当するものを除く。以下同じ。)でその素材の選択又は配列によって創作性を有するものは,著作物として保護する。」と規定するところ,編集著作物に該当する具体的な編集物に記載,表現されているもののすべてが編集著作権の対象となるものではなく,編集著作権の対象として,その選択,配列の創作性が問題とされる素材が何であるかは,具体的な事案に即して当該編集物の性質,内容によって定まるものである。そして,定期刊行物である雑誌についていえば,編集著作権は,個別の記事を構成する文章や写真の著作権と区別して観念することができるものであるところ,この場合に編集著作権の対象となるのは,当該号全体を通じての主題(特集号など)を決定し,掲載する記事やグラビア等の写真の主題を定め,掲載する個別の記事,写真,イラスト等を取捨選択して,その配列等を決定するという編集者の知的創作活動の結果としての,雑誌における全体的構成,記事,写真等の選択,配列であるというべきである。
これを本件についてみると,本誌は,季刊の美容業界誌であり,本件との関係において,本号で選択・配列の創作性の素材として編集著作権の対象となるのは,「美容室 TAYA」チェーンを展開する株式会社T及びその代表取締役であるCを紹介する内容の記事を特集記事として雑誌の中核となる部分に一定の頁数を配し,同社の履歴,Cの経歴等,同社の代表的美容師の経歴等を説明し,同社の美容室において使用されている化粧品やその経営に係る各美容室(サロン)を紹介する内容の記事及びこれらに関する写真を配列した点にあるものというべきである。すなわち,本号における本件特集記事は,株式会社Tを対象とする特集であることを示す扉頁(本号20頁)以下,同社の履歴(同21頁),Cの経歴・人物(同22,23頁),同社を代表する3人の美容師の経歴等(同24~29頁),同社の作品である髪型(同26~43頁),同社の美容室において使用されている化粧品(同44,45頁)及びその経営に係る各美容室(サロン)(同132,133頁)を文章及び写真により紹介するものであるが,これらの一定の主題の下にまとめられた文章及び写真の,選択及び配列に編集著作物としての創作性が認められるものということができる。したがって,記事中の個々の文章表現や個別の写真に付された説明文の表現内容,配置等は,編集著作権の対象となるものではない。
そうすると,本件において原告会社が編集著作物についての著作者人格権及び編集著作権の侵害として主張する改変部分については,いずれも,個々の文章表現や個別の写真に付された説明文の表現内容,配置に関するものであって,編集著作物の対象としての素材の選択・配列を改変するものではないから,そもそも編集著作物についての著作者人格権の侵害や編集著作権の侵害を問題とする余地はないというべきである。
すなわち,本号の表紙見出し部分の改変(別紙変更一覧表No.1)は,株式会社Tの店頭公開の案内記事の一環として表紙に見出しとして,「特集/九月の美酒と風 美容室TAYA,9月中旬株式の店頭公開!! 業界初サロンを企業にした三代目 C。」と記載してあったものから,「9月」及び「美容室TAYA,9月中旬株式の店頭公開!!」の部分を削除したという点であるが,このような改変は,個別の文章の表現に関するものであって,編集著作権の対象となる素材の選択・配列を改変するものではないから,編集著作物についての著作者人格権の侵害や編集著作権の侵害が問題となるものではない。また,化粧品説明文部分の改変(別紙変更一覧表No.3233,35)も,株式会社Tの美容室において使用されている化粧品を紹介する記事において一部の化粧品の写真に付された説明文につき,その配置を変更し(同一覧表のうち,No.32「クラリファイング シャンプー」の部分とNo.33「リーブ・イン・コンディショナー」の部分),あるいは削除した(同一覧表のうち,No.34DeFrizz」の部分とNo.35「ブリリアント」の部分)という点も,選択,配列の創作性が問題とされる素材には当たらない個別の写真に付された説明文の表現内容,配置に関するものであって,編集著作物についての著作者人格権の侵害や編集著作権の侵害が問題となるものではない。
したがって,原告会社のいう編集著作物についての著作者人格権侵害の主張は,そもそも編集著作権の対象にならない部分に関するものであるから,原告会社の主張はこの点においてすでに失当である。
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3 争点2(原告Aの著作者人格権及び著作権侵害の成否)について
(1)原告Aは,被告が本号の増刷に際して,本件記事のうち,別紙変更一覧表「著作権侵害の主張」欄に◎印を付した箇所(No.11,12,3133,39の部分)について,同表記載のとおり文章を変更した行為が,原告Aの有する著作者人格権の侵害に該当する,と主張する。
そこで検討するに,原告Aが著作者人格権侵害をいう上記部分は,いずれも著作物性を認めるに足りる創作性を有しないというべきである。すなわち,別紙変更一覧表No.11,12の部分は,株式会社Tの平成9年9月の店頭公開予定という事実について伝えるものであり,だれが表現してもこのような文章にならざるを得ず,「9月」をとりあげて表現した点をもって創作性を有すると認めることもできない。また,同No.3133の部分は,化粧品の説明文という実用的な内容の文章である上,原告Aは,同部分については,化粧品についてのパンフレットを参考に,文章自体も一部引用してこれを作成したことが認められ(原告本人兼原告会社代表者A,弁論の全趣旨),たとえ原告Aが同部分につき加筆して文章を作成したとしても,同原告により著作物性を認めるに足りる創作性が付加されたと認めることはできない。No.39の部分も,株式会社Tの経営する美容室(TAYA INTERNATIONAL 原宿店)について,所在地,電話番号,店長名,スタッフ数,料金,営業時間等の事項を記載したにすぎないから著作物性を認めることはできない。
したがって,原告Aのいう著作者人格権侵害の主張は,そもそも著作権の対象にならない部分に関するものであるから,原告Aの主張はこの点においてすでに失当である。