Kaneda Legal Service {top}

著作権判例セレクション

リレーショナル・データベースの著作物性及び侵害性を認定した事例

平成140221日東京地方裁判所[平成12()9426]
()以下参照(前提事実)
『(4)データベースについて
ア 原告データベースは,マイクロソフト社制作に係る「アクセス(Access)」を用いて作成されている。「アクセス」は,いわゆるリレーショナル・データベースを開発,維持するために用いられるデータベースソフトである。リレーショナル・データベースは,データベースの情報の単位であるレコードを別のレコードと関連付ける処理機能を持つデータベースである。
イ アクセスで作成されるデータベースにおいて,入力される情報はテーブルと呼ばれる表に格納されていく。テーブルのうち,入力された情報が格納されるテーブルをエントリーテーブルといい,頻繁に使用される情報(例えば地名や駅名等)や検索に用いられる情報が格納されるテーブルをマスターテーブルという。テーブルは,さらに各フィールド項目に細分される。各フィールド項目においては,格納されるデータの種類及び型(テキスト,数値,通貨,Yes/Noなど)が決められている。
ウ テーブルの各フィールド項目に入れられるデータをレコードという。各テーブルはフィールド項目が決定された後,具体的なレコードが入力されていく。
エ リレーショナル・データベースでは,テーブルを多数作成するが,テーブル間の関連付けのためには,あるテーブルのあるフィールド項目を他のテーブルのあるフィールド項目と一致させる必要がある。これにより,新たなテーブルを作らないで,既存の複数のテーブルから抽出したいフィールド項目だけを効率的に選択することができる。
オ データベースでは,テーブルに格納されているデータをより速く検索,抽出することが重要であり,そのため,フィールド項目の中から,テーブルに格納されている各情報を識別できるようにするためのフィールド項目を選択することが必要になる。この選択されたフィールド項目のことを主キーという。主キーを設定したフィールド項目には,重複するデータを入力することはできない。しかし,1つのフィールド項目だけでは情報を特定できない場合,複数のフィールド項目を組み合わせて主キーにすることができる。』

(5)原告・被告各データベースについて
1 争点1(原告データベースが著作権法にいうデータベースの著作物に該当するか)
(1)著作権法2条1項10号の3は,データベースとは「論文,数値,図形その他の情報の集合物であつて,それらの情報を電子計算機を用いて検索することができるように体系的に構成したものをいう。」と規定し,同法12条の2第1項は「データベースでその情報の選択又は体系的な構成によつて創作性を有するものは,著作物として保護する。」と規定する。このように,データベースとは,情報の集合物を電子計算機を用いて検索することができるように体系的に構成したものをいうのであるところ,前記前提となる事実によれば,原告データベースは,データベースの情報の単位であるレコードを別のレコードと関連付ける処理機能を持つ「リレーショナル・データベース」と呼ばれるものである。リレーショナル・データベースにおいては,入力される情報はテーブルと呼ばれる表に格納され,各テーブルはフィールド項目に細分され,あるテーブルのあるフィールド項目を他のテーブルのあるフィールド項目と一致させてテーブル間を関連付けることにより,既存の複数のテーブルから抽出したいフィールド項目だけを効率的に選択することができるのであるから,情報の選択又は体系的な構成によってデータベースの著作物と評価することができるための重要な要素は,情報が格納される表であるテーブルの内容(種類及び数),各テーブルに存在するフィールド項目の内容(種類及び数),各テーブル間の関連付けのあり方の点にあるものと解される。
(2)そこで,原告データベースの創作性について検討するに,前記前提となる事実によれば,原告データベースは,新築分譲マンション開発業者等に対する販売を目的とするものであり,同データベースを用いて,新築分譲マンションの平均坪単価,平均専有面積,価格別販売状況等を集計したり,検索画面に一定の検索条件を入力して,価格帯別需給情報等の情報を,表やグラフのような帳票形式で出力したりすることができるものである。そして,原告データベースは,別紙図1のとおりの構造を含むと認められるところ,そのテーブルの項目の内容(種類及び数),各テーブル間の関連付けのあり方について敷衍して述べると,PROJECTテーブル,詳細テーブル等の7個のエントリーテーブルと法規制コードテーブル等の12個のマスターテーブルを有し,エントリーテーブル内には合計311のフィールド項目を,マスターテーブル内には78のフィールド項目を配し,各フィールド項目は,新築分譲マンションに関して業者が必要とすると思われる情報を多項目にわたって詳細に採り上げ,期分けID等によって各テーブルを有機的に関連付けて,効率的に必要とする情報を検索することができるようにしているものということができる。すなわち,客観的にみて,原告データベースは,新築分譲マンション開発業者等が必要とする情報をコンピュータによって効率的に検索できるようにするために作成された,上記認定のとおりの膨大な規模の情報分類体系というべきであって,このような規模の情報分類体系を,情報の選択及び体系的構成としてありふれているということは到底できない。加えて,他に原告データベースと同様の情報項目,体系的構成を有するものが存在するとも認められないことは,原告データベースを含む構造(別紙図1)をMRC社のデータベースが含む構造(別紙図3),不動産月報,不動産の表示規約),株式会社東京カンテイの新築マンション詳細情報(1)等と比較精査しても明らかである。
したがって,原告データベースが含む構造(別紙図1)は,その情報の選択及び体系的構成の点において,著作権法12条の2にいうデータベースの著作物としての著作物性を認めるに足りる創作性を有するものと,認めることができる。
(3)被告らは,原告データベースの情報項目等の選択はありふれていると主張するが,原告データベースが含まれる構造をみても,7個のエントリーテーブル内には合計311のフィールド項目を,12個のマスターテーブル内には78のフィールド項目を配し,各フィールド項目は,新築分譲マンションに関して業者が必要とすると思われる情報を多項目にわたって詳細に採り上げたものと認められるのであって,これをセットとしてみたとき,創作性がないとはいえない。また被告らは,原告データベースが含まれる構造とMRC社のデータベースが含まれる構造との同一性を指摘し,乙35を提出するが,原告データベースがMRC社のデータベースと共通する構造を含むとしても,原告データベースが含まれる構造の全体とMRC社のデータベースが含まれる構造とを比較すると,原告データベースが含まれる構造に比べてMRC社のデータベースが含まれる構造は単純なものといわざるを得ない。すなわち,原告データベースが含まれる構造は,上記のとおり,種々のテーブルを持ち,400に迫る多数のフィールド項目や多種多様な関連付けを持つ情報分類体系となっているから,その全体をみれば,情報項目等の選択の点に関するほか,体系的構成の点における創作性も優に認められるというべきである。つまり,個々のテーブル,フィールド項目や関連付けに着目するのではなく,テーブル間の多種多様な関連付けなどの全体を総体としてみれば,そこに創作性を認めることが可能である。被告らの主張は採用できない。
また被告らは,原告は単に「アクセス」を使ってリレーショナルデータベースを構築したことを述べるにすぎず,体系的構成の点に創作性はないと主張する。
たしかに,当該データベースが取引されると考えられる業界の状況や先行データベースとの関係等の制約から,当該業界で情報として必須とされる項目は限られてくると考えられるから,業界で通常必須とされる情報項目を設定したにすぎないような,多くの項目を含まないデータベースであれば,単に「アクセス」というコンピュータソフトを使用してその業界一般の情報項目を設定して情報を分類する体系を作成したにすぎないとして,著作物性を否定される場合もあり得よう。しかしながら,原告データベースが含まれる構造は,上記認定のとおり,7個のエントリーテーブル内には合計311のフィールド項目を,12個のマスターテーブル内には78のフィールド項目を配し,各フィールド項目は,新築分譲マンションに関して業者が必要とすると思われる情報を多項目にわたって詳細に採り上げ,期分けID等によって各テーブルを有機的に関連付けて,効率的に必要とする情報を検索することができるようにしているものであるから,かような規模の情報分類体系について,マンション業界のだれであっても「アクセス」を使用すれば同じように作成することができるとは到底いえない。したがって,原告データベースは,著作物性を認めるに足りる創作性を十分肯認することができるというべきである。つまり,これだけ多数のテーブル,フィールド項目,関連付けを,素材となるデータも含めて全体としてみると,著作物性を認めるに足りる創作性を否定することはできないというほかはない。被告らの主張は採用することができない。なお,具体的には,以下のとおりである。
ア テーブル間の関連
被告らは,テーブル間の関係は,各テーブルに格納されるデータの性質によりおのずから決定されるのであり,被告データベースのテーブル構成及び関連付けは,変動要素のある情報とそうでない情報を分けるというデータベース構築の基本的な考え方に基づいて作成されたものにすぎず,この部分に対応する原告データベースについて,原告が主張するような著作物性を肯定するに足りるほどの創作性はないと主張する。そして例えば,PROJECTテーブルと詳細テーブルとの関係について,被告データベースにおいてPROJECTテーブルと詳細テーブルに物件名を分けて格納するようにした理由は,格納するデータの性質及び変動要素を基準としているのであって,このようなテーブル設定に,著作物性を認めるに足りるほどの創作性はないと主張する。
しかしながら,この点は,証拠及び弁論の全趣旨によれば,同業他社のMRC社のデータベースにおいてもこのような構成はとられておらず,他に同様の構成をとっている同業他社のデータベースが存在することも認められないし,総合的体系の一部をなす一つ一つの要素を別個に取り出してきて創作性の有無を論じるのはそもそも相当でない。したがって,たとえ変動要素とそうでない要素とを分けるという発想がデータベース構築の基本にあり,原告データベースが同発想に基づいて構築されていたとしても,これをもってただちに原告データベースの創作性を否定することはできないというべきである。被告らの主張を採用することはできない。PROJECTテーブルと詳細テーブルとの関係,詳細テーブルと住戸一般テーブルとの関係,詳細テーブルと広告テーブルの関係,詳細テーブルと申込テーブルの関係,詳細テーブルと月報タイプテーブルの関係,詳細テーブルと月報価格テーブルの関係についていう被告らの主張も,これと同様の理由により,採用することができない。
イ マスターテーブルについて
また被告らは,マスターテーブルとは,情報項目として繰り返し使用される項目を独立したテーブルに格納するものであって,データベース構築の基本的な考え方であるから,著作物性を認めるに足りるほどの創作性はないと主張する。たしかに,単にマスターテーブルを設定すること自体については,そのようにいうことができる。しかし,本件における12個のマスターテーブルは,上記認定のとおりの規模をもつ原告データベースの総合的体系の中の一部に位置づけられて機能するものであるから,マスターテーブルの種類及び数,各マスターテーブルのフィールド項目,その関連付け等によって果たす機能を,全体の情報分類体系中における位置付けから評価して創作性を考えるべきなのであって,個々のマスターテーブルのみを取り出して創作性を論じるのは相当でないというべきである。したがって,被告らの主張を採用することはできない。
5)以上のとおりであるから,原告データベースについては,全体としてみれば,情報項目の選択及び体系的構成のいずれの点においても,著作権法にいうデータベースの著作物に該当すると判断するに足りる,創作性を肯定することができる。
2 争点2(被告データベースが原告データベースの複製であり,その著作権を侵害しているか)
〔争点2(1)被告データベースが原告データベースに依拠して作成されたものか〕
(1)前記前提となる事実に証拠を総合すれば,本件の事実経過として,以下の事実を認めることができる。
()
(2)被告データベースの内容は,上記のとおり,別紙図2のとおりの構造を含むと認められるところ,前記前提となる事実に証拠及び弁論の全趣旨を総合して,このような被告データベースを含む構造と原告データベースを含む構造とを,テーブルの内容(種類及び数),各テーブルに設定されたフィールド項目の内容,各テーブルの関連付けのあり方について対比すると,その結果は,以下のとおりであると認められる。
()
エ 以上ア~ウによれば,被告データベースは,テーブルの内容(種類及び数),各テーブルに存在するフィールド項目の名称,テーブル間の関連付けのすべての点からして,原告データベースの構造の一部分とほぼ完全に一致すると認められる。なお,被告らは,被告データベースにあって原告データベースにないものとして,6個のマスターテーブル(LAW4LAW8テーブル,状況マスターテーブル)や,その他いくつかのフィールド項目がある旨主張するが,これをア~ウで認定した一致部分の規模と比較するならば,ごく僅かの相違にすぎないと評価すべきであるから,上記のように,被告データベースが原告データベースの構造の一部分とほぼ完全に一致するといって妨げないというべきである。
(3)また,両データベース間で素材とする情報が重なっているかどうかをみるに,証拠及び弁論の全趣旨によれば,被告データベースに格納されている具体的なデータについて,以下の事実が認められる。
()
(4)上記の(1)~(3)によれば,被告データベースが素材とする情報が原告データベースと重なっており,制作されたテーブルの内容(種類及び数),各テーブルに設定されたフィールド項目の内容,各テーブル間の関連付けのあり方のすべての点において共通しているということができる。
(5)以上を総合すれば,被告データベースは,原告データベースに依拠して作成されたというべきであって,原告データベースを含む構造は,被告データベースを含む構造とその内容の点で同一であるといわなければならない。
(6)被告らは,データベース作成日時の違い,テーブルの数や種類の違い,関連付けの違い,データ量の違いの各点を指摘し,原告データベースと被告データベースとは,その相違点からみて,別個の著作物であると主張するが,以下に述べるとおり,採用することができない。
()
〔争点2(2)原告データベースのうち被告データベースと共通する情報及び構成が,著作物性を認めるに足りる創作性を有するか〕
(1)原告データベースにおいて,被告データベースの構造と共通し,被告らが原告データベースの当該部分を複製したと認められる部分(以下「原告データベース被複製部分」という。)は,争点2(1)についての判断において認定した事実を整理すれば,以下のとおりである。
ア テーブルは,7個のエントリーテーブル(PROJECTテーブル・詳細テーブル・広告テーブル・住戸一般テーブル・申込テーブル・月報タイプテーブル・月報価格テーブル)と12個のマスターテーブル(構造reportテーブル・PAPERテーブル・TYPEテーブル・法規制コード1テーブル・法規制コード2テーブル・LAW3テーブル・KAKAKUテーブル・all LINEテーブル・all TRAFテーブル・PREFテーブル・TOWNテーブル・ANMテーブル)である。
イ フィールド項目は,PROJECTテーブル110フィールドのうち65フィールド,詳細テーブル92フィールドのうち79フィールド,住戸一般テーブル36フィールドのうち29フィールド,広告テーブル33フィールドのうち30フィールド,月報タイプテーブル17フィールドのうち13フィールド,申込テーブル13フィールドのうち7フィールド,月報価格テーブル10フィールドのうち6フィールド,all LINEテーブル・TOWNテーブル・ANMテーブル8フィールドのうち6フィールド,all TRAFテーブル6フィールドのうち4フィールド,PREFテーブル9フィールドのうち7フィールド及びその他のテーブル内の全フィールドである。
ウ テーブル相互間の関連付けについては,以下のとおりである。
(ア)PROJECTテーブルの「PROJECT ID」フィールドの,詳細テーブルの「PROJECTID」フィールドとの関連付け
(イ)PROJECTテーブル「構造」フィールドの,構造reportテーブル「CODE」フィールドとの関連付け
(ウ)PROJECTテーブル「法規制1-1」・「法規制1-2」・「法規制1-3」フィールドの,法規制コード1テーブル「法規制コード」フィールド及びLAW3テーブルの「LAW1」フィールドとの関連付け
(エ)PROJECTテーブル「法規制2-1」・「法規制2-2」・「法規制2-3」フィールドの,法規制コード2テーブル「法規制コード」フィールド及びLAW3テーブルの「LAW1」フィールドとの関連付け
(オ)PROJECTテーブル「路線1」「路線2」「路線3」フィールドの,all TRAFテーブル「TRAF1」フィールドとの関連付け
(カ)PROJECTテーブル「行政区分コード」フィールドの,TOWNテーブル「JCODE」フィールドとの関連付け
(キ)詳細テーブル「期分けID」フィールドの,広告テーブル「期分けID」,住戸一般テーブル「期分けID」,申込テーブル「期分けID」,月報タイプテーブル
「期分けID」,月報価格テーブル「期分けID」の各フィールドとの関連付け
(ク)住戸一般テーブル「間取り」フィールドの,TYPEテーブル「TypeCode」フィールドとの関連付け

(ケ)広告テーブル「媒体名」フィールドの,PAPERテーブル「BCODE」フィールドとの関連付け
(コ)月報タイプテーブル「間取りコード」フィールドの,TYPEテーブル「TypeCode」フィールドとの関連付け
(サ)月報価格テーブル「価格帯コード」フィールドの,KAKAKUテーブル「KakakuCode」フィールドとの関連付け
(2)そこで,原告データベース被複製部分の創作性について検討するに,被複製部分のテーブルの項目の内容(種類及び数),各テーブル間の関連付けのあり方についてみると,この部分だけでも,PROJECTテーブル,詳細テーブル等の7個のエントリーテーブルと法規制コードテーブル等の12個のマスターテーブルを有し,エントリーテーブル内には合計229のフィールド項目を,マスターテーブル内には68のフィールド項目を有しており,期分けID等によって有機的に関連付けられていて,十分効率的に必要とする情報を検索することができるといえる。すなわち,客観的にみて,原告データベース被複製部分のみをとっても,新築分譲マンション開発業者等が必要とする情報をコンピュータによって効率的に検索できるようにするために作成された,膨大な規模の情報分類体系といわなければならず,このような規模の情報分類体系を,情報の選択及び体系的構成としてありふれているということは,到底できない。MRC社のデータベースが含む構造(別紙図3),不動産月報(乙1),不動産の表示規約(乙33),株式会社東京カンテイの新築マンション詳細情報(1)(乙34)等と比較精査しても,原告データベース被複製部分に類する情報分類体系が存在するとは認められない。
したがって,原告データベースのうち被告データベースと共通する情報及び構成が著作物性を認めるに足りる創作性を有するといって妨げない。
4 結論
以上によれば,被告データベースは原告データベースを複製したものであり,原告の有する同データベースの著作権(複製権)を侵害するものと認めるのが相当である。
よって,中間判決として主文のとおり判決する。