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著作権判例セレクション

イラストの下請負契約

▶平成291130日東京地方裁判所[平成28()23604]
事案に鑑み,争点⑶及び⑸から判断する。
1 争点⑶(原告デザインの被告による使用又は改変に対する原告の承諾の有無)について
⑴ 括弧内の証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
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⑵ 上記⑴ア及びウの認定事実によれば,被告が原告に依頼したのは食品製造会社等が商品の包装において使用するデザインであること,そのような包装デザインについては,原告が被告に提出した後に被告が顧客である食品製造会社等にデザインを提案するが,その後,顧客が被告に対して修正等の指示を出すことがあり,その場合,被告は顧客の承諾等を得るまでデザインを修正し,複数回の修正がされることも多いこと,原告は被告から包装デザインの依頼を受けるようになる前から,デザイン会社から顧客に包装デザインが提出された後に顧客の指示によりデザインの修正が必要となることがあることやこうした場合に原告に連絡がなければ,原告以外の者が修正を行うことになることを認識していたことを認めることができる。また,前記⑴認定事実によれば,原告が被告に提出したデザインはその後被告が修正することができた。そうすると,原告が作成し被告に提出していた包装デザインについては,その提出後に顧客の指示等により修正が必要となることが当然にあり得るというものであったのであり,かつ,原告は,このことを認識し,また,原告以外の者が上記デザインの修正をすることができることも認識していたといえる。他方,原告と被告間で,原告が被告にデザインを提出した後の顧客の指示等による上記修正について,何らかの話がされたり,合意がされたりしたことを認めるに足りる証拠はない。
そして,前記⑴オの認定事実によれば,原告は,写真の使用権につき意識していて,一般に著作権に関する権利関係が生じ得ることを理解していたことがうかがわれるところ,前記⑴エ,カ~コの認定事実のとおり,原告は,原告以外の者によって原告デザインに何らかの改変がされたことを認識していながら,被告から依頼されて継続的に包装デザインを作成して被告に提出し,更には被告に対して新たな仕事を依頼し,デザイン料の改定を求めるなどの要求はしたものの,改変について何らの異議を唱えず,又は,被告においてデザインを改変したことを明示的に承諾するなどしていた。原告が改変を承諾していなかったにもかかわらず原告デザインの改変に対して被告に異議を唱えることができなかった事情やデザインの改変を真意に反して承諾しなければならなかった事情を認めるに足りる証拠はない。
以上によれば,原告は,被告からの依頼に基づいて作成された原告デザインにつき,被告による使用及び改変を当初から包括的に承諾していたと認めることが相当である。
⑶ これに対し,原告は,原告と被告の間で契約書を作成しておらず,注文書,請求書等においても著作権に関する記載がないこと,②デザイン料は1点当たり1万5000円程度であって改変の許諾を前提とするものと考え難いこと,③原告はデザイン作成のたびに修正等がある場合は依頼をするように伝えていたこと,④被告が原告の著作権を侵害した包装デザインを見つける都度,原告がこれを購入して写真撮影して証拠化していたこと,原告が異議を述べなかったのは,早く納品するため,仕事の依頼を減らされた状況において原告が被告との関係を悪化させないようにするためという事情によることを主張し,また,⑥デザインの作成等の仕事を多数依頼することを条件に承諾していたとの趣旨を供述し,包括的な改変の承諾を否定する。
上記①については,著作権に関する承諾等は必ずしも文書によりされるものとは限らないから,そうした記載がされた文書がなければ改変の承諾がないと解することはできない。上記②については,本件の証拠上,改変を前提とする場合の通常のデザイン料が明らかでなく,原告の主張する評価を採用し難い。上記については,前記⑴イ及びウの認定事実によれば,原告は,被告にデザインの原案を提出した段階で修正等があれば連絡するよう伝えていたものであって,顧客に対する提示案が固まるまでの間に修正等がある場合にその作業を原告に依頼するよう求めていたにすぎないから,上記提示案が固まった後の改変についても原告の承諾が必要であったと直ちに認めることはできない。上記については,仮にそのとおりであるとしても,前記⑴エの認定事実によれば,原告以外の者による改変を平成25年8月~9月頃までに把握したのであるから,原告が改変を問題と考えていたのであれば,その証拠化後に何らかの異議を唱えるのが通常であるというべきであるところ,前記⑴エ~コの認定事実のとおり,本件訴訟の提起に至るまで,原告は改変について何らの異議を唱えていない。上記及びについては,前記⑴エの認定事実によれば,平成25年8~9月頃から仕事量が激減してその状況が好転しなかったものであり,また,証拠によれば,遅くとも平成28年1月頃からは仕事量とデザイン料の不均衡を理由に被告からの依頼を断るようになったと認められ,異議を述べる障害となる事由が解消ないし軽減したということができるにもかかわらず,原告は,デザイン料の改定を求めるなど被告に対して書面をもって一定の要求をする一方で,原告デザインの改変について本件訴訟の提起に至るまで何らの異議も唱えていない。
以上のことからすれば,原告の主張又は供述する上記①~⑥の事情は前記⑵の認定を左右しない。したがって,原告の主張は採用できない。
⑷ 以上によれば,原告デザインの被告による使用及び改変につき原告が承諾していたと認められるから,その余の点を判断するまでもなく,原告デザインに係る著作権侵害がないことが明らかである。