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著作権判例セレクション

「裁判手続のため」の複製(法42条1項)の適用を認めた事例

平成291130日東京地方裁判所[平成28()23604]
2 争点⑸(原告絵画の複製の裁判手続における必要性及び相当性)について
⑴ 前記前提事実のとおり,被告は,平成29年1月16日,原告絵画を複製し,他の複数の絵画も複製した上で,これらを掲載した文書(乙93,97)を作成し,これを本件第4回弁論準備手続期日において,「原告主張の「創作的表現」に独創性,美的鑑賞の対象となり得る美的特定が認められないこと等」を立証する目的で証拠として取り調べるよう申し出たものである。
本件訴訟において,①原告デザイン19並びに20の1及び2のそれぞれにつき著作物性が争点であったこと,被告が,平成29年1月13日付け準備書面⑵において,原告デザイン19の筆のイラスト(上記準備書面には「絵馬のイラスト」と記載されているが当該項目の見出し等から「筆のイラスト」の誤記と認める。)は実物の筆を描写したものにすぎず,証拠に照らして筆のイラストとしてありふれた表現であるとし,原告デザイン20の1及び2のレモン2つが並ぶイラストは証拠(乙97)に照らしありふれた表現であるとして,独創性,美的鑑賞の対象となり得る美的特性が認められないと主張したことは,当裁判所に顕著である。
証拠(乙93,97)及び弁論の全趣旨によれば,③原告デザイン19は別紙原告デザイン目録原告デザイン19欄記載のとおりであり,筆の全体を描いた絵画を含むものであること,④原告デザイン20の1及び2は同目録原告デザイン20の1及び2の各欄記載のとおりであり,レモンが2つ並んだ絵画を含むものであること,⑤乙93は,原告筆絵画のほかに5点の筆の絵画を記載し,それぞれの絵画について出典等を記載したものであること,乙97は原告レモン絵画のほかに6点のレモンが2つ並んだ部分を含む絵画を記載して,それぞれの絵画について出典等を記載したものであることが認められる。
⑵ 本件訴訟は民事訴訟であって,著作権法42条1項の「裁判手続」であるところ,上記事実関係によれば,原告絵画はいずれも本件訴訟の争点につき被告の主張を裏付ける証拠とするために複製されたもので,争点に関する証拠を提出するために複製されたということができる。争点に関する証拠を提出することは本件訴訟の審理のために必要であるから,上記複製は「裁判手続のために必要と認められる」ものといえる。また,上記③~⑤の認定事実によれば,著作物性が争点となった絵画も原告絵画も筆及びレモンのそれぞれ全部が描かれたものであるということができ,また,筆及びレモンの全部について複製して証拠とする必要性があるといえるから,上記複製は必要と認められる限度の複製であるということができる。
⑶ これに対し,原告は,原告が作成したデザインが相互に類似することは当然のことであって,被告が原告のデザインを裁判手続において複製する必要性は全くないと主張する。
しかし,原告絵画が原告の作成したものであったとしても,前記争点に照らせば,原告絵画の複製は争点に関する証拠を提出するためにされたものであって,著作権法42条1項の要件を満たすというべきであるから,原告の上記主張は採用できない。
⑷ したがって,乙93及び97における複製につき,原告絵画の著作権侵害がないことが明らかである。