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著作権判例セレクション
演芸(単独ライブ)で使用する小道具の著作物性を認めた事例
▶令和7年4月24日知的財産高等裁判所[令和6(ネ)10079]
3 争点1(著作物性)について
⑴ 被告は、本件各小道具は、実用目的の機能を分離して観察した場合になお純粋美術と同視することができる程度の美的特性を備えていないから著作物性を有しない旨主張するほか、原判決別紙主張整理一覧表の「創作性:被告の主張」欄記載のとおり主張する。
⑵ そこで検討すると、次のとおりいうことができる
。
ア 本件各小道具は、演芸に使用する目的で制作されたものではあっても、それぞれ手造りされたものであって、他に同一のものは存在しない。その意味において、本件各小道具は、一品物として制作者の個性を反映したものである。それが一般に想起される物や実在する物の形状に基づいたり、既存のイラストを参照したりして制作されたものであったとしても、デッドコピーではない以上、現実に三次元の物体として具体的に表現するに当たっては、形状、色彩等につき様々な選択肢がある。そして、選択された表現には制作者の個性が反映されており、視覚を通じて一定の美観を起こさせる一方、工業上利用することができる意匠として利用されることは予定されていないから、本件各小道具について美術の著作物性を否定することはできないというべきである。
この点は、本件各小道具のうち、商品パッケージのイラストの一部を再現したもの(本件小道具11)、著名なキャラクターの形状を模したもの(本件小道具17)、実在の菓子や商品の形状を再現したもの(本件小道具37、67、88、98)、文字を模したり、再現したりしたもの(本件小道具73、82)、ゲームセンターに設置されるゲームのハンマーを模したもの(本件小道具74、75)、電車の車両を模したもの(本件小道具77、78)等についても同様である。
イ 被告は、本件小道具7(白い板)及び8(金のアーム)について、美的要素の所在が明らかではない旨主張するが、これらの作品も制作者の個性が反映されたものであって、思想又は感情を創作的に表現したものと認められる以上、著作物性が認められることに変わりはない。
ウ 被告は、本件小道具23(ビデオテープ)及び24(北陸新幹線)について、完成形が明らかにされておらず、創作性の立証がない旨主張する。
しかし、いずれの作品についても、被告は、原告に対しサイズ、形状等を指定して立体化作業を依頼した旨主張しており、かつ、原告から引渡しを受けたことを否定していない。そうすると、これらの作品についても、被告に引き渡され、その時点で作品として完成していたことが推認されるというべきであり、これに反する証拠はない。なお、弁論の全趣旨によれば、本件小道具23について、被告は、原告から引渡しを受けた後、一部を黒く塗るなどの作業を行ったことが認められるが、本件全証拠によっても、被告の当該作業により本件小道具23が引渡し時点における作品としての本質的特徴を喪失したことを認めるに足りない。
エ 被告は、本件小道具38(巻貝(2個目))及び40(こたつ(2個目))は、本件小道具33(巻貝(1個目)及び39(こたつ(1個目))の各複製であるから、新たな著作物であるとは認められない旨主張する。
しかし、証拠及び弁論の全趣旨によれば、2個目の各作品は、1個目の各作品を完全にコピーしたものではなく、主題は同じであっても、その具体的表現を異にするものであることが認められるから、被告の主張は採用することができない
(なお、本件小道具28(蟹(1個目))及び44(蟹(2個目))についても同様である(甲117)。)。また、仮に複製に当たるとしても、1個目の作品と同一の表現が別の有体物に固定されているだけで、1個目の作品と同様の著作物性が認められることには変わりはない。
オ 被告は、本件小道具66(人形)について、形状は既存の一般的なもの、顔は事務所の公式グッズのイラストを再現したもの、衣服も市販の布を張り合わせたもので、ありふれた形状の人形である旨主張するが、これらを組み合わせた具体的な人形の形状は、制作者の創作的表現であるというべきであるから、被告の主張は採用することができない。
⑶ 以上によれば、本件各小道具には、すべて制作者の個性が反映されており、美術の著作物として、著作物性が認められるというべきである。