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著作権判例セレクション
演芸(単独ライブ)で使用する小道具の著作者性が問題となった事例
▶令和7年4月24日知的財産高等裁判所[令和6(ネ)10079]
4 争点2(著作者性)について
⑴ 本件各小道具のうち、被告が全く制作に関与していないことを認めているもの(本件小道具1から5まで、17、27、52、54、55、56、60、64、76)については、被告が著作者になる余地はなく、弁論の全趣旨によれば、これらの小道具の制作者は原告であると認められ、これに反する証拠はない(なお、被告は、本件小道具5(神輿)について、神輿の持ち手部分は自ら制作した旨主張しているが、仮にそのとおりであったとしても、これにより、原告が神輿の制作者であることが否定されるわけではない。また、持ち手部分の追加により神輿に含まれる創作的表現の本質的部分が失われたとも認められない。)。
⑵ 本件各小道具のうち、前記⑴に掲げたもの以外の小道具について、被告は、着想したのは被告であり、被告は原告に作成依頼するに当たり、大きさ、形状、色等を具体的に指定するなどして、立体化作業を依頼したから、著作者は被告である(少なくとも、本件小道具66、74、75については、原告は著作者ではない。)などと主張する。
しかしながら、小道具の着想自体はアイデアにすぎず、思想又は感情の創作的表現ということはできない。また、証拠上、被告が原告に対し作成依頼をするに当たり、一定の形状を示すなどして、自分のイメージを伝えたものがあることは認められるが、詳細な設計図が示されたわけではなく、実際に三次元の作品を制作するに当たり、選択可能な具体的表現行為の幅が制作者の著作者性を否定するほど小さいものであったとは到底認められない。すなわち、制作に関するメッセージの原被告間のやりとりは、アイデアやイメージの交換にとどまるものであり、被告が原告に作品のイメージのスケッチを手書きで示したものは、ラフな描画にすぎず、いずれも、本件各小道具について、その制作者である原告の思想又は感情の創作的表現が含まれていることを否定するに足りるものではない。
⑶ 被告は、本件小道具38(巻貝(2個目))、40(こたつ(2個目)、44(蟹(2個目))は、本件小道具33、39、28の再制作を指示したものであり、本件小道具33、30、28と同様、著作者は被告である旨主張するが、前記3⑵エによれば、本件小道具33、39、28の制作者は原告であると認められるから、被告の主張は、その前提を欠くものであり、採用することができない。
⑷ 被告は、本件小道具48(スキーヤー)の着想は被告であり、小道具の主要部分であるウェアは上下とも市販のものであるから、原告は著作者ということはできない旨主張するが、被告が着想したということや、市販のウェアが利用されたということは、本件小道具48の制作者の著作者性を否定する理由とはならないから、同主張は採用することができない。
⑸ その他、被告は、本件小道具21(キオスク)の Kiosk の文字を Kiosl に変更したこと、本件小道具23(ビデオテープ)の素材の一部を黒く塗るなどの作業を行ったこと、本件小道具67(ごはんですよ)の主要部分のラベル部分を被告が作成したこと、本件小道具80(ファミコンのカセット)の25 「おでん」の文字やイラストを自ら描画したことを主張するが、仮にそのとおりであったとしても、これらの被告による作業等により、原告の制作した部分に含まれる創作的表現の本質的特徴が失われたとは認められない。したがって、被告の主張する事実は、原告が本件各小道具の制作者であり、かつ、著作者であることを否定するに足りるものではない。
⑹ 以上によれば、原告は、本件各小道具の制作者であり、かつ、著作者であることが認められ、これを覆すに足りる証拠はない。
しかるところ、被告は、原告は被告から有償で業務委託を受け、職務上制作作業をしたから、本件各小道具は、職務著作に該当するとも主張する。しかし、原告と被告との間に雇用関係又はこれに類するような内部的関係があった旨の主張立証はない。かえって、前記2の認定事実によれば、原告は、被告から依頼を受け、その都度、小道具を制作していたにすぎないから、原告が被告の業務に従事する者であったとは認められない。そうすると、本件各小道具のうち、被告の依頼により原告が制作した小道具は、著作権法15条の「法人等の業務に従事する者が職務上作成」した著作物に該当しない。
したがって、被告の主張は採用することができない。
⑺ 以上によれば、原告は、本件各小道具の著作者であり、本件各小道具につき氏名表示権(著作権法19条)を有するというべきである。