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著作権判例セレクション

出版権の侵害性

平成190612日大阪地方裁判所[平成17()153]
10 争点1-10(出版権の帰属)について
証拠によれば,原告会社は,平成12年1月1日付けの本件出版契約により,P1らから本件用紙について出版権の設定を受けたことが認められる。
被告らは,被告Yが本件用紙の著作権を原始的に取得したから,原告会社がP1から出版権の設定を受けることはできないと主張するが,被告Yが本件用紙の著作権を原始的に取得したとの主張を採用できないことは前示のとおりである。
したがって,被告らの上記主張は,その前提を欠き理由がない。
11 争点1-11(被告用紙は本件用紙を「原作のまま複製」したものであるか。)について
(1) 原告会社の被告らに対する請求は,出版権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求であって,本件出版契約に基づく請求ではないから,被告らによる被告用紙の販売により原告会社の出版権に対する侵害が生じているか否かは,被告用紙が本件用紙を「原作のまま」(著作権法80条1項)複製したものといえるか否かによって判断すべきであって,被告用紙が本件用紙に単に類似しているというだけでは足りず,また,本件出版契約書第5条の「同一内容または著しく類似」といえるか否かとの基準によって判断すべきものでもない。
そして,「原作のまま」複製したものとは,出版権の対象である著作物をそのまま再現したものをいい,したがって,誤字・脱字・仮名遣い等を補正したにとどまるものを除き,当該著作物の内容を変更したものは,「原作のまま」複製したとはいえないものと解するのが相当である。
(2) 上記の観点から,被告用紙が本件用紙を「原作のまま」複製したものといえるか否かを検討すると,次のとおりである。
ア YGPI用紙
YGPI用紙は,本件用紙と同様,三つ折り・六面の用紙で,①表紙,②質問文,③回答表,④粗点集計欄,⑤プロフィール表,⑥プロフィール判定基準を構成要素としており,また,質問文の配列及びプロフィールの構成も本件用紙と同一である。
しかし,本件用紙は,表紙に「性格検査」という表示や教授名の表示があるのに対し,YGPI用紙は,表紙に「性格検査」という表示や教授名の表示はなく,ルビンの杯のイラストに重ねて,丸みのある文字で「YG Personality Inventory」と表示されていることが認められる。
上記の相違点は,誤字・脱字・仮名遣い等を補正したものと同程度の改変とは認められないから,YGPI用紙は,本件用紙を「原作のまま」複製したものとは認められない。
イ 旧ハイブリッド用紙
旧ハイブリッド用紙と本件用紙との間には,本件用紙が三つ折り・六面の1枚の用紙からなるのに対し,旧ハイブリッド用紙は,2枚の紙を切り離し可能に接着した用紙1枚と,別紙1枚の合計2枚からなること,本件用紙においては,プロフィール表は,その下の生年月日欄,性別欄,検査年月日欄,判定欄と一体になった構成で,粗点集計欄とプロフィール表との間に比較的広い間隔があり,この間隔には折り目,カーボンが設けられているのに対し,旧ハイブリッド用紙においては,粗点集計欄とプロフィール表との間にわずかな間隔しかなく,この間隔には学年・組・番号欄,姓名欄,年齢欄,性別欄が,粗点集計欄やプロフィール表とは分離した態様で設けられていること,以上の相違点がある。
上記の相違点は,誤字・脱字・仮名遣い等を補正したものと同程度の改変とは認められないから,旧ハイブリッド用紙は,本件用紙を「原作のまま」複製したものとは認められない。
ウ 新ハイブリッド用紙
新ハイブリッド用紙と本件用紙との間には,本件用紙が三つ折り・六面の1枚の用紙からなるのに対し,新ハイブリッド用紙は,3枚の紙を切り離し可能に接着した用紙1枚と,別紙1枚の合計2枚からなること,本件用紙では,粗点集計欄とプロフィール表が同一見開き内に配置されているのに対し,新ハイブリッド用紙では,このような構成は採用されていないこと,そして,新ハイブリッド用紙における粗点集計欄を配置した紙は,プロフィール表とは別の紙にしたことにより生じたスペースに,粗点集計欄計算方法を掲載しており,一方,新ハイブリッド用紙におけるプロフィール表を配置した紙は,粗点集計欄とは別の紙にしたことにより生じたスペースに,「系統値の求め方」やYGPI検査プロフィール区分表等を設けていること,新ハイブリッド用紙における粗点集計欄は,本件用紙のそれと異なり尺度を示す英字がなく,また,マス目の区切り方において本件用紙のそれと異なること,新ハイブリッド用紙におけるプロフィール表では,「尺度」,「調査される性格特徴」の各欄が左からこの順に設けられているが,本件用紙におけるプロフィール表では,上記「尺度」,「調査される性格特徴」の各欄に相当する欄が,右からこの順に設けられていること,「調査される性格特徴」の内容についての表現が両用紙で異なること,以上の相違点がある。
上記の相違点は,誤字・脱字・仮名遣い等を補正したものと同程度の改変とは認められないから,新ハイブリッド用紙は,本件用紙を「原作のまま」複製したものとは認められない。
エ 海賊版用紙
海賊版用紙は,本件用紙と同一であるから,本件用紙を「原作のまま」複製したものと認められる。
(3) 以上によれば,被告会社による被告用紙の発行等のうち,海賊版用紙の発行等は,原告会社の出版権を侵害する不法行為を構成するものと認められるが,YGPI用紙,旧ハイブリッド用紙及び新ハイブリッド用紙の発行等は,原告会社の出版権を侵害する不法行為を構成しない。