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著作権判例セレクション

発信者情報開示手続費用の一部を著作権侵害に基づく不法行為との間で相当因果関係にある損害と認めた事例令和61114日東京地方裁判所[令和5()70611]▶令和762日知的財産高等裁判所[令和6()10088]
() 本件は、原告の販売する釣り具を撮影した別紙記載の写真 9 点(「本件各写真」)について著作権を有するとする原告が、被告がインターネットオークションサイトに釣り具を出品した際、本件各写真を複製した画像 9 点を同サイト上に掲載したことにより本件各写真に係る原告の著作権(複製権及び公衆送信権)が侵害されたと主張して、被告に対し、不法行為に基づき、損害賠償金等の支払を求めた事案である。

1 争点(1)(本件各写真の著作物性)について
 証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件各写真は、原告代表者が原告ウェブサイト等で本件商品を広告販売するために撮影したものであること、本件各写真の撮影は、本件商品を様々な角度から接写しつつ美しい画像とするために、被写体の配置、背景、光源、カメラアングル等を調整して行われたものであることが認められる。
そうすると、本件各写真は、いずれも、撮影者の個性が表れたものといえ、「思想又は感情を創作的に表現したもの」と認められる。すなわち、本件各写真は、「著作物」(著作権法211号)に該当する。これに反する被告の主張は採用できない。
2 争点(2)(本件各写真の著作権の帰属主体)について
前記認定のとおり、本件各写真は、原告代表者が原告ウェブサイト等で本件商品を広告販売するために撮影したものであることに加え、証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件各写真は、現に原告ウェブサイトに本件商品の説明文と共に掲載されたことが認められる。これらの事情によれば、本件各写真は、釣り具等の販売を業とする原告の発意に基づき原告の業務に従事する者である原告代表者がその職務上作成した著作物であり、また、原告が自己の著作の名義の下に公表するものといえる。また、証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件各写真の作成時における契約、勤務規則その他に本件各写真の著作権に関する別段の定めはなかったとみられる。
したがって、本件各写真の著作者は原告であり(著作権法151項)、原告がその著作権を有すると認められる(同法171項)。これに反する被告の主張は採用できない。
3 争点(3)(原告の損害)について
(1) 著作権侵害による損害額
ア 証拠及び弁論の全趣旨によれば、被告は、令和4831日午後1011分頃に本件投稿をした後、翌日である同年91日午前019頃に上記の出品を取り消したことが認められる。すなわち、被告は、本件オークションサイトに本件商品の新品未使用品を出品するに当たり、本件各写真をそのまま複製して利用した。これは、本件各写真に係る原告の著作権(複製権、公衆送信権)を侵害するものといえる。
イ 被告が本件各写真を利用した期間は、上記のとおり2時間強にとどまるが、これは、原告が、本件投稿の約1時間後に、本件オークションサイトの出品者への質問を投稿する機能を利用して、出品者に対し、テキスト及び画像の無断転載を確認したため原告の規定に従った利用料金を請求する旨の予告をしたという事情を受けて行われたものである。
また、本件各写真は、原告の取り扱う本件商品の広告販売を目的として撮影されたものであるところ、証拠によれば、原告は、原告の取扱商品を卸している販売店等の正規の取引先に対して商品写真の利用を許諾することはあるものの、原告の取扱商品を高額で転売するような正規の取引先でない販売者に対して商品写真の利用を許諾した実例はないことが認められる。すなわち、原告においては、被告のような正規の取引先でない販売者との間で本件各写真の利用許諾契約を締結することは想定されていないとみられる。
ウ これらの事情に加え、「著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額」(著作権法1143項)は著作権侵害をした者との関係で事後的に定められるものであることその他本件に顕れた一切の事情を総合的に考慮すると、本件において原告が受けるべき金銭の額に相当する額は、本件各写真1点当たり 15000円、合計135000 円とするのが相当である。これに反する原告及び被告の主張はいずれも採用できない。
(2) 発信者情報開示手続費用
ウェブサイトに匿名で投稿された記事等が不法行為を構成し、その被害者が損害賠償請求等の手段を取ろうとする場合、被害者は、侵害者である投稿者を特定する必要がある。その手段として、被害者は、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律により、発信者情報の開示を請求する権利を有する。もっとも、これを行使するためには、多くの場合、同法所定の裁判手続その他の法的手続を利用することが必要となる。その手続遂行のためには一定の手続費用を要し、さらに、事案によっては弁護士費用を要することも当然あり得る。そうすると、これらの発信者情報開示手続に要した費用は、当該不法行為との間で相当因果関係のある損害となり得るといってよい。
本件では、証拠及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件開示手続を原告代理人らに委任し、その弁護士費用として着手金385000円及び報酬金11万円(いずれも消費税込)を支出したことが認められる。発信者情報開示手続の性質、内容等を考慮すると、このうち20万円をもって、被告の不法行為と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。これに反する原告及び被告の主張はいずれも採用できない。
(3) 弁護士費用
本件事案の内容、本件訴えに至る経過、認容額等に照らすと、本件訴えに係る弁護士費用については、被告の不法行為と相当因果関係のある損害として33000円と認めるのが相当である。これに反する原告及び被告の主張はいずれも採用できない。
(4) まとめ
以上より、原告は、被告に対し、著作権(複製権及び公衆送信権)侵害の不法行為に基づき、368000 円の損害賠償請求権及びこれに対する不法行為の後である令和491日から支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金請求権を有する。

[控訴審同旨]
当裁判所も、控訴人の請求は、36万8000円及びこれに対する令和4年9月1日から支払済みまで年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を命ずる限度で理由があるからこの限度で認容し、その余の請求は理由がないから棄却すべきであると判断する。その理由は、後記1のとおり当審における控訴人の補充主張に対する判断を付加するほか、原判決に記載のとおりであるから、これを引用する。
1 控訴人の当審における補充主張に対する判断
控訴人は、当審における補充主張として、発信者情報開示手続費用に関し、前記のとおり主張する。
しかし、控訴人が挙げる事情は、いずれも、控訴人が本件開示手続に関して支出した費用の全てが被控訴人の不法行為と相当因果関係を有すると解すべき事情とはいえず、控訴人の主張を考慮しても、発信者情報開示手続の性質、内容等に照らし、控訴人が本件開示手続に関して支出した費用のうち20万円の範囲で被控訴人の不法行為と相当因果関係のある損害と認めた、原判決の判断は相当である。
したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。