Kaneda Legal Service {top}
著作権判例セレクション
プログラム著作権の侵害事例/法47条の3(プログラムの著作物の複製物の所有者による複製等)に当たらないとされた事例
▶令和2年11月16日東京地方裁判所[平成30(ワ)36168]▶令和3年5月17日知的財産高等裁判所[令和2(ネ)10065]
(注) 本件は,原告が,被告らに対し,被告らが,原告作成の別紙原告プログラム(「本件プログラム」)に係る原告の著作権(複製権,公衆送信権,貸与権及び翻案権)及び著作者人格権(公表権,氏名表示権及び同一性保持権)を侵害し,これによって利益を受けたと主張して,不当利得返還請求権に基づき,連帯して,利得金等の支払を求めた事案である。
4 争点3(本件プログラムの著作権又は著作者人格権の侵害行為)について
(1)
争点3-1(被告学園プログラムをサーバーにアップロードしたことによる著作権侵害)について
ア 前記によれば,被告学園のBは,平成25年8月11日,被告学園プログラムを被告学園サーバーにアップロードし,これによって,本件システムの機能を利用するためのID及びパスワードを保有する約60名が,被告学園ウェブサイトからログインし,被告学園プログラムにより実現される本件システムの機能を使用することができるようになった。
そうすると,被告学園は,本件プログラムの複製物である被告学園プログラムのファイルを被告学園サーバーに保存することにより,本件プログラムを有形的に再製し,かつ,被告学園ウェブサイトにログインすることができる者だけでも約60名という多数の者に対して本件プログラムについて無線通信又は有線電気通信の送信を可能としたということができる。
したがって,被告学園は本件プログラムに係る原告の複製権及び公衆送信権(送信可能化権)を侵害したと認めるのが相当である。
イ 被告学園は,本件プログラムの複製物である被告学園プログラムの所有者であるから,著作権法47条の3第1項によりこれを複製することができると主張する。
しかし, 平成25年4月以降,本件システムの開発に関わるようになったBは,これを理解するために,原告に対して本件システムに係るプログラム等のコピーを送付してほしいと要望し,原告は,これに応じて,開発途中の本件プログラムのソースコードを含む本件圧縮ファイルを送付したものである(前記)。そうすると,Bがその使用に係るパソコンに保存した本件プログラムの複製物(被告学園プログラム)は,本来,B自身が本件システムを理解するために利用されることが予定されていたものと認められる。
にもかかわらず,Bは,SEHAIで実施される研修で本件システムのデモンストレーションを行うために,被告学園プログラムを被告学園サーバーにアップロードしたものであって(前記),この行為は,原告がBに対して許諾した本件プログラムの複製物の利用範囲を超えるものであるといわざるを得ない。そして,被告学園プログラムを被告学園サーバーにアップロードしなければ,Bがこれを利用することができなかったことを認めるに足りる証拠もない。
したがって,Bによる上記の行為は,「自ら当該著作物を電子計算機において利用するために必要と認められる限度」(著作権法47条の3第1項)の複製とは認められないから,被告学園の上記主張は理由がない。
ウ 原告は,前記アの被告学園の行為について,被告センターも共同して本件プログラムの著作権を侵害したと主張するものと理解でき,被告センターと被告学園との間の本件協力事業に関する業務委託契約においては第三者に業務を再委託することは禁止されており,被告センターは悪意により原告と契約を締結しなかったとも主張する。
しかし,被告センターは,被告学園に対し,本件協力事業に関する業務を委託し(前記前提事実),本件システムに付する機能について要望を述べたといえるものの(前記),いずれにしても被告センターが被告学園に対して前記アの各行為を行うことを指示したり,被告学園と共同してこれを行ったりしたと認めるに足りる証拠はなく,悪意により原告と契約を締結しなかったと認めるに足りる証拠もない。
したがって,被告センターが被告学園と共同して本件プログラムに係る原告の複製権及び公衆送信権を侵害したと認めることはできない。
エ 以上によれば,被告学園のBが平成25年8月11日に被告学園プログラムを被告学園サーバーにアップロードした行為に係る原告の主張のうち,被告学園によって本件プログラムに係る原告の複製権及び公衆送信権(送信可能化権)が侵害されたとの主張は理由があるが,被告センターによってそれらの権利が侵害されたとの主張は理由がないというべきである。
(2)
争点3-2(被告学園プログラムを改変したことによる著作権等侵害)について
ア 前記のとおり,被告学園のBは,平成25年8月19日頃から,同年5月23日に取得した本件プログラムの複製物である被告学園プログラムについて,原告から送付されたデータベースを読み取ることができるようにしたり,同日以降に原告が本件システムに付加した機能を実装したり,原告において実施することが予定されていた作業を行ったり,同年8月31日からのSEHAIでの研修において新たな機能を追加したりした。
そうすると,被告学園は,本件プログラムの複製物である被告学園プログラムについて,同プログラムが有する本来的な機能は維持しつつ,新たな機能を追加するため,同プログラムのソースコードに付加的な変更を加えたものと認められる。
したがって,被告学園は,本件プログラムに依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,これに変更を加えて,新たな著作物を創作し,本件プログラムを改変したものであるから,本件プログラムの翻案権及び同一性保持権を侵害したと認めるのが相当である。
イ 被告学園は,被告学園プログラムを改変したことがあったとしても,被告学園は本件プログラムの複製物である被告学園プログラムの所有者であるから,著作権法47条の3第1項によりこれを翻案することができるし,著作権法20条2項3号,4号によりこれを使用することができる状態にしたにすぎないから,同一性保持権の侵害に当たらないと主張する。
しかし,前記(1)イのとおり,被告学園プログラムは,本来,B自身が本件システムを理解するために利用されることが予定されていたものと認められるところ,Bが被告学園プログラムに加えた前記アの変更は,その内容からして,上記の目的に沿ってB自身がこれを使用することができる状態にしたにとどまらず,本来予定されていない新たな機能の追加を行うものであったというべきであるから,著作権法47条の3第1項に定める「必要と認められる限度」の翻案であるとも,著作権法20条2項3号,4号に定める「必要な改変」ないし「やむを得ないと認められる改変」とも認められない。
したがって,被告学園の上記主張は理由がない。
ウ 原告は,前記アの被告学園の行為によって,被告センターも共同して本5 件プログラムの著作権等を侵害したと主張するものと理解できる。
しかし,上記の行為について,被告センターによる本件プログラムの著作権等侵害が認められないことは,前記(1)ウと同様であり,原告の上記主張は理由がない。
エ 以上によれば,被告学園のBが平成25年8月19日から同年9月12日頃までの間に被告学園プログラムに機能を追加した行為に係る原告の主張のうち,被告学園によって本件プログラムに係る原告の翻案権及び同一性保持権が侵害されたとの主張は理由があるが,被告センターによってそれらの権利が侵害されたとの主張は理由がないというべきである。
(3)
争点3-3(被告学園プログラムをデモンストレーションで使用するなどしたことによる著作権等侵害)について
ア 前記のとおり,被告学園は,平成25年8月31日から同年9月5日までの間,SEHAIにおいて研修を実施し,被告学園サーバー上の被告学園プログラムを使用して,本件システムのデモンストレーションを行ったが,上記研修に参加したのは,Bを除くと5名(被告学園の関係者を除くと3名)という少数の者にすぎない。そして,これらの者に加え,上記デモンストレーションの内容を不特定又は多数の者が知り得たことを認めるに足りる証拠はない。
そうすると,上記研修において,被告学園が被告学園プログラムを公衆に提供又は提示したということはできないから,本件プログラムの公表権及び氏名表示権を侵害したとは認められない。
他方で,上記研修において,Bが被告学園プログラムに新たな機能を追加するために同プログラムのソースコードに付加的な変更を加えたことにより,被告学園が本件プログラムの翻案権及び同一性保持権を侵害したことは,前記(2)アのとおりである。
イ 被告学園は,本件プログラムの複製物である被告学園プログラムの所有者であるから,著作権法47条の3第1項によりこれを翻案することができるし,被告学園プログラムを使用することができる状態にしたにすぎないから,著作権法20条2項3号,4号により同一性保持権の侵害に当たらないと主張するが,著作権法47条の3第1項及び著作権法20条2項3号,4号の適用が認められないことは,前記(2)イのとおりである。
ウ 原告は,前記アの被告学園の行為によって,被告センターも共同して本件プログラムの著作権等を侵害したと主張するが,この点についても,被告センターが本件プログラムの著作権等を侵害したとは認められないことは,前記(1)ウと同様であって,同主張は理由がない。
エ 以上によれば,平成25年8月31日から同年9月5日まで実施されたSEHAIの研修での被告学園プログラムのデモンストレーション等に係る原告の主張のうち,被告学園によって本件プログラムに係る原告の翻案権及び同一性保持権が侵害されたとの主張は理由があるが(ただし,同主張については,既に前記(2)において判断されている。),被告学園によって本件プログラムに係る原告の公表権及び氏名表示権が侵害されたとの主20 張は理由がなく,被告センターによって上記の著作権等が侵害されたとの主張も理由がないというべきである。
(4)
争点3-4(被告学園プログラムをサーバー上に保存したままにしたことによる著作権等侵害)について
ア 原告は,平成25年10月25日頃から平成26年7月14日までの間,被告学園ウェブサイト(被告学園サーバー上の被告学園プログラムに基づくウェブサイト)をインターネット上で閲覧することができたと主張し,陳述書及び原告本人尋問の結果は,これに沿うものである。
そして,前記の認定事実のとおり,Bは,平成25年8月11日,被告学園プログラムのファイルを被告学園サーバーにアップロードし,その結果,被告学園ウェブサイトのトップページはインターネット上で閲覧可能となったこと(前記),原告は,平成26年6月5日,被告学園に対し,被告学園ウェブサイトがインターネット上で閲覧することができることを指摘し,これを受けて,被告学園は,被告学園サーバーに保存された被告学園プログラムのファイルを削除し,同年7月14日に原告に対してその旨回答したこと(前記)が認められる。さらに,証拠及び弁論の全趣旨によれば,原告は,同年3月27日,ブラウザソフトであるインターネットエクスプローラーを使用して,被告学園ウェブサイトを閲覧することができることを確認したことが認められる。以上に照らせば,上記の陳述書の記載及び原告の供述は採用することができるというべきである。
これに対し,証人Bは,平成25年9月16日以降,被告学園ウェブサイトから原告ウェブサイトに自動的に移動するようになったため,被告学園ウェブサイトをインターネット上で閲覧することはできなかったと証言する。しかし,上記のとおり,原告は,平成26年3月27日に,インターネットエクスプローラーを使用して被告学園ウェブサイトを閲覧することができることを確認していること,証人Bは,被告学園サーバーを管理していたところ,被告学園ウェブサイトをインターネット上で閲覧することができるように,被告学園サーバーの設定を変更し,被告学園ウェブサイトから原告ウェブサイトに自動的に移動することを解除したことがあるかという質問に対して,「今の記憶では,その作業をした記憶はちょっと25 ないです。」,「明確な記憶はありません」,「もしやっていたとするならば,私の独断でやっていたとしか思えないです。」などとあいまいな回答をしていることからすると,平成25年10月25日頃以降において被告学園ウェブサイトをインターネット上で閲覧することはできなかったとの証人Bの上記証言は採用することができないというべきである。
したがって,平成25年10月25日頃から平成26年7月14日までの間,被告学園ウェブサイトはインターネット上で閲覧することができたと認められる。
イ 前記の認定事実並びに証拠及び弁論の全趣旨によれば,前記アの認定事実に加え,平成25年9月16日以降,被告学園ウェブサイトを閲覧しようとすると自動的に原告ウェブサイトに移動するようにされていたため,被告学園ウェブサイトをインターネット上で閲覧することができなかったところ(前記),被告学園サーバーの設定を変更するためのパスワードを知っていたのはB及び原告(Bが被告学園サーバーのパスワードを変更した後はB)のみであったこと,同年10月3日時点で70名が本件システムのID及びパスワードを保有していたことが認められる。
以上の事実に照らせば,被告学園のBは,被告学園サーバーの設定を変更し,同年10月25日頃から平成26年7月14日までの間,被告学園ウェブサイトのトップページをインターネット上で閲覧することができるようにし,被告学園ウェブサイトにログイン可能な者だけでも約70名に対して,原告の氏名を著作者名として表示することなく,被告学園ウェブサイトから被告学園プログラムにより実現される本件システムの機能を使用することができるようにしたと認めるのが相当である。
したがって,被告学園は,原告の氏名を表示することなく,約70名という多数の者に対して本件プログラムの複製物である被告学園プログラムの無線通信又は有線電気通信の送信を可能とし,提示したといえるので,本件プログラムの公衆送信権(送信可能化権),公表権及び氏名表示権を侵害したと認められる。
他方で,被告学園が,上記のとおり,原告ウェブサイトへの移動を解除するように被告学園サーバーの設定を変更した際,被告学園プログラムを複製したことを認めるに足りる証拠はないから,本件プログラムの複製権を侵害したとは認められない。
ウ 原告は,前記イの被告学園の行為によって,被告センターも共同して本件プログラムの著作権等を侵害したと主張するものと理解できるが,この点についても,被告センターが本件プログラムの著作権等を侵害したとは認められないことは,前記(1)ウと同様であって,同主張は理由がない。
エ 以上によれば,被告学園が平成25年10月25日から平成26年7月14日まで被告学園プログラムを被告学園サーバーに保存していた行為に係る原告の主張のうち,被告学園によって本件プログラムに係る原告の公衆送信権(送信可能化権),公表権及び氏名表示権が侵害されたとの主張は理由があるが,被告学園によって本件プログラムに係る原告の複製権が侵害されたとの主張は理由がなく,被告センターによって上記の著作権等が侵害されたとの主張も理由がないというべきである。
(5)
争点3-5(被告学園プログラムを第三者に貸与するなどしたことによる著作権等侵害)について
ア 被告学園は,本件システムの開発が中断したことから,平成25年12
月1日,兼松との間で,本件システムの開発に係る業務委託契約を締結し,この際,兼松に対し,被告学園プログラムのファイルを渡したところ(前記),証人Bがソースコードを紙に印刷したものを渡したのではないと証言していることに照らせば,被告学園は,兼松に渡すために,被告学園プログラムを電磁的記録媒体に保存したと推認するのが相当である。
たがって,被告学園は,本件プログラムの複製物である被告学園プログラムを電磁的記録媒体に保存することによりこれを有形的に再製したといえるので,本件プログラムの複製権を侵害したと認められる。
他方で,平成26年2月24日から同月28日まで実施されたSEHAI教務管理研修で使用された教材の写真並びに被告学園プログラムと兼松が開発したシステムに係るプログラムの実行画面及びソースコードの比較表によっても,兼松が開発したシステムに係るプログラムが,本件プログラムに依拠し,かつ,表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えたものであるとは直ちに認められず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。また,被告学園が兼松に対して被告学園プログラムのファイルを渡したことをもって,これを公衆に提供又は提示したということはできない。
したがって,被告学園が,本件プログラムの翻案権,貸与権,公表権,氏名表示権及び同一性保持権を侵害したとは認められない。
イ 被告学園は,本件プログラムの複製物である被告学園プログラムの所有者であるから,著作権法47条の3第1項によりこれを複製することができると主張する。
しかし,前記アのとおり,被告学園は,本件システムの開発に係る業務を委託した兼松に対し,被告学園プログラムを渡すためにこれを複製したものであるから,著作権法47条の3第1項に定める「自ら当該著作物を電子計算機において利用するために必要と認められる限度」の複製であるということはできない。
したがって,被告学園の上記主張は理由がない。
ウ 原告は,兼松に対して被告学園が本件プログラムを渡したことについて,被告センターも被告学園と共同して本件プログラムの著作権等を侵害したと主張するが,この点についても,被告センターが本件プログラムの著作権等を侵害したとは認められないことは,前記(1)ウと同様であって,同主張は理由がない。
(6)
小括
以上によれば,被告学園は,①被告学園プログラムを被告学園サーバーにアップロードしたことにより,本件プログラムに係る原告の複製権及び公衆5 送信権(送信可能化権)を侵害し(前記(1)ア),②原告から送付されたデータベースを読み取ることができるようにすることなどのために,被告学園プログラムに変更を加えたことにより,本件プログラムに係る原告の翻案権及び同一性保持権を侵害し(前記(2)ア,(3)ア),③原告の氏名を表示することなく被告学園ウェブサイトをインターネット上で閲覧することができるようにしたことにより,本件プログラムに係る原告の公衆送信権(送信可能化権),公表権及び氏名表示権を侵害し(前記(4)イ),④兼松に被告学園プログラムを渡すに当たり,被告学園プログラムを電磁的記録媒体に保存したことにより,本件プログラムに係る原告の複製権を侵害した(前記(5)ア)。
他方で,被告センターについては,本件プログラムに係る著作権侵害行為及び著作者人格権侵害行為があったとは認められない。
5 争点4(被告らの利益及びこれと因果関係のある原告の損失)について
(1)
著作権侵害行為に係る利益及び損失について
ア 被告学園は,前記4の著作権侵害行為につき,本来原告に支払うべき金銭を支払っていないから,その金銭の額に相当する額の利益を受け,原告に同額の損失を及ぼしたと認められる。そこで,以下,上記の額(利用料相当額)がいくらであるのかについて検討する。
原告は,被告学園から,平成24年12月から平成25年3月までの本件システムの開発費用として,105万円を受け取った(前記)。これは,前記3のとおり,著作権の対価ではなく,それまでの労務の対価として支払われたものであったが,原告が上記の金銭を受け取った時点で,本件プログラムは,本件システムの半分程度を完成させたにとどまるものであった(前記)。Cは,同年10月頃,原告に対し,本件システムの残りの開発に係る開発費用として,120万円を支払うことを提案しており(前記),当該提案がされた経緯や提案された金額からすれば,これは,残り半分程度の本件システム開発に係る労務の対価に加えて,被告学園が原告から本件システムに係るプログラムの著作権を取得する対価を含む趣旨での提案であったものと推認することができる。
以上に加え,上記提案のほかに原告と被告学園が本件プログラムの対価の具体的な金額について協議したと認めるに足りる証拠はないこと,前記4の被告学園の本件プログラムの著作権等侵害の態様等,本件に現れた一切の事情を考慮すると,被告学園が前記4の著作権侵害行為について,本件プログラムの著作権の利用料相当額としての利益を受け,原告に損失を及ぼした金額は20万円と認めるのが相当である。
【イ 控訴人は,前記4の著作権侵害行為により,平成25年4月1日から同年10月15日までの委託費用相当額の損失を被ったと主張する。
しかしながら,仮に,本件において,控訴人に委託費用相当額の損失が生じたとしても,それは,契約に基づく相当な額の委託費用が支払われなかったことによって生じた損失と評価すべきものであって,被控訴人学園の著作権侵害行為によって生じた損失であるということはできないというべきである。
したがって,控訴人の上記主張は,採用することができない。】
(2)
著作者人格権侵害行為による被告学園の利益について
原告は,被告学園の前記4の著作者人格権侵害行為により精神的苦痛を受け,慰謝料相当額の損失を被り,プログラム著作権の登録費用相当額及び弁護士費用相当額の損失を被ったと主張する。
【しかしながら,著作者人格権の侵害によって生じる損失は,精神的損害に限られると解されるところ,控訴人に慰謝料相当額の損失が生じたとしても,これによって被控訴人学園に利益が発生するものではない。また,控訴人に,調査費用相当額,プログラム著作権の登録費用相当額及び弁護士費用相当額の損失が生じたとしても,これによって被控訴人学園に利益が発生しているわけではないことは慰謝料の場合と同様である。
したがって,控訴人の上記主張は,採用することができない。】
(略)
第4 結論
前記第3の1(11)によれば,原告が,平成25年9月11日,【Aと面談した際に,Bが控訴人の了解を得ずに被告学園プログラムに変更を加えるなどしたことに抗議した上で,Aとの間で,】本件システムに係るプログラムの著作権の取扱いや被告学園が支払う本件システムの開発費用全体について協議したと認められることからすると,原告は,同日,被告学園に対し,本件プログラムの著作権の利用料相当額を請求したと認めるのが相当である。
【そして,被控訴人学園による著作権侵害行為は,まとまった一連の行為と評価し得るものであるところ,控訴人が不当利得返還請求を行った平成25年9月11日の時点においては,既に,そのうち主要な行為であるプログラムをアップロードしたことによる複製権及び公衆送信権の侵害,プログラムを改変したことによる翻案権の侵害は生じており,その余は派生的な侵害といえることを考慮すると,本件プログラムに係る被控訴人学園による一連の著作権侵害行為を理由とする控訴人の不当利得返還請求については,上記面談の翌日から,その全体が遅滞に陥るものというべきである。】
したがって,原告の被告学園に対する請求は,不当利得返還請求権に基づき,利得金20万円及びこれに対する請求日の翌日である平成25年9月12日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから同限度で認容すべきであり,被告学園に対するその余の請求は理由がない。
また,前記第3の4のとおり,被告センターが本件プログラムに係る原告の25 著作権又は著作者人格権を侵害したとは認められないから,被告センターに対する不当利得返還請求は理由がない。
【控訴審】
当裁判所も,原審と同様に,控訴人の請求は,被控訴人学園に対して,著作権侵害に係る利用料相当額20万円及びこれに対する平成25年9月12日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるものと判断する。
その理由は,1のとおり原判決を補正し,2のとおり当審における補充主張に対する判断を付加するほかは,原判決…に記載のとおりであるから,これを引用する。
(略)
2 当審における補充主張に対する判断
(1) 控訴人の補充主張に対する判断
ア(ア) 控訴人は,被控訴人センターが,本件プログラムの共有著作権を主張する一方で被控訴人学園による各行為について「不知」と認否したことからすれば,被控訴人学園による著作権等侵害行為は被控訴人センターの同意の下で行われたものといえる旨主張する。
(イ) しかしながら,被控訴人センターは,本件プログラムをめぐる控訴人と被控訴人学園との間の具体的な事実経過を関知していなかったとの意味で「不知」と認否したものと考えられることからすれば,このような認否をしたことをもって,被控訴人学園による著作権等侵害行為を黙認又は容認していたものとみることはできない。そして,本件において,被控訴人センターが,被控訴人学園に対して著作権等侵害行為に該当する各行為を行うことを指示したり,被控訴人学園と共同して同各行為を行ったりしたと認めるに足りる証拠が存しないことは,前記のとおり補正して引用する原判決が説示するとおりである。
(ウ) また,控訴人は,著作権の共有に関する著作権法65条の規定に照らせば,本件プログラムに係る著作権を共有していると主張する被控訴人センターが,著作権侵害行為に関与していないことはあり得ないという趣旨の主張をするが,この主張は,法律の規定の内容と,被控訴人センターが現実にどのような行為をしたのかを混同するものであって,採用することはできない。そして,このように,被控訴人センターが本件プログラムに係る著作権を共有しているかどうかは,被控訴人センターによる著作権侵害の有無の結論に直ちに影響を及ぼすものではない以上,本件プログラムに係る著作権の帰属に関する原審の審理について,控訴人が指摘するような審理不尽の違法は存しない。
(エ) 以上によれば,控訴人の主張は,採用することができない。
イ(ア) 控訴人は,平成25年9月以降のやり取りにおいて被控訴人学園から提案された120万円には著作権に対する対価は含まれていなかったものであり,控訴人と被控訴人学園との間で本件システムの開発に係る委託費用は月額約32万円と合意されていたことからすれば,著作権侵害行為によって生じた控訴人の損失は160万円を下らない旨主張し,また,著作権法114条1項又は同条3項に基づいて算定しても,同損失は160万円を下らない旨主張する。
(イ) まず,控訴人と被控訴人学園との間のやり取り又は合意に関する主張について検討するに,仮に,上記やり取りにおける被控訴人学園の提案が,本件システムに係るプログラムの著作権を取得する対価を含む趣旨ではなかったとしても,前記認定事実のとおり,平成24年12月から平成25年3月までの本件システムの開発費用は105万円であったこと,この支払がされた時点において,本件プログラムは本件システムの半分程度を完成させたものであったことに加え,上記提案のほかに控訴人及び被控訴人学園が本件プログラムの対価について具体的な金額を協議したと認めるに足りる証拠はないことや,本件における被控訴人学園による本件プログラムの著作権等侵害行為の態様等,本件に現れた一切の事情を考慮すると,被控訴人学園による著作権侵害行為について,本件プログラムの著作権の利用料相当額としての利益を受け,控訴人に損失を及ぼした金額は,20万円と認めるのが相当であり,これを超える利益及び損失が生じたものと認めるに足りる的確な証拠は存しない。
また,控訴人と被控訴人学園との間において,本件システムの開発に係る委託費用を月額約32万円とする合意が成立したと認めるに足りる証拠は存しない。
そうすると,控訴人と被控訴人学園との間のやり取り又は合意を根拠として,控訴人に160万円の損失が生じたと認めることはできない。
(ウ) 次に,著作権法114条に基づく控訴人の主張について検討するに,同条1項に基づく主張については本件プログラムの譲渡等に係る控訴人の利益の額につき,同条3項に基づく主張については本件システムとは異なるシステムであるWebClassのライセンス料を基に利用料相当額を算定することにつき,それぞれ具体的な根拠を欠くというべきである。
そうすると,著作権法114条1項又は同条3項を根拠として,控訴人に160万円の損失が生じたと認めることはできない。
(エ) なお,被控訴人学園の著作権侵害行為による控訴人の損失に関する原審の審理について,控訴人が指摘するような審理不尽の違法は存しない。
(オ) 以上によれば,控訴人の主張は,採用することができない。
(2) 被控訴人学園の補充主張に対する判断
ア 被控訴人学園は,遅延損害金の始期につき,平成25年9月11日の面談の際に,控訴人から被控訴人学園に対して不当利得返還請求をするという意向が示されたことはない旨主張する。
しかしながら,上記面談の際に,控訴人がBによる被告学園プログラムの無断変更等について抗議した上で,本件システムに係るプログラムの著作権の取扱いや被控訴人学園が支払う本件システムの開発費用全体について協議が行われたことからすれば,控訴人が被控訴人学園に対して本件プログラムの著作権の利用料相当額を請求したと認めるのが相当であることは,前記のとおり補正して引用する原判決が説示するとおりである。
したがって,被控訴人学園の主張は,採用することができない。
イ このほか,被控訴人学園は,種々の主張をするが,いずれも原審と同様の主張を繰り返すものにすぎず,前記の結論を左右するものではないというべきである。
第4 結論
以上によれば,控訴人の請求は,被控訴人学園による本件プログラムに係る著作権侵害分として,本件システムの利用料相当額20万円及びこれに対する控訴人の被控訴人学園に対する請求がされた日の翌日である平成25年9月12日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから,同限度で請求を認容すべきであり,これと同旨の原判決は相当である