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著作権判例セレクション
スマートフォンで撮影された新聞記事(写真)につき適法引用を認定した事例
▶令和6年9月26日東京地方裁判所[令和5(ワ)70388]
(注)本件は、宗教法人である原告が、その会員である被告に対し、被告がインターネット上のいわゆる短文投稿サイトTwitter(「ツイッター」)において、原告が出版する聖教新聞に掲載された別紙記載の各写真(「本件各写真」)を複製しこれを掲載したことが、原告保有に係る本件各写真の著作権(送信可能化権)を侵害すると主張して、不法行為に基づき、損害賠償金等の支払を求めた事案である。
本件審理経過に鑑み、中核的争点(第2の2参照)である争点4(引用の成否)をまず判断する。
1 認定事実
(略)
2 引用の成否に関する判断
著作権法32条1項は、公表された著作物は、公正な慣行に合致し、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で、引用して利用することができる旨規定するところ、公正な慣行に合致し、かつ、引用の目的上正当な範囲内であるかどうかは、社会通念に照らし、他人の著作物を利用する目的のほか、その方法や態様、利用される著作物の種類や性質、当該著作物の著作権者に及ぼす影響の程度などを総合考慮して判断されるべきである。
これを本件についてみると、前記認定事実によれば、原告(創価学会)の会員である被告は、被告が購読する聖教新聞のごく一部の記事をスマートフォンで撮影し、その写真とともに、上記記事に関する原告(創価学会)に対する批評をツイッターに投稿することとし、平成30年10月22日から令和元年10月21日までの間、別紙投稿記事目録記載の日時において合計25回、「@B」というアカウント名で、同目録記載の批評(本文)及び写真をツイッターに投稿(本件各投稿)したことが認められる。
そして、前記認定事実によれば、スマートフォンで撮影された上記記事には、いずれも上記批評と関連するものが含まれており、上記記事は、上記批評をする目的でスマートフォンの写真1枚に写り込む限度で利用されたものである。のみならず、前記認定事実によれば、スマートフォンで撮影された上記記事には、聖教新聞に掲載された本件各写真が含まれているものの、本件各写真の構図は総じてありふれたものであり、ツイッターに投稿された上記写真に映し出された本件各写真は、被告が聖教新聞の紙面に掲載されていたものをスマートフォンで撮影し更にツイッターに投稿したものであるから、全体として不鮮明であり、その画質は粗く細部は捨象されていることが認められる。そうすると、仮に本件各写真に創作的表現部分があったとしても、ツイッターに投稿された上記写真に映し出された本件各写真は、そのごく僅かな部分を複製するものにすぎない。
さらに、ツイッターに投稿された上記写真に映し出された本件各写真の上記態様に鑑みると、その不鮮明な本件各写真が独立して二次的に利用されるおそれは、極めて低いというべきであり、本件全証拠によっても、二次的に利用されたことによって原告が経済的利益を得る機会を現に失ったことを認めるに足りない。
また、前記認定事実によれば、被告は、ツイッターに掲載した批評自体に聖教新聞からの引用である旨記載し又は「聖教新聞」という文字を上記写真に映り込ませてその投稿を継続していたことが認められる。そうすると、ツイッターに掲載された批評の内容が原告(創価学会)に対するものであり、原告(創価学会)の機関誌(聖教新聞)の報道写真としての性質を有する本件各写真の性質等を踏5 まえると、一般の読み手の普通の注意と読み方を基準とすれば、被告の一連の投稿内容に照らし、本件各写真の出所が聖教新聞であることは、十分にうかがわれるものといえる。
これらの事情の下においては、上記認定に係る本件各写真の性質、その利用目的、ツイッターへの掲載態様、著作権者である原告に及ぼす影響の程度などを、社会通念に照らして総合考慮すれば、被告が聖教新聞掲載に係る本件各写真をスマートフォンで写してこれをツイッターに掲載して利用する行為は、公正な慣行に合致し、かつ、引用の目的上正当な範囲内であると認めるのが相当である。
したがって、被告による本件各写真の利用は、著作権法32条1項にいう引用に該当するものであるから、違法なものとはいえない。
3 原告の主張に対する判断
⑴ 原告は、例えば別紙投稿記事目録記載1の本文が「最凶タッグ」との文言のみであるように、被告の批評及び投稿された写真によっては、その写真の利用目的を客観的に了知することができない旨主張する。しかしながら、原告主張に係る「最凶タッグ」という批評でいえば、被告が併せて投稿した写真は、一般の読み手の普通の注意と読み方を基準とすれば、「最凶タッグ」という批評の対象となる2名の人物を直接示すために使用されたものであることは明らかである。そうすると、原告の主張は、被告投稿に係るその余の写真を含め、被告のスマートフォンで撮影した記事が被告の批評と関連するものであるという上記認定を左右するものではない。したがって、原告の主張は、採用することができない。
⑵ 原告は、本件各写真を利用した目的につき、本件各写真を使用しなければその目的を達成できないものは1件もなく、聖教新聞の文章だけではなく、本件各写真まで引用しなければならない理由はないのであり、現に被告は、聖教新聞の写真を掲載せずに原告(創価学会)の活動を非難する投稿を頻繁に繰り返している旨主張する。しかしながら、スマートフォンで撮影された聖教新聞の記事が、少なくとも被告の批評と関連するものであることは、前記認定のとおりであり、原告の主張を踏まえても、その他の事情をも総合考慮すれば、原告の主張は、前記判断を左右するものとはいえない。したがって、原告の主張は、採用することができない。
⑶ 原告は、被告がツイッターに掲載した各批評と、本件各写真との関連性は低いため、関連性の低い写真は、紙片を置くなどして撮影したり、撮影後投稿前に無関係の写真をマスキングしたり、トリミング処理することは容易であるから、被告は、各批評と関連性の乏しい本件各写真を漫然と投稿するものであり、その利用の方法や態様は、悪質である旨主張する。しかしながら、スマートフォンで撮影された記事(これに含まれる本件各写真を含む。)は、スマートフォンの写真1枚に写り込む限度で利用されたものであることは、前記認定のとおりであり、原告の主張を考慮しても、その他の事情をも総合考慮すれば、前記判断は動くものではない。したがって、原告の主張は、採用することができない。
⑷ 原告は、被告が投稿した批評(本文)はいずれも短い文章で原告の活動に対する誹謗中傷又は抽象的かつ主観的な意見等を簡潔に記載するのみであり、本件各写真に関する論評は見当たらないことからすると、被告には、本件各写真それ自体を独立して鑑賞の対象とする目的があったことの証左であり、その利用方法や態様としても不適切である旨主張する。しかしながら、ツイッターに投稿された写真に映し出された本件各写真は、被告が聖教新聞に掲載されていたものをスマートフォンで撮影し更にツイッターに投稿したものであるから、全体として不鮮明であり、その画質は粗く細部は捨象されていることは、前記において説示したとおりである。上記認定に係る本件各写真の利用態様等を踏まえると、本件各投稿は、写真ではなく被告の批評に主眼があるものと認めるのが相当であり、本件各写真それ自体を独立して鑑賞の対象とする目的があるものとはいえず、原告の主張は、その前提を欠く。したがって、原告の主張は、採用することができない。
⑸ 原告は、ツイッターに投稿された聖教新聞の記事の一部には、聖教新聞が出所であることの明記がないことからすると、被告による本件各写真の利用は、公正な慣行に合致するものとはいえない旨主張する。しかしながら、被告は、ツイッターに掲載した批評自体に聖教新聞からの引用である旨記載し又は「聖教新聞」という文字を映り込ませたものもあり、被告の原告(創価学会)に対する批評の内容及び原告(創価学会)の機関誌(聖教新聞)の報道写真としての本件各写真の性質を踏まえると、被告の一連の投稿内容に照らし、本件各写真の出所が聖教新聞であることが十分にうかがわれることは、前記において認定したとおりである。そうすると、ツイッターに投稿された批評や当該投稿に係る写真に出所表示が明示されていないものが一部含まれることは、原告の主張のとおりであるものの、上記出所表示に関する認定のほか、社会通念に照らしその余の事情を総合すれば、原告の主張は、前記判断を左右するものとはいえない。したがって、原告の主張は、採用することができない。
⑹ 原告は、本件各写真につき、原告(創価学会)の活動を推進、啓蒙する機関誌(聖教新聞)に掲載する目的で、創意工夫を凝らして撮影されたものであるのに、被告は、いずれも、原告の活動を侮辱的、揶揄的に批評する目的で利用するものであるから、本件各写真の著作権者である原告の意図に明確に反しており、正当な引用として許されない旨主張する。しかしながら、被告の批評の内容が、侮辱的、揶揄的なものかどうかが名誉感情侵害や名誉権侵害という法的問題で考慮されるのは格別、表現の自由等の重要性に鑑みると、引用の成否という著作権法上の法的問題において、表現の自由の保障が等しく及ぶ批評につきその内容自体の当不当を直接問題とするのは相当ではなく、原告の主張は、少なくとも著作権上の引用の成否という法的問題においては、当を得ないものといえる。したがって、原告の主張は、採用することができない。
⑺ 原告は、本件各写真は多数転載(リツイート)されており、転載者や転載先の閲覧者において、画像をダウンロードするなどして原告の意に反して二次的に利用されることも容易に想定できる旨主張する。しかしながら、ツイッターに投稿された写真に映し出された本件各写真の態様に鑑みると、その不鮮明な本件各写真に創作的表現部分が仮に存在したとしても、これが独立して二次的に利用されるおそれは、極めて低いというべきであり、本件全証拠によっても、二次的に利用されたことによって原告が経済的利益を得る機会を現に失ったことを認めるに足りないことは、前記において説示したとおりである。そうすると、原告の主張は、前記判断を左右するものとはいえない。したがって、原告の主張は、採用することができない。
⑻ その他に、原告提出に係る準備書面及び証拠の内容を改めて検討しても、原告の主張は、著作権法32条の法意を踏まえると、表現の自由等の重要性に照らしても、その余の主張を含め、いずれも前記判断を左右するに至らない。原告の主張は、いずれも採用することができない。
4 その他
以上によれば、その余の点につき判断するまでもなく、原告の請求は、いずれも理由がない。