Kaneda Legal Service {top}
著作権判例セレクション
コーヒー豆等を収納するガラス製の保存容器(キャニスター)の著作物性を否定した事例
▶令和6年7月2日大阪地方裁判所[令和5(ワ)5412]
1 争点1(原告各作品の著作物性の有無)について
「著作物」(法2条1項 1 号)とは、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」であり、「美術の著作物」には美術工芸品が含まれる(同条2項)ところ、美術鑑賞の対象となり得るものであって、思想又は感情を創作的に表現したものであれば、美術の著作物に含まれると解されるから、同項は、美術工芸品が美術の著作物として保護されることを例示したものと解される。一方、応用美術(実用に供されることを目的とした作品であって、専ら美術鑑賞を目的とする純粋美術とはいえないもの)のうち、美術工芸品以外の量産品について、(意匠法による保護はさておき)美術鑑賞の対象となり得るというだけで一律に美術の著作物として保護されることになると、実用的な物品の形状等の利用を過度に制約し、将来の創作活動を阻害することになり、妥当でない。
そこで、応用美術のうち、美術工芸品以外の量産品であっても、実用目的を達成するために必要な機能に係る構成と分離して、美術鑑賞の対象となり得る美的特性である創作的表現を備えている部分を把握できる場合には、美術の著作物に当たると解するのが相当である。
原告各作品は、コーヒー豆等を収納するガラス製の保存容器(キャニスター)であるから(争いなし)、実用目的を有する量産品であるといえる。原告各作品が、保存容器という実用目的を達成するために必要な機能に係る構成と分離して、美術鑑賞の対象となり得る美的特性を備えているか否かについてみると、原告各作品は、ストレートガラスカップと木製の蓋から構成されており、ストレートガラスカップに装飾のある木製の蓋を組み合わせること自体はアイデアであるところ、前者(ストレートガラスカップ部分)には、保存容器として必要な機能に係る構成と分離して、美術鑑賞の対象となり得る美的特性が備わっているとは認められない(原告もこの部分について、創作的表現が備わっている旨の主張はしていない。)。また、後者(木製の蓋部分)は、先端側から順に略球形、円盤型、円錐型からなる3段から構成され、各段の境目はくびれの構成となっているところ、このような構成は持ち運びや内容物の収納、ストレートガラスカップに対する蓋の着脱を容易するために必要な構成であるから、実用目的を達成するために必要な機能に係る構成と分離して、美術鑑賞の対象となり得る美的特性を備えているとはいえない。また、仮に、保存容器(キャニスター)の実用目的を達成するために、その蓋部分の構成をフィニアル状にする必然性はないとして部分的には実用目的を達成するために必要とはいえない構成が含まれると解するとしても、略球形、円盤型及び円錐型を組み合わせていくつかの段を構成し、各段の境目がくびれている木製の装飾は、骨董品に用いられるなど、かなり前から家具等で広く用いられていたこと、原告がP10を制作する以前の平成25年時点において、略球形や円盤の形状のいくつかの段が設けられ、各段の境目がくびれている木製の蓋が細いガラス瓶に接着された作品が存在していたことなどの事情も踏まえると、原告各作品の上記蓋部分の構成はありふれたものであって、美術鑑賞の対象となり得る美的特性である創作的な表現を備えているとはいえない。
したがって、原告各作品は、創作性がなく、著作物であると認めることはできない。
2 争点2(複製又は翻案の有無)について
なお、事案にかんがみ、依拠性についても検討する。
原告は、被告各作品は原告各作品に依拠している根拠となる事情として、被告P2が令和2年1月に原告各作品の取扱いを求めたが原告がこれを断ったこと、令和4年10月以降に被告店舗で被告各作品が展示、販売されていること、及び、被告P3が原告のインスタグラムのアカウントをブロックしたことを挙げる。
しかし、上記1のとおり、原告各作品の蓋部分のフィニアル状の装飾は、従来から類似の装飾が広く存在するありふれたものであること、原告各作品と被告作品1及び同2を比較しても、木製の蓋部分の形状は、先端部分や2段目の円盤部分、3段目の円錐部分など複数の点において相違し、作品の印象にも相応の差異がもたらされていること、被告各作品の制作にあたって実施された両被告間の話合いにおいて、原告各作品に言及された事情はうかがわれないことなどを踏まえると、原告主張の上記各事情を前提としても、依拠性を認めることはできず、他に、依拠性を認めるに足りる証拠はない。
したがって、被告らによる原告の複製権又は翻案権の侵害は認められない。
3 争点3(氏名表示権の侵害)について
上記1及び2に説示したところによれば、被告各作品を被告P3の作品として販
売することが、原告の氏名表示権の侵害に該当するとは認められない。
4 まとめ
以上によれば、その余の点について検討するまでもなく、原告の請求は理由がない。