Kaneda Legal Service {top}

著作権判例セレクション

著作権侵害罪認定事例(トレントファイルが関係した事案)

▶令和6613日東京地方裁判所刑事第7[令和5()1462]
(罪となるべき事実)
被告人は
第1 法定の除外事由がなく、かつ、著作権者の許諾を受けないで、別表1(省略)記載のとおり、令和3年12月23日頃から令和5年5月30日頃までの間、33回にわたり、東京都内又はその周辺において、パーソナルコンピューターを使用し、インターネットを介して、株式会社Aほか4社が著作権を有する著作物である「ガールズ&パンツァー最終章第3話」ほか108作品の情報が記録された各動画データの識別情報等を記録した各トレントファイルをインターネットサイトBに送信して、同サイト上で前記各トレントファイルを公開した上、前記各動画データを、氏名不詳者が管理する場所不詳に設置されたインターネットに接続された各サーバーコンピューターの記録装置に記録保存し、さらに、前記各サーバーコンピューターのIPアドレスを前記サイトに送信するなどして前記各トレントファイルと前記各動画データを結び付けて、前記サイトを閲覧した不特定多数の者に前記各トレントファイルを介して前記各サーバーコンピューターに接続して前記各動画データを自動的に公衆送信し得る状態にし、もって前記株式会社Aほか4社の著作権を侵害した
()
第9 法定の除外事由がなく、かつ、著作権者の許諾を受けないで、令和5年5月25日頃、東京都内又はその周辺において、パーソナルコンピューターを使用し、インターネットを介して、株式会社Aが著作権を有する著作物である「機動戦士ガンダム 水星の魔女」第7話「シャル・ウィ・ガンダム?」ほか2作品の情報が記録された動画データの識別情報等を記録したトレントファイルをインターネットサイトBに送信して、同サイト上で同トレントファイルを公開した上、前記動画データを、氏名不詳者が管理する場所不詳に設置されたインターネットに接続されたサーバーコンピューターの記録装置に記録保存し、さらに、同サーバーコンピューターのIPアドレスを前記サイトに送信するなどして前記トレントファイルと前記動画データを結び付けて、前記サイトを閲覧した不特定多数の者に前記トレントファイルを介して前記サーバーコンピューターに接続して前記動画データを自動的に公衆送信し得る状態にし、もって前記著作権者の著作権を侵害したものである。
(量刑の理由)
本件は、特定の弁護士を対象として嫌がらせを行うなどするインターネット上の匿名者集団の一員であると考えていた被告人が、同集団の中で前例のない行為を行うことで、同集団を世の中に広く知らしめたいなどと考えて、アニメの動画を違法アップロードするなどして著作権を侵害した事案(第1及び第9)、同集団のウェブサイトで知り合った共犯者と共謀の上、前記弁護士に嫌がらせをしたい、報道されることで同集団を世間に知らしめたいなどと考えて、複数の大学に対して爆破予告のファックスを送信した事案(第2)、同集団のウェブサイトに住所や氏名が掲載されていた人物のマンション共用部分に侵入した事案(第3)、前記弁護士がSNSに自分のアカウントを掲載したことに立腹し、同集団の中でだれもやっていないことをやりたいと考えたことなどから、前記弁護士の懲戒請求をするために他人名義の懲戒請求書を偽造して送付した事案(第4)、前記共犯者と共謀の上、他人名義のクレジットカード情報等を利用して、インターネット上でアニメのDVD等の購入を申し込んで窃取した事案(第5ないし第8)である。
前記のとおり、本件犯行の動機はいずれも身勝手なものであり、前記集団の中でこれまで行われていない違法な行為を行うことで自分が認められたいなどと考えて、無軌道に犯行を重ねた側面も認められる。事件ごとにみると、第1及び第9(著作権法違反)については、長期間にわたって多数の動画を違法アップロードしていること、第2(威力業務妨害)については、複数の大学に対して行われたもので、学生を退校させることになるなど学校業務に多大な影響を与えていること、第5ないし第8(窃盗等)については、多数回行われたもので、被害額も合計約64万円と多額であることなどの悪質な事情が認められる。また、共犯事件における被告人の役割についてみると、第2については、ファックス送信サービスを利用して送信したのは共犯者であるが、被告人は、大学に対して爆破予告をすることを提案し、大学のファックス番号を収集するなどしており、第5ないし第8についてみても、クレジットカード情報を不正に入手して注文したのは共犯者であるが、商品を受け取ったのは被告人であるから、いずれについても重要な役割を果たしていたといえる。
他方、被告人が、本件犯行を素直に認め、多数の人に迷惑をかけて本当に申し訳ない旨述べるなど、反省の態度を示していること、被告人に前科がないことなど、被告人のために酌むべき事情も認められる。
そこで、以上を踏まえて検討するが、本件の一つ一つの犯行をみた場合には、直ちに実刑に処すべき行為とはいえない。しかし、いずれも決して軽視できない悪質な犯行である上、前記集団を広く知らしめ、同集団の中で認められたいなどという身勝手な動機で様々な違法行為を重ねたという事件全体をみた場合には、被告人の責任は重いといわざるを得ない。そうすると、弁護人が主張するように、本件犯行については、被告人の精神的な幼さの現れという側面が認められるとしても、被告人に対して刑の執行を猶予することは困難であり、被告人にとって酌むべき事情は刑期において十分に考慮することとし、主文のとおりの刑に処するのが相当である。
※「主文 被告人を懲役3年に処する。(以下略)