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著作権判例セレクション
賃貸物件を紹介する目的で撮影された写真の著作物性を認定した事例/賃貸物件を紹介する目的で撮影された写真の職務著作物性が問題となった事例
▶令和6年2月7日東京地方裁判所[令和4(ワ)9461]
1 争点1(本件各写真の著作物性)について
証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件各写真は、賃貸物件の外観・内観及び周辺環境等を撮影したものであること、本件各写真の撮影は、賃貸物件の内容を分かりやすく需要者に伝えるため、明るさや撮影角度等を調整して行われたものであること、本件各写真の中には、対象を広く写真に収めるため、パノラマ写真を撮影できるカメラを利用して撮影されたものも含まれていることが認められる。
このような本件各写真の内容や撮影方法に照らすと、本件各写真は、被写体の構図、カメラアングル、照明、撮影方法等を工夫して撮影されたものであり、撮影者の個性が表現されたものといえる。
したがって、本件各写真は、いずれも思想又は感情を創作的に表現したものと認められ、「著作物」(著作権法2条1項1号)に該当し、これに反する被告らの主張は採用できない。
2 争点2(本件各写真に係る著作権の帰属)について
⑴ 証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件各写真のうち撮影担当者が特定されている各写真(本件写真2ないし13、30ないし81、93ないし97、104、105)については、原告の従業員であった人物が、原告の管理する賃貸物件の紹介に利用するために、原告の指示に基づき撮影した写真であることが認められるから、これらの写真は、「法人その他使用者の発意に基づきその法人等の業務に従事する者が職務上作成する著作物」であるといえる。
そして、著作権法15条1項の「法人等が自己の著作の名義の下に公表するもの」とは、実際に公表されたもののみならず、創作の時点において、法人等の名義で公表されることが予定されていたものを含むと解されるところ、上記の各証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件各写真は、原告の管理する賃貸物件を紹介するウェブサイトに掲載することが予定されていたものと認められるから、この要件を満たす。また、本件全証拠によっても、原告とその従業員との間の契約、勤務規則その他において著作権に関する別段の定めがあるとは認められない。
⑵ したがって、本件各写真のうち本件写真2ないし13、30ないし81、93ないし97、104及び105の合計71枚は、原告の職務著作(著作権法15条1項)に該当し、その著作者は原告であり、その著作権は原告に帰属する(以下、原告に著作権が帰属すると認められるこれらの写真を総称して、「本件侵害対象写真」という。)。
⑶ 原告の主張について
これに対し、原告は、撮影担当者が不明とされている各写真(本件写真1、14ないし29、82ないし92、98ないし103、106ないし108)についても、上記の各写真が原告の管理するパソコンのサーバーに保管されていたことや、原告が上記の各写真とファイル名が連番となる前後の写真を保有していることを根拠として、これらの写真がいずれも原告の従業員によって撮影された写真であると主張する。
しかし、本件全証拠によっても、上記の各写真が原告の管理するパソコンのサーバーに保管されることとなった具体的経緯は明らかではないから、仮に原告の主張する事実が存在したとしても、そのような事実のみによって、上記の各写真が原告の従業員が原告の指示に基づき撮影したものであると認めることはできないというべきである。
したがって、原告の上記主張を採用することはできない。
⑷ 被告らの主張について
他方、被告らは、①不動産業界においては、物件写真を融通する慣行が存在し、本件各写真のデータも他社が撮影した写真のデータである可能性があること、②本件各写真には、撮影日が平成27年とされる写真も存在しているが、この写真を撮影したとされる「B」、「C」及び「D」の3名は、同年時点では原告に入社しておらず、そうすると、撮影日が同年とされている写真は原告の従業員ではない人物が撮影した可能性が高いこと、③原告の従業員には、アルプスエージェントと兼務していた者が多数存在しており、本件各写真の撮影が、原告の職務として行われたのか、それともアルプスエージェントの職務として行われたのかは、不明であることから、職務著作は成立しないと主張する。
しかし、上記①については、抽象的な可能性を指摘するものにすぎず、本件全証拠によっても、本件侵害対象写真に原告の従業員以外の人物が撮影した写真や他社が著作権を有する写真が含まれていたとは認めることはできない。
上記②について、証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件各写真のうち、撮影場所を「VALESIA YOKOHAMA SOUTH CITY」、「ウィンベルソロ南太田第2」又は「G・Aヒルズ戸部」とする写真の一部(本件写真35、36、40、41、44ないし47、53ないし65、70、72、75)の撮影日が、平成27年となっていること、原告が本件侵害対象写真の撮影担当者と主張する「B」、「C」及び「D」の3名が平成27年時点で原告に在籍していなかった可能性があることが認められる。もっとも、上記の撮影日については、撮影者が機器の設定等を行うことなく写真の撮影をしたため、不正確な日時が記載されてしまった可能性もあるところ、証拠及び弁論の全趣旨によれば、上記の各撮影場所の物件について別の機器を利用して同時に撮影されたものと認められる他の写真(本件写真30ないし34、37ないし39、42、43、48ないし52、66ないし69、71、73、74、76ないし81)の撮影日は、平成31年若しくは令和元年又は令和2年とされていることが認められる。そうすると、一部の写真の撮影日が平成27年とされていることをもって、それらの写真が原告の従業員ではない人物によって撮影されたということはできない。
上記③について、前提事実のとおり、原告代表者がアルプスエージェントの代表取締役も務めていることに加え、証拠及び弁論の全趣旨によれば、原告とアルプスエージェントは実質的に同一の会社であり、アルプスエージェントは、原告の事業を行う際の名称等として利用されていたと認められることに照らせば、本件侵害対象写真の撮影に関する業務は、原告の発意に基づき行われたものと認めるのが相当である。
したがって、被告らの主張はいずれも前記⑵の判断を左右するものではないというべきである。
⑸ 小括
以上のとおり、本件各写真のうち本件写真2ないし13、30ないし81、93ないし97、104及び105の合計71枚(本件侵害対象写真)については、職務著作として、その著作権が原告に帰属すると認められる一方で、その余の写真(本件写真1、14ないし29、82ないし92、98ないし103、106ないし108)については、原告の従業員による職務著作と認めることはできない。
3 争点3(被告らによる著作権侵害行為の有無)について
証拠及び弁論の全趣旨によれば、被告らは、原告の許諾を得ることなく、別紙侵害目録の「掲載箇所」欄記載の被告物件に係るウェブサイト上において、本件侵害対象写真を有形的に再生して掲載し、以下の期間、インターネットを通じて上記のウェブサイトにアクセスした不特定又は多数の者が本件侵害対象写真を閲覧できる状態に置いたことが認められる。
(略)
したがって、被告らの行為は、共同して、故意又は過失により、原告の著作権(複製権及び公衆送信権)を侵害するものとして、共同不法行為に該当する。
4 争点4(権利濫用の成否)について
仮に原告代表者が被告らの指摘するような投稿を行っていたとしても、別途被告会社に対する不法行為が成立し得るか否かは別として、原告が被告らに対して著作権侵害に基づく損害賠償請求を行うことが直ちに権利の濫用として許されないものと解することはできない。
5 争点5(損害の発生及び額)について
⑴ 証拠及び弁論の全趣旨によれば、通常、管理会社等を通さずに物件写真を取得する際には、自社の従業員などが現地を訪問し、賃貸物件の外観や内観等の撮影した上で、必要に応じて写真の加工等を行っていることが認められるところ、被告会社は、本件侵害対象写真を使用することによって、上記の作業に係る支出等を免れたものといえる。
そして、証拠及び弁論の全趣旨によれば、物件写真の撮影代行サービスの料金については、①広角一眼レフカメラ撮影の外観・内観セット(単発発注)については、3600円から4500円、360度パノラマ撮影(単発発注)については、3200円から4000円(写真の加工等には別途オプション料金が必要)とするもの、②内観(画像15枚程度)2750円、外観・共用部セット3300円、高品質撮影5500円、交通費2000円程度とするもの、③外観・エントランス・看板7枚以上で2750円~5500円、外観・共用部・室内全て7枚以上で1万3200円(いずれも一眼レフカメラ、広角カメラで撮影。1回の撮影枚数は30枚以上。)、シータによる撮影(8枚以上)は1件4400円(写真の加工等には別途オプション料金が必要で、徒歩15分以上の撮影の場合は1650円が加算される。)とするもの、④マンション一眼レフカメラ広角レンズ撮影について、外観のみ(10枚程度)3500円、内観のみ(20枚程度)4000円、外観・内観(30枚まで)4500円、オプションとして360度パノラマ撮影について、1枚500円、5枚まで1000円~2000円(ただし、駅から徒歩16分以上の場合は1000円が加
算 さ れ る 。) とするもの、⑤外観 の み (5枚 か ら 10枚程度)1200円から1800円、外観・内観セットについて10枚から15枚程度の場合は2200円から2500円、30枚程度の場合は2500円から2800円とするものなどがあることが認められ、このような料金の定めからすれば、物件写真の撮影代行サービスを利用する場合、写真1枚当たりに換算すると数百円程度の費用が必要となるほか、交通費や写真の加工等のためのオプション料金が別途発生し得ることが認められる。
上記の事情に加え、本件侵害対象写真の掲載期間は最大で2か月弱であってさほど長くないこと(前記3)、他方で、著作権侵害があった場合に事後的に定められるべき「著作権の行使につき受けるべき金銭の額」は通常の使用料に比べて高額となることといった事情を併せ考慮すると、本件侵害対象写真の著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額(著作権法114条3項)は、写真1枚当たり1000円の合計7万1000円と認めるのが相当である。
⑵ これに対し、原告は、NHKエンタープライズ、毎日フォトバンクやアマナイメージズの写真使用料の定めからすれば、本件侵害対象写真の使用料相当額は1枚当たり2万円とすべきであると主張する。
しかし、NHKエンタープライズや毎日フォトバンクの提供する写真は、報道等のために撮影された写真であり、また、アマナイメージズの提供する写真はウェブ広告や動画配信広告等に用いられるものであって、その撮影対象や撮影方法は、賃貸物件の紹介を目的とした物件写真とは大きく異なるものといえるから、上記各社の写真使用料の定めを本件で参考にすることは相当ではない。
したがって、原告の上記主張は採用できない。