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著作権判例セレクション
ツイッターへの投稿が不法行為(氏名権の侵害)を構成すると認定した事例/両目部分に黒の横線が入れられたイラストにつき侵害性を認定した事例
▶令和6年1月30日大阪地方裁判所[令和5(ワ)6100]
(注)本件は、原告が、被告によるツイッター(インターネットを利用して短文のメッセージ等を投稿することができる情報ネットワーク。現在の名称は「X」であるが、以下、名称変更の前後を問わず「ツイッター」という。)への投稿が、原告の氏名権、著作権(複製権及び公衆送信権)、平穏生活権及び名誉感情を侵害し、不法行為を構成すると主張し、被告に対し、民法709条に基づき、損害賠償金等の支払を求めた事案である。
(前提事実)
被告は、名前を「P1」、ユーザー名を「(省略)」、プロフィールに「の存在はフィクションのため実在の団体人物とは一切関係ございません。」と記載し、本件イラストの両目部分に黒の横線が入れられ、「(省略)」という表記が黒塗りされたイラスト(「本件黒塗りイラスト」)をアイコン画像に設定したアカウント(「本件アカウント」)を開設し、これを通じて、ツイッター上に、別紙記載の各投稿(「本件各投稿」)をした。
1 争点1(本件各投稿が不法行為を構成するか)について
(1)
氏名権侵害について
氏名は、個人の人格の象徴であり、人格権の一内容を構成するものというべきであるから、人は、その氏名を他人に冒用されない権利を有する。
前提事実並びに証拠及び弁論の全趣旨によれば、被告は、本件アカウントを通じて本件各投稿を行っているところ、本件投稿1では、本件アカウントにおける名前(原告の氏名である「P1」)及びユーザー名(原告が経営する法人グループの総称である「(省略)」)が表示されており、本件投稿2ないし4では、「P1」がリツイートした旨が表示されていることに加え、所定の操作により本件アカウントにおける名前等が表示されることが認められ、本件各投稿に接した閲覧者は、投稿者として原告の氏名を認識するものと認められるから、被告は本件各投稿において原告の氏名を冒用したといえる。したがって、本件各投稿は、原告の氏名権を侵害する。
被告は、本件アカウントのプロフィール欄には「フィクションのため実在の人物とは一切関係がございません」と記載されているから、閲覧者は、実在の人物とは関係がないとの結論に至り、原告本人ではないと認識をする可能性がある旨を主張する。しかし、閲覧者は、アカウントに表示された氏名やユーザー名によって投稿者を特定するものと解されるから、被告指摘の記載があったとしても、閲覧者は、原告がその旨を記載していると理解するにすぎず、前記判示に影響を与えるものではない。被告の前記主張は採用できない。
(2)
本件著作権の侵害について
著作物とは、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」(著作権法2条1項1号)をいう。
本件イラストは、P3氏が、ツイッター上の交流において原告を表すためにふさわしいイラストとして制作したものであり、腹ばいになるアザラシの様子をイラストにし、その下部に「(省略)」と記載したものであるところ、全体的に丸みを帯びた輪郭で、頭部を大きくし、ヒレを頭部付近に小さく描くことにより、親しみやすくかわいらしい印象を与えている点、大きな頭部いっぱいに両目、鼻及び口を描くことでアザラシの表情に存在感を与えている点、これらに「(省略)」という表記を欧文字で加えることで、その性格(原告の人柄)を示しつつイラストとしての一体感を感じさせる点において、選択の幅がある中から作成者によってあえて選ばれた表現であるということができる。したがって、本件イラストは、作成者の思想又は感情が創作的に表現された、美術鑑賞の対象となり得る美的特性を備えたものであると認められ、「著作物」に該当する。
証拠及び弁論の全趣旨によれば、P3氏は、本件イラストを制作し、原告に対し、本件イラストに係る著作権を譲渡したことが認められ、原告は、本件イラストに係る著作権を有していると認められる。
本件黒塗りイラストは、本件イラストの両目部分に黒の横線が入れられ、「(省略)」という表記が黒塗りされたものであるが、被告がかかる改変を行ったことを認めるに足りる証拠はない。一方、前記改変は、前記目線等を加えたことに限られるから、本件黒塗りイラストは、本件イラストに依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、これに接する者が本件イラストの表現上の本質的な特徴を直接感得することができるものと認められ、本件黒塗りイラストは本件イラストの複製物又は翻案物であって、原告が著作権を有するものといえる。そうであるところ、被告は、本件各投稿によって、本件黒塗りイラストに改変等を加えることなくツイッター上に投稿して、少なくとも不特定の者に対して閲覧可能な状態にしたことから、本件各投稿は、原告の著作権(複製権及び公衆送信権)を侵害するといえる。
(3)
平穏生活権侵害について
原告は、被告が、ツイッターの自動投稿サービスを用いて、連日、趣旨不明の投稿を自動的に行うように設定し、アカウントが凍結されるとすぐに新しいアカウントを作成して投稿を続けたことなどを指摘して、原告の平穏生活権が侵害された旨を主張する。
しかし、原告が指摘する事情を裏付ける客観的証拠はないし、これらの事情と本件各投稿の関係も明らかでない。その他、本件各投稿により、原告の平穏生活権が侵害されたことを認めるに足りる証拠はない。
したがって、本件各投稿によって原告の平穏生活権が侵害されたとは認められず原告の前記主張は採用できない。
(4)
名誉感情侵害について
本件投稿1について検討するに、本件投稿1は、原告の氏名及び原告が経営する法人グループの名称を表示するとともに、その存在はフィクションであり、実在の団体人物とは関係がない旨が記載されたものであるところ、一般閲覧者の普通の注意と読み方を基準として判断した場合、本件投稿1に接した閲覧者は、原告自身が原告や(省略)とは関係がない旨を投稿したと認識するものと認められる。したがって、本件投稿1は、閲覧者に対し、原告は趣旨不明な投稿をする人物であるとの印象を与え、原告の名誉感情を侵害するものといえる。被告は、本件各投稿は司法書士として品位に欠ける言動をやめさせる公益目的で行った旨主張するが、仮にそのような目的があったとしても、原告になりすまして本件投稿1を行うことが正当化される理由にはならない。
本件投稿2ないし4について検討するに、原告は、被告がP4アカウントを作成したことを前提として、本件投稿2ないし4の閲覧者は、原告があたかもP4氏の名誉権を侵害したり、プライバシー権を侵害したりする投稿を平気で行う人物であると受け止めることから、これらの投稿は原告の名誉感情を侵害する旨を主張する。しかし、被告がP4アカウントを作成したことを認めるに足りる証拠はない。
また、P4アカウントによる投稿に接した閲覧者は、P4氏が自身のアカウントで投稿していると認識するものと認められるところ、仮に被告が同氏になりすましてP4アカウントを作成し投稿していたとしても、P4アカウントによる投稿をリツイートすること自体によって、直ちに同氏の名誉権やプライバシー権が侵害されることにはならないから、原告の前記主張はその前提を欠く。そして、本件投稿2は、名前を「P4」、ユーザー名を「(省略)」とするP4アカウントによる「ばればれだよ。ことP4です。」という投稿を本件アカウントでリツイートしたものであるところ、一般閲覧者の普通の注意と読み方を基準として判断した場合、本件投稿2に接した閲覧者は、P4氏が自身のユーザー名及び氏名を紹介した投稿に対して原告が注目し閲覧者に伝えようとしたと認識するものと認められる。したがって、本件投稿2は、原告の名誉感情を侵害するものとはいえない。また、本件投稿3及び4は、P4アカウントによる「ネコではなくタチのP4です。」及び「バリタチのP4です。」という投稿を本件アカウントでそれぞれリツイートしたものであるところ、「ネコ」、「タチ」及び「バリ」が同性愛者を指す用語として用いられることがあることを踏まえ、一般閲覧者の普通の注意と読み方を基準として判断した場合、本件投稿3及び4に接した閲覧者は、P4氏が自身が同性愛者であることを摘示した投稿に対して原告が注目し閲覧者に伝えようとしたと認識するものと認められる。したがって、本件投稿3及び4は、原告の名誉感情を侵害するものとはいえない。
(5)
以上から、本件各投稿は原告の氏名権及び本件著作権(複製権及び公衆送信権)を侵害し、本件投稿1は原告の名誉感情を侵害するものとして、不法行為を構成する。
2 争点2(損害の発生及びその額)について
前記1認定の本件各投稿による権利侵害の内容及び態様の一切を考慮すると、本件各投稿により、原告が被った精神的苦痛を慰藉する金額は、15万円が相当と認められる。ただし、原告は本件イラストの著作者ではなく、本件著作権(複製権及び公衆送信権)侵害により原告に精神的苦痛が生じたとは認めるに足りない。
以上から、原告の請求は、不法行為に基づく損害賠償金(慰藉料)15万円及びこれに対する最後になされた本件投稿2の投稿日の後である令和3年3月23日から支払済みまで民法所定年3分の割合による遅延損害金を求める部分には理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。