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著作権判例セレクション

ウェブページにおける写真利用につき、適法引用を認めなかった事例

令和5518日東京地方裁判所[令和3()20472]▶令和7514日知的財産高等裁判所[令和5()10067]
3】争点2(引用の成否)について
⑴ 著作権法32条1項は、公表された著作物は、公正な慣行に合致し、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で引用して利用することができる旨規定するところ、公正な慣行に合致し、かつ、引用の目的上正当な範囲内であるかどうかは、社会通念に照らし、他人の著作物を利用する目的のほか、その方法や態様、利用される著作物の種類や性質、当該著作物の著作権者に及ぼす影響の程度などを総合考慮して判断されるべきである。
⑵ これを本件についてみると、証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件各写真は、被告会社に対し、合計460万円で利用許諾されたものであり、商業的価値が高いものであるところ、本件各写真は、本件契約の許諾期間経過後に、本件ウェブページに掲載されたこと、本件ウェブページの右側には、画面の横幅半分以上を占める長方形の枠があり、その上部には横一列で本件各写真を含む写真が小さく表示されているところ、当該各写真のいずれか一つにカーソルを合わせると、その写真が上記長方形の枠内に拡大表示されること、当該長方形の枠の左側には、本件プロジェクトに係る新作たばこ「さくら」のデザインに込めたイメージのほか、煙草が喫われる情景を昭和初期の文士の世界に託して描いたという冊子のコンセプトが一文付されるなどの解説文が掲載されているところ、画面右側の拡大された写真の方が、画面左側の解説文よりも大きく表示されること、当該解説文は、いずれの写真が拡大表示されても同じ内容のものが掲載されており、画面右側の拡大された写真の下には、「P:A」として原告の名前が表示されていること(以上別紙本件ウェブページ目録1ないし4参照)、他方、被告会社は、本件各写真のデジタルデータに「透かし」を入れ又は写真家の名前を浮き彫りにするなどの無断複製防止措置をせずに、本件ウェブページに上記デジタルデータを掲載したところ、本件各写真のデジタルデータは、グーグルの検索サイトの画像欄その他のインターネット上に、原告の名前が付されずに相当広く複製等されるに至ったこと、以上の事実が認められる。
上記認定事実によれば、本件各写真にカーソルを合わせた場合には、本件各写真は、左側の解説文よりも、画面右側に大きく拡大表示されており、解説文において本件各写真と関連性のある内容は、煙草が喫われる情景を昭和初期の文士の世界に託して描いたという冊子のコンセプトが一文付されるにすぎず、少なくとも商業的価値の高い本件各写真との関係上は、上記一文は本件各写真の添え物にとどまるものといえる。そして、上記認定事実によれば、本件各写真のデジタルデータには、無断複製防止措置がされず、同デジタルデータは、インターネット上に原告の名前が付されずに相当広く複製等されるに至ったことが認められる。
これらの事情の下においては、本件ウェブページには、商業的価値が高い本件各写真がそれ自体独立して鑑賞の対象となる態様で大きく掲載されており、本件各写真のデジタルデータは、無断複製防止措置がされずインターネット上に相当広く複製等されていることからすると、本件各写真の著作権者である原告に及ぼす影響も重大であることが認められる。
したがって、本件ウェブページにおける本件各写真の利用は、上記認定に係る本件各写真の性質、掲載態様、著作権者である原告に及ぼす影響の程度などを総合考慮すれば、公正な慣行に合致せず、かつ、引用の目的上正当な範囲内であるものと認めることはできない。
⑶ これに対し、被告らは、本件ウェブページ画面における解説文と本件各写真の性質及び関係性、本件各写真等の制限的表示態様、更には本件ウェブページ自体のホームページ全体における位置関係等を考慮すると、本件各写真は解説文を補う従たるものにすぎない旨主張する。
しかしながら、上記認定に係る解説文の大きさ及び内容と、本件各写真の性質及び掲載態様を比較すれば、本件各写真は、それ自体独立して鑑賞の対象となる態様で掲載されていることは、上記において説示したとおりである。
そうすると、上記認定に係る独立鑑賞の対象となる本件各写真の掲載態様及び著作権者である原告に及ぼす影響等を踏まえると、実績紹介の目的で掲載したとする被告らの主張を十分考慮しても、上記判断を左右するに至らない。
したがって、被告らの主張は、採用することができない。
 ⑷ 以上によれば、被告会社が本件ウェブページに本件各写真を掲載した行為は、著作権法32条1項の規定する引用に該当するものとは認められない。

[控訴審同旨]
⑵ 引用の成否(争点2)について
一審被告らは、前記〔一審被告らの主張〕のとおり、適法引用である旨を主張する。
しかし、補正の上で引用した原判決のとおり、本件ウェブページにおける本件各写真の利用について、適法引用であるとは認められない。本件ウェブサイトに掲載された本件小冊子のコンセプトについての「冊子は初期導入時に用いられたSPツール(判決注:販売促進ツール)で煙草がおいしそうに喫われる情景を昭和初期の文士の世界に託して描いたフィクションです。」との解説文も、本件写真1等が横に大きく掲載されて初めて理解できるものであって、一審被告らが自認するとおり、言葉による説明のみでは一審被告らの主張する紹介目的を全うし得ず、写真の表現力を借りる必要があることから、本件各写真を文章に比して大きなサイズ及び相応の画質で掲載したものであって、本件各写真の使用(掲載)の方法ないし態様としてみても、社会通念上、合理的な範囲内にとどまるものということはできないから、公正な慣行に合致するものとも、引用の目的上正当な範囲内であるものともいえない。
したがって、一審被告らの上記主張は採用することができない。