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著作権判例セレクション

木軸のシャープペンシルの(美術)著作物性を否定した事例

令和7728日知的財産高等裁判所[令和7()10014]
2 原判決の補正
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⑸ 原判決…までを次のとおり改める。
「前提事実及び証拠によれば、本件原告商品は、木軸のシャープペンシルであり、木軸の部分は1本ずつ手作業により木材を加工して作られるが、金属の部品は同一の型のものが用いられ、各部分の長さや直径は決まっており(本件形状)、木軸部分が本件形状に合うように木材が加工されて本件原告商品が作り出されることが認められ、この事実によれば、本件原告商品が一品制作の美的実用品であるとは認められない。」
⑹ 原判決…までを次のとおり改める。
「ウ よって、本件原告商品が著作権法2条1項1号の『著作物』に当たるとは認められず、被控訴人による本件被告商品の製作、販売が控訴人の著作権を侵害するとも認められない。」
3 当審における控訴人の補充主張に対する判断
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⑶ 控訴人は、前記のとおり、本件原告商品は著作物である旨主張する。
ア しかし、まず、著作権法2条2項の「美術工芸品」は、一品制作の美的実用品をいうものと解すべきところ、前記のとおり補正の上で引用した原判決のとおり、本件原告商品の木軸は1本ずつ手作業により木材を加工して作られているが、木軸の各部分の長さや直径は本件形状のとおりに決まっており、本件形状に合うように木材が加工されて本件原告商品が作り出されるものであることからすれば、これを一品制作の美的実用品であると認めることはできない。
イ 控訴人は、前記のとおり、美術工芸品に当たらない応用美術であっても、思想又は感情を創作的に表現したものであること(著作権法2条1項1号)を満たせば著作物性が認められると解すべきであると主張する。
しかし、実用的なデザインも含めておよそ何らかの形で美感が表わされていれば著作物に該当するということはできない。実用目的の応用美術であっても、実用目的に必要な構成と分離して、美的鑑賞の対象となる美的特性を備えている部分を把握できるものについては、実用目的を達成するための機能とは無関係に自由に創作された表現が客観的に存在するといえるから、「思想又は感情を創作的に表現した美術の著作物」に該当するということができる。他方、実用目的に必要な構成と分離して、美的鑑賞の対象となる美的特性を備えている部分を把握できないものについては、実用目的を達成するための機能に制約された形態等が存在するのみであり、機能と無関係に自由に創作された表現が客観的に存在するとは認められないから、「思想又は感情を創作的に表現した美術の著作物」に該当するということはできない。
そうすると、原判決のとおり、実用目的に必要な構成と分離して、美的鑑賞の対象となる美的特性を備えている部分を把握することができるものでなければ、著作権法2条1項1号の著作物として保護されないと解すべきである。
したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
ウ 控訴人は、前記のとおり、本件原告商品は、実用目的に必要な構成と分離して、美的鑑賞の対象となる美的特性を備えている部分を把握できると主張する。
しかし、本件原告商品の木軸、ノック機能、口金及びクリップの形態が客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有すると認められないことは、補正の上で引用した原判決及び前記⑴のとおりである。これらについて、実用目的に必要な構成と分離して、美的鑑賞の対象となる美的特性が備わっているとは認められない。
本件原告商品の木軸について、木材の杢目の美しさを感じることができるとしても、これはシャープペンシルの構成要素である軸を木軸としたことによるものであって、木軸の形状、寸法、材質等は、美感を考慮しつつも、実用目的に必要な構成として決定されていることからすれば、杢目が美感の向上に資する面があるとしても、本件原告商品について、実用目的に必要な構成と分離して、美的鑑賞の対象となる美的特性を備えている部分を把握することはできない。
雑誌やYouTubeにおいて、本件原告商品その他の控訴人の木軸ペンに美しさがある旨の記事や発言があることや、本件原告商品の販売価格が1万円を超えるものであることをもって、本件原告商品について、実用目的に必要な構成と分離して、美的鑑賞の対象となる美的特性を備えている部分を把握できると認められることにはならない。
以上のとおり、本件原告商品について、実用目的に必要な構成と分離して、美的鑑賞の対象となる美的特性を備えている部分を把握できるものとは認められないとの原判決の判断は相当である。
したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。