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著作権Q&A

{Q} AI生成物は「著作物」に当たりますか?

A 「著作物」に当たる場合と当たらない場合があると考えらえます。

令和5年6月に文化庁によってまとめられた『令和5年度著作権セミナー AIと著作権』(以下、「本件セミナー」といいます。)の中で、“AI生成物は「著作物」に当たるか・著作者は誰か”という論点について、わが国の考え方(指針)が示されました。
それによると、
AIが自律的に生成したものは、 「思想又は感情を創作的に表現したもの」ではなく、著作物に該当しない』
これに対して、
『人が思想感情を創作的に表現するための「道具」としてAIを使用したものと認められれば、著作物に該当し、AI利用者が著作者となる』
としています。
さらに、
『人がAIを「道具」として使用したといえるか否かは、人の「創作意図」があるか、及び、人が「創作的寄与」と認められる行為を行ったか、によって判断される』との考え方を示しています。

AI生成物の著作物性と、とりわけ上記「創作的寄与」の関係については、AI技術の進展に注視しながら、具体的な事例に即して引き続き検討していくことになるでしょう。本セミナーは、『今後、この「創作的寄与」についても、文化庁として考え方を整理し、周知を進めていきます。』と締めくくっています。

【補足】

AI生成物の著作物性について、令和6年3月15日に公表された文書『AI と著作権に関する考え方について』**(文化審議会著作権分科会法制度小委員会)が参考になりますので、ここで紹介(抜粋)したいと思います。

**留意点(以下抜粋)
『〇 この文書(「本考え方」)は、生成AIと著作権に関する考え方を整理し、周知すべく、文化審議会著作権分科会法制度小委員会において取りまとめられたものである。
○ 本考え方は、その公表時点における、本小委員会としての一定の考え方を示すものであり、本考え方自体が法的な拘束力を有するものではなく、また現時点で存在する特定の生成AIやこれに関する技術について、確定的な法的評価を行うものではないことに留意する必要がある。
○ 今後も、著作権侵害等に関する判例・裁判例をはじめとした具体的な事例の蓄積、AIやこれに関連する技術の発展、諸外国における検討状況の進展等が予想されることから、引き続き情報の把握・収集に努め、必要に応じて本考え方の見直し等の必要な検討を行っていくことを予定している。』

▶『(3)生成物の著作物性について
ア 整理の前提及び整理することの意義・実益について
  著作権法上、「著作物」は「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」(法第2条第1項第1号)と定義されており、AI 生成物が著作物に該当するかは、この著作物の定義に該当するか否かによって判断される。
  また、「著作者」は「著作物を創作する者をいう。」(同項第2号)と定義されている。AIは法的な人格を有しないことから、この「創作する者」には該当し得ない。そのため、AI生成物が著作物に該当すると判断された場合も、AI 自身がその著作者となるものではなく、当該AIを利用して「著作物を創作した」人が当該AI生成物(著作物)の著作者となる。
  AI生成物の著作物性の整理については、AI生成物が著作権法による保護を受けるのかといった観点より、生成 AI を活用したビジネスモデルの検討に影響を与えうるほか、AI 生成物を利用する際に著作権者に許諾をとる必要があるのかといった判断に影響を与えうるものであり、その意義や実益はあると考える。
  なお、ある作品において、生成AIを利用し作成されたものであることを示すウォーターマークが付されているなど、生成 AI を利用し作成されたものであることが明らかであることや、作品の一部について著作物性が否定される要素があったとしても、本考え方における著作物性の有無についての考え方が、当該作品全体の著作物性の有無についての考え方に影響するわけではないことに留意する必要がある。
  すなわち、人間による、ある作品の創作に際して、その一部分に AI 生成物を用いた場合、以下で検討するAI生成物の著作物性が問題となるのは、当該AI生成物が用いられた一部分についてであり、仮に当該一部分について著作物性が否定されたとしても、当該作品中の他の部分、すなわち人間が創作した部分についてまで著作物性が否定されるものではない。
イ 生成AIに対する指示の具体性とAI生成物の著作物性との関係について
  生成AIに対する指示の具体性とAI生成物の著作物性との関係については、著作権法上の従来の解釈における著作者の認定と同様に考えられ、共同著作物に関する既存の裁判例等[注:共同著作物に関する判例・裁判例としては、最判平成5年3月30日〔智恵子抄事件〕、大阪地判平成4年8月27日〔静かな焔事件〕等がある。]に照らせば、生成 AI に対する指示が表現に至らないアイデアにとどまるような場合には、当該AI生成物に著作物性は認められないと考えられる。
  また、AI生成物の著作物性は、個々のAI生成物について個別具体的な事例に応じて判断されるものであり、単なる労力にとどまらず、創作的寄与があるといえるものがどの程度積み重なっているか等を総合的に考慮して判断されるものと考えられる。例として、著作物性を判断するに当たっては、以下の①~③に示すような要素があると考えられる。
① 指示・入力(プロンプト等)の分量・内容
  AI 生成物を生成するに当たって、創作的表現といえるものを具体的に示す詳細な指示は、創作的寄与があると評価される可能性を高めると考えられる。他方で、長大な指示であったとしても、創作的表現に至らないアイデアを示すにとどまる指示は、創作的寄与の判断に影響しないと考えられる。
② 生成の試行回数
  試行回数が多いこと自体は、創作的寄与の判断に影響しないと考えられる。他方で、①と組み合わせた試行、すなわち生成物を確認し指示・入力を修正しつつ試行を繰り返すといった場合には、著作物性が認められることも考えられる。
③ 複数の生成物からの選択
  単なる選択行為自体は創作的寄与の判断に影響しないと考えられる。他方で、通常創作性があると考えられる行為であっても、その要素として選択行為があるものもあることから、そうした行為との関係についても考慮する必要がある。
  また、人間が、AI 生成物に、創作的表現といえる加筆・修正を加えた部分については、通常、著作物性が認められると考えられる。もっとも、それ以外の部分についての著作物性には影響しないと考えられる。』