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著作権Q&A

{Q} 2026年度から新しい裁定制度がはじまると聞きました。どんな制度ですか?

A いわゆる「未管理著作物裁定制度」と呼ばれる制度です(新設67条の3)

情報ネットワーク化、デジタル技術等の進展で、誰もがコンテンツを創作して発信し、それを第三者が利用することがますます容易になっています。ネット上には、プロのクリエーターだけでなく、アマチュアを含む一般人が創作したコンテンツが溢れ、それが利用される機会も増えています。また、デジタルアーカイブなど、過去の作品の新たな利用ニーズも増えています。これらのコンテンツの中には、自由に利用できるものや許諾が必要なもの、許諾が要否が不明なものなどが混在しています。
他人のコンテンツ(著作物)を最も安全かつ安心して、すなわち、適法に利用するには、当該コンテンツの権利者と連絡を取ってその権利者から利用の許諾を得ることが大原則です。ところが、ネット上に溢れるコンテンツの中には、利用の可否や著作権者の情報が明らかでないため、権利者と連絡がとれず、必ずしもコンテンツの有効な活用ないし円滑な利用に結び付いていないケースがあります。そこで、権利者の許諾を得て利用するという著作権法の原則は維持しつつも、許諾を得て利用することが困難とされる、著作物等の利用の可否に係る著作権者等の意思が確認できない場合について、著作物等の利用とその対価還元を円滑化する仕組みを整備すべく、「未管理著作物裁定制度」が導入されることとなりました。
この新制度は、未管理公表著作物等であって、著作物等の利用の可否等の著作権者等の意思が確認できない場合などの要件を満たす場合に、文化庁長官の裁定を受け、通常の使用料の額に相当する額を考慮して文化庁長官が定める額の補償金を供託することで、当該裁定の定めるところにより、当該未管理公表著作物等を利用することを可能とするものです。この仕組みは、著作権者等が不明又は不存在であることを前提に長期的な利用を可能とする現行制度(= 著作権者不明等の場合の裁定制度。法67条参照。)と異なり、著作物等の利用の可否に係る著作権者等の意思が確認できない場合に著作物等の利用を可能とするもので、裁定後に著作権者等の申し出によりその意思が確認できた場合には、新たな裁定制度による利用は停止することになります。このように、新たな裁定制度では、著作権者等の意思が確認できない間の時限的な利用のみを認めることで、意思が確認できない場合の利用の停止後は、著作権者等と利用者によるライセンス交渉等に移行することを想定しています。このような仕組みにすることで、著作権者等による利用希望者に対する許諾の機会を奪わずに、新たな利用機会を創出させる点に特徴があります。

ここでは、以下、新制度の「対象になるもの」及び「対象にならないもの」について、難解な法律用語(条文の文言)は使わずに、簡易な表現で全体的なイメージだけ概観します(まだ運用がはじまっていないため)

未管理著作物裁定制度の対象になるもの(次の①及び②のいずれにも該当するもの)
① 利用ルールや利用の問合せ先の記載がなく、連絡先も明示されていないもの、又は利用ルールや利用についての問合せ先の記載がないが、連絡先があり、利用について問い合わせたところ、14日間応答がなかったもの
② 著作者が利用を廃絶しようとしていることが明らかでないもの(7041号参照)

未管理著作物裁定制度の対象にならないもの
× 管理団体による集中管理がされているもの
※集中管理とは、著作権等の管理を行う事業者(著作権等管理事業者として文化庁に登録している者。例えば、JASRAC)が、著作権者等からの委託を受け、著作物等の利用許諾や、徴収した利用料の著作権者等への分配を行うことを意味します。
×「無断転載禁止」「非営利なら許諾不要で自由に利用 OK」など、利用ルールが明記されているもの
×「利用希望の方は〇〇へ」などと利用についての問合せ先が明記されているもの
× 連絡先があり、利用について連絡したところ応答があったものなど

新制度は著作権者にメリットがあるのか?

利用希望者が申請し裁定されたことが広く公表されるため、これまで気づかれていなかった自身の作品の有償でのニーズに気づくことができます(自身の作品について埋もれていた価値の再発見)。また、裁定により自分の作品が利用されたことに気づいた場合でも、後から利用料を受け取ることもできます(裁定による利用者は、利用の対価として、通常の一般的な相場の利用料に相当する額の補償金を支払う必要があり、著作権者はこの補償金から利用料を受け取ることができます)。この点、当該補償金は国が指定した機関等が利用者から事前に預かるため、利用料が支払われないといった不払いのリスクはありません。さらに、利用希望者と改めて直接交渉をして、新規ライセンス契約につなげることも可能です。