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著作権判例セレクション

U.S. v. American Society of Composers, Authors and Publishers (2nd Circuit/09/28/2010)
~音楽著作物にかかるデジタル録音物をダウンロードすることは「公の実演」に当たるか~

    争点と背景

本ケースにおける争点は、著作権によって保護されている音楽著作物にかかるデジタル録音物を含む電子ファイルをダウンロードすることが、連邦著作権法に規定する「著作権のある著作物を公に実演すること」(§106(4):公の実演権)に当たるかどうか(Whether downloading an electronic file containing a digital sound recording of a copyrighted musical work constitutes “performing the copyrighted work publicly” within the meaning of the Copyright Act.)という点です。

本ケースの被告であり、上訴人である「ASCAP」は、「全米作曲家作詞家及び出版者協会」(the American Society of Composers, Authors and Publishers)という名称の権利処理団体(clearinghouse)です。正式には、連邦著作権法に定義する「実演権団体」(performing rights society)1つで、わが国で言えば、JASRACのような団体です。彼らの仕事は、ASCAPメンバーの著作権のある音楽著作物を「公に実演する」ことを欲する者に対して、ASCAPメンバーに代理してその使用(公の実演)を許諾し、それによって得たロイヤリティ(著作権使用料)を著作権保有者(音楽出版社)及び著作者(作曲家・作詞家)に分配することです。
ASCAPは、著作権のある著作物を「公に実演する」権利に係わる使用許諾のみをなし得る団体で、いわゆる「機械的権利」(mechanical rights)--伝統的には、音楽著作物をCDやシートミュージックの形式で「複製」したり「頒布」する権利--にかかわる権利処理(使用許諾)業務を行うことはできません。そのため、音楽著作物を「ダウンロード」する権利が、この「機械的権利」(複製権・頒布権)に当たるか、「公の実演権」に当たるか(又は、そのどちらにも該当するかどうか)は、ASCAPにとっては、非常に大きな利害問題となります。
一方、音楽著作物を自身の顧客にダウンロードするサービスを展開しているネット関連会社(本ケースでは、Yahoo! Inc.及びRealNetworks, Inc.が被上訴人に加わっています。)にしてみれば、ASCAPが音楽著作物を「ダウンロード」する権利を有するのかどうか、言い換えれば、音楽著作物のデジタルコピーを含んだファイルをダウンロードすることが「公の実演」に当たるのかどうかをはっきりしてもらわなければ困る、ということになります。なぜなら、顧客へのダウンロードサービスが「公の実演」に当たるということになれば、そのようなサービスを提供している会社は、使用料を支払ってASCAPからその許諾を得なければならなくなるからです。

() ネット上でのデジタル録音物の移転(送信)及びその結果としての端末パソコンのハードドライブ(記録装置)へのコピーの作成(要するに、音楽著作物のダウンロード**)は、連邦著作権法上、一般的に、「頒布」及び「複製」に当たると解されます。そのため、上記のようなサービスを提供している会社は、この「頒布」及び「複製」行為を管理する団体(上述のように、ASCAPにその権限はありません。)に対して、当該使用料を支払うことが求められます(被上訴人会社は、現にかかる使用料を別の団体に支払っています)
**音楽著作物のダウンロードは、一般的に、iTunesのようなネット上のサービス会社からお客が楽曲を購入して、当該楽曲のデジタル録音物を含む電子ファイルが当該サービス会社のサーバーから当該お客のパソコンのハードドライブ(記憶装置)に転送されることにより行われます。本ケースで問題となったダウンロードでは、この一般的な事例と同様に、当該ファイルに含まれる音楽コンテンツは、ダウンロード中に再生されることはありませんでした(ダウンロードが完了し、自分のパソコンのソフトを使って、当該音楽コンテンツを再生してはじめて、お客は、ダウンロードしたそのコンテンツを聴くことができます)

    争点における判断

結論を先に述べると、上訴裁判所(2巡回区控訴裁判所)は、原審(連邦地裁)と同様に、(原審を支持して)「著作権のある音楽著作物をダウンロードすることは、著作権法に定める意味において公の実演を構成するものではない」(downloads of copyrighted musical works do not constitute public performances within the meaning of the Copyright Act)と結論づけました。

まず、ダウンロードは著作権法上の「実演」(§101の定義規定参照)に該当するか、という観点からの解釈。
著作権のある音楽著作物は、その録音物を含む電子ファイルがダウンロードされる場合には、常に、著作権法上「実演された」ことに当たるか、すなわち、著作権法に定義されている「直接に又は何らかの装置若しくはプロセスを用いて、(著作物が)朗読され、表現され、又は演奏された」ことに当たるかどうか(whether a copyrighted musical work is “performed”—meaning “recited, rendered, or played, …either directly or by means of any device or process,” —whenever an electronic file containing a recording of the work is downloaded)という観点からの解釈です。上訴裁判所の答えは、Noです。
「朗読」、「表現」、「演奏」という文言は、これらが通常の意味で用いられる場合、聴衆がリアルタイムに知覚できる行為(acts that an audience can perceive in real time)に当てはまる用語です。つまり、例えば、本は、その中身が聞こえるように語られる時に「朗読」され、演劇作品は、役者がそれを演じるときに「表現」され、音楽作品は、楽器や声が楽譜上の音符を複製するときに「演奏」される、といった具合です。
「実演は、音楽著作物が聞こえる状態にされる場合にのみ生じる」(a performance occurs only when a musical work is made audible)という結論は、「実演」の定義の中の他の文言--「舞うこと」「演じること」--との解釈上のバランスからも妥当すると言えます。「舞うこと」及び「演じること」は、これらは厳密には音楽著作物には適用されませんが、著作物に収録されているダンスや演技を人の目や耳に知覚できる状態にするという点では、「朗読すること」、「表現すること」、「演奏すること」と同様であると解されるからです。さらに言えば、同じく「実演」の定義の中に登場する「映画」に関する文言からも、同じ解釈(実演における行為と知覚の同時性)が導かれるでしょう。
ダウンロード(すること)は、それ自体、音楽著作物を知覚させるものではありません。ダウンロードをすると、音楽著作物のデジタルコピーを含む電子ファイルがオンライン上のサーバーから端末のパソコンのハードドライブ(記録媒体)に送信されますが、本ケースで問題となったダウンロードに関する限り、当該音楽著作物は、その送信の間に「演奏」されることはなく、当該ファイルが端末のパソコンのハードドライブに記録されてはじめて、そのパソコンの再生ソフトを使って当該音楽著作物を「実演」することができます。つまり、ダウンロードそれ自体には、デジタル送信でコード化されている音楽著作物の「実演」が一切含まれていないのです。それ故、ダウンロードは、音楽著作物の「実演」には当たらない、上訴裁判所は、以上のように解釈しました。

() 上記のようなダウンロードとは対照的に、ネット上で音楽をストリームする(“streaming”とは、ネット上で音楽や映像を受信しながら「同時に」再生することです。)いわゆる「ウェブキャスト」(“webcasting”:俗に言うインターネット放送)は、著作権法上の「実演」に該当するものと解されます。ダウンローとウェブキャスト(ストリーミング)に対するこのような解釈の相違は、「同時知覚性(行為と知覚の同時性)(“contemporaneous perception[perceptibility]”)にかかわります。もちろん、ストリーミングの場合でも、送信と再生が厳密な意味で(物理的に)全く「同時に」行われるものではありません(ストリーム送信の場合、入ってくるデジタル情報は端末のパソコンのRAM(一時記憶装置)に置かれてから、オーディオサウンドに「自動的に」変換されます。)が、著作権法における規律の意味で言えば、「リアルタイムに」(in real time)に行われる、つまり「何らかの装置若しくはプロセスを用いて演奏」された(=「実演」された)ものと解して差し支えないと考えます。この点に関し、上訴裁判所も次のように述べています:「まさにこのオーディオサウンドへの自動的な変換があるからこそ、ストリーミングは実演になるのである。デジタルデータが送信されること又はバッファーコピーが一時的に作成されることがストリーミングを実演にするのではない。オーディオサウンドへの自動的な変換がないため、本ケースで問題となっているダウンロードには、実演の適格性がないのである。」(It is this automatic conversion to audible sound—not the fact that data is transmitted or buffer copies are temporarily created--that makes a stream a performance. And it is the absence of an automatic of conversion to audible sound that disqualifies the downloads at issue in these appeals from being performances.) 連邦著作権法上の「実演」に当たるためには、つまりは、「公の実演権」(§106(4))を行使するためには、「リアルタイムの実演」(a real-time performance)であることが前提である、ということです。

ASCAPは、連邦著作権法が「実演」とは別に定義する「公に」(“publicly”)という文言からも、自らの主張を展開しました。彼らの見方によれば、(「公に」の定義規定における)「第2項で『送信その他の方法で伝達する』という文言を用いていることは、連邦議会において、以前に録音された実演を含む電子情報を送信することは『公の実演』という意味合いに含まれることを意図していたことを示している」ということです。しかしながら、ASCAPの上記の見解(法解釈)は、許容範囲を超えた拡張解釈と評価されそうです。というのは、「公に」に関する定義規定は、「公の実演」(a public performance)と「私的な実演」(a private performance)とを区別するために設けられたもので、そもそも何が「実演」で、何が「実演」でないかを規定することを目的としたものではないからです。音楽著作物が送信されているという事実は、ただそれだけで、当該音楽著作物が「公に実演」されていることをも意味するものではありません。著作物は、それが「朗読」され、「表現」され、又は「演奏」されてこそ、「実演」されたと評価されることは前述のとおりです。上訴裁判所が述べるように、「著作権法は、公の実演が行われる前に、リアルタイムに聞くことのできる実演の送信を要求しているのであって、デジタルデータの単なる移転(送信)を求めているのではない」(the Copyright Act requires the transmission of a performance that can be heard in real time—not simply the transfer of data—before a public performance occurs)ということです。
ラジオ放送は、正真正銘の「公の実演」に該当します。なぜなら、「公の送信と知覚可能な実演が同時に起こる、すなわち、当該実演が『送信という行為によって創作』される」(the public transmission and the perceptible performance occur contemporaneously—the performance is “created by the act of transmission”)からです。「公に」に関する定義規定第2項で、「当該送信を受信することができる」とせず、「当該実演を受信することができる」と述べているのは、実演の送信は、それ自体が実演であることを前提としているからです。ダウンロードは、パソコン内にコンピュータファイルを作成するだけで、実演を「創作」することはありません。したがって、純粋なダウンロード(単なるデータの送信行為)は、著作権のある著作物を「公に実演すること」(§106(4))には当たらないのです。
なお、「公に」に関する定義規定第2項の趣旨は、例えば、ラジオやテレビ放送のような公衆へのリアルタイムの送信は、その実演自体が公の場所で起こらない場合でも、なお公であることを明確にするためである(the purpose of the second clause is to underscore that a real-time transmission to the public—like, for example, a radio or television broadcast—is also public, even when the performance itself does not occur in a public place)と解されます。

付言すると、純粋なダウンロードは「著作権のある著作物を公に実演する」権利に係わらないとする原審及び上訴審の判断は、連邦著作権局その他知的所有権に関する連邦政府当局の見解とも一致していると考えられます。例えば、2001年の連邦著作権局作成にかかる「DMCA Report(a report on §104 of the Digital Millennium Copyright Act)において、連邦著作権局は、連邦議会に対し、「われわれは、同時的実演が一切起こらない場合に、デジタルダウンロードが公の実演になるという主張を支持しない」(we do not endorse the proposition that a digital download constitutes a public performance even when no contemporaneous performance takes place)と説明しています。