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著作権判例セレクション

Maverick Recording Co. v. Whitney Harper (5th Circuit/2/25/2010)
~デジタル音楽ファイルのダウンロードと§402(d)適用の可否/「善意の侵害者」の抗弁~

Issue(s) Presented : Whether someone who illegally downloads and shares copyrighted files online can claim the "innocent infringer" defense based on subjective unawareness that her actions were illegal.

▶ 本ケースの概要

本ケースは、複数のレコード会社(原告)が、1個人(Harper)によって作成された「共有フォルダ」(shared folder)によって、彼らの著作権が侵害されたとして、当該1個人に対して損害賠償金の支払い等と求めたものです。
原告によって雇われた調査会社が、ネット上での侵害事例の調査で、ファイル共有プログラムを使って、多数のデジタルオーディオファイルを「P2Pネットワーク」(a peer-to-peer network)のユーザーと共有しているある個人を特定しました。その共有されたデジタルオーディオファイルには、原告の保有する多くの録音物(著作権によって保護される著作物)が含まれていました。調査会社は、ユーザーのネット上のアドレスを追跡し、そのある個人(Harper)にたどり着きました。Harperは、原告の著作権のある録音物に対する対価を支払うことなく、ネット上から自身のパソコンに当該オーディオファイルをダウンロードするかたちで共有フォルダを作成していたもので、それは、彼女(Harper)が適法に購入したCDからのコピーではなかったことが判明しました。
原審である連邦地裁は、37のオーディオファイルに関し、Harperの原告に対する著作権侵害(複製権及び頒布権の侵害)を認定しましたが、原告側が求めていた、連邦著作権法§504(c)(1)に規定する最低法定損害賠償金(侵害に係る1著作物ごとに最低$750:本ケースでは、合計37×$750)の支払請求は認めませんでした。というのは、本ケースにおいて、Harperは、自身の侵害行為が連邦著作権法§504(c)(2)のもとで「善意」(innocent)であり、自分は、「自分の行為は、ネット上のラジオ局に耳を傾けることと同等だと思った」(she thought her actions were equivalent to listening to an Internet radio station)と主張し、連邦地裁が、彼女のこの言い分を認めたからです(この結果、最低法定損害賠償金が侵害に係る1著作物ごとに$200に減額された)。

▶「善意の侵害者」の抗弁:“Innocent Infringer” Defense

上訴裁判所である第5巡回区控訴裁判所は、連邦地裁が認定した「善意の侵害者」の抗弁-「自身の行為が著作権の侵害になることを侵害者が知らず、かつ、侵害者に自身の行為が著作権の侵害になると信じる理由がなかったことにつき、侵害者が立証責任を果たし、かつ、裁判所がこれを認定する場合には、裁判所は、その裁量により、法定損害賠償金を200ドルを下限としてその金額まで減額することができる」(§504(c)(2))の下線部分の主張-を退けました。
理由は明快です:善意の侵害者の抗弁は、連邦著作権法によって制限されている(The innocent infringer defense is limited by 17 U.S.C. §402)、すなわち、§402(d)によれば、適切な著作権表示が「著作権侵害訴訟の被告がアクセス[接近・入手]した、すでに発行されているレコードに現われている場合には、被告の善意の侵害に基づく抗弁は、法定損害賠償金を減額する上で、一切考慮されないものとする。」と端的に規定されているからです(連邦地裁も、問題のオーディオファイルのコピー元となった、原告の発行されたレコードに適切な著作権表示があったことは認定してします)。「Harperが著作権法に対する自身の独自の理解を当てにしていたことやその知識に欠けていたことは、§402(d)の文脈の中では関係がない。当該規定における明快な文言は、侵害者の認識又は意図は、当該規定の適用に影響を与えることはないことを示している。」(Harper’s reliance on her own understanding of copyright law—or lack thereof—is irrelevant in the context of § 402(d). The plain language of the statute shows that the infringer’s knowledge or intent does not affect its application.
つまり、§402(d)の解釈において、侵害者の「主観的な意図(認識)」(subjective intent)や「法の無知」(legal naivety)は関係がないということです。このように解することは、一方で、「適切な著作権表示」を付して自己の著作物を発行するインセンティブにもつながるものと考えられます。
上訴裁判所は、Harperの善意の侵害者の抗弁を採用せず、原告側が求めていた、§504(c)(1)に規定する最低法定損害賠償金(侵害に係る1著作物ごとに$750)を認定しました。

▶ 本ケースにおける著作権の侵害行為の認定について

原審において、原告は、Harper2つの態様で著作権を侵害したと主張しました:1つは、問題のオーディオファイルを「複製する」ことによる侵害行為、そしてもう1つがそれらのオーディオファイルを他の者が「利用[入手]できる状態においた」こと(原告の主張によれば、これは実質的に「頒布する」ことと同義である-making the copyrighted audio files available to others is tantamount to “distribution.”-)の2つです。そして、連邦地裁も、この点は、原告の当該主張を容認しました。これに対し、Harperは、「当該オーディオファイルを、P2Pネットワークのユーザーがアクセスできる共有フォルダに蔵置することによって他人が利用[入手]できる状態におくことは、§106(3)頒布に当たらない」(making audio files available to others by placing them in a “shared folder” accessible by users of a peer-to-peer file-sharing network does not constitute “distribution” under §106(3))と主張しました。
この“making available”理論の主張に対し、上訴裁判所は、これを本ケースにおいて議論する必要はないとしました。なぜなら、Harperは、自分が問題のオーディオファイルをダウンロードすること、つまりは複製することによって原告の著作権を侵害したとの原審の認定に異議の述べているわけではなく、一方、原告は最低法定損害賠償金の支払いを求めているだけであり、そのような本ケースにおいては、Harperの(いずれかの)行為が著作権法に違反するものかどうかを認定すれば足り、その(それぞれの)行為がいかなるもので、また、どの程度のものかは争点とならないからです(§504(c)(1)参照)。
「頒布」は、連邦著作権法上、基本的には「発行」と同義になる場合が多いと解されますが、連邦著作権局も「ユーザーがオンライン上で著作物を入手[利用]し得る状態をもって著作物の発行があったとみなしうるかは、著作権法上(「発行」の定義規定からは)明らかではない。」(It is unclear whether online availability for the user constitutes publication of the work under the copyright law.)と自認しているように、ネット上での利用[利用]可能性が「頒布」に当たるかどうかが、一応、争点となるわけです。
本ケースにおいて上訴裁判所は、結局、この問題に対する上訴審としての見解を述べることはしませんでしたが、「Harperは、許諾を得ることなく自分のパソコンに問題となった37のオーディオファイルをダウンロードすることによって、原告の著作権のある著作物を複製する排他独占的権利を侵害した」(Harper infringed Plaintiffs’ exclusive right to reproduce their copyrighted works by downloading the 37 audio files to her computer without authorization.)と認定しました。

⇒上告棄却/反対意見あり(WHITNEY HARPER v. MAVERICK RECORDING COMPANY ET AL.(11/29/2010)次記参照)

WHITNEY HARPER v. MAVERICK RECORDING COMPANY ET AL.(11/29/2010)

本ケースの概要及び主要な争点については、上記「Maverick Recording Co. v. Whitney Harper (5th Circuit/2/25/2010)」を参照してください。
本ケースは、最高裁で棄却されましたが、Alito判事による反対意見が付されており、この中で、「連邦著作権法§402(d)は、侵害者がデジタル音楽ファイルをダウンロードすることによって著作権を侵害した場合に適用されるかどうかという問題」(the question whether 17 U. S. C. §402(d) applies when a person is found to have engaged in copyright infringement by downloading digital music files)に対する同判事の見解には傾聴に値する部分があるように思います。
著作権法に対する認識を欠いていた16歳の女の子がネット上でデジタル音楽ファイルをダウンロードした本ケースにおいて、Alito判事は次のように述べています:「デジタル音楽ファイルをダウンロードすることを伴う場合には§402(d)は適用されないとの強力な主張がある。この規定は、デジタル音楽ファイルがネット上で利用[入手]可能になるずっと以前の、1988年に規定された。… §402(d)は、所定の著作権表示を伴う有体物から音楽をコピーした者には『自身の行為が著作権侵害になると信じる理由』(§504(c)(2))があるという点に、その理屈があるように思われる。しかし、デジタル音楽ファイルをダウンロードする者は、一般的に言って、(当該ダウンロードをする際に)著作権表示を伴ういかなる有体物を目にすることはなく、従って、(そのような場合に)§402(d)は適用されないとの主張には説得力がある。かかる場合における争点は、単純に(純粋な事実問題として)、侵害者が、ダウンロードが違法であることを『知っていて、かつ、(当該ダウンロードが著作権侵害になると)信じる理由があった』(§504(c)(2))かどうかという点である。」(There is a strong argument that §402(d) does not apply in a case involving the downloading of digital music files. This provision was adopted in 1988, well before digital music files became available on the Internet. … The theory of §402(d) appears to be that a person who copies music from a material object bearing the prescribed copyright notice is deemed to have “reason to believe that his or her acts constituted an infringement,” §504(c)(2). But a person who downloads a digital music file generally does not see any material object bearing a copyright notice, and accordingly there is force to the argument that §402(d) does not apply. In such a case, the question would simply be whether the infringer “was … aware and had …reason to believe,” §504(c)(2), that the downloading was illegal.